ワイルドロード ~獣としての道~

エルセウス

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1章 ギルドでの日々

第十四話 ファーストミッション!!(後編)

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結界の前で暴れ狂う魔獣達…普通の魔獣との違和感の正体に気付いたルーフは困惑していた。


(こいつら…いったい何なんだよ!?)


魔獣らしからぬ鉄の鎧…オーワンとよく似た目…余りの情報量に混乱してしまう。


そして、




バァァァァン!!!




「くそっ!!」





結界が破れる轟音でルーフは我にかえった。



『グルルルル…』


『グガァ!!』


魔獣達の咆哮がこだまする。


「やるしかないか…『アームポイント、ライズ』!!」


ルーフは魔力を溜め迎撃の準備をする。


「ここから手をひいてもらうぞ!」


そしてルーフは魔獣達に突っ込んだ。



◇◆◇◆


ルナと海斗の持ち場でも激しい戦闘が繰り広げられていた。


蒼いオーラを纏った刀で、海斗は踊るような剣舞で魔獣達をあしらう。


「おかしなもん着けとるが…たいして変わらんなぁ!!」


次々と魔獣達をなぎ倒していく。

すると、不意に3体の魔獣が海斗を取り囲むように3方向から遅いかかってきた。


『『『グラァ!!』』』


しかし、海斗はすぐにそれに反応する。


「甘いわ!!」


その声と共に今まで振るっていた刀を鞘に収める。


食い殺さんと広げられた口が迫る中、魔力を高めていく。


「『翡翠流技…居合い…』」


魔獣の牙が海斗の頭上に迫る。


だが、その牙が海斗に届くことはなかった。


「『霞切り』!!」



ズバン!



『『『ガァァァ!!』』』



溜めに溜めた一閃は目にも止まらぬ早さで魔獣の首を両断した。


「どんどんこいや!こっから先は進ませへんで!!」


海斗は魔獣の血を滴らせる刀を掲げ、魔獣達を威嚇した。









「これ以上…進ませないんだから!!」


ルナも必死に魔獣達と応戦する。


『グゥウウ!』


『ヴァルルルル!!』


「こんの…大人しくしなさい!」


縦横無尽に走り回る魔獣達に、思わず声を荒げる。


「『花炎・桜火!枝垂桜!!』」


手にした神楽鈴から桜の花びらを繋げた形をした鎖が幾つもの飛び出す。


そしてその鎖が魔獣達に絡まっていき動きを止める。

『グウゥ!』


『ギャアス!』


鎖の火に焼かれる魔獣が苦しそうな声をあげる。


「とどめよ!『爆』!!」


『『ギャァァァア!!!』』


そのままルナの声と共に爆発が起き魔獣達が木っ端微塵になる。


「まだまだいくわよ!」


ルナは更に魔力を溜め魔獣達を牽制した。


◇◆◇◆


「食らえ!『ハドウガン』!!」


『ギャッ!!』


ルーフはひたすら目の前の魔獣達に食らいつくように攻撃していた。


「『チャーグル・スピア』!!」



『ガァァァ!!』



(くっそ…きりがない!)


先程から魔獣をひたすら狩っているが、襲いかかってくる数がいっこうに減らない。


何時までもつか…息を切らせながら考える。


すると、



『ガァァァァァア!!!!』



「何だ!?」



空気をビリビリと震わせる程の咆哮が夜空を切り裂いた。


声のした方を向くと、そこには他の個体よりも1回り以上大きく猛烈な殺気を放つホウセキオオカミが佇んでいた。


(あれ…リーダー個体か!?)


『ウォォォォォォォン!!!!』



激しい遠吠えが響き渡る。



「ルーフ!!」


「海斗!ルナ!!」


声を聞きつけた2人が駆け寄る。


「あれがリーダーね…」


「何てでかさや…」


そして、あまりの威圧感に圧倒されてしまう。


『ウォン!!』


「ツッ!!来るぞ!」



短く吠えるとすぐに魔獣が飛びついてくる。


それは他の個体のものより遥か上をいく威力だった。




ドォォォォン!!!



「ぐっ!」


「うわぁ!!」


「キャアア!!」


衝撃で3人は吹き飛ばされてしまう。


そしてすぐに追撃が飛んでくる。



「シィィィ!」



海斗が何とか受けとるものの、刀がミシミシと音をたてる。



「離れなさい!!『花炎・鳳仙火』!!」


ルナがすかさず攻撃を魔獣の手に飛ばす。



ボォォン!



直撃だった。しかし、魔獣には傷ひとつ付いていなかった。


「嘘でしょ!?」


「くそっ!やめろ!!」


それを見たルーフはすぐに海斗から魔獣を引き剥がさんと駆ける。


だがそれは魔獣に気付かれてしまう。



『グガァ!!』


「何っ!?」

そして、海斗を刀ごしにルーフの方へ吹き飛ばしてしまった。


「ぐぁ!」


ルーフはそのまま海斗と激突してしまう。


2人は地面に叩きつけられてしまう。


「ルーフ!!海斗!!」


ルナはすぐに駆け寄る。



「ぐ……あいつ…強いで…」


「攻撃が全く効かない…」


2人は頭を押さえながら立ち上がる。


『ガァァァア!!』



すぐに魔獣の咆哮と足音が響く。


こちらを狩り尽くさんと殺意を剥き出しにして向かってくる。


「ここは撤退よ!『花炎・紫陽火!花夜霧!』」


ルナが火の玉を地面に投げつける。


すると、ボン!という音と共に辺りに紫の煙幕が広がっていった。



『グウ!?』



「今よ!見失ってる内に!」


そして3人は魔獣の攻撃圏内から逃れようと必死に走り出した。


◇◆◇◆


「ハァ…ハァ…」


「ここまで来れば…すぐには来ないはずよ…」


3人は木に寄りかかり身体を休ませる。


「あれ…なんなんや…鎧を着た魔獣なんて聞いたことないで…」


海斗は肩で息をしながら呟く。


「おまけに他のよりも戦闘力が段違いね…攻撃も効かないし…」


「あの爪の攻撃も受けたらひとたまりもないよ…」


鉄の鎧で強化された一撃は、地面を抉り、生々しい跡が残る程のものだった。


「どうにかしてあいつの攻撃をかいくぐってダメージを与えないと…」


「そんなこと言ったってな…正面からじゃ勝ち目ないで…」


3人は頭を抱えて考えこんでしまう。


「動きも速いしね…」



「はぁ…何か罠みたいなのでこう…ガチッと捕まえてられへんかなぁ…そうすりゃ全員で袋叩きに出来るのに…」


「罠…」


海斗の何気ない一言にルナが反応する。


そして、ある考えが浮かんだ


「………ねぇ…これならいけるんじゃない?」


それはこの状況を覆す逆転の一手になる可能性を十分に秘めていた。


◇◆◇◆


『グルル…』


魔獣はルーフ達の臭いを辿り彼らを探していた。


その目には明確な殺意を宿して。


その時のミカン畑は草木も眠るほどに静まり返っていた。



しかし、その静寂はすぐに破られることになった。


「『ハドウガン』!!」


『ガウッ!?』


不意に木の陰からルーフが飛び出した。


しかし、魔獣は反応。紙一重でそれをかわしてしまう。


「こっちだ!かかってこい!!」


ルーフが魔獣を挑発する。


『グラァ!!!!』


それにのった魔獣の連撃がルーフの背中を掠める。


「当たらねぇよ!!」


追われながら攻撃をされるのはウチミズザリガニで経験済みのルーフにはそれは通用しなかった。


「『チャーグル・スピア』!!」


振り向きざまに棍棒から閃光が走る。


「グルゥ!!」


しかしそれは鋼の爪に弾かれる。攻撃が通用しないのはルーフもまた同じことだった。


(やっぱり効かねぇか…このままじゃジリ貧だ…)


「時間を…稼がないと…!」



ルーフは変幻自在に魔獣を揺さぶる。しかし、体力の限界が近づいてくる。


『ガァ!!』


「!!」


魔獣の爪が脇腹を切り裂いた。


「ガハッ…」


ルーフの足が止まる。


脇腹から血が滴り落ちる。


(ヤバイな…キツイ…)


歯を食い縛りながら魔獣を睨む。


すると、


『ルーフ!!準備出来たわ!!ポイントまで走ってきて!!』


「!ルナ!」


バッチからルナの声が響く。



「よし!」



ルーフは再び走る。先程とは違い、直線的に駆け出した。


『グルゥ!』


魔獣もそれを愚直に追う。


「ルーフ!こっちや!!」


そして、目の前に海斗の姿が見えた。


「うぉぉぉお!!」


更に加速する。足のハドウの鎧が激しく音をならす。


それに魔獣も食らいつくように加速した。



(まだ…)


走る。


(まだだ…)


ただひたすらに走る。



「今だ!!」



そう叫んだ瞬間、ルーフは跳躍する。






跳躍したルーフの真下にはミカンの皮を捨てるための大きな穴があった。







「落ちろ!!」


あの加速でギリギリまで引き付けた。最早反応することは不可能だと感じられた。



しかし、


『ガルラ!!』


「何っ!?」


この魔獣の反応速度は伊達じゃ無かった。


穴の淵スレスレで足を止めルーフを追うように跳躍した。


「しまっ…」


そして、その爪がルーフの背中越しに心臓を狙う。








だが、まだ窮地を脱する策は残っていた。








「ルーフ!!棍棒を出して!!」


突然ルナが声を出す。


「ツッ!!」


ルーフは棍棒を突き出す。すると、そこに桜の鎖が巻き付いていった。


「引っ張るでぇ!!」


海斗がルナごと鎖を引く。


「うわぁ!?」


『ガウ!?』


それによりルーフは前に引かれ、魔獣の爪が空を切った。


攻撃を外した魔獣はそのまま地面に降りたとうとする。


そして、爪が地面に触れた。


その瞬間、





ズボッ!!





『ガッ!?』





地面のはずだった場所に大きな穴が開いた。





『ガァァァア!!』





そのまま頭を穴の底に激突させてしまったのだ。



「決まったわね!!」



「ルナ…これって…」



「ブルーシートを落ち葉で隠した落とし穴よ!!罠は2重に仕掛けた方が良いってミングさんが言ってたからね。」



そう言って両手を地面につける。



「これだけじゃないわよ!!」



その声と共に手をついたとこに魔方陣が浮かび上がる。



「穴の底の発火魔法…利用させてもらうわ!」



次の瞬間、



『ギャァァァア!!!!!』



耳をつんざく魔獣の悲鳴が響き渡った。



紅蓮の炎が魔獣を包み込んでいたのだ。


「海斗!今よ!」


「わかってるで!」


海斗が刀に蒼いオーラを纏わせる。


「はぁ!」


そして回転し渦を巻きながら上昇していく。


そのまま熱さに悶え苦しむ魔獣の真上をとった。





「そんなに熱いなら冷ましてやるで…『翡翠流技!滝壺落とし!!』」





振り下ろした刀から斬撃を纏った渦が魔獣へ物凄い勢いで強襲する。





『グガァァァァァ!!!』





鉄の鎧は熱により溶けてしまい、元の役割を果たせなくなっていた。





無慈悲に襲いかかる斬撃の渦になすすべなく削り取られてしまった。





「ワイらの…勝ちや!」





海斗の勝利宣言が夜明けの薄明かりに照らされるミカン畑に響き渡った。


◇◆◇◆


「いやぁ…最後まで骨がおれたな…」


そう言いながらルーフは肩を回す。


「ホントホント…」


「あんなんもう相手したないわ…」


依頼を終えたルーフ達は帰路についていた。


「それにしても…何でアイツ鎧なんて着けてたんだろな?」


「んー…何でかは分かんないけど…でも自分で着けるわけないわよね…」


「誰かが着けたってこと?」


「そうね…目的はハッキリしないけど…」


「取り敢えずシアンはんに報告やな。」


「うん…」


そんな会話の中、ルーフには未だ胸に引っ掛かる物があった。


(オーワンそっくりな…まるで血が通ってない様な目…)


頭の中でその情景がグルグルと回り続ける。


(人間のテクノロジーじゃないと再現不可能なオーワンと同じ…一体何が起きてるんだ?)


自分が戻るべき人間の世界…それがこの世界にどう関係しているのか。暫くの間、ルーフの胸のざわつきが抜けることは無かったの。
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