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序章 獣としての始まり
第八話 非礼な鎌
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ルナの試合を見終わり、ルーフは次の対戦の準備をしていた。
「次も勝つよ!」
「せやせや!今のルーフなら楽勝や!」
「…あの、ちょっと良いかな?」
不意に後ろから話しかけられる。そこには幾つもの貴金属を身につける、何とも富豪らしい見た目の肥えたブルドックの男が立っていた。
「…どうかしましたか?」
「少しお話したいことが…少しあちらのほうで…」
「はい。いいですけど…」
そう言われて会場の端に連れていかれた。
◇◆◇◆
「…で、話って何です?」
本題に切り込もうとする。
「単刀直入に言いましょう。次の試合…棄権していただけないでしょうか?」
「…は?」
急な提案。それはルーフには理解出来なかった。
「何なんですかいったい…」
「勿論タダでとは言いません。こちらを…」
そう言ってブルドックは巾着袋を渡してくる。その中には大量の金貨が入っておりずっしりとしていた。
(これって…賄賂ってやつか!?)
あまりに急な事態に動揺する。
「どうでしょう?それだけの金貨が得られるなら悪い話ではないでしょう?」
そう囁かれる。しかし、ルーフの答えは決まっていた。
「…お断りします。俺はこの試験を絶対に突破しないといけないんです。」
そう、この試験に受かりギルドに入らなければ、自分の記憶…大切な何かを思い出す手がかりを手に入れられなくなってしまうからだ。
「それに、ここは正々堂々とした勝負をする場所です。そんな汚いことに俺は乗りません!」
そう言って、ブルドックの提案をすっぱりと断った。
去っていくルーフの背中を見て、ブルドックが憎々しそうに呟いた。
「…田舎者のガキが…私に逆らったことを後悔させてやる…」
その目には、怨恨の炎が宿っていた。
◇◆◇◆
戻ってくると、ルナと海斗が話していた。
「やっぱりあの焔火神社の巫女はんやったか!」
「そうよ!あの炎は私たちにしか使えないわ!」
2人は何かの話題で盛り上がっていた。
「なんの話?」
「おぉルーフ、ルナの家の話や。あの焔火神社の巫女はんやったで!」
「焔火神社…?」
「何百年も前からある由緒正しい私の家系の神社よ!炎を司る『キュウビノキツネ』を奉っているわ!」
「へー…」
「ルーフはどんな話してたんや?」
「それがさぁ…」
先程の賄賂の話をしようとする。その瞬間
「第1ブロック2回戦を始める!ルーフ選手とブルシオス選手はバトル場に来なさい!」
ギルド団員の大きな声がルーフの話を遮った。
「ルーフの出番みたいやで!行ってこいや!!」
そう言われて背中を押される。
「うっうん!行ってくる!」
結局言い出せないままルーフはバトル場に向かった。
対戦相手と対面する。そこには賄賂を渡してきたブルドックと良く似た少年だった。
「君がパピーの話を断った無礼者だね?」
ふてぶてしい態度でそう言い放つ。
(パピーって…こいつあのブルドックの息子か!)
「1回戦もそんな汚いやり方で勝ったのか?」
睨みながらそう聞く。
「汚いだなんて人聞きの悪い…証拠は無いだろ?」
「くそっ…」
そうしていると、ギルド団員の声が飛ぶ。
「何をしている?早く握手をしなさい!」
「わかりましたわかりました…」
だるそうに左手を差し出してくる。ルーフはそれを握った。するとチクッとした痛みが走った。
(なんだ?)
問い詰めようとするがブルシオスは既に離れてしまっていた。
◇◆◇◆
「それでは第1ブロック2回戦…開始!!」
その宣言と共にルーフは突っ込む。
「さっさと終わらせてやる!!」
棍棒を振り下ろす。
「ぐぅぅぅ!」
ブルシオスはそれを杖で受ける。しかし受けるには力不足に見えた。
(このまま押しきってやる!)
「はぁぁ!」
下突き、凪ぎ払い、連続突き、多彩な技で場外に押しきろうとする。
そして、ついにフィールド端まで追い込む。
(ここで決める!)
ルーフは棍棒を大きく引き強烈な突きを放とうとする。
しかし、ここでルーフに異変が起きる。
ガクン!
「なにっ…」
唐突に膝の力が抜けた。なんのきっかけもないあまりに突然な出来事だった。
「ふふん…おりゃ!」
「ぐぁっ!」
ブルシオスが振るった杖がみぞおちを捉える。
「ぐふっ…」
「ははは!!良い顔だ!」
そう言ってブルシオスが杖を構える。
「次はこっちの番だ!『サイス』!」
振るった杖から三日月状のエネルギー刃が飛んでくる。
(こんなの…避けられる!)
しかしそれは今のルーフにとっては遅かった。すぐによける体勢にはいる。
しかし、
ガクン!
(まただっ!)
膝に入れていた力が抜けてしまう。
「くそっ!」
仕方なくルーフは刃を棍棒で受ける。
「ほらほら!次が来るぞ!『サイス』、『サイス』!『サイス』!!」
「ぐっ…ぐぁっ!」
必死に受けようとするが、崩れた体勢では完全に出来ない。身体の数ヵ所が切り裂かれてしまう。
(なんだ?…身体の力が…)
ルーフは身体を支えるので精一杯だった。
(なんや?何が起きてるんや?)
それを見ていた海斗が驚愕の表情を浮かべる。
「苦戦してるわね…」
ルナも苦い表情をする。
「いや、あんぐらいの魔術ルーフには簡単に避けられるはずや。」
「確かに…私から見てもあの魔術質は良くないわ。」
「どうしたんやルーフ…こんなとこで負けたらアカンで…」
苦戦するルーフを見て不安になる彼らとは違い、黒い笑みを浮かべる人物がいた。
「くふふ…私のデバフ魔術が効いてるようだなぁ…」
それはあのブルドックの富豪だった。
(握手の時に息子はしっかり゛仕込んで゛くれたようだな…私の魔術は簡単には見破れませんよ…)
彼のやり口はなんとも卑劣な物だった。
◇◆◇◆
「今度はこれだ!『ブメラス・サイス』!」
先程よりも大きな刃が飛んでくる。
「チィ!」
力の入らない身体を無理矢理動かし必死にかわす。
「戻ってくるぞぉ!」
「なっ!」
かわしたはずの刃が半円を描き戻ってくる。
(だったらハドウガンで撃ち落とす!)
「はぁぁ…」
手に波動を集め砲丸を作ろうとする。しかし、
(やらせませんよぉ!)
ブルドックが手につけた指輪を光らせる。
するとルーフのハドウが霧散してしまった。
「なっ…」
大きな刃が強襲する。
「ちくしょう!」
棍棒で叩き落とそうとする。
ガァァァン
打ち合った瞬間、棍棒が反動で飛ばされてしまう。
「しまった…」
大きく飛ばされた棍棒は場外に出てしまう。
(効果てきめんですな…)
そう思いながらブルドックは指輪を見つめる。
(これは強力だぞぉ…奴に仕込んだクリスタルが抜けない限りこの魔術は溶けない…私に逆うとこうなるんだよ!)
そう、ブルシオスとの握手でルーフにはとあるものが仕組まれてしまっていた。それは、「カースクリスタル」という“違法魔術具゛だった。
(クリスタルが身体にあるかぎり、私が魔力を送れば簡単にデバフがかかる…おまけにあのクリスタルはちょっとの魔力では取り出せない…さぁ苦しめ!!)
再びクリスタルを輝かせる。
ルーフの身体の力が抜ける。
(まただ!)
「おりゃ!」
動けないところを杖で殴られる。
「がぁっ…」
「ほらほら逃げてみろぉ!」
そこから何度も殴られる。
「…やっぱりルーフになにか起きてる!あんなんでルーフはやられない!」
それを見かねた海斗が叫ぶ。
「…ん?」
その時、戦いを見守るルナの目にあるものが映った。
「ルーフの魔力が濁ってる…」
「なにぃ?」
それは戦っているルーフのハドウに、紫の影が映っていたのだ。
「…もしかして…誰かに魔力を流し込まれてる!?」
「誰かって…」
「わからない…でも、私が探る!」
そう言うと札を地面に落とす。するとルナの足元に魔方陣が出来る。
「私の古式魔術よ。これで魔力を持ってるやつを暴く!」
そう言うと魔方陣が輝き始める。
「焔火家の力…見せてやるんだから!」
ルナは精神世界に入り、周りの魔力…エレメントの色を見る。
(何処かに…あの紫と一緒の色があるはず…)
「頼むで…ルナ…ルーフ…」
この時海斗は祈るしか出来なかった。
◇◆◇◆
「はぁ…はぁ…まだ倒れないのかよお前。」
「ぐふっ…はぁ…」
バトル場のルーフとブルシオスはお互い呼吸が荒くなっていた。
「魔術も当てたし杖でも殴った…なのに何で倒れない!」
ブルシオスは苛立っていた。
「もう吹っ飛ばしてやる…」
そう言って杖の魔力を高める。
「喰らえぇ!『グラン・サイス』!!」
巨大な刃がルーフを襲う。
「くうっ!」
ハドウすら集められず、足も動かないルーフはガードの姿勢しかとれない。
ゴォォォン!!
「…直撃だ…終わったか?」
ブルシオスはやっとの終わったと思い杖を下ろす。しかし、土煙の中には立ったままの人影があった。
「…もうお前しつけぇよ!!クソが!!」
ブルシオスの堪忍袋の尾は切れていた。
「まだ…倒れねぇ…」
ルーフは切れた唇を動かしながらそう言う。
「お前らみたいな…奴に負けてたまるか…」
「こんの…」
もう誰しもが終わったと思う中、ルーフは諦めていなかった。
「もう…倒れろよ!!」
再びルーフは殴られ続ける。
「ルナ!まだ見つからんか!?」
「ダメ!エレメントの数が多すぎる!」
(もっと広げないと…)
こちらでも2人は諦めていなかった。そして、ついに勝利への一筋の光が見えた。
(あれって…)
それはルーフの後方…そこ周辺の地脈が傷付いていたのを見付けた。
「もしかして…違法魔術具の跡!?」
「なんやて!?」
それは違法魔術具を使用した際にできる地脈の傷だった。ルナは急いでそれを辿る。その終着点には、
ブルドックの富豪が立っていた。
「海斗!!あのブルドックよ!!」
「なに!?」
「あいつが違法魔術具を使ってる!!」
それを聞き海斗はブルドックの方へ走り出した。
「ひょっ…?」
鬼気迫る表情で迫る海斗に気付き、なんとも気の抜けた声を出す。
「…お前か…この外道!…覚悟せいや!!」
「ヒッ!」
一瞬で目の前に肉薄する。
『翡翠流技…鹿威し!!』
強烈な峰打ちをブルドックの顔面に叩き込んだ。
「ぐびゃぁぁあ!」
顔を砕かれたブルドックは後ろに倒れ込んでしまった。
「海斗!その指輪よ!それを砕いて!!」
そう叫んで紫色の怪しい光を放つ指輪を指差す。
「これかぁ!!」
海斗は思い切りそれを踏みつける。元凶であった指輪は粉々になってしまった。
◇◆◇◆
「これで…終わりだぁ!!」
殴られ続けて数分…未だに降参しないルーフの頭に向け、凶槌が振り下ろされる。
ゴォン!!
鈍い音が響いた。だが、ブルシオスの手には硬い地面を打った手応えしかなかった。
「なんだ?」
振り下ろしたところには何もいなかった。
「…やっと戻ったぜ…クソ野郎!」
その横には、立ち上がるルーフの姿があった。間一髪、とどめの一撃をかわしたのだ。
「ルーフ!!」
「間に合ったみたいやな…」
海斗とルナは歓喜の声を上げる。
「なんで…パピーは!?」
そう言ってルーフの後方を見ると、顔をグシャグシャにされた父の姿があった。
「パピーーー!!」
悲痛な叫び声を上げた。
「さぁ…これで小細工無しだ…」
「ヒィィ!やめろ!来るな!!」
ブルシオスはバックステップで距離をとり、『サイス』を放つ。
それはルーフには全てスローに見えた。左右に身体を動かし、ブルシオスの懐へ走り込む。
「なっ…早っ…」
「全身全霊の俺のパワー…受けてみろ…」
右腕に身体中のハドウを集める。すると、そこに巨大な青い拳ができた。
「歯ぁ食いしばれ…」
「待って!!助けて!!」
全力で懇願するが、ルーフはそんなものには耳を貸さなかった。
『パワー…ナックル!!!』
巨大な拳を腹にねじ込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁあ!!!」
ドォォォォン!!
大きな音をたて、ブルシオスは場外に飛ばされた。
「そこまで!勝者、ルーフ選手!!」
「俺の…勝ちだぁぁ!!」
ルーフは雄叫びを上げた。
大いなる志を持つ拳が、非礼な鎌を砕いた瞬間だった。
「次も勝つよ!」
「せやせや!今のルーフなら楽勝や!」
「…あの、ちょっと良いかな?」
不意に後ろから話しかけられる。そこには幾つもの貴金属を身につける、何とも富豪らしい見た目の肥えたブルドックの男が立っていた。
「…どうかしましたか?」
「少しお話したいことが…少しあちらのほうで…」
「はい。いいですけど…」
そう言われて会場の端に連れていかれた。
◇◆◇◆
「…で、話って何です?」
本題に切り込もうとする。
「単刀直入に言いましょう。次の試合…棄権していただけないでしょうか?」
「…は?」
急な提案。それはルーフには理解出来なかった。
「何なんですかいったい…」
「勿論タダでとは言いません。こちらを…」
そう言ってブルドックは巾着袋を渡してくる。その中には大量の金貨が入っておりずっしりとしていた。
(これって…賄賂ってやつか!?)
あまりに急な事態に動揺する。
「どうでしょう?それだけの金貨が得られるなら悪い話ではないでしょう?」
そう囁かれる。しかし、ルーフの答えは決まっていた。
「…お断りします。俺はこの試験を絶対に突破しないといけないんです。」
そう、この試験に受かりギルドに入らなければ、自分の記憶…大切な何かを思い出す手がかりを手に入れられなくなってしまうからだ。
「それに、ここは正々堂々とした勝負をする場所です。そんな汚いことに俺は乗りません!」
そう言って、ブルドックの提案をすっぱりと断った。
去っていくルーフの背中を見て、ブルドックが憎々しそうに呟いた。
「…田舎者のガキが…私に逆らったことを後悔させてやる…」
その目には、怨恨の炎が宿っていた。
◇◆◇◆
戻ってくると、ルナと海斗が話していた。
「やっぱりあの焔火神社の巫女はんやったか!」
「そうよ!あの炎は私たちにしか使えないわ!」
2人は何かの話題で盛り上がっていた。
「なんの話?」
「おぉルーフ、ルナの家の話や。あの焔火神社の巫女はんやったで!」
「焔火神社…?」
「何百年も前からある由緒正しい私の家系の神社よ!炎を司る『キュウビノキツネ』を奉っているわ!」
「へー…」
「ルーフはどんな話してたんや?」
「それがさぁ…」
先程の賄賂の話をしようとする。その瞬間
「第1ブロック2回戦を始める!ルーフ選手とブルシオス選手はバトル場に来なさい!」
ギルド団員の大きな声がルーフの話を遮った。
「ルーフの出番みたいやで!行ってこいや!!」
そう言われて背中を押される。
「うっうん!行ってくる!」
結局言い出せないままルーフはバトル場に向かった。
対戦相手と対面する。そこには賄賂を渡してきたブルドックと良く似た少年だった。
「君がパピーの話を断った無礼者だね?」
ふてぶてしい態度でそう言い放つ。
(パピーって…こいつあのブルドックの息子か!)
「1回戦もそんな汚いやり方で勝ったのか?」
睨みながらそう聞く。
「汚いだなんて人聞きの悪い…証拠は無いだろ?」
「くそっ…」
そうしていると、ギルド団員の声が飛ぶ。
「何をしている?早く握手をしなさい!」
「わかりましたわかりました…」
だるそうに左手を差し出してくる。ルーフはそれを握った。するとチクッとした痛みが走った。
(なんだ?)
問い詰めようとするがブルシオスは既に離れてしまっていた。
◇◆◇◆
「それでは第1ブロック2回戦…開始!!」
その宣言と共にルーフは突っ込む。
「さっさと終わらせてやる!!」
棍棒を振り下ろす。
「ぐぅぅぅ!」
ブルシオスはそれを杖で受ける。しかし受けるには力不足に見えた。
(このまま押しきってやる!)
「はぁぁ!」
下突き、凪ぎ払い、連続突き、多彩な技で場外に押しきろうとする。
そして、ついにフィールド端まで追い込む。
(ここで決める!)
ルーフは棍棒を大きく引き強烈な突きを放とうとする。
しかし、ここでルーフに異変が起きる。
ガクン!
「なにっ…」
唐突に膝の力が抜けた。なんのきっかけもないあまりに突然な出来事だった。
「ふふん…おりゃ!」
「ぐぁっ!」
ブルシオスが振るった杖がみぞおちを捉える。
「ぐふっ…」
「ははは!!良い顔だ!」
そう言ってブルシオスが杖を構える。
「次はこっちの番だ!『サイス』!」
振るった杖から三日月状のエネルギー刃が飛んでくる。
(こんなの…避けられる!)
しかしそれは今のルーフにとっては遅かった。すぐによける体勢にはいる。
しかし、
ガクン!
(まただっ!)
膝に入れていた力が抜けてしまう。
「くそっ!」
仕方なくルーフは刃を棍棒で受ける。
「ほらほら!次が来るぞ!『サイス』、『サイス』!『サイス』!!」
「ぐっ…ぐぁっ!」
必死に受けようとするが、崩れた体勢では完全に出来ない。身体の数ヵ所が切り裂かれてしまう。
(なんだ?…身体の力が…)
ルーフは身体を支えるので精一杯だった。
(なんや?何が起きてるんや?)
それを見ていた海斗が驚愕の表情を浮かべる。
「苦戦してるわね…」
ルナも苦い表情をする。
「いや、あんぐらいの魔術ルーフには簡単に避けられるはずや。」
「確かに…私から見てもあの魔術質は良くないわ。」
「どうしたんやルーフ…こんなとこで負けたらアカンで…」
苦戦するルーフを見て不安になる彼らとは違い、黒い笑みを浮かべる人物がいた。
「くふふ…私のデバフ魔術が効いてるようだなぁ…」
それはあのブルドックの富豪だった。
(握手の時に息子はしっかり゛仕込んで゛くれたようだな…私の魔術は簡単には見破れませんよ…)
彼のやり口はなんとも卑劣な物だった。
◇◆◇◆
「今度はこれだ!『ブメラス・サイス』!」
先程よりも大きな刃が飛んでくる。
「チィ!」
力の入らない身体を無理矢理動かし必死にかわす。
「戻ってくるぞぉ!」
「なっ!」
かわしたはずの刃が半円を描き戻ってくる。
(だったらハドウガンで撃ち落とす!)
「はぁぁ…」
手に波動を集め砲丸を作ろうとする。しかし、
(やらせませんよぉ!)
ブルドックが手につけた指輪を光らせる。
するとルーフのハドウが霧散してしまった。
「なっ…」
大きな刃が強襲する。
「ちくしょう!」
棍棒で叩き落とそうとする。
ガァァァン
打ち合った瞬間、棍棒が反動で飛ばされてしまう。
「しまった…」
大きく飛ばされた棍棒は場外に出てしまう。
(効果てきめんですな…)
そう思いながらブルドックは指輪を見つめる。
(これは強力だぞぉ…奴に仕込んだクリスタルが抜けない限りこの魔術は溶けない…私に逆うとこうなるんだよ!)
そう、ブルシオスとの握手でルーフにはとあるものが仕組まれてしまっていた。それは、「カースクリスタル」という“違法魔術具゛だった。
(クリスタルが身体にあるかぎり、私が魔力を送れば簡単にデバフがかかる…おまけにあのクリスタルはちょっとの魔力では取り出せない…さぁ苦しめ!!)
再びクリスタルを輝かせる。
ルーフの身体の力が抜ける。
(まただ!)
「おりゃ!」
動けないところを杖で殴られる。
「がぁっ…」
「ほらほら逃げてみろぉ!」
そこから何度も殴られる。
「…やっぱりルーフになにか起きてる!あんなんでルーフはやられない!」
それを見かねた海斗が叫ぶ。
「…ん?」
その時、戦いを見守るルナの目にあるものが映った。
「ルーフの魔力が濁ってる…」
「なにぃ?」
それは戦っているルーフのハドウに、紫の影が映っていたのだ。
「…もしかして…誰かに魔力を流し込まれてる!?」
「誰かって…」
「わからない…でも、私が探る!」
そう言うと札を地面に落とす。するとルナの足元に魔方陣が出来る。
「私の古式魔術よ。これで魔力を持ってるやつを暴く!」
そう言うと魔方陣が輝き始める。
「焔火家の力…見せてやるんだから!」
ルナは精神世界に入り、周りの魔力…エレメントの色を見る。
(何処かに…あの紫と一緒の色があるはず…)
「頼むで…ルナ…ルーフ…」
この時海斗は祈るしか出来なかった。
◇◆◇◆
「はぁ…はぁ…まだ倒れないのかよお前。」
「ぐふっ…はぁ…」
バトル場のルーフとブルシオスはお互い呼吸が荒くなっていた。
「魔術も当てたし杖でも殴った…なのに何で倒れない!」
ブルシオスは苛立っていた。
「もう吹っ飛ばしてやる…」
そう言って杖の魔力を高める。
「喰らえぇ!『グラン・サイス』!!」
巨大な刃がルーフを襲う。
「くうっ!」
ハドウすら集められず、足も動かないルーフはガードの姿勢しかとれない。
ゴォォォン!!
「…直撃だ…終わったか?」
ブルシオスはやっとの終わったと思い杖を下ろす。しかし、土煙の中には立ったままの人影があった。
「…もうお前しつけぇよ!!クソが!!」
ブルシオスの堪忍袋の尾は切れていた。
「まだ…倒れねぇ…」
ルーフは切れた唇を動かしながらそう言う。
「お前らみたいな…奴に負けてたまるか…」
「こんの…」
もう誰しもが終わったと思う中、ルーフは諦めていなかった。
「もう…倒れろよ!!」
再びルーフは殴られ続ける。
「ルナ!まだ見つからんか!?」
「ダメ!エレメントの数が多すぎる!」
(もっと広げないと…)
こちらでも2人は諦めていなかった。そして、ついに勝利への一筋の光が見えた。
(あれって…)
それはルーフの後方…そこ周辺の地脈が傷付いていたのを見付けた。
「もしかして…違法魔術具の跡!?」
「なんやて!?」
それは違法魔術具を使用した際にできる地脈の傷だった。ルナは急いでそれを辿る。その終着点には、
ブルドックの富豪が立っていた。
「海斗!!あのブルドックよ!!」
「なに!?」
「あいつが違法魔術具を使ってる!!」
それを聞き海斗はブルドックの方へ走り出した。
「ひょっ…?」
鬼気迫る表情で迫る海斗に気付き、なんとも気の抜けた声を出す。
「…お前か…この外道!…覚悟せいや!!」
「ヒッ!」
一瞬で目の前に肉薄する。
『翡翠流技…鹿威し!!』
強烈な峰打ちをブルドックの顔面に叩き込んだ。
「ぐびゃぁぁあ!」
顔を砕かれたブルドックは後ろに倒れ込んでしまった。
「海斗!その指輪よ!それを砕いて!!」
そう叫んで紫色の怪しい光を放つ指輪を指差す。
「これかぁ!!」
海斗は思い切りそれを踏みつける。元凶であった指輪は粉々になってしまった。
◇◆◇◆
「これで…終わりだぁ!!」
殴られ続けて数分…未だに降参しないルーフの頭に向け、凶槌が振り下ろされる。
ゴォン!!
鈍い音が響いた。だが、ブルシオスの手には硬い地面を打った手応えしかなかった。
「なんだ?」
振り下ろしたところには何もいなかった。
「…やっと戻ったぜ…クソ野郎!」
その横には、立ち上がるルーフの姿があった。間一髪、とどめの一撃をかわしたのだ。
「ルーフ!!」
「間に合ったみたいやな…」
海斗とルナは歓喜の声を上げる。
「なんで…パピーは!?」
そう言ってルーフの後方を見ると、顔をグシャグシャにされた父の姿があった。
「パピーーー!!」
悲痛な叫び声を上げた。
「さぁ…これで小細工無しだ…」
「ヒィィ!やめろ!来るな!!」
ブルシオスはバックステップで距離をとり、『サイス』を放つ。
それはルーフには全てスローに見えた。左右に身体を動かし、ブルシオスの懐へ走り込む。
「なっ…早っ…」
「全身全霊の俺のパワー…受けてみろ…」
右腕に身体中のハドウを集める。すると、そこに巨大な青い拳ができた。
「歯ぁ食いしばれ…」
「待って!!助けて!!」
全力で懇願するが、ルーフはそんなものには耳を貸さなかった。
『パワー…ナックル!!!』
巨大な拳を腹にねじ込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁあ!!!」
ドォォォォン!!
大きな音をたて、ブルシオスは場外に飛ばされた。
「そこまで!勝者、ルーフ選手!!」
「俺の…勝ちだぁぁ!!」
ルーフは雄叫びを上げた。
大いなる志を持つ拳が、非礼な鎌を砕いた瞬間だった。
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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