転生の女神だった私が異世界に転生してしまったので世界救って再び女神に戻りたいと思う

PPP

文字の大きさ
1 / 14
1章 村編

プロローグ

しおりを挟む
「退屈だなぁ」

 私は暇を持て余していた。
 天空に浮かぶ神殿の一室で、ソファに座りながら足をバタバタさせる。
 私の名前はイーリス。
 こう見えて、仕事は転生の女神をやっている、結構偉い存在だったりする。
 この転生の女神がどういう仕事なのかを簡単に説明すると、平たく言えば死んだ人間を転生させることである。
 すべての人間には来世がある。
 その人間を来世へ転生させるのが私の役目。
 ただ、流石に私一人ですべての人間の対応をすることはできないし、したくない。だから基本的に人の来世は自動的に決まるのだが、その人間の中で特別な扱いをする存在もある。
 それが俗に言う聖人と呼ばれている人間だ。
 聖人は、その人生で行った偽善含む善の行為、これらをすべてポイントに変換する。
 このポイントを使って人は来世に様々な特典を持ち込むことができる。例えば力だったり前世の記憶だったり。
 貯めこめば天使になることもでき、そうやって天使になった人間もいたりする。
 ただ、最近は聖人なんて全然いない。

 なんだろう時代なのだろうか。
 まあ分母が多くなっているから、昔に比べて多くなったのは事実だけども。全体で見るとやっぱり少なくなっている。
 今の人間は数百年前と比べて余裕がないのだろうか。それとも価値観が変わったのだろうか。
 一日に一人か二人、それぐらいしか来ない。
 だから私は暇を持て余す。

「退屈だなぁ」
「イーリス様。大変五月蠅いです」

 私の独り言に反応を見せる天使が一人。
 アヤメと呼んでいる大変可愛らしい天使が、私の方を睨んでくる。
 アヤメは私の部下にして、下部である。こう見えて私は何千もの天使を従えているが、その天使の頂点がアヤメに当たる。ちなみに本名はアヤメではなく別にあるのだが、私は何となくアヤメと呼んでいる。
 そんなアヤメは天使の頂点。故に、常に私の傍に置いている。

 私たちがいるのは私の仕事場兼自宅にしている空に浮かぶ神殿。そのうちの一室にあたる俗にいう休憩室。基本的には休憩室として使っているのだけども、アヤメにとっては仕事場らしい。
 まあ、私がいつもここにいるから。傍で仕事をするとなると、必然的に休憩室でしかないのだけれども。せっかくアヤメ専用の書斎を上げたのに、無駄になっている気もしなくもない。
 というか今も何かしらの仕事をしている。
 なんて真面目な。

「退屈だから仕方ないよね」
「そうですね。仕方がないですね。ですがちょっと口を閉じててもらって良いですか?」

 そしてアヤメは口調が悪い。
 でも私は知っている。
 アヤメが心優しい子だって。
 普段の口調は汚いけども、何だかんだいってアヤメも天使なのだ。純白で、純粋な心を持っているに違いない。
 だから暇な私の話し相手になってくれるはず。

「アヤメ~、話し相手になって~」
「謹んでお断りさせていただきます」
「そんなこと言わないで、話し相手になるだけで良いからさ~」
「ちょっと黙ってくれませんか? 殺しますよ?」
「…………はい」
「イーリス様。大変良く出来ました。主人の成長は下部にとってうれしい限りです」

 私はアヤメが根は心優しい子だって信じている。
 とはいえ、アヤメはどうも忙しいみたいだ。
 流石に邪魔は悪い気もしてきた。
 アヤメが何をしているのかは分からないけども。良く分からない書類に文字を書いているだけに見える。

「あの子はあの神様の方に移動させて、あの子は…………」

 何だろう。天使たちの配属部署でも変更しているのだろうか。
 本来、私がするべき仕事の一つをやっているみたいだ。
 真面目だ。
 私と違ってめちゃくちゃ真面目。
 私は何時いかなる時も、どうやってサボろうかを考えている。
 まあその結果がこの暇なのだけれども。
 じゃなくて。

「アヤメ、手伝おうか?」
「私の仕事を増やさないでください、イーリス様。イーリス様は適当に天井のシミでも数えていれば良いのですよ」
「もしかしなくても、私いらない子?」
「いるかいらないかを言えば、いらないですね」
「そこは嘘でもいると言ってよ」

 なんてことだ。
 部下の評価がここまで低いなんて。
 まあ知っていたけども。
 ずっと暇を持て余す上司なんて、普通は好きになれない。
 しかし、これは由々しき事態だ。
 ソファから立ち上がり、アヤメの元まで近づく。そしてテーブルに手を置きアヤメに顔を近づける。

「アヤメ、私変わろうと思う」

 こう近くで話しても、アヤメは何一つ表情を変えない。
 近くで見るとより一層可愛い。どうしてこの子はこんなにも可愛いのだろうか。
 淡々とした表情でアヤメは答える。

「そうですか」
「そうなの」
「とりあえず、今日は一日中黙ることをしてみましょうか」
「そういうことじゃないのよ、アヤメ」
「では、どういうことですか、イーリス様」
「真面目に働こうと思う」
「イーリス様が? 面白い冗談ですね。今年一番笑えた冗談です」
「冗談じゃないのよ、アヤメ。というか、この程度が今年一番笑えるなんて。オフのアヤメ、どんな会話しているの?」
「パワハラですか? 訴えますよ?」
「どうしてそうなるの」

 たまにだけども、こんな風にノリが良いと気もあったり、なかったり。
 アヤメは本気で言っているわけじゃない。多分だけども。
 なんだかんだ言って、私の相手をしてくれる、心優しい子なのだと再確認。

「冗談はさておき。分かりました、イーリス様。イーリス様は真面目に働きたい。だから今私がしている仕事を教えてほしい。そういうことですね?」
「そういうことよ、アヤメ」

 私が頷くとアヤメはではと考え込む。
 しばし考え込む。
 左腕で膝をつき、考え込む姿勢をしながら利き手である右腕は動かし続ける。書類の手を止めないで考え込む。なんと器用なのだろうか。

「この書類は大事なものですので、今のイーリス様に渡すことはできません。ですので、始めは違う書類から致しましょう。ちょうど良い書類が私の書斎の方に溜まっていますので」
「了解しました。アヤメ様」

 私は敬礼をする。
 大事な書類は触れさせてくれないとか、本当に信用がないみたいだ。
 なんて思っているとアヤメが私の言葉遣いに対して。

「イーリス様。目上の相手に了解しましたはあまりよくありません。かしこまりましたか承知いたしました、を使いましょう。分かりましたか?」
「承知いたしました。アヤメ様」
「では、イーリス様。私の書斎の机の上に幾つか書類がありますので、それを全部取ってきてください。それと私のプライベートルームは絶対に覗かないでくださいね? 分かりましたか?」
「サーイエッサー」
「イーリス様。次はありませんよ?」
「承知いたしました。アヤメ様」

 一瞬怖い表情が見えたので、慌てて訂正。
 今は冗談を受け付けられないみたいだ。
 私は回れ右をして、そのまま休憩室を出ていく。
 休憩室を出ると、廊下に出る。ただ、廊下と言っても壁はない。どちらかというと通路が正しいのかもしれない。扉の先、幅三メートルほどの通路を超えた先は外、ひいては空である。
 この神殿は円形の形をしており、外周に通路、その内側に幾つか部屋がある形で構成されている。
 天使は皆翼が生えているから落ちても飛べば問題ない。ただ飛べない私からすると非常に危険な問題で、一歩外に踏み外せば私はあの世行きだ。
 いや、別に飛べないわけじゃないよ。飛ぼうと思っていないだけ。いろんな力を生み出ては身に着け過ぎて、ただキャリーオーバーなだけなんだ。
 そう私は転生の女神。だから案外何でもできたりする。
 まあそれでも死ぬけどね。流石に私でも人の死は自由にできても、女神の死はどうにもできない。人と神様の死は同等ではないのだ。
 だから落ちれば私はあの世に行く。
 女神に来世があるのかどうか知らないけども、きっと来世行きだろう。
 転生の女神が来世に行く。
 転生の女神が転生する。
 ふふふ、笑える冗談。

 なんて馬鹿なことを考えながら、アヤメの書斎を目指して歩く。
 流石に私ともなれば、通路から足を踏み外すような真似はしない。
 たどり着いた書斎。扉をノックすることなく開ける。
 アヤメらしい書斎で、仕事に関係するものしか置いていない大変真面目で質素な書斎だ。夜、私が寝ている時、アヤメはここで仕事をしているらしい。
 なんて真面目な。
 じゃなくて。
 私は目当ての書類を探す。確か、書斎の机の上にあるとか言っていた。
 あったこれだ。
 目当ての書類をすべて持って、私は書斎を出ようとするとき、ふと横の扉に目が行く。書斎の隣にはアヤメの寝室、ひいてはプライベートルームがある。
 あの真面目なアヤメだ。
 きっとプライベートルームも綺麗で統一された、無駄のない部屋なのだろう。
 ちょっと覗いていこう。
 なんて思ったのが運の尽き。

「へ?」

 一面、写真が貼られていた。
 壁一面。見渡す限り写真。壁は覆い隠されている。
 そのすべての写真。
 全部、私が写っている。

「…………へ?」

 二度思考が停止する。
 落ち着け。落ち着くんだ、私。
 全部私の写真なだけ。
 そう、たったそれだけ。
 どこに可笑しい所がある。普通の光景じゃないか。それに部下が上司を想う。なんて良い響きなのだろう。
 そうだ、そうに違いない。
 そうだとも。
 そうしよう。
 見なかったことにしよう。
 そう思って私はアヤメのプライベートルームの扉を閉じる。

「イーリス様」

 後ろに不穏な空気。聞きなれた、というよりもさっきまで会話していた声。ご本人が、鬼の様な形相で背後に立っていた。

「イーリス様? どうして私のプライベートルームを覗いているのですか?」
「ご、ご、ごめんなさい!」

 慌てて私はアヤメの書斎を飛び出す。
 勢いよく飛び出す。
 ふと気づく。
 扉の先、通路の先は何もないことを。

「あ」

 そのまま私はなすすべなく。
 地上へと落ちて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...