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番外編

戦豹の試練 (後編)

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月明かりが照らすもと、ブランは違法魔術具販売をしている者達のアジトを探していた。


歩き続けて数分、急に開けた場所に出た。


「…なんだここ…?」


そこは木々が生い茂る山の中では不自然なほど広かった。


その土地の真ん中には小さな山小屋が見える。


(もしかしてあれか?)


ブランは早足で近付く。

そして、山小屋の屋根を見上げた。そこでは風見鶏が一定の速度で回っている。


(今の風向きと逆方向に回っている…ここで確定だな。)


ブランは扉に向かうと、そこには張り紙がされていた。


「『誰でもご自由にお使いください。お代は要りません。』…どの口がいってんだか…」


山小屋のドアノブに手をかけると、カチャリと音をたて、いとも簡単にブランを中へいざなった。


◇◆◇◆


小屋の中心にはカーペットが敷いてあった。そこに椅子とテーブル、そして端の方には小さなな布団が敷かれていた。


どこにでも有るような山小屋の内装だった。


「扉を開けたらすぐ…て訳ではないか。」


ブランはおかしな所がないか辺りを探り始めた。




「椅子もテーブルも普通…布団の下にも何もないか…」


探り初めて数分…くまなく探したが怪しい所は見つからない。

そして、ブランは俯きながら考える。


(他になにか無いのか……ん?)


下に目線を向けた時、カーペットの端…日焼けせずに周りとの色が違う床板が顔を見せていた。


「これ…もしかして…」


ブランはカーペットを引っ張り床から剥がす。


そして机を動かすと小さなハッチが現れた。


「ビンゴだな…」


ブランはそのままハッチに手をかける。


しかし、山小屋の扉とは違いガッチリと施錠されていた。


「チッ…しょうがねぇ…『フォルス・グロウ』!」


ブランは腕に魔力を溜め腕力を強化する。


そして、固く閉ざされたハッチを無理矢理引っ張った。


「おおぉぉぉぉ!」


ミシミシッと音をたて少しずつ開いていく。


「はあっ!」


バンッ!!


ついにハッチが床から引き剥がされた。


ハッチがあった場所を除くと、下に伸びるはしごがあった。


「…この下だな…」


ブランはしごをスルスルと下っていった。


◇◆◇◆


「…よっと。」


ブランははしごの下り、周りを見渡す。


そこは石の壁や床に囲まれ、数個のランタンが辺りを小さく照らす薄暗い通路が奥まで続いていた。


何処にアジトのボスが居るのか…探すために一歩踏み出した。


その瞬間、



バンッ!!



「!!」



通路の奥から銃声が響き、凶弾がこちらに飛んできた。


「ふっ!」


ブランは間一髪それを避ける。


弾が飛んできた方を向くと、ゆらりと2人の兵士が現れた。


「…上から音がしたと思ったらやはり侵入者か…」


「おいぃ!!どうしてここがわかったんだよぉ!!」


片方は冷静な牛、もう一人は気弱なシマウマだった。


それぞれの片手には銃型の違法魔術具が握られていた。


「ハンッ!てめぇらの情報管理が甘いんだよ!」


その声と同時にブランは2人に突っ込んだ。


それはまさに疾風。一瞬で距離をゼロにする。


「『フォルス・ブロウ』!!」



そして、目にも止まらぬ早さで戦槌を振り抜いた。


「どはぁっ!!」


牛の兵士を芯で捉え吹き飛ばす。


「…弱えぇ…」


そう呟きながらゆっくりとシマウマの方を見る。


「ひいぃぃぃ!!」


それにすっかり恐怖してしまったシマウマは違法魔術具を乱射する。


しかし、そんなものはブランに通用しない。


「ちゃんと敵を見て撃てよ…」


「なっ…」


姿勢を低くして、弾の嵐を掻い潜る。そして再び距離をゼロにした。


「おらぁ!!」


「グハッッ!」


そのままブランの戦槌の餌食となった。


「…こんなもんか…さっさとボスを見つけねぇとな…」


そう言ってブランは薄暗い通路の奥へ向かった。


◇◆◇◆



「はぁっ!!」



「ギャッッ!!」



「おりゃあ!!」



「どわぁぁ!!」



ブランは先程の騒ぎを聞きつけ駆けつけた兵士の処理に追われていた。


「たっくしつけぇな!!」


戦槌を振るいながら悪態をつく。


そうしていると、正面から兵士の集団が襲ってきた。


「ソイツを止めろ!」


「撃て!!」



そこから数多の凶弾がブランの命を狙わんと飛んでくる。


「ふっ!」


しかし、ブランは身体を捻ったり姿勢を低くしたりと華麗にかわしていく。


その中で、兵士たちが固まっていることを見逃していなかった。


ブランは戦槌に魔力を溜める。


そして、


「纏めてぶっ飛べ!『グラン・ブレイド』!!」


その戦槌を地面に振り下ろす。すると、そこから無数の石の刃が兵士達に向かっていった。


「「ぐぁぁ!!」」


「「ガハッ」」


「よし!」


集団を片付けたブランは更に奥へと向かう。


そうして進んでいるうちに、最深部…大きな赤い扉の前に出た。


(ここか!)


「オラァ!!」


ブランは勢い良く扉を蹴破る。


中は薄暗い研究室だった。辺りには違法魔術具のパーツや在庫が整理され置いてある。


(誰も…居ないのか?…)


ブランは警戒しながら奥に進む。


コツン、コツンと足音が響く。先程のとはうってかわった雰囲気に気味の悪さを覚える。



何もないのかと引き返そうとする。









次の瞬間、ブランの第六感が殺気を察知した。




(!!来るっ!!)



ブランは咄嗟に戦槌を天井に向け受けの態勢で構える。


そして、それと同時に戦槌に大きな衝撃が走った。


「ぐおっ!?」


「ヒョーーホホホ!!!」


突然襲ってきたヒトは奇妙な叫び声を出している。



「くそ!!」


ブランはそれを部屋の奥へと弾き飛ばす。


しかし、それは空中で一回転すると、ストリと華麗に着地した。



「ヒョホホ…よくぞ反応しましたな…」


声のする方を見ると、片眼鏡を付け、英国スーツに身を包む初老のヤギの男が立っていた。

手には奇妙な星形の宝石が着いた杖を持っていた。


「てめぇがここのボスか?」


ブランが睨みながら聞く。


「いかにも…私はジェンシー。ここの統括を任されております。」


しかし、その羊…ジェンシーは怯むこと無く綽々と話す。



「子供一人でここまで進まれるとは…中々の実力ですね…」


「うるせぇ!さっさとここからいなくなりやがれ!」


「それにハイとは答えられないのですよ…」


するとジェンシーは指を鳴らした。


パチン!と音が響くと、部屋のランタンが灯っていく。


明るくなった部屋をブランは見渡す。そして、数十人の兵士に囲まれていることに気づいた。


「なっ!」


「今までのは前座ですよ…ヒョホッ!」


周りの兵士の目には殺意がこもっている。兵士達は銃型だけでなく、魔力を纏いパチパチ音をならす剣型や槍型の物も持っていた。


「この支部の精鋭達です。並大抵ではありませんよ?」


ジェンシーは勝ち誇ったような目を向ける。しかし、ブランの目には恐怖居どころか何処か嬉しそうな光が宿っていた。


「ちょうどさっきの奴等じゃ物足りないと思ってたんだよ…掛かってこいよ!三下どもが!!」


それどころか挑発までして見せたのだ。


「なめやがって!!」


「殺してやる!!」


その挑発が兵士達に火を付けた。怒号を上げながらブランに襲いかかる。


「死ねぇ!!!」


兵士の一人が槍を突き出す。

しかし、それは空を切る。


「おらぁ!!」


別の兵士が剣を振るう。

だが、それは風切り音を鳴らすだけだった。

他の兵士が放つ凶弾もブランを捉えることはない。ブランは完全に見切っていた。


「怒りに任せた単調な攻撃なんてつまんねぇな!!」


そう叫ぶと攻撃をかわされ体勢を崩した兵士を纏めて戦槌の餌食にする。



「「ごぁ!!」」


「おら!おら!!どうした!!!」



「ぐはっ!」


「ギャッ!!」


ブランは次々と兵士を倒していく。


「くそが!!」


兵士の一人がブランに突っ込む。すると、周りの兵士もそれに合わせ、ブランを取り囲むように襲いかかってきた。


「ハン!甘ぇよ!!」


しかし、ブランは全く動揺しない。そして足に魔力を溜める。


「『アースクエイク』!!」


その足を踏み鳴らすと、ブランを中心に強烈な衝撃波が広がった。


「「「どわぁぁぁ!!」」」


そうして兵士達は吹き飛ばされる。


それを最後に、彼らが襲いかかってくることは無くなった。


「おぉ…何と…」


そう感嘆の声を出すジェンシーをブランは睨み付ける。


「終わりだ。身柄を確保させてもらう!」


ブランはそのままジェンシーに向かってスタートを切る。



しかし、


「ヒョホッ!!」


ブランの戦槌が眼前に迫る中、隠し持っていたボタンを押した。





ガァン!!




「何っ!!」



ブランの戦槌は、突然地面から出てきた透明な壁に防がれてしまった。



「超高密度粒子でできたシールドです…簡単には破れませんよ。」


「くそっ!!」



ブランは何度も戦槌を振るうが、その衝撃はジェンシーに一切伝わらなかった。


そんなブランを横目に、ジェンシーはうずくまり呻き声を出す兵士達を見つめる。


絶対零度の冷たい目つきで。



「…貴方達には失望しましたよ…こうなったからには拒否権は有りませんよ…」


そう言うと右手に持つ杖を掲げる。


「!!もしかしてあれを!」


「どうか!お止めください!!」


それを見た途端、兵士達の顔に焦りが浮かべ喚きだす。


「駄目ですよぉ…ヒョホッ!」


掲げた杖から、激しい光が放たれる。



その瞬間、




「「「「ギャァアア!!」」」」




「「「嫌だぁぁぁぁ!!」」」



兵士達の空を切り裂くような悲鳴が響き渡った。


「何だ!?」


杖の光が兵士達の頭に集まっていく。



「…行きますよぉ…『テット・キャッセ』!」



ジェンシー声が響く。




すると、




パァン!!



兵士達の頭から破裂音が響いた。



そして、先程まで部屋を包み込んでいた悲鳴がなりやむ。



苦しんでいた兵士達が、糸の切れた操り人形のようにバタバタと倒れていった。


「てめぇっ!何を!?」


それを見たブランは思わず声を荒げる。



「何を怒っているのです…?使えないゴミを切り捨てるのは当たり前でしょう?」



そう言いながら怪しげに光る杖を振り上げる。


「でも、こうすればゴミも再利用できるのです!!『テット・セジール』!!」


杖からひときわ強い光りが放たれると、それが兵士達の頭に集まっていく。


そして、


「アァアァアアァ…」


「ウガァァア…」


倒れていた兵士達が起き上がりだしたのだ。


まるで、糸の付いた人形のように。


「ヒョーー!!うまくいきましたねぇ!!」


ジェンシーは恍惚の表情を浮かべる。


「なんだよこれ…」


ブランは兵士達により再び囲まれてしまう。しかし、先程とは違い表情の余裕がなくなる。


「これが私が開発した魔術具の力…さぁ!いきなさい!!」


その掛け声と共に、兵士達が飛び込んできた。


「うおぉ!?」


ブォン!


先程とはまるで違う力で武器を振るってきた。


「くそっ!」


ブランは必死に応戦する。


「『フォルス・ブロウ』!!」


「「「ガァァ!!!」」」


なんとか三人を吹き飛ばす。しかし、



「アァアァ……」


「ツッ…マジかよ…!?」


何食わぬ顔で再び起き上がってきたのだ。


「ヒョホホ…この魔法を受けたものは痛みを感じない兵器となるのですよ…」


ジェンシーは勝ち誇った顔でそう言う。


「何度も何度も…キリがねぇ!!」


ブランは他の兵士も倒していくが、相手の戦力は減らない。


そうしているうちに、ブランの体力には限界が迫っていた。


「アァアアァ!!!」


不意に背後から襲われる。


「しまっ…」


疲れきったブランは反応出来なかった。



背中に激しい衝撃が走った。



「ぐぁぁあ!!」


ブランは宙を舞い、地面に叩きつけられる。


「カハッ!」


受け身もとれず、もろにダメージを喰らってしまった。


「アァアァアアァ…」


「ウウゥウゥ…」


「くそっ…」


ブランは完全に包囲された。


「ヒョホホ…もう終わりですよぉ…」


するとジェンシーは杖を振り兵士に指示を出す。


前に出てきた兵士の手には、杖と同じ光を出すクリスタルがあった。


「とは言っても貴方を失うのはおしい…ここはひとつ、私の人形になってもらいます。」


「なっ…」


「そのクリスタルを埋め込めば貴方も私の意のまま…諦めなさい…」


「ガッ!」


ブランは兵士に羽交い締めにされる。



そして、ゆっくりとクリスタルが迫ってくる。


「く…そ…」


ブランには抵抗するほどの力は残っていなかった。


クリスタルが眼前までくる。


(チクショウ…こんなとこで…)


ブランは目をギュッと閉じる。


もう駄目だと肌で感じる。








しかし、クリスタルがブランに触れることはなかった。








「クギャッ!」





部屋の入り口の兵士が声をだして倒れこんだ。



「ギャ!!」


「ガッッ!!」


「アァッ!」



それ皮切りに、次々と兵士が宙に飛ばされる。


「!!何事です!?」


ジェンシーの顔から余裕が消える。



「グァッ!!」


「キギャッ!!」


そして、ブランを捉えていた兵士やクリスタルを近付けきた兵士も飛ばされる。


「ぐあっ!」


兵士の手を離れたブランは地面に尻餅をつく。


「大丈夫か?」


目の前に手を差し伸べられる。


そこには、逆手持ちにクリスタルナイフを持つシアンの姿があった。


「…間に合ったようだな…」


「…どうしてここが…?」


ブランが聞くとシアンは自分の鼻を指差す。


「潜入前には水浴びをしろと言ったろ?匂いで簡単に追えたぞ。」


「な…なるほど…」


その回答に思わず顔が引きつってしまう。


「な…貴様!まさか“疾風の狩人”か!?」


ジェンシーが驚愕する。


「フン…その名で呼ばれるのも久しいな…」


シアンは余裕綽々な態度で答える。


「ヒョホ…戦場を目視不可能の刃で疾風のように駆ける最強クラスのギルド団員と聞いていましたが…ここまでとは…」


ジェンシーは額に脂汗を浮かべる。


「…しかし、私には不沈の兵士達がいます!やってしまいなさい!」


「「「ウガァァァア!!!」」」



掛け声と共に兵士達がシアンに襲いかかる。


(私にはまだこのシールドがある。それに、)


足元を一瞥する。


(いざとなったらこの脱出ハッチから逃げれば…私だけなら助かる!)


ジェンシーはここから逃れる手段を隠し持っていたのだ。


◇◆◇◆


ブランは目の前の光景に圧倒されていた。


「ギャゥ!」


「ガッッ!」


「ゴアッ!」


1人1人相手するのも苦労した兵士達が、物凄い早さで狩られていく。


「なんだ。手応えがないじゃないか。」


シアンは不満げな声で呟く。


(これが…ギルド教官の実力…)


ブランはシアンの技に魅了されていた。


後ろに迫る兵士に気付かないほどに。



「クゥゥギャァァ!!」


「なにっ!?」


背後に剣型の違法魔術具を振り下ろされる。



しかし、




スパン!




「…油断するな…」


シアンの一閃で兵士の手首が飛んだ。


(全然…見えなかった…)


まさに疾風。シアンの不可視の連撃は止まることがない。


たが、それは同時に相手の兵士も絶えず攻撃してくることを意味していた。


「…想像以上に丈夫だな。」


すると、シアンはブランの手を掴む。


「跳ぶぞ。掴まれ。」


「へっ!?」


シアンはそのまま驚異的な跳躍をする。


「どわぁぁぁあ!!」


そうして、兵士の集団と、シールドを張るジェンシーと挟まれる位置に着地する。


着地したシアンは懐からもう一本のクリスタルナイフを取り出す。


そして、両手のナイフに風を纏わせる。


「いくぞ。『烈風刃』!」


ナイフを振るうと、そこから風の刃が駆けていった。


しかし、それは明後日の方向に飛んでいき、天井に激突し部屋が揺れる。


「ヒョホ!どこを狙っているのですか!!」


ジェンシーは馬鹿にした様な声で言う。


だが、それはシアンの狙い通りだった。


「ブラン!戦槌を天井に投げろ!!」


「はっ!?」


急な提案に思わず混乱してしまう。


「いいから早くしろ!」


「ツッ…わかったよ!!」


早口で捲し立てられたブランは指示のまま戦槌を投げる。


「オラァ!!」


戦槌円を描きながら天井に向かう。



ドォォォオン!



天井にぶつかり鈍い音が響く。


ブランは跳ね返ってきた戦槌をキャッチする。



「チッ…これでどうなんだよ!」


「…すぐにわかる。」



すると、天井からパラパラと小さな石が落ちてくる。



「…はっ!?まさか!!」



ジェンシーはシアンの狙いに気付いた。


「今更か…もう遅い。」






ゴゴゴゴゴ!!!ドォォォオン!!!





部屋の天井が、崩落を始めたのだ。



「「「「「「「ギャァァア!!」」」」」」」



その真下にいた兵士達は1人残らずその下敷きになってしまった。


「なにぃぃぃい!!!」



「何度も起きるなら、動かなくすればいい。」



そう言ってジェンシーの方を向く。


「だっ…だがまだ私にはこのシールドがある!突破は不可能だ!」


ジェンシーは自信の表情を浮かべる。


しかし、


「…そんなに固いなら、これは耐えられるか?」


シアンがナイフを仕舞い、両手をシールドに向ける。


「『空震』!!」



その声と共に、空気がとてつもない振動を持ち、シールドに向かう。



パァァァン!!!



「はぁぁぁぁぁあ!!??」



そして、シールドがいとも簡単に粉々になったのだ。



「何度も強烈な衝撃を当てればいずれ割れる…」


そう言いながらジェンシーに肉薄する。


「なっはやっ…」


シアンの右手がジェンシーの顔を捉える。


「眠れ。『空震』」



「ゴハァッ!」



そして、一瞬にして意識を刈り取った。


◇◆◇◆


「ふぅ…こんなものか。」


地面に横たわるジェンシーにムラサキテンソウを使いながら呟く。


すると、



ゴゴゴゴゴゴゴ!!




今度は天井だけでなく、部屋全体が揺れ始めた。



「…もしかして…もうすぐ崩れる?」



ブランの顔が引きつる。


「そうだな。それに入り口もさっき崩してしまったな…」



「おいぃぃぃい!これどーすんだよ!!」



ブランが声を荒げる。



それと反対に、シアンはいたって冷静だった。



「なに、これを使えば良い。」



シアンは先程までジェンシーが立っていた場所を指差す。


そこには脱出ハッチがあった。


「何度も足元を見ていたと思ったが…こんなものがあったからな。」


そう言ってシアンは勢い良くハッチを開け、スルリと飛び込む。


「はやっ!」


「何をしてる?早くしないと崩れるぞ?」


ハッチの中からシアンが声をかける。


部屋がどんどん崩れていく。



「くそっ!」



そして、ブランはハッチに飛び込んだ。



「走るぞ。付いてこい。」


そこからシアンの先導のもと、2人は外へと走っていった。


◇◆◇◆


「はぁ…はぁ…」


まるで生きた心地がしなかった。轟音の中走りきったブランは地面に横たわる。


「さて…色々言いたいことは有るが…解っているな?」


シアンの冷たい視線が突き刺さる。


「…単独行動して…悪かった…」


ばつの悪そうな顔でそう答えた。


「うむ。謝れるのならいい。今回はまだしも…普段の活動でこういうことはやめろ。部隊の連携が乱れるからな…」


「…ハイ…」


「ただ…敵の本拠地を見つけ内部を半壊させた実力は確かのようだ。よってギルド入団を許可する。」


シアンがあっさりとそう言う。


「……良い…のか…?」


「あぁ。お前の素行は私が叩き直すから安心しろ。」


「……やった…やったぞ!!」


ブランは思わず歓喜の声をあげた。


「そうそう。後もう1つ。」


「?なんだ?」


ブランが疑問を投げ掛ける。


「水浴びの指導も…しないとな?」


シアンがニヤリと笑いそう言う。


それを聞いたブランの顔は真っ赤に染まった。


「ッ!!うるせぇ!それはもういいんだよ!!」


ブランはそう言い返す。



ギルドに入団したは良いものの、ここからどのようにしてこの上司に激しく振り回される事になるのか…想像して頭が痛くなるブランなのであった。
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