ワイルドロード ~獣としての道~

エルセウス

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1章 ギルドでの日々

第十八話 歌姫のキャンバス(前編)

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「ヤッパリキテクレタノネ!クールボーイ!!」


「ロ…ロゼッタさん!?」


初対面の時の様に激しいハグが飛んでくる。
ルーフ達を指名した依頼主、その正体はロゼッタであったのだ。


「うわぁ…本物だ…。」


「想像よりずっとキレイだな…。」


ウェルザ兄弟も思わずその美しさに魅せられてしまう。


「…あの…そろそろ良いですか?」


部屋の端からクリスチャンの声がする。


「そろそろ依頼の説明をするので…どうかこちらへ。」


そうして彼等はソファに座らせられた。


◇◆◇◆


「で?こんな歌姫さんがどうして俺らに依頼なんかしたんだ?」


ブランがぶっきらぼうに聞く。


「それは…これが送られてきたからなんです。」


するとクリスチャンがポケットから1枚の紙を出した。


「…手紙?」


「そうです。しかしこれの中身が…。」


クリスチャンが折られた手紙を捲る。


「…これって…。」


『ワタシ情熱を汚した罪、万死に値する。この舞台で紅蓮の弾が心臓を喰らうだろう。呪いを解きたくば、2度と演舞をしないと誓え。』


「脅迫文章ってやつか…」


ブランが苦虫を噛み潰した様な顔になる。


そして、クリスチャンが真剣か面持ちになる。


「はい…。その為貴方達には今日から公演までの3日間、ロゼッタ様の護衛を頼みたいのです。」


「護衛…ですか…。」


しかしルーフの頭に1つの疑問が浮かぶ。


「でもこんな危険な状況で何で俺たちに?シアンさんとかの大人の方が…。」


「それもそうです。しかし急に大きな護衛を付けてしまっては犯人の警戒を煽ってしまいます。」


「つまり、ワイらで護衛することで犯人の尻尾を出しやすくさせるってことやな。」


海斗が結論に気付く。


「左様でございます。」


そう言うとクリスチャンがソファから立ち上がる。そして、ルーフ達に対して深々と頭を下げた。


「危険だと言うことは百も承知です。でもロゼッタ様が認めた実力者がいる貴方達にお願いしたいのです!」


それを聞いた海斗は笑顔で言葉を返す。


「お任せ下さい。ワイらでその犯人とっちめますから、ご講演に集中して下さい!」


その言葉はロゼッタとクリスチャンに大きな安心感を与える物であった。


そこから彼等は別れて行動することになった。


ブラン、ライトは劇場周辺の警備。


フータ、ルナは劇場の手伝い兼警備。


そして海斗、ルーフはロゼッタの周辺警備をすることになった。


◇◆◇◆


『おいライト。何か見付けたか?』


ライトのバッチからブランの気だるそうな声が聞こえる。


「いや、何もない。フータが作った探知結界にも変な魔力は映ってない。」


ライトは劇場の尖塔の上に立って周りを見渡していた。


高所に吹く強い風がライトの服をバサバサと激しく揺らす。


『しっかしよくそんな所で立ってられんな。流石鳥人。』


「ハハ。風を読むのは得意だからな。そっちには何か変化ある?」


『いーや何にもねぇ。裏のごみ捨て場とか見たけど怪しいものは無かったな。』


「りょーかい。さっさと尻尾出してくんねぇかな…。」


ライトは退屈さのあまり欠伸がでてしまった。


街にはいつものように多くのヒトに埋め尽くされてはいたが、平和一色の景色に見えた。


だが、


「フヒヒ…ロ…ロゼッタちゃん…。」


小さな怪しい影が混じっていた。


◇◆◇◆


その頃、フータとルナは劇場の舞台にいた。


「…こんな感じですか?」


フータは風魔法で舞台セットを積み上げていった。


「随分量あるわね…」


ルナも少し文句を言うものの軽々思い装飾品を動かし舞台セットを作り上げていく。


「…こりゃすげぇな。ウチに欲しい」


「やっぱ便利だな。魔法って。」


周りの作業員から称賛の声が聞こえる。


すると、


「ダハハ!良い魔法じゃないか!!」


地を揺らすような大きな声と、


「ホントね…。美しい絵になりそう…。」


恍惚に満ちた透き通った声が聞こえてきた。


声の方を向くと、がっしりとした巨体のイノシシの男と、華やかな化粧をしたダチョウの女性の姿があった。


「おめーらがクリスが言ってたやつらか?」


イノシシが大声で聞く。


「はい…。」


フータがおずおずと答える。


その瞬間、


「んまぁ!なんて可愛らしいのかしら!?」


「えっ?」


ダチョウの女性が勢いよくハグした。


「すんごいいい素材!メイクしたいわぁ…。」


「えっと…あの…。」


フータが困惑していると、不意に首の後ろを持たれひょいと持ち上げられ、熱烈な抱擁から逃れた。


「ほらアトゥル。困ってんだから止めろ。」


ダチョウの女性…アトゥルからフータを引き剥がしたのは先程のイノシシの男であった。


子供とはいえ、フータを片手で軽々と持ち上げている。


「あぁんごめんなさいサングリー。私つい…フータちゃんもごめんねぇ…。」


「い…いえ…。」


サングリーと呼ばれたイノシシはフータをゆっくりと下ろす。


「コイツはいつもこんなんだからな。まぁ慣れてくれ。」


そう言うと改めて2人はフータ達に向き直る。


「俺はサングリー。舞台装置の諸々を担当してる。」


「私はアトゥル。装飾とメイク担当よ。」


そして簡単な自己紹介を済ませた。


「そんでもって…お前ら手伝いだろ?やって欲しい事がたくさん有るんだよ!」


「フフッ…もっとキレイにしてもらうわよ?」


2人が笑みを浮かべながら舞台の袖を捲る。


そこには恐ろしいほどの量の舞台セットや装飾品が置いてあった。


ハリボテの様なセットや荘厳な宝石で飾られたライトなど、種類も多用であった。


「え…?」


「これ…全部?」


フータとルナは思わず絶句してしまう。


「いつもだったら全部確認込みで何日もかかるが…お前らがいれば明日のリハーサルに間に合うな。」


「さぁさぁ早速やるわよ?気合い入れなさい!!」


アトゥルが硬直した2人の手を引く。


そうして2人は壮絶な現場に身を投げることとなった。


後にルナは神楽鈴、フータは魔術杖で筋肉痛になるのは初めてだと語ることになる。


◇◆◇◆


そしてルーフと海斗はというと、


「…これはどういう…。」


「ネェコレトカドウ?」


「良いんちゃいまっか?どんどんやってみましょ!」


街のブティックにて、ルーフは海斗とロゼッタに着せ替え人形の如く服を脱ぎ着させられていた。そして今は何故か女物の服を着せられている。


宝石が散りばめられたカチューシャ、フリルの付いたスカート、透き通るような白いハイヒール…。さながら王族の姫の様だった。


「ヤッパリチュウセイテキナカオダカライケルネ!」


「ごっつ似合うなぁ…。それ着て外歩くか?」


「歩くか!!」


海斗の提案に思い切り反発する。


こうなった経緯は小 一時間程前に遡る。


◇◆◇◆


海斗、ルーフ、ロゼッタの3人は楽屋で話していた。


「舞台にその街の物を取り入れる…ですか。」


「ソウ!ソレガワタシノ“リューギ”ッテヤツネ!」


するとロゼッタが1枚の地図を取り出す。


「ダカラコレカライロンナオミセヲヨリタイノ!タクサンカッテアトゥルトゲンセンスルノ!」


どうやらこれから店をまわりたいから護衛を頼みたい。という事だった。


すると、


「ソレトルーフノイショウモミツケナイトネ?」


「そうですね……へ?」


ロゼッタから唐突な提案があった。


「コンカイノブタイコヤクガタリナイノヨ。ホントハスカウトシヨウトシタンダケドネ!」


ロゼッタに星のように輝く目を向けられる。その奥にはノーを言わせない様な圧を感じた。


「いや…いきなりそんなこと言われても…。」


ルーフは海斗の方を助けを求めちらりと見る。


しかし、


「…良いんちゃいます?」


「海斗ぉ!?」


期待とは180度違う答えが返ってきた。


「こんな女優はんと共演できるなんてなぁ…。気張れや!」


「…そんなぁ…。」


海斗の尾は楽しそうに左右に揺れていた。正に猫の気まぐれという物であったのだろう。


◇◆◇◆


時は服屋に戻る。


「……因みに俺はどんな役なんです?」


少し不満げな声でルーフは聞く。


「ソンナムズカシイヤクジャナイヨー。ワタシノコドモヤクダケドネ。」


「それ結構重要じゃ…。」


「今回の舞台って“レヴォ・ホワイト”ってやつやろ?確かにまぁまぁ重要やな…。」


それを聞いたロゼッタの耳がピンと立つ。


「Oh!シッテルノ!?」


ロゼッタの声は歓喜に満ちていた。


「確か白の大陸の王女が圧政を敷く王に対して革命を起こすって話よな?王女の子供が親を励ますシーンは有名やな。」


「…もう胃が痛くなってきた…。」


ルーフは顔をしかめる。


「ダイジョブ!ワタシガシッカリオシエルカラ!!」


それに対しロゼッタは自信に満ち溢れた笑顔であった。


警護初日はどこの班でも疲労が溜まる物であった。


◇◆◇◆


次の日、


まだ朝日が上りきる前、ライトとブランは劇場の外にいた。


「…ったく握手会までやるとはな…。」


「人気女優の自覚ってやつでしょ。」


2人は思い瞼を擦りながら劇場の周りをパトロールする。


「なんでもリハーサルの日には毎回やるんだってさ。」


「…ファンサービスってやつか。人気がある理由がわかる気がするな。」


2人は握手会の会場設営兼パトロールをクリスチャンに頼まれていた。


まだ空気が冷たく辺りも薄暗い。こんな時間帯に外にいるヒトなどそうそういないだろうと2人は考えていた。


だが、劇場を一周して戻ってくると、先程はなかった影が握手会場の前にあった。


「おいライト。」


「あぁ…。誰かいる…。」


街灯があるとはいえ、まだ薄暗くそれがなにか良く見えない。


2人は姿勢を低くしてゆっくりと近付く。


近付くと段々とその姿がハッキリとしてきた。


「フフフ…ロゼッタちゃん…今日も来たよぉ…。」


そこには鼻息を荒くして握手会場の先頭にいるカバの姿があった。


「…ブラン…。」


「……ここまで分かりやすい不審者も珍しいな…。」


ここからの行動は早かった。


その日の目覚ましはカバの断末魔となった。
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