ワイルドロード ~獣としての道~

エルセウス

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序章 獣としての始まり

第二話 強くなれ!?

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「さぁ…突破するで!」


「てめぇ…なめてんのか?」


筋骨隆々の2メートル近くある体格の化け物二人と細く華奢な体つきの猫が睨み合う。端から見ればどちらが有利かなんて火を見るより明らかだった。


「おいおい…処理する人数増えたぞ…」


サイがため息をつく。


「残念やが処理されんのはそっちやで。」


そう言いながら着物の胸元に手を入れる。
そこから何かの紋章のような物を出し高らかに宣言する。


「ワイはこの街、マリンシアのギルドメンバーや!あんたらを殺人、及び違法魔術具の使用で拘束させてもらうで!!」


マリンシア…?ギルド…?違法魔術具…?
聞き慣れない言葉が並ぶ。


「…ギルドの奴か…面倒なことになったな…」


サイの顔が不快そうに歪む。


「なーに、ここで殺りゃ良いんだよ!」


それに対してトラは醜悪な笑顔を張り付け武器を猫に向ける。


「やれるもんなら…」


姿勢を低くし力を溜める。


「やってみいや!!」


そこから一気にスタートを切った。


「なっ…はやっ…」


先程までの笑顔が消える。
その時すでに猫はトラの懐に肉薄していた。


「はあっ!!」


下から上に走る銀閃。


「くうっ!」


トラは間一髪後ろに跳んで避けるが手に握られた武器は綺麗に真っ二つになってしまった。


「嘘だろぉ!」


猫の手には刀が握られていた。銀色に美しく輝いている。


「ちっ…お前は下がってろ!」


その様子を見かねてサイがトラを押し退け、武器を構える。


「さっさとくたばれ!」


その声と共に武器から凶弾が何発も飛び出す。しかし猫は再び二匹に突っ込む。


「甘いで!」


猫は軽やかなステップで右に左に華麗にかわす。


「なに!」


そして再び懐をとる。
その刹那、猫の刀が蒼いオーラを纏った。


「しまっ…」



『翡翠流技…』


何かを呟くと刀のオーラが収束していく。そして刀から水流が溢れだした。


『水流斬!』


横薙ぎ一閃。水を纏った一撃が二人纏めて一気に押し流す。


「「ぐがぁ!」」


そのまま飛ばされ壁に激突する。そうして二人とも地に伏せてしまった。


「なんや…もっと骨があると思ったんやけどな。」


そう呟きこちらをむく。


「ほら、縄切るから手出せや。」


「あ…あぁ…」


ここに来てから未だに脳が正常に働かない。情報量があまりにも多すぎる。刀を使い手際良く縄が切られていく。


「ったく、裏路地は今みたいに危ない奴いるから入るなって習わなかったんか?」


「…ごめんなさい…」


実際習っていないが先に謝罪の言葉が出る。


「まぁ無事そうやからええわ。後はこいつらの処理やな。」


そういってのびている二人を見る。


「…もしかして死んでる?」


恐る恐る猫に聞く。


「いやいや、そこはちゃんと加減してるで。ちゃんと生きとる。」


加減しなかったら殺せるのかと身震いした。


「まぁちゃんと後処理しないとな。」


そう言うと胸元から紫色の奇妙な形の植物を出した。それを倒れている二人の腕に付け、花の部分の中心を触る。

すると二人の体が光だし、だんだん透明になっていく。最終的には消えてしまった。


「えっ…」


「ワイらギルドは捕まえた奴をこーやって本部に転送するんや。この『ムラサキテンソウ』を使ってね。」


手に握る草を得意気に見せてくる。


「そうすりゃ本部で取り調べとかやってくれるからな…さぁ!やることやったし帰るか!」


「帰る…」


帰る。その言葉を聞いて胸が苦しくなる。今この世界に自分が帰る所が無いのだから。そう考えて俯いていると、急に手を引かれる。


「なにやってるんや?あんたも行くで?」


「えっ?」


「何か色々事情あるみたいやしな。師匠に相談してみようや。」


そう言われて返事もしようとしたが猫は間もなく走り出してしまっていた。











「さっ、もうすぐ着くで。」


目の前に小さなな道場が見える。庭は広いが、年季が入っていて少しさびれた雰囲気を漂わせている。


「俺は道場に運ばれたのか…」


「なんや?気付かんかったか?」


そう言われて首を縦に振る。あの時はそれどころではなかったのだから。今も街を歩いてきたが見慣れない景色ばかりで少し酔ってしまった。


「師匠ー。ただ今帰ったでー。」


「お…お邪魔します…」

猫が呼び掛けると、奥から猫の物と同じような和服の老犬が出てきた。髭や眉毛が長く伸びていて、表情があまり見えない。


「おぉ。おかえ…ん?隣のは?」


「ちょっと色々あったんや。話聞くだけでもしてくれへんか?師匠。」


「そうか…そう言うことならちょっと待っとれ。」


そう言うと老犬は廊下の奥へ消えていった。


「聞いてくれるみたいやな。取り合えず待ってようや。」


「うん…」


猫に居間に案内される。居間は小さなちゃぶ台にの座布団が置いてあるこじんまりとしたものだった。

少し待っていると老犬がお茶の入った湯飲みを持ってきた。


「まぁこれでも飲んでくれ。」


「ありがとう…ございます…」


恐る恐る口を付けるが何の変哲のない普通の緑茶であった。


「話す前に自己紹介でもしようかのう…ワシは翡翠流剣術の師範、翡翠元十郎じゃ。」


「ワイは翡翠海斗。よろしくな!」


「お…俺は…うっ!」


無理矢理思いだそうとするとまた頭痛とノイズが走る。呼吸も苦しくなる。

「どうした!?」


「はぁ……はぁ……実は…名前を思い出せないんだ…」


「なに?」


「自分が…わからないんだ…」


「どこから来たかとかは?」


それだけはわかる。人間界、と答えたくても信じられないことが目に見えている。ここは嘘も方便


「わからないんだ」


そう答える。


「フム…記憶喪失という奴か…厄介じゃのう。」


「それじゃあ行く宛も無いのか?」


「あぁ…」


沈黙が三人を包み込む。それを破ったのは元十郎と名乗った老犬だった。


「それならここに居候するか?」


「はいっ?」


急な提案に困惑する。


「最近すっかり翡翠流の弟子が減ってしまってのう。『古臭い流派は必要ない。』何て言われる始末じゃ。どうじゃ?悪い話じゃなかろう。」


「そうですけど…」


「それに記憶を取り戻したいじゃろ?ここで居候すればその手伝いぐらいは出来るぞ?」


「そうやそうや!それがええで!」


頭のなかで迷いが生じる。初対面の化け物を信じて良いのかと。しかし、行く宛がない以上このチャンスを逃す訳にはいかなかった。


「じゃあ…よろしくお願いします。」


「ふむ、よろしくな。」


「よろしく!」


温かい声で答えてくれた。


「決まったならこれからの事を考えなくちゃいかんのう…まぁほぼ定まってるがのう。」


そう言うと指をさされ宣言される。


「オヌシはもうすぐあるギルドの入団試験に合格してもらう!!」


「へっ?」


またも唐突な提案をされる。


「ギルドに入れば機密性の高い資料も見れるし任務で別の大陸にも行ける。そうすれば記憶を取り戻す手掛かりも見つかるじゃろう!」


「成る程…」


「でも師匠。ギルド入団試験まで一ヶ月切ってるで?」


「ふん。そんなもの努力でどうにかなるわい。」

老犬が不気味な笑みを浮かべる。


「ヒエッ」


「よし。それじゃあ明日から特訓じゃ!」


「はい…」


「そういや呼び方どうするかのう?名無しは不便だしのう…」


「それもそうやな…」


目の前で猫と老犬が頭を抱え唸っている。

何とも不思議な光景だと思っていると、今度は海斗が沈黙を破った。


「そうや!オオカミってウルフとも言うやろ?そっからもじって…『ルーフ』…何てどうや?」


「ほう、海斗にしては珍しくセンスがいいのう。」


「珍しいは余計やで師匠…ほら、アンタは結構いいと思ったやろ?」


ルーフ…これがこの世界での名前…


「すごく…すごくいいよ!」


「せやろ?それじゃ決まりや!改めてよろしくな!ルーフ!!」


「うん…よろしく!海斗!」


「よし!ルーフ!オヌシはこれから全力で強くなるのじゃ!!明日からビシバシ行くからのう…ワシのことは師匠と呼ぶのじゃぞ?」


「わっわかりました!師匠!!」


こうして俺は、ギルド入団試験とやらに向けて特訓することになった。


化け物…獣人としての道を歩み始めた。
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