ワイルドロード ~獣としての道~

エルセウス

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番外編

戦豹の試練 (前編)

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これはギルド入団前、


シアンの試練に奔走するブランのお話…


◇◆◇◆


シアンに見極めると言われ、ブランはその後をついていった。


マリンシアの心臓部…ギルドシティを出ると、シアンが地図を取り出した。


「これからお前は私の仕事の手伝いをしてもらう。」


「仕事?一体どんな?」


「最近マリンシアでは違法魔術具が流通しているということは知っているか?」


「あぁ…聞いたことあるな…」


「それを取り扱ってる組織の支部を潰しに行くんだ。」


それを聞き仰天する。


「…はっ?」


「なに、不安になることはない。お前の実力があれば大丈夫だろう。」


「…いや、それ部外者の俺に頼んで大丈夫なのか…?」


ブランが訝しげな目線を送る。


「ふん。逆に私のスカウトを受けてこれぐらいも出来ないようでは困るからな。」


それを聞きブランの闘志に火が着いた。


「…ハッ!俺を誰だと思ってんだよ!?やってやるさ!!」


ブランの意地を見たシアンは納得した様な目付きをする。


「流石だな。」


「じゃあさっさと潰しに行こうぜ!その支部ってやつをよぉ!」


ブランがいきりたつ。しかし、シアンが待ったをかけた。


「あくまで掴んでいるのは目撃情報だけだ。まずはそこら周辺を調査するぞ。」


そしてシアンは歩き出す。


「いいか?腕っぷしだけではギルドで活躍など出来ないぞ?」


「くっ…じゃあさっさと終わらせてやる!」


あまり乗り気はしないが、ギルドに入団するためにやむなし後を追った。

◇◆◇◆


「やっと…着いた…」


少し歩くと言いながら1時間ほど山道を登りブランは息を切らす。


目の前には小さな村があった。


「こんなもので息を切らすとは…まだまだだな。」


「う…うるせぇ…」


シアンは表情を一切変えず、村の中に進んでいく。


「ほら、聞き込み行くぞ。早くしろ。」


「はいはい…」


「返事は一度!」


「っ、はい!」


村に入ると小さな民家や畑が幾つかあり、村人は年寄りが多かった。

なんとも穏やかな空気が流れていた。


(こんなとこに情報あんのか…?年寄りしかいねぇし…)


「じゃあ早速行ってこい。聞く前にギルドだって言うんだぞ。」


そう言ってシアンは小さな甘味処に入っていった。


「おい!何でそっち行くんだよ!」


ブランが呼び止める。



「さっさと終わらせるのだろう?私が居なくてもいいだろう。自信も有るみたいだしな。」


「こんの…」


仏頂面なのが余計に腹が立つ。ブランは煮え切らない思いを抱いたまま聞き込みを始めた。


しかし、それは想像より遥かに難しかった。


◇◆◇◆


1時間後、疲れきった表情になったブランが甘味処に戻ってきた。


「随分遅かったな。団子を5本も食べてしまったぞ。」


シアンはそう言って食べきった団子の串を見せてくる。


「…どうしたもこうしたも…」


ブランが苛立ちを隠せないまま話し出す。


「どいつもこいつも耳遠すぎんだよ!1つの質問するのに何十分もかかったぞ!オマケに『若いのはいいねぇ』って言われたと思ったら畑仕事まで手伝わされるし!」


ブランの不満が爆発する。


「そうか。で、何か情報はあったのか?」


しかし、シアンは茶を啜りながら聞き流してしまった。


「…労いの言葉1つぐらい無いのかよ…」


「何を言っている。お前はこれからも酷使するからな。きりがないぞ?」


「…くっそ…」


「ほら、何か聞いてきたのか?」


シアンに成果を求めてくる。ブランはため息混じりに答えた。


「…特に有力な情報は無かった。完全に骨折り損だ。」


「…そうか、なら次の場所だ。」


そう言ってすぐに立ち上がるシアン。


「次はここから30分程の町で目撃情報があった。行くぞ。」


そしてスタスタと歩き出してしまった。


(また…歩くのか…)


ブランは肩を落としながらトボトボとついていった。


◇◆◇◆


「ほら、ここが次の町…『フルドゥー』だ。地脈のハドウを利用した温泉が有名らしいぞ。」


「へつ、ご丁寧に説明どうも!」


歩かされ、聞き込みをさせられ、また歩かされ…ストレスが溜まるのも当然だった。


「じゃあまた聞き込みだろ?今度は一緒にやってもらいますよ…“教官”!!」


声にドスを効かせる。


「…まぁここはさっきの村より広いからな…しょうがない。手伝おう。」


そうして2人は聞き込みを始めた。








しかし、時間が経っても大した情報は得られなかった。


「…ホントにここら辺で目撃されたのか?」


「諜報部隊からの伝達だ…間違ってはいないはずだがな。」


そう言って2人は聞き込みを続けようと町を歩く。すると、道の先に大きな宿が見えた。


荘厳な雰囲気を放っており、いかにも富豪が好んで泊まりそうな場所だった。


「ここなら何か聞けそうじゃないか?」


「ふむ。行ってみる価値は有りそうだ。」



2人はその宿の目の前に行く。だが、扉は閉まっており、臨時休業と書かれた紙が貼ってあった。


「やってないのかよ…」


ブランが溜め息をつく。すると、建物のわきのほうに作業をする人影が見えた。


「?誰かいるみたいだな。」


シアンは人影があった方へ向かう。そこには、小太りの猪の男が居た。

こちらに気付くと申し訳なさそうな表情になる。


「すいまへんなぁ…ちょっと今閉めとってなぁ…」


観光客だと思ったのかそう声を掛けてきた。


「いや、私達はギルドの者だ。」


シアンがギルドメンバーを証明するバッチを見せた。


「おぉ、ギルドの人でしたか…どうかなされたんですか?」


「諸事情でここらを調査しているんだ。」


「そうなんですか…お疲れ様ですなぁ…」


シアンは建物を見ながら質問する。


「見た感じここはこの町の目玉だろう?どうして休業してるんだ?」


「それが…」


猪が理由を話し出す。


「地脈温泉の出が悪くてなぁ…温泉のお湯が張れんのよなぁ…」



それを聞いたシアンの表情が変わる。



「…そうなる前に何か変わったことは無かったか?」


「変わったこと…そう言えば、前にちょっと風貌が違う集団が泊まりにに来ましたなぁ…」


「風貌が違う?」


ブランが聞く。


「えぇ。ここでは殆どの宿泊客が年寄りなんめすがなぁ…随分と厳つい若者が何人も泊まりにきたんよなぁ。」



「…成る程…そいつらは何処へ行ったか分かるか?」


「さぁ…そこまでは…でも『道具の売り上げが良い』だとか『ここら辺は稼げる』みたいなことは大声で言っていましたなぁ…」


シアンの目が確信めいた物になる。


「…そうか、協力感謝する。」


話を聞き終えるとシアンが踵を返す。


「ブラン行くぞ。目星がついた。」


「あっちょっと待てよ!」


そのまま2人は町を出た。


◇◆◇◆


「で、目星ついたってどんなもんだよ?」


ブランが疑問を投げ掛ける。


「あの猪が地脈温泉の出が悪いと言っていただろう?恐らくあれは地脈が傷付いているからだ。」


「地脈が傷付く……ってまさか!?」


「そうだ。恐らくあの場所で違法魔術具の使用があったのだろう。それを使うような厳つい若者も泊まっていたらしいからな。」



「そいつらたしかここら辺で稼げるっつってたよな!?」


シアンが頷く。


「あぁ。その感じだと恐らくこの周辺にまだ居るのだろう。」



「てことは…近くに組織の拠点があるって事か!」


「うむ。稼げると言っていた以上この地域を離れることはないと考えていいだろう。」


それを聞きブランに闘士が宿る。


「よっしゃ!じゃあ早速探そうぜ!」


しかし、シアンが再び待ったをかける。


「落ち着け。空を見てみろ。敵の拠点を探すには暗すぎる…一度夜を明かすぞ。」


確かに空は闇に包まれてしまっている。聞き込みをしているうちに随分と時間が経ってしまったようだ。


「…なんだよ…つまんねぇな…」


ブランが不満そうに呟く。


「あの町の宿は閉まっていたからな…仕方ない。野宿するぞ。」


「…しょうがねぇか…」



そうして2人は野宿が出来そうな場所を探しに出発した。


◇◆◇◆


「ここでいいだろう。」


シアンが足を止めた場所は川が近くにある木が生い茂る場所だった。


「やっと休めるのか…」


ブランは疲れからかヨタヨタと座り込んでしまった。


「…しかし随分と汗臭くなってしまったな。」


シアンがそう呟く。


確かに、山を登り歩き続けると土埃も相まって体が汗と土で汚れてしまっていた。


「潜入捜査をするのにこれではいかんな。」


そう言うと、











シアンは唐突に服を脱ぎ出した。











「はっ!?」





スル、スルと服が落ちていく。






しなやかに鍛えられた豹柄の肢体があらわになっていく。




夜風を受けて揺れる毛並みが、月明かりを柔らかく反射していた。






「おい!何やってんだよ!?」




ブランは顔を真っ赤に染め、すっとんきょうな声をあげながら目を覆う。




「?何って水浴びしようとしてるだけだが?」




相変わらず仏頂面でそう答えた。




「おまっ…だからって…」




「お前も汚れているだろう?早く服を脱げ。背中ぐらい流してやるぞ?」




それを聞き、ブランの顔から火が出る。




「るっせぇ!!!お前1人でやれ!!!」




ブランは声を荒げてその場から一目散に走り去ってしまった。



「…裸の付き合いと言うものは良質な関係を築く物ではないのか…?」



シアンは不思議そうに言った。


◇◆◇◆


「はぁ…余計に疲れちまったな…」


身体の疲労だけでなく、心労まで溜まってしまっていた。。


(しかもここ何処だよ…がむしゃらに走ったせいでわからねぇな…)


しかし動く気力もない。ブランはその場に座り込んだ。



辺りは暗闇に沈んでいる。空には星が輝いており、草木の音が響くほどの静寂に包まれていた。



(ったくアイツも何考えてるかさっぱりだ…上司ってことを信じたくねぇ…)



心の中で愚痴を言う。



そうしてすごしていると、不意に話し声が聞こえてきた。


(…こんな時間に何だ?旅人か?)



ブランは声がした方へ向かう。


「おい!早く歩け!」


「わかってるって…そんな言うならお前も持てよ…」


そこには、ニワトリとトカゲの獣人が言い争っているのが見えた。


ニワトリの背中には大きなリュックが背負われている。


(…なんだありゃ?)


山登りをするのには大きすぎる。不信に思ったブランが後を追う。


「…ちゃんとあそこで動作確認したやつだからな…さっさと売らんとな。」


「あの宿は地脈が良かったな。何機試しても地脈が枯れなかったし。」


(!?…地脈…宿…こいつらか!?)



2人の会話を聞き、今日得られた情報と合致することに気付いた。




考える前に、ブランは2人の前に飛び出した。



「おい!」


「あぁ?」


「なんだ?」


ブランが立ちふさがる。


「…お前ら…違法魔術具の取引してるだろ?」
  

早速話の中心に切り込む。


「はぁ?ガキが何言ってんだよ?」


「言い掛かりか?」


2人は不満をあらわにする。


「やましいことがないってなら…そのリュックの中身を見せて貰おうか?」


そう言うと、リュックをもつニワトリの肩が跳ねる。


「…こいつめんどいな…」


すると、トカゲがニワトリのリュックを引っ張り逃げようとする。


だが、



『グラン・ウォール!』



ブランがそんなことを許すはずが無かったか。足を踏み鳴らし2人の背後に土の壁を作る。


「なっ!」


「しまった!」


退路が絶たれ困惑してしまう。


「…逃げるってことは何かあるってことだよな?」


ブランはニヤリと笑い戦槌を構える。


「くそっ!」


「チッ!」


2人は腰の銃型の違法魔術具に手をかける。しかし、


「遅い!」


ブランの動きには追い付かなかった。



「はやっ!?」



「纏めて吹っ飛べ!」



魔力で上げた腕力から放たれる一撃は、2人を巻き込みフルスイングされた。


「「ぐぁぁぁあ!!」」


強烈な一撃を受けた2人は地面に這いつくばる。


その2人の顔の真横に戦槌をドスンと刺す。


「ひぃぃぃい!」


ニワトリが情けない声を出す。


「てめぇらここら辺に支部かなんか有るだろ。何処にある?」


ブランが強烈な圧をかける。


(なんだこいつ…ヤバすぎる…)


子供の物とは思えない圧を受けトカゲが身震いする。


しかし、支部の者としての意地があるのか


「はっ!言うわけねぇだろクソガキ!」


と悪態をつく。



その瞬間、




ドスン!





「ガハッ…」




ブランが頭に一撃を食らわせる。トカゲは泡を吹いて気絶した。



「吐かねぇ奴に用はねぇ。で、お前はなんか知ってんのか?」


「わかった!吐くから!命だけは…」


早々にニワトリが口を割った。


「知りてぇのはてめぇらのアジトだ。何処にある。」


その問いにニワトリは早口で答える。


「こっこっから先に歩くと小さな山小屋がある!そこの地下だ!」


「山小屋?特徴は?」


「屋根の風見鶏が一定の速度で回っている!見ればわかるはずだ!」



「そうかい。じゃあ眠ってくれ。」



「ぐあっ!」


詳細を聞いたブランはニワトリも気絶させる。


(山小屋か…1回戻ってアイツに報告するか…?)


ブランは引き返そうとする。


その時、脳裏にある言葉がよぎった。



『お前の実力があれば大丈夫だろう。』


『私のスカウトを受けてこれも出来ないようでは困る。』


それはシアンの言葉だった。


「へっ…じゃあ実力証明しねぇとな…」



そう呟き、ブランは夜風が吹き草木が揺らぐ中、1人でアジトに向かった。


そこ胸に絶対的な自信を抱いて。
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