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080 戦争
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「現代兵器!?何それ!」
「例えば戦車とか戦闘機とか、要するに金属の塊に乗って砲撃してきたり空を飛んで掃射してきたりで、やられるのも時間の問題です!」
カーライル王国軍にはレミーが量産した魔光斉射砲や魔光爆炎砲が装備されているはずだが、それをも上回る戦力をミリキアは隠し持っていたということか。
「なんでミリキアがそんなもん持ってんだ!?」
「わかりません!」
「それホントに魔導具なの!?」
「はい!いくつか破壊できた戦車や兵士の装備を調べましたが、間違いなく魔導具です!現状はカーライル軍や魔王軍、竜族の皆さん、シシリーさんのお母様の力で何とか持ちこたえていますが、このままでは勝ちの目はありません!」
俺はレミーたちとの通話を維持したまま、空飛ぶ海賊船を操縦するガブリエルのほうを向く。
「ミリキアまでどのくらいで着く!?」
ガブリエルは空を見上げたり船首の先に見える海を見下ろしたりしてから答える。
「このスピードなら6時間もかからねえと思うぜ!」
俺はその答えに手を挙げて謝意を伝え、レミーたちとの通話に戻る。
「聞こえたか!?あと6時間以内で着く!」
「了解です!それくらいなら何とか持ちこたえられそうです!」
「あとさ、情報共有装置でこっち側が持ってる魔導具の情報って送れるかな!?」
「なんでですか?」
「俺たちが乗ってる船は事前に設定した以外の魔導具を無力化できる結界を張れるんだ!こっち側の魔導具の情報があればミリキアの魔導具だけを無力化できる!」
「いいですね、それ!じゃあ送ります!」
「OK!じゃあ6時間後に!」
レミーたちとの通話を切った。
到着したら、ミリキア軍を打ち破って大聖堂に乗り込み、ユジカ・キーミヤンとかいう教皇を必ずぶっ殺す。
レミーが自分の世界に帰るのに必要な古代機械を取り戻すため、殺されたアーノルドの仇討ちのため、俺たちの家と工場を燃やされた復讐のため、1000年以上前にバーグルーラを襲撃しシシリーの住んでいた森を焼いたことへの報復のため。
理由は山ほどある。
空は白み始めている。
向こうに着くのは昼前後というところか。
…………………………………………
ティモシーとの通話を切ると、レミーは塹壕から顔を出して牽制のために魔光斉射砲を数発放った。
圧倒的な軍備を誇るミリキア軍に、人間・エルフ・ドワーフ・魔族・竜族の連合軍は何とか持ちこたえ、戦線は膠着状態にあった。
連合軍の分隊は、数人の人間族に加えて耐久力に長けた魔族、小さいながらも剛力のドワーフ族、空間魔術を駆使するエルフ族で構成されていた。
人間族が魔光斉射砲で、ドワーフは大型の魔光爆炎砲で、魔族は独自の魔術でそれぞれ攻撃を行い、負傷者は回復魔術か回復薬で治療し、魔力切れや手持ちの魔導具が尽きた際はエルフの空間魔術ですぐさま撤退し、補給した上で戦線に戻る。
そのヒットアンドアウェイで陸戦はミリキア軍と拮抗させることができていた。
空戦においてはミリキア軍のプロペラ機のような戦闘機が機動力の面で圧倒していたが、その掃射では竜族の強固な結界を打ち破ることはできず、何とか制空権も握られずに耐えることができている。
しかし陸戦も空戦も、戦線が決壊するのは時間の問題だろう。
「あと6時間…ギリギリのところね」
塹壕に戻ったレミーの横で、シェリルがそう呟いた。
最初からティモシーさんがいれば、こうはならなかったのに。とレミーは思う。
当初の計画では、神聖ミリキア教国の首都ミリキアシティには、水路で直接潜入するはずだった。ミリキア島の東部に広い河口のあるエーデル川を漁船で西へ進み、ミリキアシティの港に接岸する。エーデル川の北側に都市を拡げるミリキアシティには、5つの地区がある。セントラル地区を中心に、東部がリスタ地区、北東部がメルン地区、北西部がチェクス地区、西部がミーナ地区となっている。セントラル地区の港からであれば、標的の教皇がいる大聖堂までは徒歩で数分だ。
しかし、エーデル川を遡上している際、リスタ地区にも至らない位置でミリキアの海軍船による検問を受けてしまった。
海軍船はキャラベル船のような帆船で、レミーの目には中世の水準に感じられた。
レミーたち4人も魔導具で漁師の姿に化けていたが、漁船の規模に対して漁師が多すぎることが疑われ、身体検査の結果、魔導具の使用が判明し交戦することになってしまった。
そのまま川岸に逃れてペールポートの漁師たちはシシリーの空間魔術でペールポートへと離脱させたが、その間に迅速に駆けつけたミリキア軍との戦闘が始まってしまった。
当初の計画とは違ったが、中世レベルの軍勢になら勝てると踏んだレミーの判断により、その場に連合軍を集結させ交戦を開始した。
確かにミリキア軍が初期に投入したのは中世レベルの軍勢だったが、こちらの勝勢が明らかになると、突如として近現代レベルの部隊があらわれた。
なぜミリキアがこんな軍事力を保持しているのか、それでありながら魔大陸への侵攻のためになぜ周辺諸国に協力を要請していたのか。その真意は不明だったが、とにかく強大なミリキア軍に一気に押し戻された。
エーデル川から無数の戦艦による砲撃も行われたが、それらはすべて魔王ネクロードミレーヌとエルフの女王リリアンのたった2人で抑え込むことができ、残りの戦力は陸戦と空戦に集中させることになった。
そして現在の膠着状態に至る。
もしティモシーがいれば最初の検問の時点で、交戦することなく記憶を消すなどの対処で切り抜けられただろう。
「まったく、カッコつけて『ぶっ潰す』なんて言った本人が遅刻なんて、ただじゃ済ませませんよ!」
シェリルは憤るレミーがその言葉とは裏腹に、その声色に喜びの色を満ち溢れさせていることを感じた。
「でもよかったわね、生きていて」
それを聞いて、シシリーがニヤニヤと笑みを浮かべながらシェリルの脇を肘で突っつく。
「船の中でず~っと泣いてたもんね、シェリル」
シェリルは自分の頬が火にかけたヤカンのように熱くなるのを感じる。
「なっ、仲間が死んだかもしれないのだから、と、当然でしょう!」
「あはは!お耳まで真っ赤だよ!」
「お、大人をからかってはダメよ!シシリー!」
「アタシのほうが年上だよ!」
そのやりとりをバーグルーラは愉快そうに目を細めて眺めている。
<ところで、そろそろ竜王滅殺砲を放っても良いか?>
その言葉にレミー、シェリル、シシリーが一勢にバーグルーラを見る。
「ダメですよ!」
「アタシたちも死んじゃうでしょ!」
「ミリキアの人たちだって全員が悪者ではないのよ」
バーグルーラはシュンとしてうなだれる。
<やはり人間たちとともに戦うというのは難しいものだな…>
…………………………………………
数時間が経過し、戦況に変化が生まれた。
疲弊した竜族が結界を維持できなくなり、次々と落とされ始めたのだ。
戦闘機の機銃掃射で身体中を撃ち抜かれ、血を流して身を捩り、堕ちていく竜たち。
連合軍側で着地した竜は分隊が取り囲み、治療のためにエルフの空間魔術で転移させることができたが、ミリキア軍側に墜落した竜は敵軍の集中砲火を受けた。
制空権が奪われ、陸戦も戦線に乱れが生じて、次第に圧され始める。
<おのれ、ミリキアの人間どもめ!>
バーグルーラが身体をムクムクと膨れ上がらせ、塹壕から飛び立つ。
シシリーの空間魔術で身体を小さくしていたバーグルーラだが、術式を調整してもらうことで自らの意思で大きさを変化させられるようになっていた。
「バーグルーラ!ダメだよ!」
シシリーがそう叫ぶが、バーグルーラは止まらない。
大空に舞い上がり、もとの巨体に戻ったバーグルーラは周囲に強烈なブレスを放った。
バーグルーラの大きく開けた口から眩い閃光がほとばしる。
次々と消し飛ばされていく戦闘機。しかし無数の戦闘機の一部だけだ。
残機がバーグルーラに機銃を放つ。
<小蝿どもが!>
バーグルーラの結界が戦闘機の銃撃を弾き返し、そのまま突っ込んだ戦闘機も爆裂させる。
だが戦闘機は次々とバーグルーラに襲いかかる。
それでもバーグルーラは黒竜王と呼ばれるだけあり、撃墜されてしまった何体もの竜が抜けた穴を補って余りあるほどの制圧力で大空を舞った。
「バーグルーラ…」
シシリーが心配そうに上空を見上げるが、レミーは叫び声を上げて注意を促す。
「こっちもヤバいですよ!」
撃墜された竜たちの保護と治療のために手薄になった陸上の戦線を破り、ミリキア軍が銃火器を携えた歩兵と戦車で突撃してくる。
レミーはそこに魔光斉射砲や魔光爆炎砲を放ち、シシリーも重力爆弾や空間破断などの魔術を放つ。
それで兵士や戦車を何体か破壊するも、その後ろから続々とミリキアの軍勢が押し寄せてくる。
きりがない。
「吹きすさべ、愚者の魂を喰らい尽くせ、冥府より来たる凍てつく嵐よ…」
塹壕の中でシェリルが詠唱し、胸の前で合わせた両手に青い光を輝かせる。
その光を中心に塹壕の中をすべて凍りつかせてしまいそうな冷たい風が吹き荒れる。
「ちょっとシェリルさん!私たちも凍え死んじゃいますよ!」
レミーがそう叫んだ瞬間、シェリルは塹壕から身を乗り出した。
「冥界氷嵐!」
先ほど塹壕に吹き荒れた風とは比べ物にならないほど猛烈な絶対零度の強風がシェリルの両手から放たれる。
塹壕の前方は一瞬にして極地のようにすべてが凍りつき、ミリキアの歩兵や戦車たちは氷の彫刻のように固まった。
「すごい!みんな凍っちゃった!」
シシリーがそう声を上げる横で、シェリルは肩で息をしている。
「でも、1日に何度もは撃てないわ…それに」
「倒せたのはミリキア軍の10分の1くらい、ですね」
凍っていない場所からミリキアの歩兵や戦車がわらわらと進んでくる。
何台もの戦車が氷の彫刻と化した自軍の兵士たちもキャタピラで粉々に砕いて、砕氷船のようにこちらへ迫ってくる。
「絶体絶命…ですかね」
レミーが塹壕から顔を覗かせてそう呟いたその時、戦車のキャタピラが唐突に止まった。
1台や2台ではない。次々と戦車が動きを止める。ミリキアの軍勢に動揺が広がっていく。その軍勢にミリキアの戦闘機が墜落して爆裂する。それも次々と。上空を見上げれば、戦闘機のすべてが制御を失ってキリモミしながら落下していく。
すると、レミーたちのいる塹壕に大きな影がかかった。
レミーは自らの目を疑った。
シェリルとシシリーも口をぽかんと開けて上空を見つめている。
そこには青空を侵食するかのように虹色に鈍く輝く、真っ黒で巨大な戦艦が浮かんでいた。
「例えば戦車とか戦闘機とか、要するに金属の塊に乗って砲撃してきたり空を飛んで掃射してきたりで、やられるのも時間の問題です!」
カーライル王国軍にはレミーが量産した魔光斉射砲や魔光爆炎砲が装備されているはずだが、それをも上回る戦力をミリキアは隠し持っていたということか。
「なんでミリキアがそんなもん持ってんだ!?」
「わかりません!」
「それホントに魔導具なの!?」
「はい!いくつか破壊できた戦車や兵士の装備を調べましたが、間違いなく魔導具です!現状はカーライル軍や魔王軍、竜族の皆さん、シシリーさんのお母様の力で何とか持ちこたえていますが、このままでは勝ちの目はありません!」
俺はレミーたちとの通話を維持したまま、空飛ぶ海賊船を操縦するガブリエルのほうを向く。
「ミリキアまでどのくらいで着く!?」
ガブリエルは空を見上げたり船首の先に見える海を見下ろしたりしてから答える。
「このスピードなら6時間もかからねえと思うぜ!」
俺はその答えに手を挙げて謝意を伝え、レミーたちとの通話に戻る。
「聞こえたか!?あと6時間以内で着く!」
「了解です!それくらいなら何とか持ちこたえられそうです!」
「あとさ、情報共有装置でこっち側が持ってる魔導具の情報って送れるかな!?」
「なんでですか?」
「俺たちが乗ってる船は事前に設定した以外の魔導具を無力化できる結界を張れるんだ!こっち側の魔導具の情報があればミリキアの魔導具だけを無力化できる!」
「いいですね、それ!じゃあ送ります!」
「OK!じゃあ6時間後に!」
レミーたちとの通話を切った。
到着したら、ミリキア軍を打ち破って大聖堂に乗り込み、ユジカ・キーミヤンとかいう教皇を必ずぶっ殺す。
レミーが自分の世界に帰るのに必要な古代機械を取り戻すため、殺されたアーノルドの仇討ちのため、俺たちの家と工場を燃やされた復讐のため、1000年以上前にバーグルーラを襲撃しシシリーの住んでいた森を焼いたことへの報復のため。
理由は山ほどある。
空は白み始めている。
向こうに着くのは昼前後というところか。
…………………………………………
ティモシーとの通話を切ると、レミーは塹壕から顔を出して牽制のために魔光斉射砲を数発放った。
圧倒的な軍備を誇るミリキア軍に、人間・エルフ・ドワーフ・魔族・竜族の連合軍は何とか持ちこたえ、戦線は膠着状態にあった。
連合軍の分隊は、数人の人間族に加えて耐久力に長けた魔族、小さいながらも剛力のドワーフ族、空間魔術を駆使するエルフ族で構成されていた。
人間族が魔光斉射砲で、ドワーフは大型の魔光爆炎砲で、魔族は独自の魔術でそれぞれ攻撃を行い、負傷者は回復魔術か回復薬で治療し、魔力切れや手持ちの魔導具が尽きた際はエルフの空間魔術ですぐさま撤退し、補給した上で戦線に戻る。
そのヒットアンドアウェイで陸戦はミリキア軍と拮抗させることができていた。
空戦においてはミリキア軍のプロペラ機のような戦闘機が機動力の面で圧倒していたが、その掃射では竜族の強固な結界を打ち破ることはできず、何とか制空権も握られずに耐えることができている。
しかし陸戦も空戦も、戦線が決壊するのは時間の問題だろう。
「あと6時間…ギリギリのところね」
塹壕に戻ったレミーの横で、シェリルがそう呟いた。
最初からティモシーさんがいれば、こうはならなかったのに。とレミーは思う。
当初の計画では、神聖ミリキア教国の首都ミリキアシティには、水路で直接潜入するはずだった。ミリキア島の東部に広い河口のあるエーデル川を漁船で西へ進み、ミリキアシティの港に接岸する。エーデル川の北側に都市を拡げるミリキアシティには、5つの地区がある。セントラル地区を中心に、東部がリスタ地区、北東部がメルン地区、北西部がチェクス地区、西部がミーナ地区となっている。セントラル地区の港からであれば、標的の教皇がいる大聖堂までは徒歩で数分だ。
しかし、エーデル川を遡上している際、リスタ地区にも至らない位置でミリキアの海軍船による検問を受けてしまった。
海軍船はキャラベル船のような帆船で、レミーの目には中世の水準に感じられた。
レミーたち4人も魔導具で漁師の姿に化けていたが、漁船の規模に対して漁師が多すぎることが疑われ、身体検査の結果、魔導具の使用が判明し交戦することになってしまった。
そのまま川岸に逃れてペールポートの漁師たちはシシリーの空間魔術でペールポートへと離脱させたが、その間に迅速に駆けつけたミリキア軍との戦闘が始まってしまった。
当初の計画とは違ったが、中世レベルの軍勢になら勝てると踏んだレミーの判断により、その場に連合軍を集結させ交戦を開始した。
確かにミリキア軍が初期に投入したのは中世レベルの軍勢だったが、こちらの勝勢が明らかになると、突如として近現代レベルの部隊があらわれた。
なぜミリキアがこんな軍事力を保持しているのか、それでありながら魔大陸への侵攻のためになぜ周辺諸国に協力を要請していたのか。その真意は不明だったが、とにかく強大なミリキア軍に一気に押し戻された。
エーデル川から無数の戦艦による砲撃も行われたが、それらはすべて魔王ネクロードミレーヌとエルフの女王リリアンのたった2人で抑え込むことができ、残りの戦力は陸戦と空戦に集中させることになった。
そして現在の膠着状態に至る。
もしティモシーがいれば最初の検問の時点で、交戦することなく記憶を消すなどの対処で切り抜けられただろう。
「まったく、カッコつけて『ぶっ潰す』なんて言った本人が遅刻なんて、ただじゃ済ませませんよ!」
シェリルは憤るレミーがその言葉とは裏腹に、その声色に喜びの色を満ち溢れさせていることを感じた。
「でもよかったわね、生きていて」
それを聞いて、シシリーがニヤニヤと笑みを浮かべながらシェリルの脇を肘で突っつく。
「船の中でず~っと泣いてたもんね、シェリル」
シェリルは自分の頬が火にかけたヤカンのように熱くなるのを感じる。
「なっ、仲間が死んだかもしれないのだから、と、当然でしょう!」
「あはは!お耳まで真っ赤だよ!」
「お、大人をからかってはダメよ!シシリー!」
「アタシのほうが年上だよ!」
そのやりとりをバーグルーラは愉快そうに目を細めて眺めている。
<ところで、そろそろ竜王滅殺砲を放っても良いか?>
その言葉にレミー、シェリル、シシリーが一勢にバーグルーラを見る。
「ダメですよ!」
「アタシたちも死んじゃうでしょ!」
「ミリキアの人たちだって全員が悪者ではないのよ」
バーグルーラはシュンとしてうなだれる。
<やはり人間たちとともに戦うというのは難しいものだな…>
…………………………………………
数時間が経過し、戦況に変化が生まれた。
疲弊した竜族が結界を維持できなくなり、次々と落とされ始めたのだ。
戦闘機の機銃掃射で身体中を撃ち抜かれ、血を流して身を捩り、堕ちていく竜たち。
連合軍側で着地した竜は分隊が取り囲み、治療のためにエルフの空間魔術で転移させることができたが、ミリキア軍側に墜落した竜は敵軍の集中砲火を受けた。
制空権が奪われ、陸戦も戦線に乱れが生じて、次第に圧され始める。
<おのれ、ミリキアの人間どもめ!>
バーグルーラが身体をムクムクと膨れ上がらせ、塹壕から飛び立つ。
シシリーの空間魔術で身体を小さくしていたバーグルーラだが、術式を調整してもらうことで自らの意思で大きさを変化させられるようになっていた。
「バーグルーラ!ダメだよ!」
シシリーがそう叫ぶが、バーグルーラは止まらない。
大空に舞い上がり、もとの巨体に戻ったバーグルーラは周囲に強烈なブレスを放った。
バーグルーラの大きく開けた口から眩い閃光がほとばしる。
次々と消し飛ばされていく戦闘機。しかし無数の戦闘機の一部だけだ。
残機がバーグルーラに機銃を放つ。
<小蝿どもが!>
バーグルーラの結界が戦闘機の銃撃を弾き返し、そのまま突っ込んだ戦闘機も爆裂させる。
だが戦闘機は次々とバーグルーラに襲いかかる。
それでもバーグルーラは黒竜王と呼ばれるだけあり、撃墜されてしまった何体もの竜が抜けた穴を補って余りあるほどの制圧力で大空を舞った。
「バーグルーラ…」
シシリーが心配そうに上空を見上げるが、レミーは叫び声を上げて注意を促す。
「こっちもヤバいですよ!」
撃墜された竜たちの保護と治療のために手薄になった陸上の戦線を破り、ミリキア軍が銃火器を携えた歩兵と戦車で突撃してくる。
レミーはそこに魔光斉射砲や魔光爆炎砲を放ち、シシリーも重力爆弾や空間破断などの魔術を放つ。
それで兵士や戦車を何体か破壊するも、その後ろから続々とミリキアの軍勢が押し寄せてくる。
きりがない。
「吹きすさべ、愚者の魂を喰らい尽くせ、冥府より来たる凍てつく嵐よ…」
塹壕の中でシェリルが詠唱し、胸の前で合わせた両手に青い光を輝かせる。
その光を中心に塹壕の中をすべて凍りつかせてしまいそうな冷たい風が吹き荒れる。
「ちょっとシェリルさん!私たちも凍え死んじゃいますよ!」
レミーがそう叫んだ瞬間、シェリルは塹壕から身を乗り出した。
「冥界氷嵐!」
先ほど塹壕に吹き荒れた風とは比べ物にならないほど猛烈な絶対零度の強風がシェリルの両手から放たれる。
塹壕の前方は一瞬にして極地のようにすべてが凍りつき、ミリキアの歩兵や戦車たちは氷の彫刻のように固まった。
「すごい!みんな凍っちゃった!」
シシリーがそう声を上げる横で、シェリルは肩で息をしている。
「でも、1日に何度もは撃てないわ…それに」
「倒せたのはミリキア軍の10分の1くらい、ですね」
凍っていない場所からミリキアの歩兵や戦車がわらわらと進んでくる。
何台もの戦車が氷の彫刻と化した自軍の兵士たちもキャタピラで粉々に砕いて、砕氷船のようにこちらへ迫ってくる。
「絶体絶命…ですかね」
レミーが塹壕から顔を覗かせてそう呟いたその時、戦車のキャタピラが唐突に止まった。
1台や2台ではない。次々と戦車が動きを止める。ミリキアの軍勢に動揺が広がっていく。その軍勢にミリキアの戦闘機が墜落して爆裂する。それも次々と。上空を見上げれば、戦闘機のすべてが制御を失ってキリモミしながら落下していく。
すると、レミーたちのいる塹壕に大きな影がかかった。
レミーは自らの目を疑った。
シェリルとシシリーも口をぽかんと開けて上空を見つめている。
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