猫スタ募集中!(=^・・^=)

五十鈴りく

文字の大きさ
31 / 40
6◆さすらいのマサオ

◆4

しおりを挟む
 お腹もいっぱいになったことだから、今度は寝床を探さないと。
 マサオはそう思って、くつろげそうな場所を探したんだそうだ。野良猫は珍しいと言われたように、本当にあんまり出くわさなかった。だからその辺の人間の手の届かない狭いところや高いところを選べばなんの問題もなく眠れた。

 で、次の日もまたあのサラダチキンをくれた男のところに行ってみた。扉の前でじっとすることしばし。ふあぁ、とあくびをしながら待った。

 ここはいつも美味しそうな匂いがするから、長くいても嫌にならなかった。どれくらいかして、また扉が開く。男はやっぱり口に白い棒を咥えていた。あれは一体なんなのだろう。咥えているだけで食べる気配はない。

 ――それ、煙草っていうんだよ。先に火をつけて煙を吸うんだ。その人、煙草休憩に外へ出るとマサオに遭遇してたんだろうね。

 煙で腹は膨れない。それなら煙は好きなだけ吸ってくれていいから、サラダチキンはオレが食べて丁度よかったって? 

 ――マサオ、君ってちゃっかりしてるというか、結構いい性格してるよね。

「うおっ! また味をしめて来やがったな!」

 白い服の男はそんなことを言って騒ぐ。クソッと小さく毒づくと中に消えた。
 そうして、また両手が塞がっていて、足で扉を開けて出てくる。

「今日でおしまいだからな! 明日は来んなよ!」

 ひとつは牛乳。もうひとつのパックは――猫まんまだった。
 これは知っている。昔食べたことがある。米に鰹節がたっぷりと混ざったものだ。確か美味しいものだった気がする。でも、目新しさには欠けた。なんだ、猫まんまか。サラダチキンの感動を越えることはないかなぁって思ったそうだ。

 ――この贅沢者。

 でも、マサオはその猫まんまを侮っていた自分をすぐに恥じることになったそうだ。これがまた、びっくりするくらい美味しかったらしい。
 鰹節は香り高く、ほんのりと利いた塩味が後を引く。白っぽい小魚が混ぜられていて、申し訳ないけれど、以前食べた猫まんまとは雲泥の差だった。
 ガツガツガツガツ。
 言葉をなくしてガッつくマサオに、男はまたしゃがみ込んでから誇らしげに言った。

「俺は一流の料理人だからな。猫まんまひとつ取ってみても手抜きはしねぇのさ。高級たまり醤油で味を調え、釜揚げシラスをアクセントに混ぜ込んである。鰹節だっていいの使ってるからな。美味ぇだろ?」

 にゃあ!
 最高! マサオは男に賛辞を送った。

 で、また足元に体を擦りつけて礼を言って帰った。


 次の日。

「いや、だから、もう来るなって言ってんだろ?」

 そんなことを言いながら、男はマサオの前に牛乳ともうひとつのパックを置いた。
 来るなって言っているわりには準備がやたらと速かった。どう考えても用意してあったって?

 にゃあ。
 悪いなって口先だけで言っておいた。用意してくれた以上、食べるのが礼儀だろう。
 今日は何かな。

「……カルパッチョにすんのに切り落とした端っこだ。ほんとは俺の賄いにするつもりだったんだぜ? なあ、おい、聞いてんのかよ」

 なんて苦笑しながら言われた。
 聞いてる、聞いてる。

 でも、赤や白の魚はなかなか美味かった。魚なんて食べ飽きるくらい食べたはずだけど、この魚は珍しかった。変わった身の色をしている。綺麗なオレンジ色だ。

 にゃ~。
 今日も美味かった。ありがとな!
 マサオが礼を言うと、男の骨ばった手がマサオの頭を撫でた。ぎこちない動きだ。

「まったくよぅ。飲食店に猫は駄目なんだぞ。わかってやがるのか、コラ」

 乱暴な口を利くくせに、目元にクシャッと皺を寄せて笑う。
 オヤッサンみたいに美味いものをくれる人間。白い猫はよくシロって名づけられるから、このヒトもシロと呼ぼう。いつも白い服しか着ないんだから。

 マサオは度々シロさんのもとに通ったそうだ。
 なんせ、美味いものをくれる。シロさんは最初こそ適当なパックにご飯を入れていたのに、そのうちにちゃんとした猫用の食器でご飯を出してくれるようになった。なんでだろう?

「すっかり居ついちまったなぁ、お前」

 シロさんはしゃがみながらそんなことを言う。怒ったふうでもない。穏やかに言った。

 そういえば、この辺で過ごすようになってどれくらい経ったんだろうってマサオは考えた。
 皆といた場所から離れてここへ来て、シロさんに美味しいものをたくさん食べさせてもらった。新鮮な発見がたくさんあって、ここへ来てよかったなって思っている。
 ということは、まだまだ新しい土地に行けば新しい発見があって、楽しく過ごせるのか。

 そうかもしれない、とマサオは考えたって。
 マサオは、そろそろかなって、旅をする決意をしたそうだ。シロさんのご飯は美味しくて離れがたいけれど、またいつかここへ戻ったらまた食べさせてもらえばいいし。

 にゃ~。
 シロさん、オレ、ちょっと旅に出てくる。今までありがと! 伝えてみたけれど、伝わらない。

「まったくお前はのん気だな」

 なんてことを言われた。
 ご飯を食べた後、少しだけ寝て、それから歩いた。

 にゃ、にゃ~。
 風の吹くまま気の向くまま、マサオは歩いた。

 ――ちょっと訊いていい? そのシロさんとはまさかそれっきり?

 にゃっ。
 シロさん、急にマサオが来なくなって多分すごくガックリしたと思うよ。あぁぁ、なんか僕まで切なくなってきた!

 にゃ?
 なんで? とか言うかな、君は。……口挟んでごめん、続き、聞くよ。

 とりあえず歩くと、道はどこまでも続いていたって? そうだねぇ、完全な突き当りまではなかなか行けないかもね。

 また車に乗っかれば早く遠くへ行けるのかもしれない。でも、のんびり歩くのもまた楽しいものだった。最近は少しずつ涼しくなって、夜には虫の声も聞こえるくらいだったから、道がチリチリに熱くなって歩けないなんてことはなかったそうだ。

 にゃ、にゃ~。
 マサオが歩いていると、厳つい男が通りかかった。大きいけれど、人間は大きさと中身がちぐはぐだったりする。あのオヤッサンやシロさんだって、声は低くて顔も怖かった。そのくせ、美味しいものをたくさんくれた。だからマサオは変に恐れず、男のそばを通った。

 すると、厳つい男は辺りをキョロキョロと見回した。そして――

「猫ちゃ~ん、おいでおいで~」

 野太い声を精一杯柔らかくして、男は目尻を下げながらマサオに呼びかける。
 おいでと言うなら行ってもいい。シッシと言われない限りは去らない、それがマサオの流儀だそうだ。
 マサオが近づくと、男は嬉しそうにマサオの頭を撫でた。だがしかし、その手は拳にするとマサオの頭よりもはるかにでかい。

 でっかい手だね。マサオはそのことにびっくりした。腕だって太いし。
 いや、いろんな人間がいるもんだなぁって興味深かったそうだ。

 男はマサオを散々ナデナデというかワシャワシャし、それは名残惜しそうに去ったとのこと。
 ……そう、そういう人がね、猫カフェのお得意様になるのかもね。
 僕が思わずつぶやくと、マサオは口の端をちょいっと持ち上げた。

 人間って面白いなぁってさ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...