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第5部 ここで生きていく 晴れた日は海を見て編

16 ラージュの頼み

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「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おかえり…」
「ナイルさん!千眼さんこれもしかして!」
「はい、作ってみた!パスタです!平になりましたが…」
『すごい!』
「そっかー作れたんだー」
カルに作って貰ったコンロの上には寸胴の鍋とフライパン、テーブルにはミニトマトと肉をミンチぽくした物に塩や、香辛料を並べていた。
「盲点でしたねー」
「待てよ…麺…」
「うどん…」
『それだ!』
「でもまずは…」
「お風呂どうですか?」
『それだ!』
というわけで引き続き千眼とナイルにパスタ作りを頼み、みんなで風呂場に向かった。

「ん、ラージュからラインか。話してから入る」
「わかりましたー」
大河がスマホからラージュに電話を掛ける、数コール後にラージュが出る、風呂場の脱衣場も充実しカルが作った鉱物の椅子に座り会話をする。
「俺だ、今話し出来るか?」
『大河か、問題無い。手短に話させて貰う』
「ああ」
『ユナイドから報告があった奴隷の件だが、ヤツは南に移動している。奴隷として捕らえられた子供達を優先に証拠を掴めなかったのが無念だが…』
「必ず潰す」
『そうだな、ヤツの動きはこちらでも追うとしよう。それで頼みと言うのは、俺の後継者をそちらに預けたい』
「お前の後継者は《ロメンスギル》の次期王だろう?」
『そうだ…今は離宮にいるのだがどうやら不穏な気配があってな…まだ10歳だ…この国から一度出してやりたい』
「……」
ラージュの気持ちは分かる、呪いがある限り玉座に立てばその先は残り短い生か200年前の王族の血を引いてなければ、関係している者達に呪いが振り撒かれる。
「タイミングが少し悪いかもな、昨日保護した子供の中に王子がいた。本人の口からではないがな…」
『そうか…いや構わない。あの子には友も無く周りは計算高い大人達…どうだろうか?孤児院も《トイタナ》に移動したのだろう、その中で特別扱い等せず生活を…』
「本人の気持ちは良いのか?次代の国王だろう?」
『……』
「まず、一度こちらに来て試しで生活してみるのはどうだ?肌に合わなければ、今度は本人の気持ちを聞いてやれ」
『そうだな…大河感謝する』
「そこはありがとうじゃないのか?友人なんだろう?」
『そうだな、ありがとう』
「明日院長に聞いてみよう、許可が出れば迎えにいく」
『こちらもあの子と話しをする』
「ああ、じゃあな」
通話を切り、何が幸せになるかはその子にしか分からないと大河は思った。

「それで、ラージュさんの国の後継者の子がくるんですか?」
「一応見学の様子見でな、院長が許可しなければ話しは終わりだが」
「肝心なのはその子の気持ちですからね」
湯船で並んで先ほどのラージュとの会話を皆に伝える、全員の意見の裏には《ロメンスギル》の呪いが見え隠れしている。
「俺は良いと思うが、あの国の次の後継者は200年前の王族の血を引いている筈」
「ラージュさんはその子を助けたいんですね、協力はしたいですが」
長風呂で煮詰まる前に出ようという事になる、アルケールがサウナを作るとか言っていたなーと他愛ない会話も挟み畑へと戻った。

「さ、出来ましたよー」
「ミートスパゲティだ!」
「嬉しいです、ナイルさんありがとうございます!」
「これが詠斗達の世界のスパゲティってヤツか」
「スープとサラダと果物を用意した…」
「沢山作りましたから」
『いただきまーす』
「まだここに来て間もないですが…懐かしいですね…」
「おいしいよ!」
フォークで巻いて食べる麺、薄味だが素材の味が活きていて美味しかった。
「良かったです、今度はグラタンも作りますよ。チーズもありますし」
『グラタン!』
「ハンバーグやミートボールも作れる…」
ナイルと千眼の言葉に詠斗達のテンションが上がる、大抵の人は好きな物2つが並べば顔がにんまりしてしまう。
「嬉しいなあー、スパゲティもおいしいし」
「ハンバーグもミートボールも好物だ」
「ナイルさん、千眼さん、いつもありがとうございます!」
「いつも美味しい食事をありがとうございます」
「こんな美味しいスパゲティ食べたのはじめてだよ」
「ふふ、作った甲斐があります。カイネさん達にも教えますね」
「中々面白いな…このパスタ作り」
「そうなんですよ、美味しいですし」
あっという間に食べ終え、お代わりもしながら和やかで穏やかな時間が過ぎていった…。

「おなかへった…」
薄暗い豪奢な部屋の中で小さい子供が床に横たわっている、痩せた身体に合わない質は良いがどこか古めかしい服、外が慌ただしいが外から鍵を掛けられ出ることも儘ならない、人の気配が無くなれば部屋の中の抜け道も使えない、今日は朝の不味い具のないスープとパン、夜も不味いスープと僅かな肉と硬いパンで終わってしまうのか…。
目を閉じて眠る、寝れば空腹を忘れられるから、また明日不味いスープとパン…無いよりはましと言い聞かせ眠りについた…。

「適当に掃除やらはしときましたよー」
「明日陛下がこちらへ来るなんて面倒な…」
「全くあのガキがしぶといから…」
明るく照らされた豪奢な食堂で豪華な食事を執事やメイドが食い散らかしていく。
肉や魚や具沢山のスープ、瞬く間に肥えた身体に入っていく。
「ま、こちらには腕の良い魔法使い様々がいるからね。あの戦バカの陛下が幻影魔法に弱くて助かるよ」
「その通りだな、幻影魔法で離宮の宝飾品は盗み放題」
「雇い主もあのガキを毒で弱らせろって、面倒な…」
「そのお陰でこうして旨い汁が吸えるんだ」
「違いない!」
毎晩の様に開かれる宴、響く笑い声、肥えた身体に消えていく食べ物を遥か上から観ている眼があった。

「さて、どうするか…」
「ふむ、依頼を出して救うか救わぬか…」
「気づくとは思いますが…」
「…あの子供の魂も特別な物、此処で終わらせて次の転生に…」
《神の庭》にて神々の話し合いという名の茶会(酒無し)が行われていた、子供の所在を巡っての話し合いになんとも全員が消極的だった。
「《歌姫》の件もある、ここは依頼を出して救うのが良いのでは?傭兵王もいる事だ、彼に協力を仰ぎ師として導いて貰うのはどうだ?」
大河から供えられたジラの所持品の模造品の黒真珠を指で弄び提案する、皆がそれに同意し頷く。
「では依頼を…」
「彼らは優しいですからきっと怒るでしょうね…」
「罪の無い子供が…何故このような目に…か」
「あの子供は魂の業が深い、もう1人の子供もそうだが…」
「千眼魔王とも話しをしておきましょう。千眼魔王にも関係ありますし…」
『意義なし』
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