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第1章
44 私は人間に戻りたいのか戻れるのか
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「ほら、いつまでも呆けてないでさっさと行きなさいな」
ローザが去ってからもしばらくその場を動けなかった私に、マリーゴールドはそう言った。
その声に私はようやく重い腰をあげようとするがどうにもうまく立ち上がれず、アルミラに抱き起こしてもらう。
「リリアスちゃん、あなたあの子のことが好きなんでしょう?」
マリーゴールドのその質問に、私は無言で小さく頷く。
「だったら追いかけなくちゃ。人間に戻れなくなっちゃうわよ?」
「人間に…私が……」
「そうよぉ?戻りたいんでしょ?」
私はそれに答えることができない。
戻りたい…んだとは思う。
でも私の脳裏に、涙を流すローザの顔が焼き付いて離れない。
こんな私に、人間に戻る資格があるんだろうか。
「特別に教えてあげるわ。吸血鬼が人間に戻る方法はね…」
私はうつむいたままマリーゴールドの言葉を聞いている。
私の肩を抱くアルミラの手に力が入る。
「完全に愛し合った人間と吸血鬼が唇と唇でキスをすることよ」
私とアルミラは声を揃えて「キス?」と聞く。
――たったそれだけのことで?
「でもそれには2つの条件があるわ」
マリーゴールドは私たちの前に2本の指を立てて言った。
「まず、その人間は誰からも一度も吸血されていない人間に限るということ。そして、二人が本当に心の底から愛し合っているということ。もしその愛に疑いや偽りがあれば」
そこまで聞いて私の胸がズキッと痛む。
「二人は消滅してしまうわ」
…じゃあ、やっぱり今の私がローザを追いかけたところで意味ないじゃない。
偽りはともかく疑いがありすぎるわよ。
私はローザのことが好きなんだと思うけど、それでもやっぱり『女の子同士なんて許されない』という想いというか刷り込みが頭の片隅にまだあるし、そもそもこの『好き』は本当にただの友情とは違うものなのかなという疑いもある。
もっと言えば、『好き』と『愛』って同じもの?
それとも違う?違うならどう違う?
ローザだって約束を破った私のことはもう好きじゃないだろうし、それに最初に私のことを好きみたいに言い出したのも私が吸血鬼の魔力を頭に注ぎ込んだ影響で洗脳状態になっているだけの可能性だってある。
大体、この世の中に疑いや偽りがまったくない愛なんて、本当にあるの…?
「まあとにかく、追いかけないとローザちゃんがどうなっても知らないわよ?」
マリーゴールドのその言葉に私はようやく顔を上げる。
「どういうこと…?」
「ローザちゃんは再びカミーユの部屋に戻ったはずよ」
「え…なんで」
「ライラを解放するためよ」
「ローザが、ライラを?」
「そうよ?リリアスちゃんがぼんやりしている間、わたしは謁見の間で確認してきたから間違いないわ」
「謁見の間…ああ、ハルバラムと話したのね」
「そ。ローザちゃんはたいしたものよ。聖都法皇庁の機密情報と引き換えに、自分自身の身の安全だけでなくライラの解放と、あなたたち2人の安全も約束させたんだもの」
――私とアルミラが厭らしいことをしている時に、扉ひとつ隔てた向こうで、ローザは私たちの身の安全まで考えて動いてくれていた。
「でもカミーユのことだから、素直に帰してくれるかどうか…。『ちょっとだけなら』なんてガブッとやっちゃうかもしれないわねぇ。献上姫でもないんだから死なない範囲の吸血にはお咎めもないだろうし」
私はそこまで聞くと、アルミラの手を握ってアルミラの瞳を見つめた。
「…行こう。ローザを助けに!」
アルミラは真剣な眼差しで深く頷いた。
******
カミーユの部屋がある第4塔の最上階のひとつ下の階まで、マリーゴールドが薔薇の花弁の魔術で連れて行ってくれた。
私がずいぶん長い間ボーッとしていたから、徒歩のローザもとっくに着いているだろうとのことだった。
「さあ、ここから先はあなたたち2人で行くのよ」
最上階へと続く階段の前で、私とアルミラは強く頷く。
「…でも、マリーゴールドちゃんはどうして私たちに親切にしてくれるの?」
マリーゴールドは芝居がかった身振りで大きく手を広げて肩をすくめた。
「さあ?自分でもよくわからないわ?ま、趣味よ趣味。長生きのせいか人の恋路を見ることが一番の楽しみね」
私にとっては命がかかるようなことでも『趣味』。なんだか可笑しくなって私は「ふ」と微笑う。
「とにかくありがとう。マリーゴールドちゃん」
「どういたしまして」
それから私は隣りのアルミラを見上げた。
「もしローザに何かあったら私はカミーユを殺すことになるわ。いい?」
アルミラは噛みしめるように頷く。
「…ああ、仕方ない………」
マリーゴールドも一言添える。
「ちなみにリリアスちゃんがカミーユを殺しても誰にも叱られないから安心なさい。『もし我が娘が闇騎士を倒せるほどに成長したなら喜ばしいことだ』なんて笑ってたわよハルバラムちゃんも」
「な!マリーゴールド!お前その名は…!」
「あらやだ、ごめんあそばせ」
マリーゴールドは「おほほほほ」などと笑っているが、その身体に変化はない。
吸血鬼の血の掟のせいでハルバラムの名前を呼んだら灰になっちゃうんじゃなかったの…?
アルミラの驚く様子を見れば、それはアルミラだけでなく闇騎士みんなに共通するはずのようだし…。
…マリーゴールドって、一体何者?
「ほらほら!いいから早く行ってきなさいな!間に合わなくなっても知らないわよ!」
マリーゴールドに追い出されるようにして、私とアルミラはカミーユとライラ、そしてローザがいるはずの最上階へと駆け上がった。
ローザが去ってからもしばらくその場を動けなかった私に、マリーゴールドはそう言った。
その声に私はようやく重い腰をあげようとするがどうにもうまく立ち上がれず、アルミラに抱き起こしてもらう。
「リリアスちゃん、あなたあの子のことが好きなんでしょう?」
マリーゴールドのその質問に、私は無言で小さく頷く。
「だったら追いかけなくちゃ。人間に戻れなくなっちゃうわよ?」
「人間に…私が……」
「そうよぉ?戻りたいんでしょ?」
私はそれに答えることができない。
戻りたい…んだとは思う。
でも私の脳裏に、涙を流すローザの顔が焼き付いて離れない。
こんな私に、人間に戻る資格があるんだろうか。
「特別に教えてあげるわ。吸血鬼が人間に戻る方法はね…」
私はうつむいたままマリーゴールドの言葉を聞いている。
私の肩を抱くアルミラの手に力が入る。
「完全に愛し合った人間と吸血鬼が唇と唇でキスをすることよ」
私とアルミラは声を揃えて「キス?」と聞く。
――たったそれだけのことで?
「でもそれには2つの条件があるわ」
マリーゴールドは私たちの前に2本の指を立てて言った。
「まず、その人間は誰からも一度も吸血されていない人間に限るということ。そして、二人が本当に心の底から愛し合っているということ。もしその愛に疑いや偽りがあれば」
そこまで聞いて私の胸がズキッと痛む。
「二人は消滅してしまうわ」
…じゃあ、やっぱり今の私がローザを追いかけたところで意味ないじゃない。
偽りはともかく疑いがありすぎるわよ。
私はローザのことが好きなんだと思うけど、それでもやっぱり『女の子同士なんて許されない』という想いというか刷り込みが頭の片隅にまだあるし、そもそもこの『好き』は本当にただの友情とは違うものなのかなという疑いもある。
もっと言えば、『好き』と『愛』って同じもの?
それとも違う?違うならどう違う?
ローザだって約束を破った私のことはもう好きじゃないだろうし、それに最初に私のことを好きみたいに言い出したのも私が吸血鬼の魔力を頭に注ぎ込んだ影響で洗脳状態になっているだけの可能性だってある。
大体、この世の中に疑いや偽りがまったくない愛なんて、本当にあるの…?
「まあとにかく、追いかけないとローザちゃんがどうなっても知らないわよ?」
マリーゴールドのその言葉に私はようやく顔を上げる。
「どういうこと…?」
「ローザちゃんは再びカミーユの部屋に戻ったはずよ」
「え…なんで」
「ライラを解放するためよ」
「ローザが、ライラを?」
「そうよ?リリアスちゃんがぼんやりしている間、わたしは謁見の間で確認してきたから間違いないわ」
「謁見の間…ああ、ハルバラムと話したのね」
「そ。ローザちゃんはたいしたものよ。聖都法皇庁の機密情報と引き換えに、自分自身の身の安全だけでなくライラの解放と、あなたたち2人の安全も約束させたんだもの」
――私とアルミラが厭らしいことをしている時に、扉ひとつ隔てた向こうで、ローザは私たちの身の安全まで考えて動いてくれていた。
「でもカミーユのことだから、素直に帰してくれるかどうか…。『ちょっとだけなら』なんてガブッとやっちゃうかもしれないわねぇ。献上姫でもないんだから死なない範囲の吸血にはお咎めもないだろうし」
私はそこまで聞くと、アルミラの手を握ってアルミラの瞳を見つめた。
「…行こう。ローザを助けに!」
アルミラは真剣な眼差しで深く頷いた。
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カミーユの部屋がある第4塔の最上階のひとつ下の階まで、マリーゴールドが薔薇の花弁の魔術で連れて行ってくれた。
私がずいぶん長い間ボーッとしていたから、徒歩のローザもとっくに着いているだろうとのことだった。
「さあ、ここから先はあなたたち2人で行くのよ」
最上階へと続く階段の前で、私とアルミラは強く頷く。
「…でも、マリーゴールドちゃんはどうして私たちに親切にしてくれるの?」
マリーゴールドは芝居がかった身振りで大きく手を広げて肩をすくめた。
「さあ?自分でもよくわからないわ?ま、趣味よ趣味。長生きのせいか人の恋路を見ることが一番の楽しみね」
私にとっては命がかかるようなことでも『趣味』。なんだか可笑しくなって私は「ふ」と微笑う。
「とにかくありがとう。マリーゴールドちゃん」
「どういたしまして」
それから私は隣りのアルミラを見上げた。
「もしローザに何かあったら私はカミーユを殺すことになるわ。いい?」
アルミラは噛みしめるように頷く。
「…ああ、仕方ない………」
マリーゴールドも一言添える。
「ちなみにリリアスちゃんがカミーユを殺しても誰にも叱られないから安心なさい。『もし我が娘が闇騎士を倒せるほどに成長したなら喜ばしいことだ』なんて笑ってたわよハルバラムちゃんも」
「な!マリーゴールド!お前その名は…!」
「あらやだ、ごめんあそばせ」
マリーゴールドは「おほほほほ」などと笑っているが、その身体に変化はない。
吸血鬼の血の掟のせいでハルバラムの名前を呼んだら灰になっちゃうんじゃなかったの…?
アルミラの驚く様子を見れば、それはアルミラだけでなく闇騎士みんなに共通するはずのようだし…。
…マリーゴールドって、一体何者?
「ほらほら!いいから早く行ってきなさいな!間に合わなくなっても知らないわよ!」
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