吸血鬼の血に目覚めた悪役令嬢は、別の世界の扉を開いて変態聖女にキスをする。

タヌオー

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第1章

12 侯爵令嬢は我慢できない

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「お前はネクロマンサーとしては類まれなる素質を持っているようだな」

アルミラが珍しく、というか初めて?私を褒めてくれたけど、私はちっとも嬉しくない。
こんな怖い能力あったって使いたくないもの。
ブスッとしている私の様子に気付かずアルミラは続ける。

「この調子で研鑽を積むといい。もっと魔力のコントロールを磨いて複数の死体で武具や乗り物を創造できるようになれば戦闘にも大いに役立つぞ。骨や歯というものはそのままでも鉄より硬く、しかも魔力を通しやすいので上手くやれば金剛石を超える硬度の武具を生み出すことも可能だ。実際この世界に存在する伝説の七剣のひとつは遥か古代の吸血鬼ヴァンパイアが人骨より生み出したものとも言われているほどだ。さすがにその領域まで辿り着くことはできようはずもないがお前ほどの魔力量なら…」

すごく喋る。

ものすごく喋るじゃないアルミラ。

ずっとぶっきらぼうだったけど急に饒舌だし、今まで私を『半人』なんて呼んでちょっと馬鹿にしてた感じだったけどなんかけっこう褒めてくれてるし、あ、きっとアルミラって吸血鬼ヴァンパイアの格みたいなものは大事にしながらも、それでもちゃんと結果を出せばそれとは無関係にきちんと認めてくれる、みたいな感じの人なのね。

饒舌に語り続けるアルミラに、ぼんやりそんなことを考える私、所在なさげに立ち尽くすローザの私たち三人がいる墓地に、街の中心部の教会から鐘の音が聞こえてきた。
一日の終わりを告げる鐘の音だ。
たいていの人はもうこの時間にはベッドに入っている。

「ちょうどいい、ではそろそろ向かうか」

アルミラはそう言って歩き出した。

「次は、どこに行くの?」

私の質問にアルミラは振り返ってニヤリと微笑う。

「いよいよ、本当の『食事』だ」


******


食事、という言葉を聞いて私の喉が思わずゴクリと鳴った。

人間の食事はさっき食べたけど飢餓感は一向に解消されず、乾いた喉が潤されることもなく、そんなことは絶対にいけないことだし認めたくないことだけど私の頭の中に《血が飲みたい、思い切り口の中いっぱいに血を含んで飲み干したい》という言葉がグルグルグルグル回り続けていた。

ダメ、そんなこと絶対にダメ。

私はこの街に来るまでの馬車の中でローザにも言った聖書の言葉を思い返した。

『人のいのちとは血である。ゆえに、誰もそれを飲んではならない。それを飲む者は必ず焼き払われなければならない』

人間の血を飲むなんて、神に背く行為なのだ。

墓地を出て街の中心へと歩きながら、私の横でローザも心配そうに私を見つめている。歯を食いしばり許されざる欲望に耐えている私は、きっともう、人間の顔なんかしていないと思う。だからローザ、見ないで。こんな私を。

「いいか、まず吸血鬼ヴァンパイアというものは、招かれていない家には入ることができん」

歩きながらアルミラがそう言った。

「先ほどの酒場の給仕の女は、アタシを招いた。家の場所も、招かれれば自然とわかる。だからこれからアタシがまず女の家に入り込む」

私は湧き上がる欲望に痺れた頭でアルミラの言葉を聞いている。

「次に、女がもし起きていれば眠らせて、家の中から扉を開けてやる。そうしたらリリアス、お前はローザを置いて1人で入ってこい」

街の中心の広場に差し掛かったあたりでアルミラは立ち止まって私に向き直った。

「そのあとは、わかるな?アタシが手取り足取り教えてやるから、貴様はただ欲望に身を任せれば良い」

私の頭の中で鮮明に映像が浮かぶ。浮かんでしまう。
振り払っても振り払っても、頭の中に思い浮かんでしまう。

先ほどの給仕の女性が柔らかなベッドで眠っている。薄手のネグリジェから身体のラインが透けて見える。よく働く庶民の娘らしく健康的で肉付きがよい身体。そこに震えながら私が覆いかぶさり、血管が薄く透ける首筋に犬歯を突き立ててかぶりつく。プチッ!と小気味良い感触とともに弾力ある血管が破れてあたたかい血が私の口の中に溢れ、それをゴクゴクと飲み干す。乾いた喉に血が染み渡っていく。

うう…!頭がおかしくなりそう………!!!

「ふふ、そう急くな」

わなわなと震える私の肩に、アルミラがそっと手を置く。

「いいか、人間の身体には体重の100分の8の血液が流れている。おそらくあの娘には葡萄酒の標準的なボトル5本分の血液量はある。しかし一度の吸血で飲んでいいのはグラス2杯分までだ。それ以上を飲んでしまうと女は死んでしまう。その時は処女ならお前の意思で屍食鬼グール吸血鬼ヴァンパイアに変えることができ、非処女なら屍食鬼グールにしかできん。ただし今回は屍食鬼グールにも吸血鬼ヴァンパイアにもするな。従者は必要ないからな」

アルミラの話を聞いているだけで腰が抜けそうになり、私はその場に膝をついてうずくまる。

「繰り返すぞ。飲んでいいのはグラス2杯分までだ。いいな?」


え…意外と少ない。我慢できるかな…。
もっと、飲んじゃうかもしれないよ、私………。


「リリアス様!!!」

ローザがうずくまる私に覆いかぶさるように抱きつく。

「それなら、わたくしの血を、わたくしの血を飲んでくださいまし!」

私は顔を上げる。

「お願いです…!リリアス様の初めての相手は、どうかわたくしに…!!」

ローザの目から涙がこぼれ、私の頬に落ちる。
あたたかい液体が私の頬を流れて口元へ、私は思わずそれを舌で舐める。

う、ああああ………涙でもこんなに美味しいのに、血なんて飲んだら…もう……。

私は下から震える手をローザの頭の後ろにまわし、ローザの顔を引き寄せる。
柔らかそうな唇も魅力的だけど、それよりも今はその下の、白い首筋。

私がゆっくり口を開けると、ニチャアッと下品な音がしてしまうけど、もう構うものか、もう、何もかも、めちゃくちゃにしてやる。

ズガァンッ!!!

ローザの首筋に私の牙が刺さる直前、突然鳴り響いた轟音と地響きに驚いて振り返ると、広場には巨大な竜が降り立っていた。

「この雷竜王ヴァルゲス様に捧げる生贄は、その女か!?」
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