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現世を追放された時代遅れのヤクザは、異世界の闇で成り上がっていく
しおりを挟む※主人公は違いますが、舞台は下記の連載小説と同一の世界となります。
→王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。
…………………………………………
「所払いとは聞いてたけどよ、一体どこなんだここは」
リュウジはそう言って立ち上がると、黒いスーツについた土と枯れ葉を手で払い落とした。
見渡すと、あたりは鬱蒼と生い茂る木々。
ふかふかと落ち葉が積もる地面にはところどころ木漏れ日が差し込んでいるが、昼にしてはかなり薄暗い。深い森の中なのだろう。
リュウジの隣りでマサが立ち上がった。
「わかりません…さっきまで高速を走ってたはずなんですが…」
立ち上がった二人の横で、ノブイチはまだ尻もちをついたまま口をぽかんとあけて呆けている。
「おで、夢でも見てるのかな」
ガスッ!
突然ノブイチの背中にリュウジの軽い蹴りが入る。
「あでっ!」
「3人一緒に夢なんか見るわけねえだろ、さっさと立て。行くぞ」
磨き上げられた革靴で落ち葉を踏みしめて歩いていくリュウジの後ろを、マサとノブイチがついていく。
「行くって言っても、一体どこに行くんですか」
リュウジが振り返る。
「フィリピンだよ。フィリピンに行けってオヤジに言われたろ」
…………………………………………
リュウジ、マサ、ノブイチの3人は暴力団の構成員だった。
広域指定暴力団「麗王会」の二次団体、黒木山組。構成員は約40名。
リュウジこと長瀬龍二は、麻薬中毒者の父親のせいで心が荒み幼少期から喧嘩に明け暮れ、とうとう中学卒業と同時に黒木山組の構成員となった。
路地裏で地元のヤンキー14人をたった1人でぶちのめしていたところ、ちょうど通りがかった黒木山組組長の黒木山小五郎から直々にスカウトされたのだった。
この人なら、もし声をかけたのがヤクザの親分じゃなくてボクシングジムのトレーナーだったら、世界チャンピオンにもなれたかもしれないのに。
リュウジの広い背中を見て、マサはそう思う。
マサこと遠藤政隆は貧困家庭に生まれたが、中学の成績は常に1位だった。しかしそれ故に「貧乏ガリ勉」などと不良たちからいじめを受けており、「くだらねえことやってんじゃねえ」とその不良たちを半殺しにして自分を守ってくれたリュウジを同級生ながら崇拝していた。
崇拝しながらも一流高校への合格が決まっていた彼は、「この先は別々の道か」と思っていたが、両親の自殺によってその道は絶たれた。であるならば、とマサはリュウジとともに黒木山組の門を叩くことを決めた。
ノブイチは小学校からリュウジと一緒だった。
フルネームは馬飼信市。舌っ足らずで一人称が「おれ」ではなく「おで」となってしまう彼は、自分の名前も「ばかい・どぶいち」と発音してしまい、やはり悪ガキたちにいじめられた。そして彼もマサと同様にリュウジに助けられた。もともとどこの高校にも受からなかった彼は、100kgを超える巨体をゆさゆさと揺らしながら、リュウジについて極道の世界へと入っていった。
1年目から二人の弟分を持つことになったリュウジは、順調に出世していった。
その凶暴性で他の組の構成員からも恐れられるリュウジに、それなりに高い知能を持つマサ、そして愚鈍だが何故か時おり幸運を引き寄せるノブイチの支えもあって、3人は様々なシノギを開拓していき上納金の支払いを遅らせることもなかった。
しかし問題が起きたのは3人が裏社会に足を踏み入れてから10年後、25歳になった春先のことだった。
リュウジは自分のシマで、シャブの売人を見つけてしまった。
――見たこともない奴が、俺のシマで、俺の人生を狂わせたシャブを勝手に売ってやがる。
リュウジはその見知らぬ売人を光の速さで叩きのめすと、「てめえケツモチはどこの組だ」と尋問した。売人はなかなか口を割らなかったが、リュウジに素手で右耳をちぎり取られると、すぐにその組の名を吐いた。
売人のバックについていたのは黒木山組とは系列の違う組織の二次団体だったが、構成員は100人ほど。黒木山組の2.5倍の規模。マサとノブイチは必死に止めたが、リュウジはそれを振り切ってたった1人で乗り込んだ。その組には全構成員が居合わせたわけではなかったそうだが、リュウジは銃も刃物も使わずその場にいた全員、組長や幹部から末端の構成員までを異常な膂力だけで惨殺してしまった。
一昔前ならとてつもない武勇伝になりそうな話だったが、そうは時代が許さなかった。
黒木山組組長の黒木山小五郎はリュウジ、マサ、ノブイチの3人を呼びつけると、「お前ら明日からフィリピン飛んでそのまま戻ってくるな」と言った。
リュウジは納得いかない様子で拳を握りしめた。
「…そりゃ、所払いってことですか?」
「あたりめえだろ馬鹿野郎!」
黒木山小五郎はガラス製の重い灰皿をリュウジに投げつけた。
リュウジは微動だにしなかったが額に一筋の血が流れた。
黒木山の怒りももっともだった。黒木山組も参画している関東の賭博系暴力団の連絡組織である関東十五日会では、警察からの厳しい取り締まりを避けるため平和共存路線をとっており、他の組との抗争は強く禁じられていた。
「暴力団が暴力ふるえなかったら、俺ら一体どうすりゃいいんすか…」
リュウジが絞り出したその一言に黒木山は何も答えず「いいから行け」と言って背中を見せた。
そしてリュウジたち3人は、高速道路を車で飛ばし、空港へと向かった。
その路上、唐突に強い光に包まれて、目を覚ますと彼らは深い森の中にいたのだった。
…………………………………………
「フィリピンったって、どっち行きゃいいんですかアニキ」
大股で森を進んでいくリュウジをマサが小走りで追いかける。
ノブイチも巨体を揺らしてさらにそのあとをのそのそとついていきている。
「知らねえよ、でも立ち止まってても仕方ねえだろが」
リュウジはそう言ったが、途端にその歩みを止めてあたりを見渡した。
森の中に甲高い叫び声が響いている。
「…女っすね」
「どっちだ」
「おで、あっちだと思う」
ノブイチが指を差した方向に目をやると、ガサガサと藪をかき分けて赤い髪の女が出てきた。何やら喚いているが外国の言葉だろうか、意味は理解できなかった。
しかし、状況から意図は理解できる。
3人に駆け寄って息を切らして藪の向こうを指差す赤い髪の女は、「助けて」と言っているのだろう。誰かに襲われているということだ。
リュウジはニヤリと笑って一歩前へ出た。
「チンピラをぶちのめして金を巻き上げる。いつもの仕事だな」
女が出てきた藪が再びガサガサと揺れる。
そこから飛び出してきたのは、半裸で緑色の肌をした子鬼のような生き物だった。
数匹の子鬼たちは手に鉈や斧のようなものを持っている。
「なんだこいつら!」
リュウジは見たことのない生き物たちに一瞬戸惑ったが、身体は稲妻のように動いた。
一番手前の子鬼の頭部を前蹴りで爆散させ、右から鉈を振りかぶって飛びかかる子鬼は右の裏拳で顎を砕き、左から投げつけられた斧を素手でつかみ取って投げ返した。斧は子鬼の胸部に深く突き刺ささって血しぶきを上げ、その奥から飛び出した二匹の子鬼はまとめて回し蹴りで大木の幹に叩きつけた。
幹に血と脳漿をこびりつかせながら、二匹の子鬼はズルズルと大木の根元に沈んだ。
わずか一瞬の出来事に、マサもノブイチも思わず息を呑んだ。
すると出し抜けに赤い髪の女が日本語で言った。
「すごい!もしかして皆さん、日本人ですか!?」
…………………………………………
女の話によると、どうやらここは異世界であるらしい。
「さっきのはゴブリンっていう魔物です!実は私も4年ほど前に日本からやってきたんですよ!」
女は中学校からの帰り道に突然、不思議な光りに包まれてこの世界にやってきたという。
この森へは何かの素材を探しに来ていたのだが、護衛とはぐれ自分の武器も手持ちがきれてしまい先ほどの子鬼、ゴブリンの群れから逃げ回っていたところ、リュウジたち3人に遭遇したのだという。
最初にこの女が喚いていた理解不能の言葉は、こちらの世界の言語だったそうだ。
「きっとそのままじゃ不便でしょうから、お礼にいいものをあげますよ!」
女はゴソゴソと袋の中から妙な札のようなものを出し、それを3人の額に貼っていった。
「ちょっと待っててくださいね」と女が言うと、札は唐突に怪しい光を放った。
「うお!なんだこれ!」
「あ!まだそのまま!剥がさないでください!もう少しでこの世界の言語をインストールできますから!」
どうやらこの世界の言語を扱えるように、女が何かをしてくれたらしい。
それを受けてノブイチは「これで、おでも賢くなれるかなぁ」と言ったが、女は「あ、それは無理ですね」と言い捨てた。
…………………………………………
女の案内に従って森を出ると、木立には馬車が停めてあり、女の護衛と思われる数人の男女がいた。全員がボロキレのようなマントを身に纏い、日本刀とは違う西洋風の剣を腰に差している者もいた。
「どこ行ってたんだ!森の中までの警護は契約に入ってないぞ!」
ボロキレを纏った男女のリーダーらしき男がそう言うと、女は「すいませんすいません!もう戻りますから!」と言ってそちらへ駆け寄っていった。そのやりとりはやはり日本語ではなかったが女のおかげだろう、リュウジたちも自然と理解することができた。
駆け寄る途中で何か思い出したように女は振り返る。
「あ、私たちはここから1週間くらいかけてラノアール王国っていう国に戻りますけど、皆さんも一緒に来ますか?それか、向こうへ道なりに半日も歩けばカーライル王国っていうもっと大きな国もありますけど」
女の言葉を受けてマサが「どうします?」とリュウジに尋ねる。
「そりゃデカいほうに決まってるだろ」
そうしてリュウジたち3人は日本から来たという不思議な女と別れ、カーライル王国と呼ばれる国へと向かった。
…………………………………………
「異世界って言ってましたけど、なんだか中世ヨーロッパみたいな街ですね」
カーライル王国の城下町はその周囲を高い石壁に囲まれていた。
壁の向こうには城と思われる高い建物がその先端だけを覗かせている。
分厚そうな石造りの壁には大きな木の門が取り付けられており、門の前には長い槍を持った二人の兵士が騎士のような甲冑を身に纏って立っていた。
「どこから来た!」
門番が高圧的に尋ねた。
その態度にリュウジが眉をひそめ、「あぁん?」と威嚇し始めたが、マサがそれを手で制する。
「我々はラノアール王国から来ました」
マサの言葉にノブイチが「おでたち日本から来たよね」などと言っているが、リュウジは「いいんだよ、こういう時はマサに任せとけ」と伝えた。
「ラノアール?歩いてか?」
「まあ途中まで馬車だったんですがね」
「途中?なんだ、運賃でも足りなかったのか?」
「ええまあ、そんなところです」
「…しかし怪しい格好だな」
門番は3人を下から上まで舐めるように訝しげな視線を送った。
それはそうだろう。もしここが中世ヨーロッパのような世界観なのだとしたら、21世紀のジャパニーズヤクザ丸出しの3人のスーツ姿はあまりに不自然だ。
門番の視線に対して獣のようにメンチを切るリュウジに、マサは小声で「やめてください」と言った。
「これが新しいファッションなんですよ」
「ファッション~?…お前ら、洋服屋か何かか?」
「まあそんなようなものです」
門番たちは何やらこそこそと耳打ちしたが、しばらくすると「まあいい入れ。騒ぎを起こすなよ」と門を開けてくれた。
…………………………………………
門の向こうには広い道が真っ直ぐ、ずっと奥まで続いていた。
片側3車線の道路くらいの広さだろうか。
とはいえ地面はアスファルトではなく石畳だ。
その大通りの奥には、うっすらと西洋の城のような立派な建物が見える。
大通りの両サイドには石造りの建物が並び、その1Fでは様々な商店が営業していた。
レストランやカフェと思われる飲食店に、通りから見える店内に宝石や洋服が陳列された店、剣や槍などを扱っている店、盾や鎧などを扱っている店、何を扱っているのかさっぱりわからない店、教会などが立ち並び、多くの人で賑わっていた。
ほとんどの人々は金髪や茶髪に彫りの深い顔立ちで、どう見ても日本人には見えない。
服装も布や革でできた生地を簡単に纏っているような感じで、中世を舞台にした海賊モノの映画に出てくる登場人物のようだった。
「本当に、異世界なんですね…」
マサは街の様子を見渡して息を呑んだが、ノブイチは「すごいね!おぼしろい!」とはしゃいでいる。おぼしろい。面白い、ということだろう。
異世界。
ありあまる暴力性で一般社会からもヤクザ社会からも弾き出された挙げ句、外国どころかとうとうこんなわけのわからない世界にまで追いやられてしまった。
しかしリュウジは脇目も振らず、革靴のかかとを石畳でカツカツと鳴らして大通りを進んでいく。マサが「どこか行くあてがあるんですか?」と聞くと、リュウジは振り返らずに言った。
「俺たちの居場所なんて街の裏側にしかねえよ」
…………………………………………
リュウジたち3人が街の外れの倉庫街のようなところに辿り着いた頃には、あたりはすっかり夜になっていた。
街灯もないため夜道は真っ暗で、背の高い倉庫の間から見える満天の星空と満月だけが足元を照らしていた。
「こんなところに何かあるんですかね…」
心配そうにそう言ったマサの後頭部をリュウジが手で軽くペシッとはたき、「見ろ」と言った。
リュウジが顎で示した先には倉庫の扉が薄く開いた先から、ぼんやりと灯りが漏れている。
中を覗くと、数人の男たちが下卑た笑みを浮かべながら談笑していた。
上半身裸で刺青だらけの男や筋骨隆々で髭面の男、丸々と太ったスキンヘッドの男、ダガーナイフのようなものを手で弄んでいる小柄な男の4人。見るからにチンピラたちだ。
何も言わずにリュウジがその扉を開けると、中のチンピラたちが一斉にリュウジたちのほうを振り向く。
「なんだてめえ!」
「ここがどこだかわかってんのか!」
聞き慣れた罵声にリュウジは思わず懐かしくなり、凶悪な笑みを浮かべた。
「今から俺がてめえらを締めてやるよ」
そう言って倉庫の中に大股で踏み込んでいくリュウジに、チンピラたちは武器を手にとって「ふざけんなゴラァ!」「ぶっ殺すぞ!」などと叫んで飛びかかっていった。
それを倉庫の入り口で眺めるマサはため息をつきながら、せめて1人は生かしておいて情報を吐かせなきゃ、と思った。
あの人の皆殺しモード止めるの、大変なんだよな…。
ノブイチは何を考えているのか、マサのようにリュウジを見守るでも戦いに加わるでもなく、倉庫の入り口の脇に積んであった木箱を開けて何やらゴソゴソしている。
…………………………………………
マサの予想に反して、今回リュウジは誰も殺さなかった。
人間離れした腕力のリュウジにしては相当に手加減をしたのだろう。
しかしそれでも4人のチンピラたちは顔を腫れ上がらせ、タバコをくゆらせるリュウジの前で横一列に、そろって倉庫の地面に正座させられている。
「うう…もう、勘弁してください……」
刺青だらけの男はリュウジに折られた右腕を左手で抱えて、涙目になってそう言った。
リュウジはタバコの煙を吐き出した。
「お前らのシノギはなんだ?」
「へ?シノギ?」
「何で金を稼いでんだって聞いてんだよ」
「あ、ああ…それなら倉庫業で」
「ウソつけ」
「そ、それはその、ええと…」
リュウジははぐらかす刺青のチンピラの前に立ち、見下ろしている。
「言え」
「…いや、まあそれは」
ボキッ。
言い淀んだ刺青の左腕をリュウジが鋭く蹴ると鈍い音が響いた。
「あああああああああああああっ!?」
両腕を折られた刺青は、背後に倒れ込んで仰向けになった。激痛に身をよじるが転がることはできない。
絶叫を続ける刺青の腹の上にリュウジがドカッと乱暴に座り込むと、刺青は「うっ」と短い呻き声をあげて絶叫を止めた。
「なあ」
リュウジは歯をガチガチいわせて震える刺青の髪の毛を掴んだ。
「お前ら、何で、稼いでんだ?」
「かっ、勘弁してください、勘弁してください…!」
リュウジは咥えていたタバコを親指と中指だけで摘んで口元から離すと、ゆっくり白い煙を吐いた。
「そんな隠すようなことじゃねえだろ」
リュウジは左手で刺青の髪の毛を掴んだまま、まるでそこが灰皿であるかのようにタバコの火を刺青の額でぐりぐりと揉み消した。
刺青は再び絶叫を上げて身をよじるが、上半身は座り込んだリュウジの尻に抑えつけられて動かない。脚だけをバタバタさせている。
リュウジがスーツの内ポケットからタバコを取り出して1本咥えると、横からマサが無言で火をつける。
「お前らも、なんで誰も答えねえんだよ」
リュウジがそう言って振り返ると、正座したまま震えるばかりだったチンピラたちは「ひっ!」と小さく声を上げた。
「おかしいよなあ」
そう言ってリュウジが立ち上がったことに刺青が思わずホッとしたのをリュウジは見逃さず、革靴のかかとで脇腹を踏みつけた。
派手な音とともに何本か肋骨を折られた刺青は、両腕が動かないため患部を押さえることもできず、ただただ口を開けて「あああぁぁぁぉぁ、はああぁぁぁぁぁぁ」などと悲鳴とも泣き声とも呼吸音ともとれる何かを吐き出しながら涙を流した。
刺青から離れたリュウジは残る3人、髭面とデブのスキンヘッドと小男の前をゆっくりと歩く。
「答えろよ」
リュウジはそう言うと突然、髭面の顎を蹴り上げた。
髭面はそのまま壁際の積荷の中まで吹き飛ばされ、ガラガラガラと派手な音を立てて崩れた積荷の下敷きになった。
残るはデブのスキンヘッドと小男の2人だけ。2人とも涙を流しながらブルブルと震えている。
「ほら言えよ」とリュウジがデブのスキンヘッドに迫った時、背後からノブイチが「あったよ!」と大声を上げた。
「何がだ」
振り返るリュウジに、ノブイチが駆け寄って「ほら」と手のひらに盛られた白い粉を見せる。
「こいつらのシノギ、きっとコレだよ」
麻薬。
リュウジが最も憎むものがそこにあった。
リュウジの目の色が変わる。
そのまま残った2人のチンピラに振り返る。
マズい、殺す気だ。
マサがリュウジの前に割って入ろうとする。
「ダメですアニキ!生かしておいて情報を引き出しましょう!」
「うるせえ!」
怒号とともにマサは右の頬を張られ吹き飛ばされた。
それを見て「ひいっ!」と悲鳴を上げ身を寄せ合うチンピラ2人のうち、デブのスキンヘッドが言った。
「そ、それ、龍醒香薬です!混じりっけなしです!全部!全部差し上げまキュンッ!」
デブのスキンヘッドは発言の途中で脳天にリュウジの踵落としを食らい、語尾に小犬の鳴き声のような音を出して前のめりに突っ伏した。
残ったのは小柄な男1人。ガタガタと震え上がっている。
リュウジはその男の前でしゃがみ込み、顔を近づけてニッコリと笑って優しく言った。
「君たちの親は、どこにいるのかな?」
…………………………………………
「お、俺たちはファミリーに言われて、龍醒香薬をさばいてるんです…」
小男は声を震わせながらそう絞り出した。
「そのファミリーってのはどこにある」
「わ、わかりません…」
「あぁ!?」
リュウジが小男の胸ぐらをつかむ。
「ほ、ホントっす!ファミリーの本部がどこにあるのか、ボスが誰なのか、全部で何人いるのか、俺ら何も聞かされてないんです!」
「だったら耳、いらねえな」
「へ!?いだっ!や!やめて!やめてください!」
「何も聞こえない耳なんていらねえだろ」
リュウジは左手で小男の胸ぐらをつかんだまま、右手で小男の左耳をつかんでいる。メキメキと引き千切られる音が響く。
「ウソじゃないっす!ホントに知らないんです!助けて!助けてぇ!」
小男は涙と鼻水と血で顔面をグシャグシャにしている。
その様子を黙って見ていたマサが口を開いた。
「だったらお前らのアガリは誰にどうやって渡してるんだ」
「れ、レイードさんです!」
「それは誰だ」
「ファミリーの中のアモルっていう組織の人で、明け方になると毎日ここに来るんです!その人に売上を渡してるんです!痛い!耳とれちゃうよ!やめて!やめてぇ!!!」
マサは小男の耳を引き千切ろうとするリュウジの右手に手を添えた。
「アニキ、こいつ使ってレイードとかいう奴からアモルって組の事務所に案内させましょう」
リュウジは小男の耳から手を離した。小男の耳の付け根からは血が流れているが、耳はまだ頭部につながったままだ。
「わかったよマサ。お前に任せる」
…………………………………………
レイードを待つ間、唯一意識の残っていた小男がすべてを話した。
デブと髭面は死んではいないようだったがリュウジの一撃で意識を失っていたし、両腕と肋骨を折られた刺青も、痛みのせいかいつの間にか失神していた。
小男によると、ファミリーというものはこのカーライル王国の裏社会を支配する唯一の闇組織で、その下には無数の小組織を抱えているらしい。
小組織はそれぞれに役割が与えられているが横のつながりは少なく、誰もファミリーの全貌やボスの正体は知らない。それを探ろうとする者は例外なく消されてしまうという。
アモルもファミリーを構成する小組織のひとつで、違法薬物の売買を主な役割としている。
ただし違法薬物を扱っている組織はアモルだけではなく、他に同じ役割を担う組織がどれほどあるかも小男は聞かされていないそうだ。
アモルから派遣されるレイードという男は、小男たちから上納金、というか売上のほとんどを毎日、明け方にやってきて回収していく。小男たちはレイードがどこから来てどこに帰るのか、アモルの事務所の場所がどこにあるのかは知らないらしい。
ただ、ファミリーを構成する小組織同士は互いに売上を競い合わされており、小組織同士の抗争もファミリーは黙認するという。小男たちも大きく売上を伸ばしたり他の組織を潰したりといった手柄を上げた際には、アモルの正式なメンバーにしてやってもいいとレイードから言われているそうだ。アモルの正式なメンバーになる際は、アモルの事務所にてボスと契りを交わすことになるらしい。
「レイードって奴もスジモノなら殺されても口は割らないでしょう。俺らをアモルとかいう組の事務所に連れて行かせるように一芝居打つ必要があります」
マサの作戦はこうだ。
まず自分も含めてリュウジたち3人の両手を縄で縛り、小男からレイードに進言させる。その内容は「麻薬の売買を行っていた他の小組織の構成員と思われる3人を拘束した。自分をアモルの正式メンバーにするとともに、この3人が所属する小組織の全貌を吐かせるため、アモルの事務所に連れて行ってくれないか」というものだ。
アモルの事務所に着いたらリュウジが縄を引き千切り構成員を皆殺しにしてアモルを乗っ取り、その後は他の小組織をひとつずつ潰していって最後にはファミリーそのものを乗っ取る。
小男に両手を縛らせながらノブイチが嬉しそうに言った。
「おで、なんかワクワクしてきたよ」
リュウジはその言葉を聞いて思う。
今までいた世界では、表でも裏でも俺の居場所はなかった。
表の社会ではもちろん、裏の社会でも俺の過剰な暴力性は許される時代ではなかった。
それが、こんなわけのわからない異世界なんてところまで飛ばされて、ようやく辿り着いた。
ここは、暴力で上に行ける世界だ。
「獲るぞ。この世界のテッペンを」
倉庫の外は夜明けが近付き、空が白み始めている。
街灯もない真っ暗闇の中に溶けていた街の輪郭が薄っすらと浮かび上がる。
石造りの建物が立ち並ぶロールプレイングゲームの中のような不思議な世界。
その世界で、リュウジたち3人の成り上がりストーリーが、幕を開けようとしていた。
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追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件
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王都で「無能」と蔑まれ、婚約破棄と追放を言い渡された青年リオン。
唯一の取り柄は、古代語でびっしり書かれたボロ本を黙々と読み続けることだけ。
辺境で静かに暮らすはずが、その本が実は「失われた大魔導書」だったことから、世界の常識がひっくり返る。
本人は「ちょっと魔法が得意なだけ」と思っているのに、
・竜を一撃で黙らせ
・災厄級ダンジョンを散歩感覚で踏破し
・国家レベルの結界を片手間で張り直し
気づけば、訳あり美少女たちに囲まれたハーレム状態に。
やがて、かつて彼を笑い、切り捨てた王都の貴族や元仲間たちが、
国家存亡の危機を前に「助けてくれ」と縋りついてくる。
だがリオンは、領民と仲間の笑顔を守るためだけに、淡々と「本気」を解放していくのだった——。
無自覚最強×追放×ざまぁ×ハーレム。
辺境から始まる、ゆるくて激しいファンタジー無双譚!
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異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
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