ワイルドロード ~獣としての道~

エルセウス

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1章 ギルドでの日々

第十三話 ファーストミッション!!(前編)

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「おーいルーフ!そろそろ出るでー!」


朝の道場の中には海斗の快活な声が響き渡る。


「わわっ!ちょっと待ってて!」


ルーフは焦りながらそれに答えるが、その声はどこか弾んでいた。



それもそのはず。今日ルーフは初めてギルド団員として仕事をする日なのだから。

それに、いずれ自分の記憶の手がかりが見つけられるかもしれないと思うと俄然やる気もでる。


「師匠ー!行ってきます!」


「おぉ。気を付けるんじゃよ。」


ルーフ達は勢い良く扉を開け放つ。


そのときの空は雲1つないほどの快晴で、爽やかに吹き付く風が彼らの背中を押した。


◇◆◇◆


「皆ー!おはよう!」


「おはようさん。」


ギルド本部のホールに行くと、そこには病室で顔を見た面子が揃っていた。


「あっ!やっと来たな!」


「おせぇぞ…」


ルナが返事をする横ではブランはため息をつく。


「おっはよー!」


「お…おはようございます…」


ライトが元気な声を出す一方で、フータは相変わらずおどおどした声で挨拶をする。


「…これでも全員揃ったな。」


その後ろにシアンの姿もあった。


「よし。じゃあ今日の事について色々話すが…その前にこれを渡しておく。」


すると、ルーフ、ルナ、ブラン、フータにギルドの紋章…2本の剣を交差して構える龍の刻印が刻まれたバッチを渡された。


「それがギルド団員の証明になる。裏にあるボタンを押すと他の団員と連絡がとれるようになっているから有効活用するように。」


そう言ってシアンは手元の資料を捲る。


「じゃあ本題に入るぞ。前に言った通り、今日はこのメンバーで初めての外部活動だ。お前達には幾つかの依頼を受けてもらう。」


そして1枚の紙を掲げた。


「そして依頼だが…これは主にE~Aの5つのランクに別れている。
 Eランクは草むしりや子守りなど…まぁ便利屋の様な物だ。
Dランクは小型、中型の魔獣の討伐等をする。
Cランクは大型魔獣や少人数の獣人を相手にする依頼になる。
Bランクは中規模の獣人犯罪組織を壊滅させたりする少し危険な物だ。
そしてAランク…これは紛争地帯等の非常に危険な土地に向かう様な内容になる。」


早口でスラスラと説明を終わらせると、6人の方を見つめる。


「取り敢えず今回の目標は今説明したE~Cランクの依頼を1つずつこなしてもらうぞ。
…それじゃあここから班別行動をする。ルーフ、ルナ、海斗の3人は私と行くぞ。」


「……あ?じゃあ俺達はどうすんだ?」


シアンの言葉にブランは疑問を持つ。


「安心しろ。お前らは…」



「この俺と行くからな!」


すると、シアンの言葉を遮り唐突にカワウソの男が現れた。首にはゴーグルを提げており、背中には大きなサーフボードを背負っていた。


「オッター…部下の前で遅刻とはな…」


「スマンスマン…寝坊しちまってな…」


そう言いながら、オッターと呼ばれた男は寝癖のついた髪をボリボリとかく。


「…はぁ…紹介する。ライト、フータ、ブランの班につく教官の…」


「オッター・シュルフだ!よろしくな!!」


そして再びシアンの言葉を遮り元気溌剌な声を出した。


「ったく…じゃあ改めてここから班別行動だ。ルーフ、ルナ、海斗、行くぞ。」


「「「ハイ!」」」



そして、ここから彼らの初仕事が始まった。


◇◆◇◆


ルーフ達は、シアンの先導で本部のホール中心部…巨大なボードの前に出た。


そこには地図や魔獣らしき物の写真など様々な資料がところ狭しと貼り付けられていた。


「これがクエストボードだ。ここに依頼が集まってくる。」


そう言いながらボードから何枚かの資料をとる。


「…ここら辺の物が丁度良いだろう。やりたいものを選べ。」


そして、その資料をルーフ達に手渡す。


「…こんなに依頼がくるんだ…」


「そりゃあギルド本部やもんな。」


「種類も中々の量ね…」


「じゃあ3つ依頼がすんだら戻ってこい。私はここで待ってるからな。」


「えっ!?一緒に来てくれないんですか?」


ルーフがそう言うとシアンは鼻を鳴らす。


「フン。お前らはもうギルドの一員だ。海斗もいるし自分達で行動してみろ。」


そう言い放つと、シアンは尾を揺らしながら去っていった。


「…いっちゃった…」


「気にせんでええで。あのヒト何時もあんな感じや。ワイら信じてくれてるからああするとワイは思うけどな。」


呆然とするルーフに海斗がため息混じりに呟く。


「やっぱ猫獣人は自由奔放ね…」


ルナの声もどこか呆れている雰囲気だった。


ルーフ達はシアンの背中を見送り、受け取った資料の束とにらめっこを始めた。


◇◆◇◆


時計は午後の3時を指していた。


出発した早朝の時間と比べると、街には多くのヒトが出ており活気に溢れている。


公園で遊ぶ子供の声、鍛冶屋の親分の怒号、ひたすら安売りを宣伝する肉屋の店員…様々な音が重なりあっていた。


しかし、その中で静まりかえるヒト達がいた。


ルーフとルナは疲れきった様子でベンチに腰を下ろしていた。


「…ヤバイ…めっちゃ疲れた…」


ルーフはだらしなく足を広げ投げ出している。


「そーね…覚悟はしてたけどここまでとはね…」


その隣でルナも汗を拭う。


「ってかあれ完全に罠でしょ!?ちゃんと書いといてくれよ!」


「まさか行ったら10人兄弟が待ち構えてるとはね…」


ルーフ達はEランクの依頼の中で特に報酬が良かった子守りの依頼を受けた。依頼書には兄弟の世話を正午までしてほしいというシンプルな内容が記されていた。


しかし、現場に行くと、そこには遊び盛りの10人のカンガルーの子供がいたのだ。


「おにーちゃんどこから来たの?」


「おねーちゃんその髪飾り可愛いー!」


「ねーねー遊ぼーよー!!」


ルーフとルナは飛び回り走り回る子供達にすっかり振り回されてしまった。


「その後も中々ひどかったわよね…」


「ホントだよ!もう足パンパン…」



彼らは2つ目に選んだ依頼は、家畜魔獣の世話だった。


先の反省を生かし、報酬が少ないものを選んだが、待っていたのは壮絶な力仕事であったのだ。


餌や重い器具をひたすら運んだり、放牧施設から逃げ出してしまった個体を全力で追いかけたりと、報酬に合わないと抗議したくなるほどの苛酷さに疲労困憊してしまった。



そうして2人で駄弁っていると


「ひゃっ!?」


「うわっ!?」


不意に2人の頬に冷たい刺激が刺した。


咄嗟に後ろを振り返ると、竹の容器に入ったドリンクを持つ海斗の姿があった。


「2人ともお疲れさん。やっぱ慣れないうちはつかれるからな。ほら、先輩からの餞別やで。」


そしてそのドリンクを2人に差し出す。


「あ…ありがとう。」


中身はわからなかったが取り敢えず飲んでみる。


口の中に甘酸っぱい味を感じると共に喉に清涼感が走り、乾いた身体を潤していく。


「…美味しい…」


「ルーフは飲むの初めてのやったな。これは『ポカリダケ』っていう竹や。中の液体が疲労回復にいいんや。」


「へぇ…」


その味にルーフはどこか懐かしさを感じた。


「しっかし海斗は手慣れてたわね。殆ど息あがってなかったし。」


そう言ってルナは海斗を羨む様な目線を送る。


確かに最初の現場では、海斗は子供をあしらいながら子供達のおやつを作るという技を見せ、次の現場でも山の中まで逃げてしまった家畜魔獣を2匹脇に抱えて山を下ってきたのだ


「まぁこれは慣れの問題や。とにかく最初は数こなすのが大事やで。」


「まぁそうよね…」


そうして過ごしていると、身体の疲れが幾分良くなった。


「じゃあそろそろ次の依頼を探そっか。」


ルーフは依頼書を広げる。


「もうさっきみたいのはごめんよ…」


「時間も時間だしね…あっ!これとかどう?」


そして、ルーフは1枚の依頼書を引き抜く。


「“ミカン畑を魔獣から守って欲しい”…成る程な。ええんちゃう?」


「そうね。時間指定も夜だし。」


「うん。これにしよ!」


こうしてルーフ達は軽くなった腰を上げ、新たな現場へと向かった。


◇◆◇◆


街を出て20分ほど歩くと見える山を登る。木々やうっそうと繁る草を掻き分けて進むと、目の前にミカン畑が広がってきた。


「地図から見て…ここで間違いないわね。」


「じゃあ行くで。」


そう言って海斗が近くの小屋の扉を叩く。


「…どちらさん?」


すると中から高齢のヒヨドリの男が出ててきた。頭にはタオルを巻いていていかにも農業を生業にしているという雰囲気を纏っていた。


「依頼を受けにきたギルドの者です。」


そう言って海斗が胸元からギルドのバッチを出す。


「あぁ。来てくれたんですか!どうぞこちらへ…」


そしてルーフ達はミカン畑へと案内された。


◇◆◇◆


「いやはや…こんなのとこまで来てくれて感謝しますよ。」


ミカン畑を歩きながらヒヨドリの男が話す。


「いえいえ。仕事ですからね!」


それにルナが答える。


「あっ!そういえば自己紹介まだでしたね…私はミングと言います。」


「私はルナです。こっちが海斗でその隣がルーフって言います。」


「そうですか、本日はよろしくお願いいたします。」


そうして自己紹介を終わらせると、ミングが本題について話し出した。


「今回お願いしたいことですが…恐らく今日来るであろう魔獣の群れを倒して欲しいんです。」


「魔獣の群れ……ここら辺だとホウセキオオカミとかやな?」



「ええ。奴等はこの時期になると餌を求めてここを襲いに来るんですよ…」


ミングは溜め息混じりにそう言う。


「今までもこうしてギルドのヒトを呼んでたんですか?」


ルーフが疑問を投げ掛ける。


「いや…いつもは知り合いの魔術師に結界を張ってもらってるのですが…少し前にそれが破られてしまったんです…今までこんなこと無かったのに…」


「どんな結界を張ってたんです?」


ルナが聞く。


「二重の不可視の結界です。1段目は弱い電流が流れるもので、2段目は触れただけで強い衝撃が出るものです。1段目を破って油断した魔獣は結構かかるんですよ。」


「確かに…小さな罠を破らせれば2つ目の罠は気付かれにくいですもんね。」



そうして歩いていると、不意にミングが足を止めた。


「破られたのはここです。」



そう言って指を指されるが何も見えない。


「私が視るわ。」


ルナが両手を虚空を向ける。

そしてその手にわずかに魔力の粒子が集まっていく。


「…ここだけ魔力が薄いわね…破られたのはここだけ?」


「はい…他は安定してるので…」


「じゃあここだけ少し修復するわ。」


「!そんなことが…」


「私これでも結界魔術は得意なの。任せてください!」


そうしてルナは魔力を集め作業を始めた。


◇◆◇◆


「よし…こんなものかしら。」


ルーフと海斗の目には見えないが、修復は完了したらしい。


「じゃあ1度戻りましょう。群れを相手にするとなると作戦が必須ですから。」


そう海斗が提案する。


「それもそうですな。私の小屋に行きましょう。」


そうして一行は小屋の方へ足を向ける。


そのまま歩いていると、ルーフがあるものを見つける。


「あの…あそこの穴って何ですか?」


ルーフが指差す方を見ると、地面に大きな穴が幾つかの空いていた。


近づいて中を覗くと、薄く魔方陣が敷かれているのが見えた。



「それはミカンの皮を捨てる穴ですよ。ミカン狩りにきたヒトがすぐに捨てられるようにね。」


「あの魔方陣は?」


ルナが聞く。


「あれは触れたものを発火させる魔方陣ですよ。皮を燃やせば肥料になりますから。」


どうやら客が捨てた皮をすぐに肥料に変換するという装置らしい。


「最近は魔獣が来るせいでミカン狩り出来ないんですけどね…」


そう言いながらミングはハハハと諦めが混じった笑いをする。


確かにミカン畑を見渡すと落ち葉が散らかっていたりブルーシートが無造作に置いていたりととても客が来るような環境ではなかった。


「またお客の声を聞きたいものですよ…」


そう呟くミングの目にはどこか寂しさを感じさせた。


◇◆◇◆


時は夜の11時をまわった。


作戦会議を終えたルーフ達はそれぞれの持ち場についていた。


ルーフは先程やった作戦会議の内容を思い出す。


『奴等の群れにはグループがあります。もしそれらが同時に襲ってきたらひとたまりもありませんな…。』


『それやったら全員で手分けした方が良さそうやな。』


『えぇ。あと群れにはリーダーがいるはずです。下っ端を倒せなくてもそいつさえ倒せば恐らくここから手を退くはずです!』


『そのリーダー個体に特徴はある?』


『リーダーは他の個体よりもかなり大きいものなので見たらすぐにわかるはずです。』


『なるほど…それだったら見つけたヒトが信号かなにか出すようにしよう。』


『それでいきましょ!』






(…リーダー個体…一体どんなヤツなんだ?)


かなり大きいといっていたが、通常の個体でも充分な威圧感を持っていることをルーフは体感している。


そんな事を考えていると、



『グルルルル……』


「ツッ!!…来やがったか!」


ルーフが見る方から、猛獣のうなり声が聞こえる。


ルーフは咄嗟に団員バッチに備えられた連絡機能を使う。


「海斗!ルナ!こっちから来たぞ!」


『生憎やがこっちからも来とる!』


『一斉に襲いに来たみたいね…』


どうやらルナと海斗のいる方角からも魔獣が姿を現したようだった。


『とにかく奴等を追っ払うんや!いずれリーダー個体も現れる!それまで持ちこたえるんや!』


「ツッ!!了解!!」


『ガァァァア!!!』


「!!!」


通話を切った途端、魔獣達が結界に突っ込んでくる。


結界がガンガンと強く叩かれ、ヒビが入っていく。


(おいおい!!なんつう力だよ!!)


鬼の形相で迫る魔獣。


すると、ルーフの目におかしなものが映る。





(…あれは…)





魔獣の爪や身体に鉄の鎧がついていたのだ。


異変を感じ魔獣の目を見ると生気と怒気が宿る右目と違い、左目は無機質な赤い光を放っていた。


その光にルーフは見覚えがあった。


(あの目…暴走したオーワンにそっくりじゃないかよ!!)


それは、以前戦った謎の存在、オーワンの不気味な目に酷似していたのだ。


「くそっ!訳わかんねぇ!!」


ルーフは言葉を吐き捨て、臨戦体勢をとる。


目前の魔獣達は牙をギラつかせ、全てを貪らんと大きな口を開け暴れ狂っていた。
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