21 / 30
第21話 調教完了ですね
しおりを挟む
「それではみなさん、お仕事の方よろしくお願いしますね」
「「「はい、セリーヌ様!」」」
セルアがにっこりと微笑みかけると、メイドたちが一斉に元気よく返事を返した。
彼女たちの目は活き活きとしていて、仕事への高い意欲が窺える。
少し前までの、常に何かに怯え、緊張で強張っているといった雰囲気はない。
「アンナさんもお願いしますね?」
「もちろんです、セリーヌ様!」
そんな彼女たちの中には、室長のアンナの姿もあった。
しかしそれは、同室のメイドたちを扱き使うだけで、自身は一切仕事をせずにいた数日前の彼女とは完全に別人だ。
「それでは行ってまいります!」
「はい、行ってらっしゃい」
セルアに送り出されて、アンナたちはきびきびとそれぞれの持ち場へと散っていく。
今や忠犬さながらと化した彼女たちを見送って、セルアは満足そうに呟いた。
「調教完了ですね」
そう。
アンナを初めとするメイドたちは、心も身体もセルアによって調教されてしまったのだ。
「ふふふ、もちろんアンナさんがしていたように恐怖や痛みによって支配することもできますけど、やはりそれは下策。快楽を与えてやれば、もっと忠実な配下にできるんですよ?」
一体アンナたちはナニをされたのか、それは彼女たちのみぞ知る……。
アンナに代わって部屋の支配者となったことで、セルアは完全に自由に動けるようになった。
となれば、言わずもがな、その行き先は可愛い息子の下である。
「あああ……リオンちゃん……今日もかわいす……」
柱の陰に隠れながら、うっとりと息子を見詰める母。
完全なストーカーである。
「でも遠いです……もっと近くで……抱き締めさせてなんて贅沢は言わないから、せめて匂いだけでも……ハァハァ……」
遠くで見つめているだけでは、息子成分が不足してきたらしい。
「へ、変装していますし……たとえ見られてもお母さんだと分かりませんよね……?」
これまでは念のため、直接顔を合わせることがないように気をつけてきたのだ。
バレる心配さえなければ、彼女のことだ。
間違いなく勇者に傍仕えするメイドになっていただろう。
「今は傍仕えのメイドが三人……そのうちの誰かを排除して、代わりにわたしが……そうすれば四六時中近くに……ふふふ……ふふふふ……」
だがここにきて息子成分の枯渇が著しく、だんだんと冷静さを失いつつあった。
……元から冷静ではないだろうとツッコんではいけない。
「……? 変ですね? どこに行くつもりでしょう?」
その息子がダンジョンのある方とは違う方向へと歩いていくので、セルアは首を傾げた。
やがてやってきたのは墓地らしき場所だ。
どういうわけか、そこでリオンはとある立派な墓の前で黙祷を捧げている。
と、そこへやってきたのは、銀髪の若い女。
かなりの美人で、リオンより少し年上といったところだろうか。
「ま、まさか、リオンちゃんがこんなところで女の子と逢引き……っ?」
盛大な勘違いとともに戦慄する母。
「……そ、そういうのは早いですっ。だって、まだ十五歳……」
世間基準からすれば、もちろん十五歳は恋人がいてもおかしくない年齢だ。
自分で口にしたことで気づいたのか、セルアは「ぐぬぬ……」と唸って、
「き、きっと年下のリオンちゃんをあの女が誑かしたに決まっています……っ! そんなふしだらな女性と付き合うなんて、お母さんは絶対に許しませんからねっ?」
しかしそんな母の動揺とは裏腹に、二人は何やら言い合っている様子。
そのまますぐに別れてしまった。
どうやら自分の思い違いだったようだと、胸を撫で下ろすセルアだった。
「ああ……あの傍仕えのメイド三人が羨ましい……あんな近くでリオンちゃんのお世話ができるなんて……一匹を始末して剥いだ顔の皮を被れば…………ハッ?」
我に返って、セルアはぶんぶんと首を振った。
「あ、危ないです……もう少しで本当にヤるところでした……」
無意識のうちに手に持っていたナイフを仕舞う。
……この母親、相当に危険である。
それでも息子の脱いだ服を洗濯される前に盗み出したり、ベッドのシーツや枕のカバーを秘かに別のものと取り換えたりしながら、どうにか耐えていた。
そんなある日のことだった。
「……っ」
廊下で勇者の傍付きメイドが押す配膳車とすれ違ったとき、セルアは配膳車の上に載せられた料理から漂ってくる匂いに違和感を覚えた。
「お待ちください」
声をかけると、そのメイドが配膳車を停車させながら不思議そうにこちらを振り返る。
「失礼します」
「っ、何を……?」
セルアは配膳車へと近づいていくと、驚くメイドを余所に、料理へと思いきり鼻を近付けた。
そしてそのうちの一つに、違和感の正体を見出す。
「……このスープ」
「一体あなたはどこの部屋のメイドですかっ? これは勇者様にお出しするお夕食ですよっ?」
メイドがそう訴えてくるが、そんなことは百も承知である。
だからこそ、セルアは鋭い目つきでそのメイドを睨み付けた。
「ひっ……?」
殺気すらも籠った視線を浴びて、傍付きメイドが引き攣った声を漏らす。
そんな彼女を、セルアは容赦なく問い詰めた。
「このスープに毒が入っています。もし運搬中に何かを入れたというのなら、今ここで正直に言いなさい」
「ど、毒……っ!?」
「「「はい、セリーヌ様!」」」
セルアがにっこりと微笑みかけると、メイドたちが一斉に元気よく返事を返した。
彼女たちの目は活き活きとしていて、仕事への高い意欲が窺える。
少し前までの、常に何かに怯え、緊張で強張っているといった雰囲気はない。
「アンナさんもお願いしますね?」
「もちろんです、セリーヌ様!」
そんな彼女たちの中には、室長のアンナの姿もあった。
しかしそれは、同室のメイドたちを扱き使うだけで、自身は一切仕事をせずにいた数日前の彼女とは完全に別人だ。
「それでは行ってまいります!」
「はい、行ってらっしゃい」
セルアに送り出されて、アンナたちはきびきびとそれぞれの持ち場へと散っていく。
今や忠犬さながらと化した彼女たちを見送って、セルアは満足そうに呟いた。
「調教完了ですね」
そう。
アンナを初めとするメイドたちは、心も身体もセルアによって調教されてしまったのだ。
「ふふふ、もちろんアンナさんがしていたように恐怖や痛みによって支配することもできますけど、やはりそれは下策。快楽を与えてやれば、もっと忠実な配下にできるんですよ?」
一体アンナたちはナニをされたのか、それは彼女たちのみぞ知る……。
アンナに代わって部屋の支配者となったことで、セルアは完全に自由に動けるようになった。
となれば、言わずもがな、その行き先は可愛い息子の下である。
「あああ……リオンちゃん……今日もかわいす……」
柱の陰に隠れながら、うっとりと息子を見詰める母。
完全なストーカーである。
「でも遠いです……もっと近くで……抱き締めさせてなんて贅沢は言わないから、せめて匂いだけでも……ハァハァ……」
遠くで見つめているだけでは、息子成分が不足してきたらしい。
「へ、変装していますし……たとえ見られてもお母さんだと分かりませんよね……?」
これまでは念のため、直接顔を合わせることがないように気をつけてきたのだ。
バレる心配さえなければ、彼女のことだ。
間違いなく勇者に傍仕えするメイドになっていただろう。
「今は傍仕えのメイドが三人……そのうちの誰かを排除して、代わりにわたしが……そうすれば四六時中近くに……ふふふ……ふふふふ……」
だがここにきて息子成分の枯渇が著しく、だんだんと冷静さを失いつつあった。
……元から冷静ではないだろうとツッコんではいけない。
「……? 変ですね? どこに行くつもりでしょう?」
その息子がダンジョンのある方とは違う方向へと歩いていくので、セルアは首を傾げた。
やがてやってきたのは墓地らしき場所だ。
どういうわけか、そこでリオンはとある立派な墓の前で黙祷を捧げている。
と、そこへやってきたのは、銀髪の若い女。
かなりの美人で、リオンより少し年上といったところだろうか。
「ま、まさか、リオンちゃんがこんなところで女の子と逢引き……っ?」
盛大な勘違いとともに戦慄する母。
「……そ、そういうのは早いですっ。だって、まだ十五歳……」
世間基準からすれば、もちろん十五歳は恋人がいてもおかしくない年齢だ。
自分で口にしたことで気づいたのか、セルアは「ぐぬぬ……」と唸って、
「き、きっと年下のリオンちゃんをあの女が誑かしたに決まっています……っ! そんなふしだらな女性と付き合うなんて、お母さんは絶対に許しませんからねっ?」
しかしそんな母の動揺とは裏腹に、二人は何やら言い合っている様子。
そのまますぐに別れてしまった。
どうやら自分の思い違いだったようだと、胸を撫で下ろすセルアだった。
「ああ……あの傍仕えのメイド三人が羨ましい……あんな近くでリオンちゃんのお世話ができるなんて……一匹を始末して剥いだ顔の皮を被れば…………ハッ?」
我に返って、セルアはぶんぶんと首を振った。
「あ、危ないです……もう少しで本当にヤるところでした……」
無意識のうちに手に持っていたナイフを仕舞う。
……この母親、相当に危険である。
それでも息子の脱いだ服を洗濯される前に盗み出したり、ベッドのシーツや枕のカバーを秘かに別のものと取り換えたりしながら、どうにか耐えていた。
そんなある日のことだった。
「……っ」
廊下で勇者の傍付きメイドが押す配膳車とすれ違ったとき、セルアは配膳車の上に載せられた料理から漂ってくる匂いに違和感を覚えた。
「お待ちください」
声をかけると、そのメイドが配膳車を停車させながら不思議そうにこちらを振り返る。
「失礼します」
「っ、何を……?」
セルアは配膳車へと近づいていくと、驚くメイドを余所に、料理へと思いきり鼻を近付けた。
そしてそのうちの一つに、違和感の正体を見出す。
「……このスープ」
「一体あなたはどこの部屋のメイドですかっ? これは勇者様にお出しするお夕食ですよっ?」
メイドがそう訴えてくるが、そんなことは百も承知である。
だからこそ、セルアは鋭い目つきでそのメイドを睨み付けた。
「ひっ……?」
殺気すらも籠った視線を浴びて、傍付きメイドが引き攣った声を漏らす。
そんな彼女を、セルアは容赦なく問い詰めた。
「このスープに毒が入っています。もし運搬中に何かを入れたというのなら、今ここで正直に言いなさい」
「ど、毒……っ!?」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛
タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。
しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。
前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。
魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる