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7◆経験豊富なサラとルチア
◆4
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それから一日が経過した。
サラとルチアはやっぱり二匹、寄り添って壁際にいた。チキとモカは二匹のことが気になって仕方がない様子だ。
トラさんとハチさんは、そっとしておいてほしいのだろうというスタンスで下手に構わない。
マサオは、いつもよりも重たい空気をまったく感じていないのか、普段と何も変わらない。
「ほら、ご飯だよ。サラとルチアもおいで」
朝食を用意して呼びかける。皆はすっ飛んでくるけど、二匹は躊躇いがちににゃあと返事をする。
僕が立っているうちは食べない。仕方がないから少し離れて待つと、やっと食べ始める。
二匹は、僕が猫の言葉を喋れるって知っても多くを語らない。ほとんど口を利かずに一日を過ごした。
焦っちゃいけないと思うのに、寂しさは募る。
この子たちは人間が嫌いなんだろうか。猫カフェで嫌な目に遭って人間が嫌いになってしまったんだとしたら、また猫カフェのスタッフにするのは酷なことなのかもしれない。
僕はそこまで知りもせずに引き取ってしまったけど、これでよかったんだろうか。そんな不安が拭えなかった。
それでも、しばらくするとサラとルチアは猫スタッフたちとは触れ合い始めた。マサオなんかは取っつきやすいから、特に警戒もしてないみたいだ。
いつも、にゃ、にゃ~、と鼻歌交じりでご機嫌のマサオが近くに来ても身構えなくなった。モカは子猫だから安心なんだろうし、チキもあの通り、大きな体のわりには素直だから、すぐにそれが伝わったようだ。
トラさんに関しては、多分、猫にもわかるオーラがあるんだろう。とりあえず敬われているし、ハチさんにも大人しく礼儀正しく接している。
うん、どうも二匹が嫌なの僕だけみたいだね。自分で言ってて凹むけど。
もしかして、前の飼い主が忘れられなくて、新しい飼い主なんて受け入れられないってことなのかな? いや、それにしては怯えているようにも見える。
僕はオープンを控えてアレコレ忙しいのに、気が滅入った。
なんだろう、僕の何がいけないんだろう。人間だからって言われたら、もうどうしようもない。
来世では仲良くしてね……
背後霊が僕にのしかかっているかの如く肩を落とし、はあ、とため息をつきながら届いた備品の入った段ボールを開封していると、キャットタワーのてっぺんにいたトラさんがリズミカルに下りてきた。
そうして、僕の横を素通りする。トイレかと思ったら、違った。トラさんはサラとルチアの方に歩み寄り、にゃあと言った。
あんたたち、そんなに人間嫌いで大丈夫なのかい? って。
遠慮なく核心を突く。でも、二匹は目を見張ると首を振った。
にゃあ。にゃあ。
人間が嫌いなんて、そんなわけじゃありません。ずっとヒトといたんですから、慣れてます。
――とのこと。
トラさんは、はて、とつぶやいた。
にゃあ。
それにしちゃ、店長のことが苦手みたいじゃないか――って、トラさんすごい直球だね。僕、ここにいてもいいのかなって焦ったよ。
やっぱり、サラとルチアは怯えた。
にゃ、にゃあ。
に、苦手とかじゃありません。店長は、店長ですから。
サラがそんなことを言った。黒っぽい耳が下がってる。
にゃあ。
店長に逆らったりしません。
ルチアもそう答えた。
……いや、僕は絶対王政の国を作っているわけじゃないんだよ。怯えながら逆らわないって言われてもね。
トラさんがさらににゃあと言った。
あんたたち、前のところでもそんな感じだったのかい。よっぽど怖い店長だったんだねって。
それを聞いて、僕はハッとした。
そうか。この子たちが恐れているのは、自分たちの『主』である人間なんだ。
逆らわないように、幼い頃から躾けられてきた?
飼い主が変わっても、身に染みついたものは抜けきれなくて、新しい飼い主である僕にも同じようにして従おうとしてるのかな。この二匹にとって飼い主は恐れの対象なのかもしれない。
嫌だな。それ、すごく嫌だ。
皆はポカンとしていた。チキはオロオロと、僕とサラたちとを見比べている。
空気を読まないマサオは、ハハ、と深刻な話を鼻で笑ったように見えた。
にゃ~?
ええと、逆らうっていうのは~、こういうこと? なんて言いながら、壁際に行くと、急に壁で爪とぎを始めた。
バリバリバリ。
ヒィィ! リフォームしたての壁に!
爪とぎしていい場所はあらかじめ決めておいたじゃないかぁ!!
「マサオっ!」
僕は慌てて駆け寄ると、マサオを抱きかかえた。マサオは足をブランブランさせながらも楽しげだ。
にゃ~。
とぎ心地はイマイチだったよ、とのこと。……じゃあやるなよ。
「爪とぎは爪とぎ板にって言ったろ? まったく。ここにソファーを置いてごまかそうかなぁ」
にゃあ。
それがいいね、とトラさんもうなずく。
深々とため息をついた僕。
そんな様子を、サラとルチアは震えながら見ていた。
え? ちょっと、これから僕がマサオを折檻するみたいに思ってない?
気ままな猫に言いつけを守らせるなんて難しい。そんなことはわかってるから。
「マサオ、頼むよ。壁はもう駄目だから」
にゃ~。
はいよ、と軽く返事をされた。
マサオは楽しそうにサラとルチアに向かって言う。
にゃ~?
逆らったけど、どう? って。
二匹は無言だ。呆れたんじゃないのか……
サラとルチアはやっぱり二匹、寄り添って壁際にいた。チキとモカは二匹のことが気になって仕方がない様子だ。
トラさんとハチさんは、そっとしておいてほしいのだろうというスタンスで下手に構わない。
マサオは、いつもよりも重たい空気をまったく感じていないのか、普段と何も変わらない。
「ほら、ご飯だよ。サラとルチアもおいで」
朝食を用意して呼びかける。皆はすっ飛んでくるけど、二匹は躊躇いがちににゃあと返事をする。
僕が立っているうちは食べない。仕方がないから少し離れて待つと、やっと食べ始める。
二匹は、僕が猫の言葉を喋れるって知っても多くを語らない。ほとんど口を利かずに一日を過ごした。
焦っちゃいけないと思うのに、寂しさは募る。
この子たちは人間が嫌いなんだろうか。猫カフェで嫌な目に遭って人間が嫌いになってしまったんだとしたら、また猫カフェのスタッフにするのは酷なことなのかもしれない。
僕はそこまで知りもせずに引き取ってしまったけど、これでよかったんだろうか。そんな不安が拭えなかった。
それでも、しばらくするとサラとルチアは猫スタッフたちとは触れ合い始めた。マサオなんかは取っつきやすいから、特に警戒もしてないみたいだ。
いつも、にゃ、にゃ~、と鼻歌交じりでご機嫌のマサオが近くに来ても身構えなくなった。モカは子猫だから安心なんだろうし、チキもあの通り、大きな体のわりには素直だから、すぐにそれが伝わったようだ。
トラさんに関しては、多分、猫にもわかるオーラがあるんだろう。とりあえず敬われているし、ハチさんにも大人しく礼儀正しく接している。
うん、どうも二匹が嫌なの僕だけみたいだね。自分で言ってて凹むけど。
もしかして、前の飼い主が忘れられなくて、新しい飼い主なんて受け入れられないってことなのかな? いや、それにしては怯えているようにも見える。
僕はオープンを控えてアレコレ忙しいのに、気が滅入った。
なんだろう、僕の何がいけないんだろう。人間だからって言われたら、もうどうしようもない。
来世では仲良くしてね……
背後霊が僕にのしかかっているかの如く肩を落とし、はあ、とため息をつきながら届いた備品の入った段ボールを開封していると、キャットタワーのてっぺんにいたトラさんがリズミカルに下りてきた。
そうして、僕の横を素通りする。トイレかと思ったら、違った。トラさんはサラとルチアの方に歩み寄り、にゃあと言った。
あんたたち、そんなに人間嫌いで大丈夫なのかい? って。
遠慮なく核心を突く。でも、二匹は目を見張ると首を振った。
にゃあ。にゃあ。
人間が嫌いなんて、そんなわけじゃありません。ずっとヒトといたんですから、慣れてます。
――とのこと。
トラさんは、はて、とつぶやいた。
にゃあ。
それにしちゃ、店長のことが苦手みたいじゃないか――って、トラさんすごい直球だね。僕、ここにいてもいいのかなって焦ったよ。
やっぱり、サラとルチアは怯えた。
にゃ、にゃあ。
に、苦手とかじゃありません。店長は、店長ですから。
サラがそんなことを言った。黒っぽい耳が下がってる。
にゃあ。
店長に逆らったりしません。
ルチアもそう答えた。
……いや、僕は絶対王政の国を作っているわけじゃないんだよ。怯えながら逆らわないって言われてもね。
トラさんがさらににゃあと言った。
あんたたち、前のところでもそんな感じだったのかい。よっぽど怖い店長だったんだねって。
それを聞いて、僕はハッとした。
そうか。この子たちが恐れているのは、自分たちの『主』である人間なんだ。
逆らわないように、幼い頃から躾けられてきた?
飼い主が変わっても、身に染みついたものは抜けきれなくて、新しい飼い主である僕にも同じようにして従おうとしてるのかな。この二匹にとって飼い主は恐れの対象なのかもしれない。
嫌だな。それ、すごく嫌だ。
皆はポカンとしていた。チキはオロオロと、僕とサラたちとを見比べている。
空気を読まないマサオは、ハハ、と深刻な話を鼻で笑ったように見えた。
にゃ~?
ええと、逆らうっていうのは~、こういうこと? なんて言いながら、壁際に行くと、急に壁で爪とぎを始めた。
バリバリバリ。
ヒィィ! リフォームしたての壁に!
爪とぎしていい場所はあらかじめ決めておいたじゃないかぁ!!
「マサオっ!」
僕は慌てて駆け寄ると、マサオを抱きかかえた。マサオは足をブランブランさせながらも楽しげだ。
にゃ~。
とぎ心地はイマイチだったよ、とのこと。……じゃあやるなよ。
「爪とぎは爪とぎ板にって言ったろ? まったく。ここにソファーを置いてごまかそうかなぁ」
にゃあ。
それがいいね、とトラさんもうなずく。
深々とため息をついた僕。
そんな様子を、サラとルチアは震えながら見ていた。
え? ちょっと、これから僕がマサオを折檻するみたいに思ってない?
気ままな猫に言いつけを守らせるなんて難しい。そんなことはわかってるから。
「マサオ、頼むよ。壁はもう駄目だから」
にゃ~。
はいよ、と軽く返事をされた。
マサオは楽しそうにサラとルチアに向かって言う。
にゃ~?
逆らったけど、どう? って。
二匹は無言だ。呆れたんじゃないのか……
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