クラス転移した俺のスキルが【マスター◯―ション】だった件 (新版)

スイーツ阿修羅

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第5.5膜 帰郷──遺された者達の子守唄編

百五十五射目「ありがとうごめんなさい」

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「…………ん……」

 目を覚ます。
 静かな夏の朝。眩しい日差しが窓をすり抜け、私の身体を温めていた。

「…………?」

 私は、違和感に気づいた。
 今まであったものがない。
 それは倦怠感とか、頭痛とか腹痛とか、吐き気とか臭いとか。

「…………」

 目を開けた。そして驚いた。
 よく見える。木造りの天井の木目までよく見える。
 この一週間、どんどんと視界がぼやけていた。
 昨日なんかは、視界全体が薄暗くって、ずっと夕方みたいだった。
 でも、この朝は眩しい。
 目を瞑りたくなるほど明るい。綺麗だ。私は生きてる。
 助かったの……私は

「……あ……ぅ……」

 じわじわと、涙腺が崩壊する。
 綺麗に見えていたはずの視界が、涙のせいでまたぐわんぐわんと歪む。

「……和奈かずな? 目が覚めたのか!?」

 隣で、図太い男の子の声がした。
 聞き間違えるはずのない。行宗ゆきむねくんの声だった。
 あぁ、よく聞こえる。すごくよく聞こえるよ。

 私はゆっくりと首を右へと傾けた。
 視界に入るのは、行宗ゆきむねくんの心配そうな顔、目の下には隈ができていた。
 そして、私の握られたままの右手からは、行宗ゆきむねくんの汗と熱が鮮明に感じられた。

 目があって、行宗ゆきむねくんが安心したように微笑んでくれて。
 私はもう、だめだった。
 涙が、止まらない。

「うぁあぁあああぁああ……あぁああああああっっっ!!」

 私は不細工な泣き顔でむせび泣いた。
 こんなみっともない顔なんて、見られたくないんだけど、両手はまだ動かせない。

「………うぅぅぅうううっ……おえぇ……うぁぁぁああぁぁ……」

 何も喋れない。止まらない。
 良かった。良かった。
 私は、生きてる!
 私は助かったんだ!

和奈かずな…… 良かった……。……遅くなって本当にごめん。怖い思いをたくさんさせたと思う。
 俺たちを信じて待っててくれてありがとう」

 行宗ゆきむねくんの温かい言葉が、私の胸に染み渡る。

「……ホントだよバカぁ! すっごく怖かったんだからぁっ!! もうだめかと何回も何回も思ったよっ!! 早く帰って来てよぉぉ……!」

 思わず私は、溜め込んでいた感情をぶちまけてしまう。

「ごめん……ほんっとにごめん……」

 真剣に私に頭を下げてくれる行宗ゆきむねくん。

 あぁ、だめだな私は、
 行宗ゆきむねくんの温かい言葉に、また甘えてしまった。自分本位な感情を押し付けてしまった。
 
「……ありがとうぅ……行宗ゆきむねくんっ、直穂なおほっ……!! ……ごめんねっ、きっとたくさん無理させたよねっ……!
 私が今生きているのは、みんなのお陰なんだよぉっ!」

 私は幸せすぎておかしくなっていた。
 まだ身体はうまく動かない、けれど、私の運命は変わった。
 みんなが変えてくれた。

「……行宗ゆきむね……くん……私っ……」

 私は涙を振り払い、行宗くんのほうを見て、
 そして言葉を詰まらせた。

「……え……」

 昨日はぼやけた視界で見えなかった行宗ゆきむねくんの姿は、今の私にははっきりと見えた。
 一週間ぶりに見る彼の姿。
 私にとってはとてつもなく長かった一週間。
 彼は明らかに元気がなかった。
 目には隈ができて、髪はボサボサで、ヒゲも伸びていた。
 そして、彼の右肩の先に……あるはずのものがなかった。

「……右手……」

 そう私が呟いたのを聞いて、
 行宗ゆきむねくんははじめて気がついたみたいに大きく目を見開いた。

「……あぁ……見ての通り、剣で斬られたんだ……」

「え……」

 絶句とは、こういう時を言うのだろう。
 頭のなかが真っ白になった。
 右手が、右腕が、斬られた……?

 今まで泣いていたのが嘘のように涙が引っ込んで、喜びの代わりに重たい何かが私の胸を埋め尽くしていった。
 ……それはつまり、激しい戦いがあったということ。
 地頭の良い私の脳は思考を始め、すぐに最悪の結論を導き出した。

 両目から別の涙が溢れ出してきた。

直穂なおほはっ!? 直穂なおほは今どこにいるのっ!?」

 私は声を荒げた。
 大声を出すのは久しぶりで、声が掠れると同時に、肺にピリリと痛みを感じた。

 新崎直穂にいざきなおほ、私の親友であり、行宗ゆきむねくんの恋人……
 昨日の夜、確か行宗ゆきむねくんは、『直穂なおほは疲れて一階で寝ている』と言った。
 ……でも、でも……でもっ!
 ……冷静に考えて、あれは私の心を守るための……

「……ねぇっ、直穂なおほはっ………」

 私は言葉に詰まった。
 だめだ。聞きたくない。聞きたくない……
 私の言葉を聞いてから、行宗ゆきむねくんは歯を噛み締めて目を伏せた。
 私の右手を握る左手が、小刻みに震えてるのが分かった。
 聞きたくない。聞きたくない。

「…………教えて……直穂なおほに、何があったの?」

「…………直穂なおほは…………直穂は、俺の前から居なくなった……」

 私の心が粉々に砕け散った音がした。
 居なく、なった……
 はぐれたってことも……それとも、死……

「それってどういう……」

 ……私の……せいだ。
 二人は私を助けるために……

「ごめんなさい……」

 ……私が、

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいっ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」

 『和奈かずなのせいじゃない』

 そう言ってくれる行宗ゆきむねの言葉が、私には痛くてたまらなかった。
 最低だ、私は。
 助けてもらってばっかりで、自分のことしか考えられなくて。
 彼女を失って悲しんでる行宗ゆきむねくんに、慰めて貰って、手を繋いで貰ったりして。
 慰められるべきなのは行宗ゆきむねくんじゃないかっ!
 気持ち悪い……なんで私は、どうしてこんなっ……
 
 私は自分の惨めさに泣いた。
 こんなのも悲しいのに、苦しいのに、こんな時でさえ、「自分じゃなくて良かった」「私は助かって良かった」だなんて安心している自分に、心底嫌気がさした。
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