短編集

喜岡 せん

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他愛もない休日

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 扉を押すと、からんからんと乾いた鈴の音が鳴った。
 「いらっしゃいませ」
 古い本の匂いと共に、微かに珈琲の香りが混ざる。
 最近行きつけの喫茶店だ。
 店主と二人のバイトさんが切り盛りしていて、今日も奥から三人分の声が聞こえる。
 この喫茶店の風景に合うようにめいいっぱいのお洒落をして本を選ぶのが最近の楽しみなのだ。

 観葉植物で作られた道を抜け、本棚の前に立つ。店の一角にひしめくように並んでいる本は、聞くところによると大体が店主の持ち物だったらしい。あまりにも増えすぎて収集がつかなくなったんだとか。それでも中には新刊も入荷してあったりするので今か今かと待ち構えているものも買えたりする。
 今日は目当てで買いに来たのではなく、何かに出会うために来たのだ。
 ぶらりぶらりと本棚を一周して、それからまたもう一周して、あちらこちらを行き来して、ようやく一冊の小説を手に取った。
 「良いものに出会えましたね」
 そんな様子を傍から見ていたらしい店主の声が斜め上から聞こえてきた。
 耳の奥に残響が残るような、ハスキーな声。
 大切にします、そう伝えると朗らかに笑ってくれた。

 本を買ったレジと同じ場所で珈琲を注文し、カフェのスペースへ移動する。
 いつもなら定位置のカウンター席に座るけれど今日は人がいないので、窓際のテーブル席に腰を下ろした。

 店内に流れているBGM。それに合わせるように聞こえる三人の声。

 わたしには分からない話をしていたけれど、なんだかとても楽しそうだった。


 終
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