ミヤコワスレを君に

五十鈴りく

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*17*嘘がつけない

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 その日の放課後、僕には部活があった。だから白澤とゆっくり話す時間は取れなかった。
 次の休みの前には電話をして会う約束を取りつけよう、そう決めた。

 僕はとりあえず、目の前のことに集中しなくちゃいけない。カキンと甲高い音を立てて青い空に打ち上げられたボールを、ただひたすらに追いかける。このボールを落としたら、僕の願いは何ひとつ叶わないような、そんな気になって一生懸命に食いついた。

 雑念がなかったとは言わないけれど、それでも必死でこなした部活が終わりかけると、そこに引退した三年生の先輩たちが様子を見に来てくれた。受験勉強に忙しいはずだけれど、でも部活は楽しかったから、まだどこか後ろ髪を引かれるような気持ちがこのグラウンドに残っているんじゃないかと思う。

「よっ。元気か?」

 前野球部主将の水口みずぐち先輩がそう言って片手を挙げた。

「キャプテン! お疲れッス!」

 智哉がそう言って人懐っこく笑うと、水口先輩は大きな体を揺らして苦笑した。

「智哉、キャプテンはお前だろ? しっかりしろよ」

 なんて返されて、智哉は苦笑いしている。そんな水口先輩の横で、副主将だった町田まちだ先輩がコンビニ袋を僕に押しつけてきた。部活の時はコンタクトをしていたけれど、普段は眼鏡だ。

「差し入れだ」

 二リットルのペットボトルが四本、薄いコンビニ袋の中に入っている。

「ありがとうございます!」

 ずしりと重い袋を受け取り、僕も笑顔で礼を言った。そんな僕の頭を町田先輩はわしゃわしゃと撫でた。
 昔からこうだ。僕はペットに丁度いいとか言ってからかわれたから、もう慣れっこだ。先輩たちが引退して僕たちには後輩しかいないから、この扱いも懐かしく感じる。
 というか、年齢の割に僕はよく頭を撫でられている気がするのは気のせいだろうか。
 ……この問題を深く考えるのはよそう。

 僕がへらっと笑っていると、町田先輩は急に僕の肩に腕をずしりと載せてきた。長身の先輩の重みを感じていると、先輩は僕の耳元でこっそりと言った。

「名塚、お前、東京から来た転校生と付き合ってるんだってな」

 ブッ、と僕が思わず噴き出しても、町田先輩はニヤニヤ笑いをやめない。部活最後の負け試合で悔し涙を流していた先輩は幻だったかと思いたくなるような意地悪さだ。

「お前って、本当に嘘がつけないな。そうかぁ、噂は事実か」
「や、違っ……」

 違うんだけれど、そうなったらいいなとは思っている。そんな疚しさがあるせいか、僕の否定の声はとてもか細かった。
 町田先輩は、多分顔を真っ赤にしていただろう僕に、一瞬どこか冷めた目をした。
あれ? と僕が違和感を覚えると、先輩はぽつりと言う。

「ま、ルックスがあれだけよければ、性格がちょっとくらい悪くても連れて歩くにはいいよな」
「え……?」

 僕は先輩のその言葉に呆然としてしまった。
 それって、僕が白澤の外見だけが好きで、その性格を我慢しているみたいに思われている?
 白澤のことをみんなが知らない。だからそう思われるのも仕方がないんだとは思う。
 でも、僕は黙っていることができなかった。

「先輩。……白澤はすごくひねくれてるし、全然素直じゃないけど、でも、僕は白澤の見た目だけが好きってわけじゃなくて、ひねくれたところも、その……」

 ああ、何を言っているんだろう。上手くまとまらなくて、あー、と叫んでごまかしてしまいたくなった。
 でも、そんな僕に町田先輩はびっくりしたような顔をすると、それから不意に優しく笑った。

「お前、本当に嘘つけないな」

 そうして、また僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。フッと体から先輩のかける重みがなくなったかと思うと、先輩は僕の背中を軽く叩いた。

「本気ならなおさら、頑張れよ」

 そう言い残すと、先輩は僕から離れて智哉と水口先輩のところに合流した。
 先輩にまで励ましてもらえるとは思わなかった。僕は今、どんな顔をして白澤のことを語っていたんだろう。

 冷静に考えると恥ずかしさも込み上げてくるけれど、でも、それが正直な気持ちなんだ。
 僕はあのひねくれた白澤に翻弄されながら、それでも好きって気持ちが募っている。
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