調達屋~どんな物でも必ず手に入れましょう~

バン

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4話

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「お帰りロイス。速かったな」
「ただいま」
                                
 未開拓地から自宅に帰るといつも通りレオンが出迎えてくれた。

 ロイスに家族はいない。強いて言うならレオンが親代わりだ。だからと言って家族の温もりという下らない妄想を思い描いたりはしないが、それでもレオンの「おかえり」という何気ない一言は、聞くだけで気が休まる魔法の言葉である。
                        
「妖精の涙は手に入ったのか?」
「もちろん。レオンが肉を入れておいてくれたお陰だ。必要になると分かってたのか?」
「いや、準備を終えた後に取りに行くのが妖精の涙だと知った。けどあの肉は色んな面で役に立つからな。実際持って行って損は無かったろ?」
「まぁな。所でレオン…腹減った」
 
 ロイスは妖精の涙を取りに行ってから今の今まで何も口にしていない。
 もちろん動くために食事は必要だ。だがロイスはあまり食に関心が無く、作業のように捉えている。唯一レオンが作った料理だけは美味しいと感じるので好んで食している。

「少しだけ待っとけ。ロイスが予想よりも早く帰って来たからな。まだ下拵えが終わったばかりだ」
「出来るだけ早く頼むぞ」
 
 暫くしてロイスの座るカウンターの前に小麦のパンに香ばしい匂いの肉を挟んだ料理が置かれた。
 
「おぉ…初めて見る料理だ。何だこれは?」
「俺のオリジナルだ。味の保証はするぞ」

 ゴクッ
 
 自然と涎が口の中に溢れ出て、ロイスは無意識に涎を飲み込んだ。
 
「頂きます」

 ガブリ!
                                
 一口噛んだだけで肉汁が滝のように溢れ出し、ロイスの唇をテカテカと輝かす。
 更に噛めば噛むほど口の中で肉汁が爆弾の様に弾け飛んで程よい刺激が広がる。
 そして肉を挟んだパンには肉汁と甘辛いソースが染み込んでふんわりトロッとした食感が何とも言えない味を醸し出している。

 つまり何が言いたいのかと言うと、途轍もなく美味いのだ。
 
「美味い!」
 
 ロイスは夢中でパンに齧り付いた。
 
「相変わらず良い食べっぷりだな。おかわりなら幾等でもあるんだ。そう慌てなくても…」
「おかわり!」

 レオンの前に空になった皿が運ばれてきた。
                                     
「おいおい。もうかよ」
                                       
 レオンは少し呆れた表情を浮かべながらもその手はテキパキと動いており、直ぐにロイスの胃に収まるであろうパンが用意された。
                                   
 結局ロイスは大人なら一つでお腹が膨れる量のパンを8個も平らげた。
                                            
「で、これからどうするんだ?その涙を依頼主に届けるのか?」
「あぁ。その依頼主はどうやら俺にもう一つ依頼を頼みたいらしい」
「ほぅ…なら妖精の涙は調達屋として腕前を測る為だったという事か。何か裏がありそうだな」
「あるだろうけど俺には関係ない。依頼に見合った金さえ支払ってくれるのならな」
「それでこそ調達屋だ。この仕事を熟す以上裏に何があろうと関係ない。その結果どんな事になろうとな。それが裏稼業ってもんだ」
                                         
 レオンの口振りから分かる様にロイスを調達屋として指南したのはレオンである。既にレオンは調達屋稼業を引退しているがその実力はロイスを遥かに上回る。
                                             
「分かってるよ。レオンの教えはしっかり守っている」
「だろうな。だがロイス自身のルールを作る事も大事だぞ」
「自分のルールか…考えた事も無かった」
「いずれ必要になる時が来る。俺がロイスに教えたルールも最初からあった訳じゃないからな」
「まぁ追々考えていくよ。じゃあそろそろ行く。時間だ」
「ならこっちも準備しておこう」
「ありがとう」
                                       
 ロイスの準備とはどんな未開拓地に出向いてもモンダイなく活動出来る道具等を揃える事だ。
 自分で準備する事もあるが、レオンに準備してもらった時は要所要所で必要になる素材や道具が必ずと言っていい程リュックに入っている。やはり調達やつしての経験の差なのだろう。
 
 ロイスは準備の全てをレオンに任せ、依頼主との待ち合わせ場所である薄暗い部屋へ向かった。
                                                                                                                                                  



「まだ来ていないか」
                  
 依頼主より先に部屋へ到着したロイスはローブを深く被って顔を隠す。
 ロイスは開拓者、そして世間では一般的な冒険者と呼ばれる職業にも就いて居るため、調達屋として活動する以上顔を晒す訳にはいかない。
 
 もう一度ローブを深く被り直したタイミングで依頼主が現れた。
 
 依頼主の容姿は中年男性で印象的な小さい目はこちらを注意深く疑っている様に見て取れる。
 
「時間通りですね調達屋。あなたにまた会えるこの日を楽しみに待っていましたよ」
「世間話をやりに来たのか?」
「おっと、これは失礼。では早速本題に入りましょう。約束の品は手に入りましたか?」
「もちろんだ」
 
 部屋の中心に設置された机に妖精の涙を置くと、その輝きによって心なしか薄暗かった部屋が明るくなった様に感じた。
 
「おぉ…これが長寿の聖薬と言われる妖精の涙ですか。なんと美しい…」
「長寿が望みか」
「確かに興味はありますね。ですがこれは唯の余興ですよ」
「だろうな。俺に頼みたい事があるんだろう?」
「えぇ…実はとある親子の頭部を持って来て貰いたいのです。報酬は弾みますから」
「先に今回の報酬を払ってくれ。依頼についてはそれからだ」
「そういえばまだお渡ししていませんでしたね。こちらをどうぞ」
 
 中年の男は懐からずっしりと重みのある巾着をロイスに手渡した。
 
「中には残りの500万ゼルが入っています。確認してください」
「その必要はない」
「おや…そこまで信用していただけるとは予想外です」
「信用?違うね。もし足りなければそれ相応の対処に出るだけだ。あんたに…その度胸があるかな?」
「恐れ入りました。確かに私にそんな度胸はありませんね」
「……そうか」

 ローブの下では元々無表情だった顔が更に影を落とした事に目の前の中年が気付ける筈も無かった。
 
「で、あんたは何を欲する?」
「さっきも言った様にとある親子の頭部を持って来て頂きたいのです」
「要は暗殺か。特徴は?」
 
 ロイスはとんでもない依頼内容にも拘らず何の反応も示さなかった。調達屋として活動する以上例え調達対象が人間だろうと関係ない。
 
「父親と母親、息子の計三人で、こちらがその対象の顔になります」

 中年男はロイスに一枚の洋紙を手渡した。そこには三人の顔が細部まで丁寧に描かれている。

「その親子を殺し、三人の頭部を私に引き渡すというのが依頼内容です。報酬は前金として300万ゼル、成功報酬として更に300万ゼル支払いましょう。足りませんか?」
「いや充分だ」

 人間三人の頭部を持ってくるだけなら未開拓地に出向くよりかなり楽な依頼だ。報酬も破格なので美味しい仕事と言えるだろう。
                                                                                                
               
             

            

 
 その後、調達対象の素性などを細かく聞いたロイスは最後に尋ねる。

「夜逃げする農家の親子三人の頭部を持ってくる事、それが依頼内容か」
「その通りです」
「最後に確認だ。あんたの情報に嘘偽りは一切無いと誓えるか?」
「もちろんです。神にでも悪魔にでも誓いましょう」
「へぇ…悪魔に誓うのか。その言葉…決して忘れるなよ」

 ロイスはそう言い残して薄暗い部屋を後にした。
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