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第8部 晴れた空の下手を繋いで…

第19話 面倒な客

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「おはよ」

「おはよう」

「あー、なるほどねー今から行くわ」

「何どうかしたの?」

「ああ、なんかホテルでクレーム付けてる客がいるって、行くわ」

「俺も行くよ」

「おはよう、みんな。俺も行こう」

「僕も行きましょう、晴海君は起きて来た皆に伝えて朝食を食べていて下さい」

「うん、分かった」

詠斗、晴海、綴、崇幸が起きて朝食を食べに《アタラクシア号》の大食堂に向かえば懐記が電話で話し終わり、朝食を済ませていた千眼、千華、イシュターも集まり後を引き受ける。

「じゃ、初のクレーム対応いきますか」

懐記が何処か楽しむようにホテルのロビーに向かう、今日は皆で祭りを周り広場に行く予定だ、面倒事はさっさと済ませたい。



「だから、ワタクシを誰だと思っているの!ウルルト家の女主人よ!何故平民等と同じ階層の部屋なのかしら!支配人を呼びなさい」

「先ほどから言ってますが、このホテルに宿泊する条件は身分など関係なく部屋の指定はしないと」

フロントで対応している、《島船》から来ている中年の従業員が慇懃に対応しているが化粧の濃い香水臭い派手な格好の女が執事やメイド達に大勢囲まれ声を荒げていた。

「はいはい、オーナーが来ましたよ」

「貴方がオーナーかしら!この宿屋はどうなっているのかしら!」

「何が?」

「はぁ!?何って何よ!その態度!それが客に対しての態度かしら!何故貴族と平民が同じ階層で隣同士だなんて!」

「じゃ、帰れば?アンタは客じゃない。つか、このホテルは使わせない。出ていって」

「はあ!?ワタクシを誰だと思っているの!?」

「知らない」

「こんな宿屋潰せるのよ!ワタクシは《ユドゥーン》の王族なのよ!」

「そんな国知らない、これから忙しいから出ていってくれない?営業妨害」

「こ、こんな宿屋なんか使わないよ!」

「じゃ、さよーなら。それとこのホテルや関係者に手は出すなよー忠告したから」

顔を真っ赤にして出て行く背中を見送り、見事な追い払い方に詠斗達や宿泊客に従業員達が拍手を贈る。

「風早っち、今の女の国カジノ商業エリア取引き全てなし。警備強化よろー」

『承知しました。《ユドゥーン》は既に商業エリアに出店しています』

「出せ」

『承知しました』



「《ユドゥーン》の皆様、カジノタワーから今すぐ退去願います」

「なっ、り、理由を!?」

「貴方がたの国の貴族が《ホウラク》にいる《アウトランダーズ商会》のオーナーの1人を怒らせました。残念ですが、規約は規約。カジノの換金も多少色を付けて行います、荷物を運ぶ為に収納袋は差し上げます。どうぞお引き取りを」

ラジカが商業エリアでケークスを連れ、《ユドゥーン》の店を訪れ退去を迫った。

「お、お待ち下さい。規約は重々承知しております!わ、わが国の者がオーナー殿に不快な思いをさせ申し訳ない、ならばせめて機会を頂きたい。その貴族は陛下の元に処罰を…」

「それはそちらの国の自由、今後は貴方がたの国は一切《アウトランダーズ商会》との取引きを行う事はありません」

「ど、どうか慈悲を…」

露店の店主が地面に頭を擦りなんとか、考え直して貰える様に平身低頭謝罪を行う、《ユドゥーン》は森に囲まれ資源はあるが周辺の国々とは距離があり交易もあまり盛んではない、反物や衣料品が名産だが今一歩外貨を稼ぐには不向きなりっだが、馴染みの商人からこのカジノタワーの商業エリアを商会され、自国の商品が飛ぶ様に売れ目新しい物が国へと入り今ユドゥーンは好景気に湧き、国王も大変喜びカジノにも通う程で今や商業エリアは《ユドゥーン》にとって富をもたらす場となっていた。

「あ、あのラジカさん。これは流石に可哀想です…何か方法は…」

「オーナーの指示は絶対と言いたい所ですが、そうですねケークスさんオーナーと交渉してみてはどうです?」

「…やってみます」

黙って見ていたケークスから恐る恐るラジカに取り成しを頼めばそう反ってくる、ケークスはラジカが自分にオーナー達と交渉をする…テストをさせるつもりだとケークスは懐記に電話をした。

「お疲れ様です、ケークスです。《ユドゥーン》の件ですが………考え直して……はい………はい…分かりました。伝えてみます、ありがとうございます……あの、オーナーからその貴族の方及びその親族、関係者を《ユドゥーン》から出さない、関係者は一切《アウトランダーズ商会》の運営する場に来ないならば引き続き契約を続けても良いとの事です」

「じ、慈悲に感謝致します!今すぐ戻る!」

『はい』

ケークスが電話を切り状況を伝え直ぐ様動き出す、ケークスもほっとした顔をした。

「そうやって、懐記さんや皆さん達に堂々と意見すれば良いですよ。聞いてくれる方たちですから」

「そうですね、みなさんとても優しいです」

「ええ、1仕事終えたらケークスさん達も《ホウラク》の祭りはどうです?」

「ええ、ホテルに家族で泊まるの楽しみなんですよー。張り切っちゃいます」

ケークスはほっとした笑みを浮かべ、ラジカと並び商業エリアを巡回した。



「このゴーレムいくらだ?」

「ここにいるゴーレムは全て売り物ではありません」

「ここは人形都市だろう!こんだけあるんだ!金はだす、そこの紙人形も面白い」

一難去ってまた…今度はホテルで働くゴーレム達に目を付けた男が大声で騒ぐ、ホテルが始まってからこの手の話しはひっきりなしにくる。

ホテルの入り口に『当ホテルのゴーレムや人形達は売り物ではありません』と看板を立てても、金を出しさえすればという客が多い。

「ホテルに宿泊されますか?」

「ああ…買えないのは残念だが、泊まるとしよう」

ニヤリと不穏な笑みを浮かべる、宿泊中にあわよくば…という輩も少なくない。

「では、規約を読んでサインをお願いします」

「ん、ああ…………おい」

「はい?」

「この『当ホテルの従業員に危害を加える者に対して防衛手段として魔法や攻撃を加える場合がある』とあるが…」

「はい、従業員を守るのも義務ですから」

「そ、そうか」

「ここの従業員は元B級冒険者や魔法が得意な者もいますし、収納袋にはゴーレムは入りませんからね」

「そ、そうだな」

さりげなく釘を差しておく、盗める訳もないが面倒なのもごめんだと受付は思い、顔色が悪くなる客の案内を頼んだ。

ゴーレム達やヒヨコもおりがみの子達も人が好きなのだ、従業員も彼らが大好きだ、いつまでも人を好きでいて欲しいから彼らの安全というか客の安全を守る事にしている。



「ここが昨日ベルン君達が来た、広場だねー」

「どこから行こうかなー」

「みんなー大人と一緒にまわるよー離れないでね」

『はーい』

本日は孤児院の子供達と詠斗、率、綴、晴海、ナイデル、アルケール、レグ、アゲイル、カイネ、バルタルで広場に来ていた。

子供達と大人とで複数に分かれ、皆仕事の手伝い等で貯めたお金や給料を持ち嬉しそうに市を周る。

「あ、このお人形可愛い!」

「わあ、この髪飾り可愛い」

「この服いいな!」

「この入れ物カッコ良い」

みんなはしゃいでニコニコ品物を見ている、貴族の令嬢のユラヴィカも質素な服を来て他の子供達同様に興味深そうに見ていた。

「この陶器の人形キレイ…」

「ああ、そいつはこわれているのさ。土台に魔力を込めるとくるくる回るんだが動かないから、壊れちまったが部品取りにだしてんのさ」

「こちらの箱の物全て壊れているんですのね」

「ああ、本来なら数倍の値段が付くがご覧の通りで、1つ500ログさ」

「全て頂きます」

「あいよ、物好きなお嬢さんだ。全部で2,000ログにするから持っていきな」

「ありがとうございます」

ユラヴィカは2,000ログコインを払い箱の中の物を引き取りナイデルの収納袋に預ける、教室や孤児院の子供達と交流を持つ様になり、物の大切さを知ったユラヴィカには宝の山に見えた。

ちょっとした物でも壊れれば捨て新しい物が手に入る生活が、物を大事にする生活に変わった。

兄もそうだこの間メルガドールが作った栞をユラヴィカとユラヴィレオにプレゼントしてくれた、それを使い本を読んでいる、ユラヴィカや子供達がメルガドールにお菓子をくれたお礼にと皆にプレゼントした物だった。

栞など高級な品の物もあるが、気持ちが込められた物の大切さを兄と妹は現在学んでいる。

「みんなで直してみましょう」

「うん!」

キッキ達と手を繋ぐ、その後ろでナイデルがにこりと笑った。



「この筆、アシューさんにプレゼントしようかな」

「なら、こっちの小刀はサウさんに」

古道具屋でライルやラキ、トラスにトテス達がわいわいとバルタルとカイネに見守られ品物を選んでいた。

「俺はこの錆びたナイフ!先生のとこにいって研ぎ方教えて貰お」

「俺はこの日記帳!」

古道具屋とはいえ値段は少々するが、きちんと使う目的を持ち衝動買い等はしない。

カイネやバルタルも興味深そうに見るが彼等は、料理に関係する物ばかり集めてしまうので彼らの買い物は新鮮に感じる。

「日記帳か、いいかも。最近は作った物を写真に収めてばかりだし」

「そうそう、あ、でも最近クッキーの型造りにハマって…ってそれも料理か。皇国の皆さんにも公表だしね」

「アメとか入れて可愛くしちゃうから、食べ辛いって…やっぱり料理になっちゃうよねー」

クスクスとカイネとバルタルが笑い合う、今日もナイルが皇国で料理教室…をしているだろう、後で様子を見に行こうかと結局カイネとバルタルは朝から晩まで料理の事ばかりだ、それを見ていた4人もクスクスと笑った…。
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