王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー

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092 死

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俺は本当にクソどうしようもない。

あんなにカッコつけてシェリルに「結婚しよう」「これからは俺がお前を守る」とか言っておきながら、その数分後に死亡するという暴挙。
新婚早々わずか数分で嫁を未亡人にしてしまうとは一体どういうことか。
結婚の誓いをこんなにも早く派手に破ったのは長い人類の歴史上もしかして俺が初めてなのではないだろうか。

本当に申し訳がない。

申し訳ないがもうどうしようもない。
死んでしまっては謝りようもない。

シェリル。

きっと今ごろ、泣いてるんだろうな。

ごめん。

でも涙を拭いてあげることもできない。
抱きしめてあげることもできない。

そうだ。そういえば俺はシェリルを一度もちゃんと抱きしめてあげることさえできなかった。

ホントにごめん。

死ぬ直前まで、シェリルが俺のことを好きだということに気付いてあげることさえできず、その気持ちを聞いてプロポーズを受けてからようやく俺も自分自身の気持ちを確認して、何もしてあげることもできないままあっという間に死んでしまった。

あまりに遅い。

人の心が読める魔術を持っているくせにずっと身近にいた人間の心の中は何も理解しちゃいなかった。
でもよくよく思い返してみれば本当は何度もシェリルの心の奥からあたたかい何かを感じてはいたのだ。ただ、それが何なのかを理解しようとしていなかった。

本当にどうしようもない、ダメな人間だ俺は。

でも、謝りようもない。
後悔しようもない。



もうここは死後の世界だ。

しかし死後の世界というものは初めて見たが、来てみるとなるほど確かに死後の世界だなと納得するに充分な風景だ。

何もない。

足元には赤茶けた砂のようなものが広がっているがそれは砂ではなく、ただただ赤茶けた色の地面であるというだけで、砂粒を拾い集めることはできず砂粒が風で舞い上がることもない。

そもそも風も吹かない。空気があるのかもよくわからない。音も何もしない。

空は曇っているとかではなくただただ真っ白で、これまた変化も何も一切ない。
下が赤茶色で上が真っ白。
どこまでも続くその空間にいるのは俺とユジカ・キーミヤンだけ。

そう。

同じ時に同じ場所で死んでしまったせいだろう。

あの忌々しい教皇が、先ほどまでの巨大な怪物の姿ではなく、もとの人間の姿で俺の前にぽつねんと立ち尽くしていた。

「なんで死んでまでお前と一緒じゃなきゃいけないんだよユジカ」
「…知るかよ」

俺は舌打ちをし深く深くため息をついた。
ユジカ・キーミヤンも同じく、うんざりした様子で呟いた。

「ここは、俺は前にも来たことがある」

まあそうだろうな。自殺して転生したと言っていたのだからそりゃそうだろう。

「…帰り方は?」
「…知るかよ」

だったら余計な口を叩くなと言いたい。が、言い争っても何の意味もない。
もうどうせお互い死んでいるのだ。

「前回はここにいた時、突然あの真っ白な空に黒い穴が空いて、そこに吸い込まれて気がつくと赤ん坊として転生していたんだ」

だったら今回も黒い穴が空くのを待っていればいいんだろうか。
もしかしたら俺を生き返らせるためにレミーたちが次元転送装置で穴を空けてくれる可能性もあるだろうが、仮にそうなったとして俺が自分の身体に戻ったとして果たして本当に生き返れるのだろうか。
俺の肉体が今どんな状態なのかわからないが、死んだ肉体に魂だけ戻っても生き返ることはないだろう。

または俺をどこかでこれから生まれる赤ん坊か何かに転生させる?
ただそれではその赤ん坊として本来生まれるはずだった魂を押しのけてしまうことになりそうだし、そうまでして生き直したところで何の意味があるのだろうか。
転生してシェリルを守る?
もちろんシェリルにまた会いたいのは事実だけど、転生後の俺との年齢差を考えればちょっと現実的ではない。そもそも「守る」とは言ったもののシェリルは誰かに守られなければ生きていけないほど弱くはないのだ。俺と違って。
つまり俺を転生させることにたぶん意味はない。

なので、きっとこの空に黒い穴が空くことはないだろう。
ユジカもそれをわかっているようで、赤茶けた地面に倒れ込んで大の字になった。

「俺の1万年以上の人生もこれで終わりか」

ユジカの呟きに俺は何も答えずあぐらになった。ユジカは続ける。

「1万年、長かったようで意外とあっという間だったな。歳とると時間の流れが早くなるっていうけど、最後のほうなんて100年が1年みたいな感じだったもんな。ホントあっという間」

ユジカはそこでため息をついてからまた続ける。

「でもけっこう忙しかったんだぜ?あのクソ人類ども、油断してるとすぐに新しい技術を生み出して文明を発達させようとするし」

こんな奴と会話なんかしたくなかったが他にすることもないし気になることがひとつあったので俺は仕方なく質問した。

「お前、なんでそんなに文明を発達させたくなかったんだよ?自分だって戦闘機だっけ?なんかいろいろ持ってたじゃん」

ユジカは俺の質問にニヤリと笑い、「あ~あれね」などと答えた。

「あれはただの趣味。プラモ作るみたいな感覚。ただね、人類の文明を発達させたくなかったことには、ちゃんとそれなりに正しい使命感もあったんだよ」

お前みたいなクズに使命感なんてあんのかよと思い、俺は寝転がるユジカに訝しげな視線を送る。

「文明なんて発達してもロクなことないからマジで。たいてい『便利になる』なんて触れ込みでいろんな技術が生まれるんだけど、あれ全部ウソだから。いやもちろん表面的には便利になるんだけど、結局ただ忙しくなるだけ。便利になればなるほど忙しくなって苦しくなって不幸な人間を増やすだけなの、技術とか文明なんてのは」

なるほど、まあ、その意見そのものはわからなくもない。俺も情報共有装置スキエンティアが生まれたことで世の中は便利になった代わりになんだか窮屈になったとも感じたのは事実だ。とはいっても、だからといって新しく生まれた技術や文明を破壊する権利は誰にもないはずだし実際にそんなことをしていたコイツを俺は許すつもりはまったくない。

「だから俺がせっかくいい感じにナーロッパっぽい世界観をキープしといてやったのに、お前らのせいで台無しだよ。もうこれであの世界も地球みてえなクソつまらない世界になるよ」

「なりませんよ」

突然、不思議な声が響いて俺とユジカがあたりを見回すと、いつの間にか俺たちの他にもう一人、金色の長い髪で金色のローブを纏った女のような男のような人物がそこに立っていた。

「…誰だ」

俺がそう絞り出すと、その人物は静かに言った。

「神です」
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