吸血鬼の血に目覚めた悪役令嬢は、別の世界の扉を開いて変態聖女にキスをする。

タヌオー

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第1章

17 侯爵令嬢とカルロとマルコ

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「でも兄ちゃん、こんな昼間じゃ出てこいって言ったって吸血鬼ヴァンパイアは寝てて返事しないと思うよ?」
「うるせえなあマルコ!こんなのはノリだよノリ!」
「ノリで仕事しちゃダメっていつもファウスト課長に怒られてるじゃないか」
「うっ、お前、課長を出すのはズルいぞ!」
「ズルいとかじゃないでしょ」

カルロとマルコを名乗る兄弟らしき二人の乱入に、私はローザと抱き合ったままブチブチブチと頭の血管が切れてしまいそうになったけど、彼らに背中を向けているローザが私を包み込んだまま小声で「血の涙を浄化しますわ」と私の顔にあたたかい光をあててくれたおかげで、なんとか正気を保つことができた。そのままローザが小声で続ける。

「わたくしのドレスも浄化しますので少し時間を稼いでくださいまし」

うう…やだなあ。特にお兄ちゃん、カルロのほうだっけ?ああいう乱暴な感じの男の子、私キライなんだよなあ。
まあ背が高くて顔はけっこう整ってるけど、長髪をかきあげる仕草が《カッコいいだろ俺?》って言ってるみたいでとっても腹立たしい。
逆に弟のマルコのほうは男の子にしては背が低くて癖っ毛で長い睫毛で大きな目がキュルンとしてて可愛くて、なんか頭をわしゃわしゃしたくなる感じ。

そんな複雑な気持ちのせいか、鋭い犬歯を隠すため口をなるべく開かないように言おうとしたせいか、私の第一声はずいぶん素っ気ないものになってしまった。

「…何よ、アンタたち」

何か言い合っていたカルロとマルコは二人揃ってこちらに向き直る。

「おお!悪いな急に!ここに吸血鬼ヴァンパイアがいるって通報を受けてよ!」

私は日光の当たらない椅子の下にあるアルミラの棺に視線を向けないようにして周囲を見渡すふりをした。

「…そんなものいるわけないじゃない。ここは教会よ?」

カルロが頭の後ろを掻く。

「まあ、そうなんだけどよぉ。通報を受けて聖都法皇庁サンクティオが動かないわけにもいかねえだろ?」
「それで一応、ボクたち下っ端が来ることになったんだよね、兄ちゃん」
「下っ端…!って余計なこと言うなっつってんだろマルコ!」
「だって本当のことじゃない」

また何か言い合いを始めようとする兄弟に私はピシャリと言い放つ。

「とにかくここには吸血鬼ヴァンパイアなんかいないわ。もしいたら私たち女の子二人なんてあっという間に食べられてるわよ」

再びカルロとマルコは言い合いを止めて私に向き直る。

「…それは、どうだろうなあ」

眉をひそめてそう言うカルロに私はギクリとする。

「どこかに隠れてる可能性もあるぜ?お前ら二人はいつからここにいる?」
「……き…昨日の夜からよ」
「へえ…なんだってこんな廃墟の教会に?」
「た、旅の途中なのよ」
「ほ~、旅かぁ」

カルロは「旅ねぇ…」などと呟きながらこちらに歩いてくる。
私は思わず後ずさりする。

「そのわりには、外に馬もいなかったが、歩きか?」
「そ、そうよ…」
「女二人で?」
「…悪い?」
「悪かねえけどよ、無理だろ」
「………そ、そんなことないわよ」
「ふ~ん」

カルロは私の全身を上から下まで舐めるように見ている。気持ち悪い。
弟のマルコは私には構わず教会の中をキョロキョロと見渡している。
…マズい。椅子の下のアルミラの棺が見つかったら。

「ところでよ」

カルロがそう切り出す。私は身構えて「な、何よ」と言う。

「クレアティーノの王都で吸血鬼ヴァンパイアが出たらしいぜ。知ってるか?」

―――私のことだ。
くそ、誰よ、言ったのは。

私は黙って頭を左右に振る。

「その吸血鬼ヴァンパイアは昼間でも平気だったらしいんだよな。ちょうど年の頃は10代半ば、背が低くて痩せてて、赤い髪に赤い瞳…おや?お前さんとそっくり同じだな?」

カルロの眼光が鋭く光る。
ヤバい、どうしよう。殺す?いやダメよ、人なんて殺しちゃダメ。どうしてそんな恐ろしいことを考えるの私は。

「人違いですわ」

私の前にドレスの浄化を終えたローザが歩み出た。

「この子は普通の女の子ですわ。でなければ聖女のわたくしと一緒にいるはずがないではありませんの」

カルロが目を丸くする。

「おお、アンタはクレアティーノ王国の聖女、ローザ・スピルドハインじゃねえか」
「お初にお目にかかりますわ」

ローザは貴族の令嬢に相応しい優雅な動作で礼をする。(私これ下手なのよね…)
カルロも胸に手を当てて恭しく礼を返す。

「俺は聖都法皇庁サンクティオ6課のカルロ・カッサーノだ。噂は聞いてるぜ、ローザ・スピルドハイン。クレアティーノ王国で空席になっている三人目の大聖女に最も近い聖女だって、隣国エロール帝国の聖都法皇庁サンクティオでも評判だ」
「恐悦至極にございますわ」
「あと、こんな噂も聞いてるぜ?」

カルロがニヤリと微笑った。

「その聖女は吸血鬼ヴァンパイアと一緒に王都を出たってな」

私とローザが祭壇のほうに飛び退くと同時に、暗がりで弟のマルコが声を上げる。

「棺があったよ兄ちゃん!」

私はその声を聞いて、瞬時に魔力を開放して目の前のカルロに電撃を放った。
バリバリバリッ!
しかし電撃はカルロの目の前で弾かれる。

「危ねえ危ねえ、固有能力持ちかよ」

カルロの前の空中で、何か文字がびっしり書き込まれた札のようなものが私の電撃を受け止め、パラパラと焼け落ちた。
カルロはそのまま腰のロングソードを抜いて、左手に札の束、右手に剣を掲げたまま、聖書の言葉を諳んじながら私に向かって歩いてくる。

「神はその悪霊と異端者の杖を折られて言った。あなたがたは天から落ちて地に倒れてしまった。冥府はあなたがたのために動いて、あなたがたが来るのを待ちわびているだろう。しかし私はその邪悪なる声を魂をその身を断ち切る」

ツカツカと歩きながら振り回すカルロの剣を、私は腰から抜いたサーベルで弾き返す。
ギィン!ギィン!とその度に金属音が天井の高い廃教会に響く。
私の吸血鬼ヴァンパイアの腕力でも弾くのがやっとで、すごい力、いや、単純な力というよりは不思議な重さを感じる剣だ。

「おやめください!太陽の光の矢サンライトアロー!」

ローザが叫んで光の矢をカルロに放った。カルロが左手から一枚の札を放ると、光の矢は弾かれてかき消えた。

「…聖女が悪魔祓いの邪魔すんじゃねえよ」

カルロはそれだけ言い捨てると再び聖書の言葉を呟きながら、一定のリズムで淡々と剣を振り、私を教会の奥へ奥へと追い詰めていく。

「あなたがたの笛の音はあなたがたの耳に届くことはないだろう。穴の奥底で天を仰ぎ見てもそこに私の姿を見ることはない。あなたがたは自らまた穴を掘り自分の墓に眠ることになるのだ」

追い詰められた私は、祭壇の向こう、大きな十字架に磔にされた聖マリエス様の像の下まで来てしまった。

「十字架の下じゃ、吸血鬼ヴァンパイアの能力も使えねえはずだ」

カルロが左手の札の束を懐にしまって両手で剣を握って振りかぶる。
確かに私は戦いの最初から潜影移動スニークで動こうとしているのに発動しない。そうか、半分人間の私は十字架に嫌悪感やダメージはなくても吸血鬼ヴァンパイアの能力は阻害されるのね。
でもさっき―――そうか!

「痺れなさいっ!」

私はおなかの奥から魔力を燃え上がらせ、カルロに電撃を放った。
札を持っていないカルロの身体に強烈な電流が走る。

「ぎゃっ!!!」

カルロは黒焦げになり、開いた口からぽふっと煙を吐いた。

「………な、なんでだ」

剣を振りかぶった体勢のまま、後ろへ倒れていくカルロに私は言った。
魔力を一気に放出したせいか、いつの間にか私の背中から雷龍の翼、おしりから尻尾が生えている。

「これは吸血鬼ヴァンパイアの固有能力じゃないの。覚えておきなさい。私は人間に戻りたいけど吸血鬼ヴァンパイアにして雷竜王、リリアス・エル・エスパーダよ」

「ま、マジかよ………」

ズダァァンッ!とカルロが倒れると大きな音とともに埃が舞い上がった。

「兄ちゃん!!!」

中央通路の向こう、入り口の前で棺の蓋に手をかけたマルコが叫ぶ。

「動くな!兄ちゃんに手を出すと仲間の吸血鬼ヴァンパイアを消滅させるぞ!」

棺には扉が蹴破られた入り口からの日光が降り注いでいる。

しかしマルコが開けるまでもなく、勝手に棺の蓋は開いていき、その中からヌウッと出てきた大剣がマルコの首筋に当てられる。そのまま上半身を起こしたアルミラが静かに言う。

「アタシが陽の光ごときで消滅するような下等な吸血鬼ヴァンパイアだと…?」
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