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1章 村編
第9話 お母さんの本性を知った
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カルルと再会した日から二日が経とうとしていた。
夜中にこっそりと家に帰ったが、お母さんにばれることはなかった。
向かえが来るまで私はこの村にいなくてはいけないが、カルルの言葉がどうしても忘れられなかった。
山神様。生贄。本当にこの村の子供が生贄として山神様に捧げられていたなら、私はこの村の人たちへの感情を変えなくてはいけない。
優しい人たちだと思ったのを考え改めなくてはいけない。
まだ信じたい気持ちもあった。でもそれに希望がないことは何となく分かろうとしていた。
迎えが待ち遠しい朝。
「セレネ。考えはある程度決まった? まだ山神様になりたくない?」
お母さんが優しい言葉で私にそんなことを聞いてきて、私は首を縦に振る。
「なりたくはないよ。あんなモンスター」
「こら! 山神様をモンスター呼ばわりはダメよ」
お母さんはそう言って、私を叱る。
普通の親子の風景。
今まではそうだった。でもあの真実を聞いてからは、これが作られた親子なのだと私は思い始めていた。
そう。
人間なんてそんなもの。
本当の聖人はいないのだから。
「ねえ、お母さん」
「なあに」
「どうしてもなりたくない時はどうなるの?」
「そうね。山神様の反感を買うわ。そうなると、私たちは無事じゃすまなくなる。分かるでしょう?」
「うん、分かるよ」
「なら良かったわ」
お母さんが私が賢いが故に、きっとわかってくれると信じてかホッとしたような表情を作る。
そんなお母さんに私は聞くことにした。
「ねぇ、お母さん」
「どうしたの?」
「お母さんは、あの日どこに行くつもりだったの?」
「あの日?」
「私の前に山神様が現れた日」
あの日。お母さんはかごのようなものを持っていた。
お母さんがかごを持って森へ出かけるときなど見たことがない。ではどうしてか。たまに訪れる山神様へのお供え物じゃないかと私は考えた。
その考えは正しかったらしくお母さんはこう答えた。
「山神様へのお供え物よ。果物を幾つか、持って行ったの」
「お供え物は果物だけなの?」
「そうよ。山神様は草食だから」
「じゃあ、毎年、村から子供が一人いなくなるのはどうして?」
私の言葉にお母さんが言葉を詰まらせる。
「いなくなんかなっていないわよ? それとも、数十年に一度、山神様に選ばれた子供がいなくなることを言っているのかしら?」
「ううん。それとは別にこの村は、数年に一度。子供がいなくなるって聞いたから」
「それは誰から?」
お母さんが私の肩を掴んで、焦った表情を見せる。
「カルルから」
「カルル?」
「魔導士の人」
「そんな人どこ…………に」
お母さんが何かを思い出したのか、言葉を詰まらせる。私から手を離し少しずつ遠のいていく。
その間お母さんは考えを巡らせていた。その人物に心当たりがあったのか。
「あの魔導士、セレネと会っていたのね。というよりも、もしかしてセレネはその魔導士から派遣されたのかしら? 魔法が使えて、頭が良いのはそうなのね。そうじゃないと可笑しいもの。こんな子供が魔法を使えるなんて」
それは怖い表情だった。
今まで見せなかったお母さんの本性なのかもしれない。
怖かった。でもそれ以上に失望による怒りの方が強かった。
「ううん。違うよ、お母さん。でも、そっか。やっぱりそうなんだ。本当に子供を生贄に捧げていたのね」
そのお母さんの顔を見た時、私はカルルを信じることにした。
お母さんも敵だったから。そう敵。この村にいる大人たちはみんな敵。私の仲間はノア君だけなのかもしれない。
だったら私はノア君を助けないといけない?
ううん違う。
そうじゃない。
どうして敵を見捨てて、仲間だけを助けないといけないのだろう。
私はこの世界を救うほどのことをして、そして神に戻らなくちゃいけない。神は聖人も悪人も、家族も仲間も敵も人外も等しく平等に救わなくちゃいけない。
「セレネ。良いことを教えてあげましょうか? 仕方がないのよ。私たちにとって山神様は、いえあのモンスターは村にとってこの上ない脅威なの。国はあれの討伐に動いてくれないし。だから仕方がないの」
お母さんはそう言って、続ける。
「沢山の命と、たった一人の子供の命。どちらが大事か比べるもないでしょう?」
「違うよお母さん」
力がなければ、そのどちらかを選択する他ないのかもしれない。でも力があればその二つを救うこともできる。
私はお母さんに提案する。
「私があのモンスターを説得してあげる」
「…………え?」
お母さんは私の言葉に耳を疑った。
「説得?」
「そう、説得。村を襲わせないようにしてあげる。それで良いでしょう?」
「そんなこと無理に決まっているでしょう? 討伐ならまだしも。あんなモンスターが人の話を聞くはずがない」
「そうでもなかったよ」
お母さんがそう言い切る私に不思議そうな表情を作る。
「私と会話をしようとしてた。そして私の言うことを聞いてた。だから全然難しくないよ」
「そんな。ありえない。あのモンスターが人の話を聞くはずが」
お母さんにとってこれは信じられない話だったのだろう。
でも、とお母さんは思い出したみたいだ。
あの日、私と山神様の距離を。
「あれは襲おうか悩んでいたわけじゃなく、従っていたというの?」
お母さんが頭を抱え始める。
頑張って。頑張って。考えようとする。そしてお母さんは私に聞いてくる。
「セレネは一体何者なの?」
私はその言葉に素直に答えることにした。
「女神かな」
夜中にこっそりと家に帰ったが、お母さんにばれることはなかった。
向かえが来るまで私はこの村にいなくてはいけないが、カルルの言葉がどうしても忘れられなかった。
山神様。生贄。本当にこの村の子供が生贄として山神様に捧げられていたなら、私はこの村の人たちへの感情を変えなくてはいけない。
優しい人たちだと思ったのを考え改めなくてはいけない。
まだ信じたい気持ちもあった。でもそれに希望がないことは何となく分かろうとしていた。
迎えが待ち遠しい朝。
「セレネ。考えはある程度決まった? まだ山神様になりたくない?」
お母さんが優しい言葉で私にそんなことを聞いてきて、私は首を縦に振る。
「なりたくはないよ。あんなモンスター」
「こら! 山神様をモンスター呼ばわりはダメよ」
お母さんはそう言って、私を叱る。
普通の親子の風景。
今まではそうだった。でもあの真実を聞いてからは、これが作られた親子なのだと私は思い始めていた。
そう。
人間なんてそんなもの。
本当の聖人はいないのだから。
「ねえ、お母さん」
「なあに」
「どうしてもなりたくない時はどうなるの?」
「そうね。山神様の反感を買うわ。そうなると、私たちは無事じゃすまなくなる。分かるでしょう?」
「うん、分かるよ」
「なら良かったわ」
お母さんが私が賢いが故に、きっとわかってくれると信じてかホッとしたような表情を作る。
そんなお母さんに私は聞くことにした。
「ねぇ、お母さん」
「どうしたの?」
「お母さんは、あの日どこに行くつもりだったの?」
「あの日?」
「私の前に山神様が現れた日」
あの日。お母さんはかごのようなものを持っていた。
お母さんがかごを持って森へ出かけるときなど見たことがない。ではどうしてか。たまに訪れる山神様へのお供え物じゃないかと私は考えた。
その考えは正しかったらしくお母さんはこう答えた。
「山神様へのお供え物よ。果物を幾つか、持って行ったの」
「お供え物は果物だけなの?」
「そうよ。山神様は草食だから」
「じゃあ、毎年、村から子供が一人いなくなるのはどうして?」
私の言葉にお母さんが言葉を詰まらせる。
「いなくなんかなっていないわよ? それとも、数十年に一度、山神様に選ばれた子供がいなくなることを言っているのかしら?」
「ううん。それとは別にこの村は、数年に一度。子供がいなくなるって聞いたから」
「それは誰から?」
お母さんが私の肩を掴んで、焦った表情を見せる。
「カルルから」
「カルル?」
「魔導士の人」
「そんな人どこ…………に」
お母さんが何かを思い出したのか、言葉を詰まらせる。私から手を離し少しずつ遠のいていく。
その間お母さんは考えを巡らせていた。その人物に心当たりがあったのか。
「あの魔導士、セレネと会っていたのね。というよりも、もしかしてセレネはその魔導士から派遣されたのかしら? 魔法が使えて、頭が良いのはそうなのね。そうじゃないと可笑しいもの。こんな子供が魔法を使えるなんて」
それは怖い表情だった。
今まで見せなかったお母さんの本性なのかもしれない。
怖かった。でもそれ以上に失望による怒りの方が強かった。
「ううん。違うよ、お母さん。でも、そっか。やっぱりそうなんだ。本当に子供を生贄に捧げていたのね」
そのお母さんの顔を見た時、私はカルルを信じることにした。
お母さんも敵だったから。そう敵。この村にいる大人たちはみんな敵。私の仲間はノア君だけなのかもしれない。
だったら私はノア君を助けないといけない?
ううん違う。
そうじゃない。
どうして敵を見捨てて、仲間だけを助けないといけないのだろう。
私はこの世界を救うほどのことをして、そして神に戻らなくちゃいけない。神は聖人も悪人も、家族も仲間も敵も人外も等しく平等に救わなくちゃいけない。
「セレネ。良いことを教えてあげましょうか? 仕方がないのよ。私たちにとって山神様は、いえあのモンスターは村にとってこの上ない脅威なの。国はあれの討伐に動いてくれないし。だから仕方がないの」
お母さんはそう言って、続ける。
「沢山の命と、たった一人の子供の命。どちらが大事か比べるもないでしょう?」
「違うよお母さん」
力がなければ、そのどちらかを選択する他ないのかもしれない。でも力があればその二つを救うこともできる。
私はお母さんに提案する。
「私があのモンスターを説得してあげる」
「…………え?」
お母さんは私の言葉に耳を疑った。
「説得?」
「そう、説得。村を襲わせないようにしてあげる。それで良いでしょう?」
「そんなこと無理に決まっているでしょう? 討伐ならまだしも。あんなモンスターが人の話を聞くはずがない」
「そうでもなかったよ」
お母さんがそう言い切る私に不思議そうな表情を作る。
「私と会話をしようとしてた。そして私の言うことを聞いてた。だから全然難しくないよ」
「そんな。ありえない。あのモンスターが人の話を聞くはずが」
お母さんにとってこれは信じられない話だったのだろう。
でも、とお母さんは思い出したみたいだ。
あの日、私と山神様の距離を。
「あれは襲おうか悩んでいたわけじゃなく、従っていたというの?」
お母さんが頭を抱え始める。
頑張って。頑張って。考えようとする。そしてお母さんは私に聞いてくる。
「セレネは一体何者なの?」
私はその言葉に素直に答えることにした。
「女神かな」
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