一人息子が勇者として旅立ちました。でもお母さん、心配なのでこっそり付いていっちゃいます [壁]ω・*)

九頭七尾

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第21話 調教完了ですね

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「それではみなさん、お仕事の方よろしくお願いしますね」
「「「はい、セリーヌ様!」」」

 セルアがにっこりと微笑みかけると、メイドたちが一斉に元気よく返事を返した。
 彼女たちの目は活き活きとしていて、仕事への高い意欲が窺える。
 少し前までの、常に何かに怯え、緊張で強張っているといった雰囲気はない。

「アンナさんもお願いしますね?」
「もちろんです、セリーヌ様!」

 そんな彼女たちの中には、室長のアンナの姿もあった。
 しかしそれは、同室のメイドたちを扱き使うだけで、自身は一切仕事をせずにいた数日前の彼女とは完全に別人だ。

「それでは行ってまいります!」
「はい、行ってらっしゃい」

 セルアに送り出されて、アンナたちはきびきびとそれぞれの持ち場へと散っていく。

 今や忠犬さながらと化した彼女たちを見送って、セルアは満足そうに呟いた。

「調教完了ですね」

 そう。
 アンナを初めとするメイドたちは、心も身体もセルアによって調教されてしまったのだ。

「ふふふ、もちろんアンナさんがしていたように恐怖や痛みによって支配することもできますけど、やはりそれは下策。を与えてやれば、もっと忠実な配下にできるんですよ?」

 一体アンナたちはナニをされたのか、それは彼女たちのみぞ知る……。





 アンナに代わって部屋の支配者となったことで、セルアは完全に自由に動けるようになった。
 となれば、言わずもがな、その行き先は可愛い息子の下である。

「あああ……リオンちゃん……今日もかわいす……」

 柱の陰に隠れながら、うっとりと息子を見詰める母。
 完全なストーカーである。

「でも遠いです……もっと近くで……抱き締めさせてなんて贅沢は言わないから、せめて匂いだけでも……ハァハァ……」

 遠くで見つめているだけでは、息子成分が不足してきたらしい。

「へ、変装していますし……たとえ見られてもお母さんだと分かりませんよね……?」

 これまでは念のため、直接顔を合わせることがないように気をつけてきたのだ。
 バレる心配さえなければ、彼女のことだ。
 間違いなく勇者に傍仕えするメイドになっていただろう。

「今は傍仕えのメイドが三人……そのうちの誰かを排除して、代わりにわたしが……そうすれば四六時中近くに……ふふふ……ふふふふ……」

 だがここにきて息子成分の枯渇が著しく、だんだんと冷静さを失いつつあった。
 ……元から冷静ではないだろうとツッコんではいけない。

「……? 変ですね? どこに行くつもりでしょう?」

 その息子がダンジョンのある方とは違う方向へと歩いていくので、セルアは首を傾げた。

 やがてやってきたのは墓地らしき場所だ。
 どういうわけか、そこでリオンはとある立派な墓の前で黙祷を捧げている。

 と、そこへやってきたのは、銀髪の若い女。
 かなりの美人で、リオンより少し年上といったところだろうか。

「ま、まさか、リオンちゃんがこんなところで女の子と逢引き……っ?」

 盛大な勘違いとともに戦慄する母。

「……そ、そういうのは早いですっ。だって、まだ十五歳……」

 世間基準からすれば、もちろん十五歳は恋人がいてもおかしくない年齢だ。
 自分で口にしたことで気づいたのか、セルアは「ぐぬぬ……」と唸って、

「き、きっと年下のリオンちゃんをあの女が誑かしたに決まっています……っ! そんなふしだらな女性と付き合うなんて、お母さんは絶対に許しませんからねっ?」

 しかしそんな母の動揺とは裏腹に、二人は何やら言い合っている様子。
 そのまますぐに別れてしまった。

 どうやら自分の思い違いだったようだと、胸を撫で下ろすセルアだった。





「ああ……あの傍仕えのメイド三人が羨ましい……あんな近くでリオンちゃんのお世話ができるなんて……一匹を始末して剥いだ顔の皮を被れば…………ハッ?」

 我に返って、セルアはぶんぶんと首を振った。

「あ、危ないです……もう少しで本当にヤるところでした……」

 無意識のうちに手に持っていたナイフを仕舞う。
 ……この母親、相当に危険である。

 それでも息子の脱いだ服を洗濯される前に盗み出したり、ベッドのシーツや枕のカバーを秘かに別のものと取り換えたりしながら、どうにか耐えていた。

 そんなある日のことだった。

「……っ」

 廊下で勇者の傍付きメイドが押す配膳車とすれ違ったとき、セルアは配膳車の上に載せられた料理から漂ってくる匂いに違和感を覚えた。

「お待ちください」

 声をかけると、そのメイドが配膳車を停車させながら不思議そうにこちらを振り返る。

「失礼します」
「っ、何を……?」

 セルアは配膳車へと近づいていくと、驚くメイドを余所に、料理へと思いきり鼻を近付けた。
 そしてそのうちの一つに、違和感の正体を見出す。

「……このスープ」
「一体あなたはどこの部屋のメイドですかっ? これは勇者様にお出しするお夕食ですよっ?」

 メイドがそう訴えてくるが、そんなことは百も承知である。
 だからこそ、セルアは鋭い目つきでそのメイドを睨み付けた。

「ひっ……?」

 殺気すらも籠った視線を浴びて、傍付きメイドが引き攣った声を漏らす。
 そんな彼女を、セルアは容赦なく問い詰めた。

「このスープに毒が入っています。もし運搬中に何かを入れたというのなら、今ここで正直に言いなさい」
「ど、毒……っ!?」
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