吸血鬼の血に目覚めた悪役令嬢は、別の世界の扉を開いて変態聖女にキスをする。

タヌオー

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第2章

17 raison d'etre

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ローザが倒れて私も眠くてフラフラで、アイナとセリナも目覚めない。
ライラとフェンリルしかいない今、もしアニーとサリーが戻ってきたら、またはあのクライブのクソ野郎がやってきたら、たぶんもうどうにもならない。

昼間のうちに吸血鬼ヴァンパイアが来ることはないはずだけど、クライブもカミーユが使っていたその場限りの夜アオーラノクスのように日光を無効化する固有能力を持っていたりするかもしれない。

あの能力は今、アルミラが持っているはずだ。
想像もしたくないけれど、クライブがアルミラの血を吸って限定的にでもあの能力を持っている可能性もゼロではない。

私たちはフェンリルの背中に乗って岩陰に移動すると、そこにライラがワサワサと草木を生やして茂みと木と草のドームを作り、その中にしばらく隠れ潜むことにした。

「本当はローザ、もう魔力なんて残ってなかったんだよ…」

ドームの中の地面にローザを横たわらせてライラはそう呟いた。
ローザの隣りには、傷だらけのアイナとセリナが寝そべっている。

「昨日の夕方に少し魔力草で回復させただけで休みもなく移動したから…。だからローザはあえて余裕たっぷりのふりをして、あいつらを撤退させて………聖女っていうのは、ずいぶん戦いが上手なんだね…」

ローザが薄目を開けて弱々しく微笑む。

「ふふ…伊達に貧乏伯爵家で生まれ育っていませんわ…。聖女になる前から修羅場は散々くぐってきていますのよ…」

ライラは「魔力草を出すから、もう寝てな…」と言ってローザの髪を撫で、紫色の草でローザを包んだ。

「ローザは魔力総量が多すぎて気休めにしかならないみたいだけどね…。リリアスも、夜になるまで寝てていいよ?」

地べたに座った私は首を振る。
眠ってしまわないように故郷の土のマットは出していない。
クライブが来るかもしれないし、アニーとサリーが戻ってくるかもしれない。
アイナとセリナが目を覚ましてまた逃げ出そうとするか、最悪の場合、私たちに襲いかかるかもしれない。
いくらフラフラの私でも起きてさえいれば聴覚や嗅覚で周囲を警戒することくらいはできるし、少しくらいなら無理やり戦うこともできるかもしれない。

「丸1日くらい眠らなくても、大丈夫よ…」
「そっか…」

そう。
最初に吸血鬼ヴァンパイアになってからエスパーダ領に向かうまでの間、私は何日も眠ることができなかった。だから今日1日くらい何も問題はないはずだ。

だけど不思議なのは、最近の私は日が昇るとどうしようもなく眠くなってしまうこと。
エスパーダ領に向かうまでの数日間は昼間ももう少し動けていた。故郷の土を手に入れて、朝日とともに眠れるようになったからなのか、日中の眠気に体が抗えなくなってしまった。
私の肌は日光で焼けてしまうことはないのに、この眠気のせいで昼間に活動することができない。
とはいえ夜の間はたとえ故郷の土のマットに寝転がってもまったく眠くならないのだ。

もし夜の間に少しでも眠っておくことができれば、昼間も活動できるかもしれないのに…。

やっぱり、夜しか動けないと気が滅入る。

それに私だって、草原とかで日なたぼっこしたり白詰草で冠を作ったりして遊びたい…!

まあ、その遊びはさすがに子供っぽすぎるけど…。


******


結局、誰からの襲撃もなく夜がやってきた。

「なぜ、わたしたちを助けた…」

夜の湿った空気の中、遠くから聴こえる虫の音に混じって、アイナの呟きが聞こえてきた。

「アイナ!」
「目が覚めたのね!傷は大丈夫!?」

私とライラがそんなふうに声をかけても、アイナは表情ひとつ変えずに繰り返す。

「…なぜ、助けた」

私はライラと顔を見合わせてからアイナに向き直り、答える。

「あなたたちがいないとお父様たちがいるロドンゴに行けないからよ。でも助けたのは私じゃないわ。ライラとローザよ」

ローザはまだ眠っている。
枯渇した体力と魔力を必死に回復させているのだろう。

「特にローザがいなかったら、私もライラもみんなやられてたわ。あの、アニーとサリーとかいう双子みたいな二人にね。あいつらは一体、何?」

アイナは眉間に皺を寄せ、歯を食いしばっている。
その隣りでセリナがゆっくり目を開ける。

「セリナ!」「大丈夫!?」

同時に声をかけた私とライラに、セリナは「ああ…」と呟く。

「アタシもアイナも、コアがちょっと傷ついて修復に時間がかかっているだけだ…。問題ないよ。それよりお前たち、あのアニーとサリーを倒したのか…?」
「倒しては、いないわ。追い返しただけ。ねえ、あいつらは一体何者なの?」
「あいつらは…!」

セリナはそう言ってわなわなと震え始めた。「あいつらは…!」と振り絞るように繰り返すが次の言葉が出ない。アイナが代わりに続けた。

「奴らは識別番号、A-1エーワンS-1エスワン。我々も所属する特殊部隊、スクアッド・ゼロの最上位機種だ」

私とライラは驚いて再び顔を見合わせる。

「だったらあなたたちの仲間じゃない!」
「アイナとセリナはあの二人にやられたんだよね!?どうして!?」

セリナが震えながら答える。

「あいつらは…!アタシたちを抹殺しに来たんだ…!」
「抹殺!?なんで!」

アイナも拳を握りしめて震えている。

「奴らに与えられたミッションは『造反個体の破壊』…!司令部にとって、わたしとS-7エスセブンは裏切り者だということだ…!」
「裏切り者…!?どうして…!?」
「司令部にとって不都合な真実を知ってしまったから、だろうな…」

アイナのその言葉に、セリナも「そうだな…」と力なく頷く。

「つまり、『戦争は終わっていた』ってのは本当だったらしい。司令部は何かの目的のために、事実を隠して戦争を継続しているんだ…」

セリナはそう言い終わると、私の腕をガシッと掴む。

「悪いことは言わないからよ…!お前たちだけでも逃げろ…!もうこの球体世界スフィアすべてが敵だ。アタシたちと一緒にいたら、お前たちまで殺されちまうぞ…!」

私はセリナの手を両手で握りしめる。

「私は逃げないわ」
「バカ…!意地を張るな…!」
「意地なんかじゃないわ。森を出る前に言ったでしょう?」
「………?」
「シェナに『梵天』とかいうのがなければ、次はメルカ共和国に行って司令部をぶっ飛ばしてゲートをこじ開けるって。その予定通りにやるだけよ。それにね」
「それに…?」
「せっかくこの球体世界スフィアで仲良くなった私の友達を殺そうとする奴らなんか、絶対に許しておけないわ…!」
「――――……!」
「一緒にぶっ飛ばしに行くわよ!」

セリナは言葉に詰まっているようだったけど、アイナが落ち着き払った声で言った。

「我々には反逆は不可能だ」
「……怖いの?」
「違う。そのようにプログラムされているからだ。マザーには逆らえない」
「だから、私が血を吸って上書いてあげるって言ったじゃない」

アイナは静かに首を振る。

「我々はメルカ共和国に、マザーに従うために作られたのだ。その目的を失ったら、我々は一体、何のために存在すればいいんだ…?」

私は何も言うことができなかった。
でも私の横で、ライラが叫ぶ。

「生きる目的なんか、誰かに決められることじゃない!」

ライラは寝ているアイナの手をとって強く握る。

「あたしもファルナレークで食糧にされるために生かされてきた!でもそんなのは嫌だ!だからここにいる!存在する理由なんか自分で決めればいいんだよ!」

寝ていたはずのローザが「その通りですわね…」と言葉を発する。
私とライラは驚いて「ローザ…!」と声を揃える。

「少し前から起きて聞いていましたわ。そもそもお二人は反抗しなかったら殺されてしまうのですわよね?まさか、黙って殺されるつもりですの?」

アイナは目をつぶって静かに答える。

「それがマザーの意志なら、そうするのがアンドロイドの使命だ」

ライラが食い下がる。

「それでいいの!?それじゃただの道具じゃない!!」

ライラの言葉に、アイナは上半身を起こして叫んだ。

「――そうだ!わたしは、わたしたちは、道具なんだ!!人間なんかじゃない!!!」

今にも飛びかかりそうな必死の形相でアイナはライラを睨みつけている。
その横で寝ていたセリナも、ゆっくりと上半身を起こす。

「アイナ…だからお前は自分のこともアタシのことも、ずっと識別番号で呼んでたんだよな…。だけどさ」

セリナは声を震わせ、アイナの頬にそっと手を添えて言う。

「アタシたちが本当にただの道具だったら、どうして涙なんか流れるのかな…。こんな機能がついてるなんて、聞いたこともなかったぜ…?」

そう言いながらセリナは一筋の涙を流した。
アイナの目からも涙がこぼれ出す。

「だって…!だって自分を人間だと思ってしまったら、マザーの命令に背いてしまうかもしれない…!そうなったら、お前とパートナーでいられなくなるだろう…?わたしはただ、わたしはただ、お前と一緒にいたいだけなんだ…!セリナ…!」

セリナは涙をポロポロこぼして「アイナ…!」と呟く。

「アイナっ!」
「セリナ!!」

二人は強く抱き合った。

私もライラもローザも、何も言えず、ただ抱き合う二人を見つめていた。

かすかな虫の音だけが夜の空気に響く。

「リリアス、お願いだ…」

アイナを抱きしめたまま、セリナが振り向いて私を見た。

「無理やりでもいい…!アタシたちを吸血して、支配を上書いてくれ…!!マザーの呪縛から、アタシたちを解き放ってくれ…!!!」
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