神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

文字の大きさ
140 / 163
第9章 派生流派と天乱四柱

邪ノ痕跡

しおりを挟む
「痕跡なんてあるのかな?」

各々分かれて捜索しているとソフィがボソリと呟いた。

「さぁな。だが災害級が突然現れるのは不自然だ。琴音の得た情報だと各大陸でも同じような現象が起きているらしい。となるとやはり人為的だと言わざるを得ない」

ジャンを仕留め損なった事を伝えた時、琴音から世界中で災害級が突然現れて猛威を振るうと忽然と姿を消しているという情報を聞いた。

「琴音さんから…やっぱりすごいねあの人は」
「そうだな。だからどんな些細な事でも見逃すわけにはいかない」
「そうだけど、痕跡ってどんなものなの?」
「俺の予想だと転移結晶が絡んでいるはずだ」
「転移結晶ってジャンって人が使った魔道具マジックアイテム?」
「そうだ。通常転移は生命を転移させる事は出来ない。だが邪神教が使う転移結晶ならそれが可能だ」
「そっか。あの蛇はその魔道具マジックアイテムでここに転移されたんだ」
「可能性は高いだろう。それに転移とは媒体によって重量の限度が必ずある。邪神魔蛇の巨体を転移させるには相当量の転移結晶が必要のはずだ」
「咲良はそれを探してるんだ」
「見つける事が出来れば邪神教が裏にいると証明出来る。敵の正体を知るのと知らないのとでは今後の活動にも影響してくるからな」

咲良が一通りソフィに説明した時、遠くの方で花火のような何かが空高く上がった。

「あれは?」
「合図だ。調査隊が何かを見つけたようだ。クロ!降りてこい!」

咲良は上空から痕跡を探していたクロを呼び寄せると急いで合図のあった地点に向かう。



「来たか。これを見てくれ」

現場に着くとそこには既にフィリスとガイモンがおり咲良達を手招きする。

「フィリスが見つけたのか」
「あぁ…この砕けた結晶を見つけてな。よく観察してみるとあちこちにこの結晶が散らばっていた」

フィリスの言う通り、現場にはあちこちに砕けた結晶が幾何学的に散乱していた。

「上から見たいな。飛べるか?」

どのように散乱しているのかを確認するには上空から見下ろすのが手っ取り早い。

「もちろんだ」
「儂は飛ぶのが得意だからな」

すると突然フィリスの背中から蝙蝠のような翼が生えたかと思うとバサバサと空高く羽ばたいた。更にガイモンは無重力空間にいるかの様にフワフワと上空に昇って行った。

「なんだありゃ…流石天乱四柱と言うべきなんだろうが、奇妙な魔法を使うもんだな」

自分が一番奇妙に思われている事は棚に上げて、咲良は率直な意見を述べる。

「ま、俺の手間が省けたから良いか。クロ、ソフィを頼む」

クロはその意図が分かったようでソフィに脚を掴ませるとフィリス達の元へと羽ばたくのを見届けると咲良も遅れまいと魔力で足場を作って後ろをついていく。

「面白い光景だな。特にソフィアが」
「嬢ちゃんだけ変な格好だからな」

上空に着くとフィリスとガイモンがソフィをからかう。何故なら2人共クロを認識しているとはいえ、銀匠の腕輪で姿を消しているクロに捕まっているソフィは側から見ると中々不恰好だ。

「そんな事より下を見てみろ」

咲良に促されて一同は下を見下ろす。

「なんだ?これは…魔法陣か?」
「儂にもそう見えるな」
「すごく大きな魔法陣だね」
「予想的中か…これは転移魔法陣だ」

咲良の予想通り、邪神魔蛇は邪神教の使用する転移結晶によってこの地に現れていた。

(なるほどな…魔紅晶で魔法陣を描いたのか。確かにこの方法なら邪神魔蛇の巨体でも転移は可能だろうが………こんな方法を思いつくとは邪神教にはやはり相当な技術者がいるな)

咲良ですら思いつかない方法を編み出したその技術者に興味が湧くと同時に恐怖も感じた。

「転移魔法陣?こんな形してたか?」
「こんな複雑な魔法陣じゃなかったと思うが」

フィリスとガイモンは転移魔法陣を見たことがある。珍しいとは言っても国やギルドの上層部ではよく使用されるのでギルドマスターであり調査部隊隊長である2人が見た事あるのは当然だ。

「これは生命を転移させる特別な魔法陣だ。通常と異なる形をしているのはその為だ」
「生命を!?そんなバカな!」
「それは実現不可能なはずだぞ!」
「2人が驚くのも無理はない。説明してやるから取り敢えず下に降りるぞ」

いつまでも上空で会話する必要はないので一同はゆっくりと下降する。

全員が地面に降り立つと咲良は説明を始める。

「足元の魔法陣を形成している結晶を使えば生命を転移させることが出来る」
「この結晶はなんだ?」

フィリスが魔紅晶の欠片を手に取り眺めながら問いかける。

「魔紅晶という人口鉱石だ。その結晶に転移魔法陣を刻めば生命を転移させる魔道具マジックアイテムになる。邪神摩邪の巨体を転移させる為にはこれだけの量が必要だったのだろう」
「そんな鉱石があるのか!?」
「儂は聞いたこともないぞ!」

2人は驚きながらも魔紅晶に興味を寄せる様な表情を浮かべる。

「移動手段に使えると考えているのなら止めておけ。魔紅晶は人間の心臓で出来ているからな。それでもまだ使いたいか?」
「バカな…心臓だと…」
「そんな…」
「咲良…何故そんなことを知っている」

ガイモンとソフィは驚愕の表情を浮かべるが、フィリスだけは訝しげに尋ねる。

「そんな顔をするな。俺は鍛治師として知識にあるだけで作った事も使った事もない」
「そういえば咲良は鍛治師だったな」

フィリスは咲良が高性能な武具を作る鍛治師であるとマリアから聞いていた事を思い出した。

「ほぅ…坊主は冒険者をしながら鍛治師の仕事もしているのか」
「それは違う。俺の本職は鍛治師だ。冒険者になったのは只の成り行きだ」
「逆ってわけか。成り行きで特級になられちゃ他の冒険者の立つ瀬が無いな」

ガイモンはゲラゲラと笑いながらも内心は鍛治師に階級を抜かれた事に焦りを感じていた。やはり本職が冒険者のガイモンからすればあまり喜ばしいことではないのだろう。

「さて、原因も分かった事だし一先ず本部に戻ろう」

フィリスの一言で咲良達と他の冒険者達はその場を後にした。もちろん魔紅晶は全て冒険者達が回収済みだ。既に使用済みとはいえ残したままにすれば良からぬ考えを持つ者に渡る可能性もあるからだ。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...