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序章 獣としての始まり
第三話 小さな覚醒 (前編)
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「おい、もう朝やで。いい加減おきぃや」
「う~ん…」
海斗に起こされまだ重い瞼を擦る。外を見るとまだ薄暗い。
「…今何時…?」
「朝の五時や。顔洗って着替えたら外来いや。先に出てるで」
そう言って海斗は部屋を後にする。
(五時ぃ!?…朝から修行とか言ってたけどこんなはやくからなのか…)
冷たい水で目を覚まし、慣れない手つきで甚平を着る。
「おっ来たな?良く眠れたか?」
「お陰様でね…でもこんな朝から何処行くんだ?」
「まぁそれは着いてからのお楽しみや…行くで。」
朝の冷気が身に染みる中歩き出す。
そうして数分後…
「ここや。朝はここでの修行や!」
着いたのは山だった。木々がうっそうとしていて足の踏み場が落ち葉や何やらで殆んど無い。
「ここで…?一体何をするんだ?」
「それはな…『全力山登り』や!」
そう言って山頂を指差す…それはかなり高い。
「最終目標は山頂まで二十分や、先に行くで。」
そう言うと軽やかに飛び上がり木の枝に乗る。
「へっ?」
そのまま枝から枝に飛び物凄いスピードで登っていく。
「…マジかよ…」
流石にいきなりあんなアクロバティックなことはできない。諦めて足場の悪い中走ることにした。
「キツすぎる…」
情けない声をあげて倒れこむ。
「何やもうバテたか?昼の修行はこんなものじゃないで?」
山頂に着いたのはスタートから四十分程たっただった。
「ヤバイってこれ…死ぬ…」
「死なん死なん、ほら飯食いに行くで。師匠も待っとる。」
そのまま手を引かれる。少し歩いてみると小さなカフェが見えた。テラス席にはすでに師匠が座っていた。
「ほっほっほっ、やはり最初はそんなもんじゃろう…良く頑張ったなルーフ。」
「ありがとうございます。てか、どうしてこんな山奥にカフェなんて…」
「ワシの行きつけじゃよ。おまいらの分も頼んどいたから座って待っとれ。」
そうして待っていると、カフェの扉が開きがたいのいい牛の女性が出てきた。
「はーいお待ちどう!新しい弟子が来るって言うから何時もより良いの使ってるよ!!」
テーブルにサンドイッチやポタージュのようなスープなどの料理が並ぶ。
「あんたが新しい弟子かい?」
そう言って顔を近づけてくる。
「はい。ルーフって言います。」
「私はイサベル。よろしくなルーフ!」
強く手を握られる。見た目通り力はとてつもなく強い。
「自己紹介も済んだし早く食べな!出来立てが一番美味しいんだから。」
「それじゃあ食うか!いただきます!」
「いただきます!」
肉や野菜が沢山入ったサンドイッチにかぶりつくと、野菜のみずみずしさと肉の旨味が舌を満たしていく。
「…スッゴい美味しい」
「そりゃそうさ!このカフェのモーニングはここら辺じゃ一番だからね。」
ポタージュも野菜の旨味が詰まっていてとても美味しい。そうしてあっという間に食べ終わってしまった。
「ご馳走さまでした!」
「ご馳走さま!」
海斗とほぼ同時に食べ終わる。
「海斗は今日もパトロールかのう?」
「そうやな。あと今日は何個か依頼が来るはずやで。」
「…そういえばギルドってどんなことしてるんだ?」
ギルドに入ると言っても未だにその内情を知らなかった。
「そういや説明してなかったな。…ギルドは簡単に言うと便利屋兼自警団みたいなもんやな。街のパトロールとか、住人の依頼を受けたりするんや。前やった危険人物の確保も仕事のひとつや。」
「へー…色んなことやるんだ。」
「だからギルドに入るには最低限の強さが必要なんや。魔獣討伐とかの依頼も来たりするしな。」
自分も前みたいな魔獣に立ち向かう時が来るのか…そう思い少し不安になる。
「なーに、ギルド入れるぐらい強くなればそこら辺の魔獣は倒せるようになるで!…おっと、もう時間だからいってくるわ。昼も頑張れよ!」
「ありがとう。行ってらっしゃい!」
海斗はまた木々に飛び移りながら山を降りていった。
「ルーフ、ワシらもそろそろ戻るぞ。」
「わかりました。」
「頑張れよ?そのジジイの指導は厳しいからな?」
「あ…ありがとうございます。イサベルさん。」
こうして師匠と共に山を降りる。
道場につくと、師匠は丁寧に磨かれた水晶玉を持ってきた。
「修行に入る前にまずはそなたの『エレメント』を見ないとな。」
「エレメント…ですか?」
「そうじゃ。エレメントって言うのは簡単に言うと個々に眠る潜在能力のことじゃ。これでそなたの得意な『属性』が見える…属性によって戦い方も変わってくるしのう。」
「属性って…海斗が刀に纏わせた水みたいなかんじですか?」
「そうじゃそうじゃ。他にと雷とか火とかもあるぞい。」
そう言うと師匠は手の平をだし、その上に水の玉を作る。
「ちなみにワシも水のエレメントじゃ。こうやって魔術を使うには地脈を流れる『ハドウ』を使うんじゃよ。」
「ハドウ…」
「まぁその説明は今度する。水晶に手をかざしてみぃ。水晶の色でそなたのエレメントがわかるからぞい?」
「はい!」
水晶に手をかざす。すると水晶玉が不思議な光を放ち始めた。一瞬強く輝くと、水晶は深い青色に染まっていた。
「これは…」
「青ってことは…俺も水のエレメントですか?」
「いや、水のエレメントだったらもっと水色に近い色になる。…オヌシ中々面白いのう。」
「結局なんのエレメント何ですか?」
「…オヌシはエレメントを持っておらん。」
「え?」
「いや、言い方が悪いのう。正確には魔術に使うハドウそのものがオヌシのエレメントになっておる。」
「ハドウそのもの…」
もっと水とか炎とか出せるようになるのかと妄想してたのとは違う結果に少し落ち込む。
「なに気を落としとる?ハドウを直接使えるなんて相当強いぞ?」
「そうなんですか?」
「じゃあ少し魔術について説明しよう。居間にくるのじゃ。」
居間で少し待っていると、分厚い本を持った師匠が来た。本を開き魔術についてのことが書かれているページを開く。
「そもそも魔術とは何なのか…それはハドウを元にした特別な力のことじゃ。さっき言ったみたいに、その魔術は個々のエレメントによっと属性が異なる。」
「はい。」
「属性はメジャーな物は水や炎、風、雷、光…それ以外にも様々ある。その中でもハドウをそのまま使える『ノンエレメント』と呼ばれる物は極めて珍しい。」
「そうなんですか…」
「あぁ。そしてノンエレメントは他とは違う特徴がある。それは『他の属性との相性の差がない』ということじゃ。」
「相性…ですか?」
「そうじゃ。魔術の属性には炎は水に弱いみたいな属性の有利不利がある。しかしハドウは何の属性も持たない…つまり不利属性がないということなんじゃよ。」
「それって凄いじゃないですか!?」
「おまけにハドウは戦い方に対する汎用性が桁違いじゃ。発想次第ではどんな戦いにも対応できる…これがノンエレメントの強みじゃよ。」
「はい、とりあえず理解出来ました。」
「よし、じゃあ早速魔術の使い方…ハドウの使い方を伝授していくぞい?」
「よろしくお願いします!」
こうして外に出ると師匠にとあるところに案内される。
「ここって…」
「海斗がオヌシを見つけた滝壺じゃ。」
上から落ちる水が轟音を立てている。
「修行と言ったら基本は滝行じゃよ。滝の下に小さい岩があるじゃろ?そこに座禅するのじゃ。」
指差す方を見てみると、滝の力で削れて丁度ヒトが一人座れるくらいの窪みができた岩があった。
「ハドウを使うということは自然の力を使うと言うこと。滝に打たれ水の力を感じるのじゃ。」
「は…はい。」
とりあえず足を水に入れる。するととてつもない冷気が足を刺した。
「冷てぇ!」
「ほっほっほっ、雪解け水は染みるじゃろ?」
しかしここで引くわけにもいかない。足早に岩を目指す。
そして滝の下に着くと猛烈な水流が襲ってきた。
「ぐあっ!」
「怯むな!そこで座禅を組まないと始まらないぞ!」
背中に怒鳴り声を受けながらも、意地で何とか座禅を組む。
「そこで十分!自然の力を存分に感じるのじゃ!」
大量の水が全身を襲う。少し気を抜くと押し流されてしまう。
「がぁぁ!!」
声を張り上げ無理矢理耐える。
そうして十分を何とか乗り越えた。
「はぁ…ゲホッ!」
これ以上長い十分は感じないだろう。寒さが身体中を走り巡り、疲労が身体を重くする。
「さぁ休む暇はないぞい?着替えたら次の修行じゃ!」
「ひえぇぇ…」
師匠に無理矢理連れられ、今度は様々な草が生い茂る場所に来た。師匠から背中に背負う大きな籠と、草図鑑なる物を渡してきた。
「次はこの森の中から薬草や山菜を集めてもらう。正午までに規程の量集めてくるのじゃ!間に合わなかったら昼飯は抜きじゃぞ?」
「はい…」
「声が小さい!」
「はい!!」
「うむ。じゃあワシは先に戻っておるぞ。」
師匠は足早に去ってしまった。
「はぁ…やってみるか。」
溜め息をつきながら手を動かす。食べられる草とそうでない草、薬効がある草と毒を持つ草を仕分けながらひたすら採集する。図鑑を確認しながらやるため時間がかかる。
一時間ほどたっても籠の半分も満たしていない。ずっと屈んでいたせいで腰には激しい痛みを感じ、手首も悲鳴をあげていた。
「くそっ!全然終わらねえ!」
声を荒げてしまう。ストレスが限界まで来ていた。
「ここら辺あんまり無いし…少し動くか…」
野草が生い茂る場所を探し歩き出す。しかし少しすると、
『キー!キー!!』
耳をつんざく程高い声が聞こえる。
(魔獣の声だ!)
そう確信し近くの茂みに隠れる。その後すぐに目の前を魔獣が通る。足が短い代わりに異常に腕が長く発達した猿のような姿をしていた。勢い良く木々を飛び移る。
(ここら辺魔獣出るのか…でもここじゃないと
ノルマ絶対終わらないぞ…)
結局魔獣に何度も遭遇しかけながら採集するはめになった。戻ると正午まで五分前だった。
「師匠…終わりましたぁ…」
「おお、良くやったな。このまま帰ってこないとおもったぞい。」
「お腹減りました…」
そのまま縁側に倒れこむ。
「昼飯ならできておるぞ。大所に置いておるからな。食べたら次の修行じゃ!」
台所にはおにぎりと味噌汁が置いてあった。激しい修行の後のご飯は最高に美味しかった。
食べ終わり師匠のいる道場に行く。
「どうじゃ?ワシの握り飯は旨かろう。」
「はい。美味しかったです。」
「午後はこれを使うぞ。ホレ」
師匠から綺麗に加工された木の棒を渡された。両端に重りがついている。
「ワシ特製の棍棒じゃ。それを使って一日千回素振りをしてもらう。」
「千回!?」
「初心者でも扱い易い棍棒じゃ。まぁ出来るじゃろ。」
「…わかりました。」
こうして俺は毎日全力山登り、滝行、大量の採集、素振り千回というハードスケジュールの生活が始まった。
地獄の様な日々だったか、それは大きく自分が成長するきっかけになった。
「う~ん…」
海斗に起こされまだ重い瞼を擦る。外を見るとまだ薄暗い。
「…今何時…?」
「朝の五時や。顔洗って着替えたら外来いや。先に出てるで」
そう言って海斗は部屋を後にする。
(五時ぃ!?…朝から修行とか言ってたけどこんなはやくからなのか…)
冷たい水で目を覚まし、慣れない手つきで甚平を着る。
「おっ来たな?良く眠れたか?」
「お陰様でね…でもこんな朝から何処行くんだ?」
「まぁそれは着いてからのお楽しみや…行くで。」
朝の冷気が身に染みる中歩き出す。
そうして数分後…
「ここや。朝はここでの修行や!」
着いたのは山だった。木々がうっそうとしていて足の踏み場が落ち葉や何やらで殆んど無い。
「ここで…?一体何をするんだ?」
「それはな…『全力山登り』や!」
そう言って山頂を指差す…それはかなり高い。
「最終目標は山頂まで二十分や、先に行くで。」
そう言うと軽やかに飛び上がり木の枝に乗る。
「へっ?」
そのまま枝から枝に飛び物凄いスピードで登っていく。
「…マジかよ…」
流石にいきなりあんなアクロバティックなことはできない。諦めて足場の悪い中走ることにした。
「キツすぎる…」
情けない声をあげて倒れこむ。
「何やもうバテたか?昼の修行はこんなものじゃないで?」
山頂に着いたのはスタートから四十分程たっただった。
「ヤバイってこれ…死ぬ…」
「死なん死なん、ほら飯食いに行くで。師匠も待っとる。」
そのまま手を引かれる。少し歩いてみると小さなカフェが見えた。テラス席にはすでに師匠が座っていた。
「ほっほっほっ、やはり最初はそんなもんじゃろう…良く頑張ったなルーフ。」
「ありがとうございます。てか、どうしてこんな山奥にカフェなんて…」
「ワシの行きつけじゃよ。おまいらの分も頼んどいたから座って待っとれ。」
そうして待っていると、カフェの扉が開きがたいのいい牛の女性が出てきた。
「はーいお待ちどう!新しい弟子が来るって言うから何時もより良いの使ってるよ!!」
テーブルにサンドイッチやポタージュのようなスープなどの料理が並ぶ。
「あんたが新しい弟子かい?」
そう言って顔を近づけてくる。
「はい。ルーフって言います。」
「私はイサベル。よろしくなルーフ!」
強く手を握られる。見た目通り力はとてつもなく強い。
「自己紹介も済んだし早く食べな!出来立てが一番美味しいんだから。」
「それじゃあ食うか!いただきます!」
「いただきます!」
肉や野菜が沢山入ったサンドイッチにかぶりつくと、野菜のみずみずしさと肉の旨味が舌を満たしていく。
「…スッゴい美味しい」
「そりゃそうさ!このカフェのモーニングはここら辺じゃ一番だからね。」
ポタージュも野菜の旨味が詰まっていてとても美味しい。そうしてあっという間に食べ終わってしまった。
「ご馳走さまでした!」
「ご馳走さま!」
海斗とほぼ同時に食べ終わる。
「海斗は今日もパトロールかのう?」
「そうやな。あと今日は何個か依頼が来るはずやで。」
「…そういえばギルドってどんなことしてるんだ?」
ギルドに入ると言っても未だにその内情を知らなかった。
「そういや説明してなかったな。…ギルドは簡単に言うと便利屋兼自警団みたいなもんやな。街のパトロールとか、住人の依頼を受けたりするんや。前やった危険人物の確保も仕事のひとつや。」
「へー…色んなことやるんだ。」
「だからギルドに入るには最低限の強さが必要なんや。魔獣討伐とかの依頼も来たりするしな。」
自分も前みたいな魔獣に立ち向かう時が来るのか…そう思い少し不安になる。
「なーに、ギルド入れるぐらい強くなればそこら辺の魔獣は倒せるようになるで!…おっと、もう時間だからいってくるわ。昼も頑張れよ!」
「ありがとう。行ってらっしゃい!」
海斗はまた木々に飛び移りながら山を降りていった。
「ルーフ、ワシらもそろそろ戻るぞ。」
「わかりました。」
「頑張れよ?そのジジイの指導は厳しいからな?」
「あ…ありがとうございます。イサベルさん。」
こうして師匠と共に山を降りる。
道場につくと、師匠は丁寧に磨かれた水晶玉を持ってきた。
「修行に入る前にまずはそなたの『エレメント』を見ないとな。」
「エレメント…ですか?」
「そうじゃ。エレメントって言うのは簡単に言うと個々に眠る潜在能力のことじゃ。これでそなたの得意な『属性』が見える…属性によって戦い方も変わってくるしのう。」
「属性って…海斗が刀に纏わせた水みたいなかんじですか?」
「そうじゃそうじゃ。他にと雷とか火とかもあるぞい。」
そう言うと師匠は手の平をだし、その上に水の玉を作る。
「ちなみにワシも水のエレメントじゃ。こうやって魔術を使うには地脈を流れる『ハドウ』を使うんじゃよ。」
「ハドウ…」
「まぁその説明は今度する。水晶に手をかざしてみぃ。水晶の色でそなたのエレメントがわかるからぞい?」
「はい!」
水晶に手をかざす。すると水晶玉が不思議な光を放ち始めた。一瞬強く輝くと、水晶は深い青色に染まっていた。
「これは…」
「青ってことは…俺も水のエレメントですか?」
「いや、水のエレメントだったらもっと水色に近い色になる。…オヌシ中々面白いのう。」
「結局なんのエレメント何ですか?」
「…オヌシはエレメントを持っておらん。」
「え?」
「いや、言い方が悪いのう。正確には魔術に使うハドウそのものがオヌシのエレメントになっておる。」
「ハドウそのもの…」
もっと水とか炎とか出せるようになるのかと妄想してたのとは違う結果に少し落ち込む。
「なに気を落としとる?ハドウを直接使えるなんて相当強いぞ?」
「そうなんですか?」
「じゃあ少し魔術について説明しよう。居間にくるのじゃ。」
居間で少し待っていると、分厚い本を持った師匠が来た。本を開き魔術についてのことが書かれているページを開く。
「そもそも魔術とは何なのか…それはハドウを元にした特別な力のことじゃ。さっき言ったみたいに、その魔術は個々のエレメントによっと属性が異なる。」
「はい。」
「属性はメジャーな物は水や炎、風、雷、光…それ以外にも様々ある。その中でもハドウをそのまま使える『ノンエレメント』と呼ばれる物は極めて珍しい。」
「そうなんですか…」
「あぁ。そしてノンエレメントは他とは違う特徴がある。それは『他の属性との相性の差がない』ということじゃ。」
「相性…ですか?」
「そうじゃ。魔術の属性には炎は水に弱いみたいな属性の有利不利がある。しかしハドウは何の属性も持たない…つまり不利属性がないということなんじゃよ。」
「それって凄いじゃないですか!?」
「おまけにハドウは戦い方に対する汎用性が桁違いじゃ。発想次第ではどんな戦いにも対応できる…これがノンエレメントの強みじゃよ。」
「はい、とりあえず理解出来ました。」
「よし、じゃあ早速魔術の使い方…ハドウの使い方を伝授していくぞい?」
「よろしくお願いします!」
こうして外に出ると師匠にとあるところに案内される。
「ここって…」
「海斗がオヌシを見つけた滝壺じゃ。」
上から落ちる水が轟音を立てている。
「修行と言ったら基本は滝行じゃよ。滝の下に小さい岩があるじゃろ?そこに座禅するのじゃ。」
指差す方を見てみると、滝の力で削れて丁度ヒトが一人座れるくらいの窪みができた岩があった。
「ハドウを使うということは自然の力を使うと言うこと。滝に打たれ水の力を感じるのじゃ。」
「は…はい。」
とりあえず足を水に入れる。するととてつもない冷気が足を刺した。
「冷てぇ!」
「ほっほっほっ、雪解け水は染みるじゃろ?」
しかしここで引くわけにもいかない。足早に岩を目指す。
そして滝の下に着くと猛烈な水流が襲ってきた。
「ぐあっ!」
「怯むな!そこで座禅を組まないと始まらないぞ!」
背中に怒鳴り声を受けながらも、意地で何とか座禅を組む。
「そこで十分!自然の力を存分に感じるのじゃ!」
大量の水が全身を襲う。少し気を抜くと押し流されてしまう。
「がぁぁ!!」
声を張り上げ無理矢理耐える。
そうして十分を何とか乗り越えた。
「はぁ…ゲホッ!」
これ以上長い十分は感じないだろう。寒さが身体中を走り巡り、疲労が身体を重くする。
「さぁ休む暇はないぞい?着替えたら次の修行じゃ!」
「ひえぇぇ…」
師匠に無理矢理連れられ、今度は様々な草が生い茂る場所に来た。師匠から背中に背負う大きな籠と、草図鑑なる物を渡してきた。
「次はこの森の中から薬草や山菜を集めてもらう。正午までに規程の量集めてくるのじゃ!間に合わなかったら昼飯は抜きじゃぞ?」
「はい…」
「声が小さい!」
「はい!!」
「うむ。じゃあワシは先に戻っておるぞ。」
師匠は足早に去ってしまった。
「はぁ…やってみるか。」
溜め息をつきながら手を動かす。食べられる草とそうでない草、薬効がある草と毒を持つ草を仕分けながらひたすら採集する。図鑑を確認しながらやるため時間がかかる。
一時間ほどたっても籠の半分も満たしていない。ずっと屈んでいたせいで腰には激しい痛みを感じ、手首も悲鳴をあげていた。
「くそっ!全然終わらねえ!」
声を荒げてしまう。ストレスが限界まで来ていた。
「ここら辺あんまり無いし…少し動くか…」
野草が生い茂る場所を探し歩き出す。しかし少しすると、
『キー!キー!!』
耳をつんざく程高い声が聞こえる。
(魔獣の声だ!)
そう確信し近くの茂みに隠れる。その後すぐに目の前を魔獣が通る。足が短い代わりに異常に腕が長く発達した猿のような姿をしていた。勢い良く木々を飛び移る。
(ここら辺魔獣出るのか…でもここじゃないと
ノルマ絶対終わらないぞ…)
結局魔獣に何度も遭遇しかけながら採集するはめになった。戻ると正午まで五分前だった。
「師匠…終わりましたぁ…」
「おお、良くやったな。このまま帰ってこないとおもったぞい。」
「お腹減りました…」
そのまま縁側に倒れこむ。
「昼飯ならできておるぞ。大所に置いておるからな。食べたら次の修行じゃ!」
台所にはおにぎりと味噌汁が置いてあった。激しい修行の後のご飯は最高に美味しかった。
食べ終わり師匠のいる道場に行く。
「どうじゃ?ワシの握り飯は旨かろう。」
「はい。美味しかったです。」
「午後はこれを使うぞ。ホレ」
師匠から綺麗に加工された木の棒を渡された。両端に重りがついている。
「ワシ特製の棍棒じゃ。それを使って一日千回素振りをしてもらう。」
「千回!?」
「初心者でも扱い易い棍棒じゃ。まぁ出来るじゃろ。」
「…わかりました。」
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