王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー

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029 暗部

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俺たちはドワーフ王に礼を言って城をあとにすると、宿屋に停めていた馬車ごと、シシリーが空間魔術で描いた光の輪を通り、カーライルへと戻った。

あっという間。超便利。

レミーはドワーフの国で仕入れてきた大量のピグナタイトや黒虹鉄鋼ラクラルライトを鼻歌交じりに自宅地下倉庫の一角へとガシャガシャ積み上げている。

俺とシシリー、シェリル、バーグルーラは地下倉庫の隅に設けられた打ち合わせスペースのような場所で椅子に腰掛けてその様子を眺めている。

「あ、そうだ」とレミーがこちらを振り向く。

「マリアさんたちの音楽を記録して再生できる装置、あれはたぶんすぐに作れると思いますよ!」

お。それは酒場の店長もマリアたちも喜ぶな。

「ただ、ティモシーさんの魔導兵装サイコスーツは、装甲に黒虹鉄鋼ラクラルライトを使いたいのですが、ちょっと加工が難しくて時間がかかりそうなんですよね…」

レミーが肩を落とす。
いい、いい。そんな物騒なもん、すぐにできなくて。

「ところで話は変わるのだけど」とシェリル。

「私がラノアールを出て1ヶ月。そろそろ次の動きがあるはずよ」

げ。忘れてた。そういえばそうか。

「つ、次の動きって、一体なんだろうね…」

俺のその疑問に、シェリルが間髪入れずに返答する。

「おそらく暗部の3人ね」


…………………………………………


一方その頃、フランネル財務大臣の第一秘書、シェリル・クローネンが出発してから1ヶ月が過ぎたラノアール王国では、「てんやわんや」を通り越して阿鼻叫喚、ほぼほぼ地獄そのものと言っても過言ではない状態になっていた。

激昂するフランネル財務大臣の前で、魔術師長のラルグが必死に額の汗を拭いている。

「シェリルは!シェリルはまだ帰って来んのか!」
「え、ええ、報告はまだ何もないようですな…」
「一体何がどうなっているのだ!」
「それは私には、か、管轄外でして…」
「やかましい!それならお前の管轄の魔術師の追加採用はどうなっておる!」
「そ!それは、その…」
「どうなっておるのかと聞いておるのだ!」
「ひぃっ!あ、あの、そ、それが、その、追加どころか本日また既存の魔術師が、に、22名ほどいなくなりまして…」
「なんだと!」
「も、申し訳ございません!」
「残りの魔術師はあと何名おるのだ!」
「そ、それが、その、私も含めて、あと7名ほど…」
「ほ!ほとんどいないではないかッ!」
「ひいいっ!も、もも申し訳ございませんッ!!!」

「フランネル財務大臣よ」

横からギグス軍務大臣が重く冷たい声で口を挟む。

「な、なんだ!」
「これでは魔王軍との戦争どころではないではないか」
「…っ!こ、こんなものはすぐに立て直せるっ!」
「そうは見えんがな。大体、事の発端はティモシー・スティーブンソンの解雇という、お前の思い付きではないのか」
「し!しかしそれは閣議で決定されたことであろう!おま、お前も賛成したではないかギグスっ!」
「だが言い出したのはお前だろう」
「な!何を!」
「一体どう責任を取るつもりだ」
「れっ!連帯責任!連帯責任だろうこれは!そもそも軍に所属する魔術師の退職はお前の責任ではないのか!」
「何ぃ?貴様、この俺に責任をとって死ねとでもいうのかッ!」
「…そっ!そうは言っておらんだろう!」

この惨状にラルグ魔術師長は何をどうしたらいいのか、戸惑うばかりだった。
その時、どこからともなく3つの影があらわれ、御前にひざまずいた。

3人とも黒装束で全身を包み、口元も黒いマスクで隠されている。
眉間を中心に顔面に大きくX状の傷を持つ壮年の男、右目を眼帯で隠した若い男、長いまつげに赤く美しい瞳を持つ女の3人だった。

「恐れながら申し上げます」

リーダーとおぼしき壮年の男が低く進言した。

「なっ!なんだ!」というフランネル財務大臣に、壮年の男は続ける。

「我々、暗部の3名がティモシー・スティーブンソン並びにシェリル・クローネンの連行を果たして参る、というのはいかがでしょうか」

それを聞いてフランネル財務大臣は口角の泡を飛ばして言う。

「そ!そうだ!そうだな!そうしろっ!今すぐそうしろ!」

「かしこまりました」という声だけ残し、暗部の3人は再び影となって消えた。

指示がない限り動くはずのない暗部さえも、もはや黙って見てはいられなかったということだろうか。本来ならありえない話だ。

「だ、大体!こういう指示は貴様の仕事ではないのかギグス軍務大臣!」
「なんだと!」
「だ、だってそうであろう!」
「やるのか貴様!」
「き!貴様こそやるのか!」

文句のつけようもないほどぐちゃぐちゃな状況の中、さらに上司たちが4歳児相当の低いレベルで言い争う姿を見て、しかもその上こんな状況になっても話を聞いているんだかいないんだか玉座でボーッとし続けるばかりの王の姿を見て、ラルグ魔術師長は、ああもう、私も早く辞めたい……と深く深くため息をついた。


…………………………………………


「あ、暗部!?暗部って何それ、俺そんなの知らないよ!」

なんとも邪悪な響きの「暗部」という言葉に恐れをなす俺に、落ち着き払ってシェリルが答える。

「ラノアール王国の暗部は諜報・暗殺を得意とする部隊よ。リーダーのクラウスは顔に大きな傷があるわ。腹心の部下の2人はリーデルという右目に眼帯の男と、フィッツェリアという赤い瞳の女ね」

その回答を聞いて血の気が引いた俺は椅子から立ち上がり、その場を右に左に歩き回った。

「あ、ああ暗殺って!カンベンしてよ!超怖いじゃん!」

倉庫で作業を続けるレミーが笑う。

「あはは!毎回毎回ビビり過ぎですよ!」
「わ、笑い事じゃないでしょうが!俺、こ、殺されちゃうかもしれないんだよ!?」
「大丈夫ですよ~!いつもの精神破壊マインドブレイクでやっつけちゃえばいいじゃないですか」
「無理でしょ!気付かないうちにブスッとやられちゃったら!」
「変な人が来ないか、いつも記憶探知マインドディテクションでも出して警戒しておけばいいじゃないですか」
「…まあ、それはそうだけども」
「いえ、たぶんそれは無理ね」

シェリルが冷徹にわずかな希望を打ち砕く。

「む、無理なの!?なんでっ!?」
「暗部が身に纏っている黒装束は解除不能の魔力障壁よ。ティモシーの通信魔術も効かないわ」
「じゃあ死ぬじゃん俺!し、死ぬじゃん!」

うろたえる俺にシェリルが「ふふ」と微笑って言い放つ。

「私がいれば大丈夫よ。返り討ちにしてあげるわ」

頼もしすぎて惚れそうになる俺にシェリルが続ける。

「ただ、念のためこの国の王様、カーライル王には会っておいたほうがいいわね」

俺はその意見に全面的に同意する。

「そ、そうだね!く、国に、国にも守ってもらおう!もう、全面的に守ってもらおう!」

こうして俺たちはカーライルの城に向かうことになった。
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