神の盤上〜異世界漫遊〜

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第9章 派生流派と天乱四柱

真ノ共有

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「ご苦労だったのぅ。それにしても…やはり人為的だったか。何やらキナ臭くなって来たわい」

本部に戻って事の顛末をグランドマスターであるレオに伝えると難しい顔を浮かべながらも労いの言葉を掛ける。本部とは仮設テントでは無くアルカナにあるギルド本部の事だ。

因みにソフィとクロは本部の仮眠室にいる。どうやら2人共慣れない戦闘で精神的にも疲れた様で咲良が強制的に休ませた。つまりこの場にいるのは咲良、フィリス、ガイモン、レオの4人である。

「そういう事です師匠。ただ…誰の仕業なのかは分かりませんでした」
「済まんなオヤジ。調査部隊隊長でありながら情けない限りだ」
「師匠?オヤジ?」

フィリスとガイモンがレオの事を可笑しな呼び方をしている事に首を傾げる。

「あぁ…この人は俺達天乱四柱全員の師匠だ」
「そういう事だ。オヤジには昔から世話になってな」
「なるほどな…だが…」
「何か気になる事があるのか?」

微妙な表情の咲良にフィリスが疑問を投げかける。

「いや…オヤジと呼ぶ割にガイモンの方が老けているなと思っただけだ」

レオの見た目は30代に見えるが人族ではなくエルフなので見た目=実年齢ではない。咲良も本当の年齢は知らないが醸し出す雰囲気からして100歳は超えている様に見える。何より自分の事を儂と呼んでいるのに30代の訳がない。そしてガイモンは濃い髭の所為もあってか50代には見える。2人が並ぶと見る者全員がガイモンの方が年上と思うだろう。

「うるせぇ!そんな事儂が一番分かってるわ!」
「あ、気にしてたのか」
「ガイモンが自分の事を儂と言うのは師匠の影響だ」
「なるほど…」
「フィリスお前!余計な事言ってんじゃねぇ!」

ガイモンは濃い髭の奥で顔を赤らめながら怒鳴る。

「まぁそんな事は置いといて…本題に入ろう」
「坊主!扱いが酷いぞ!」

咲良はガイモンが見た目によらず弄られるキャラであると分かっている。まだ会って間もないがこの接し方が一番正しいように思えるし、ガイモンも怒鳴ってはいるが本気では無いので彼とは良い関係を築けるだろう。

「今回の黒幕なんだが、恐らく邪神教という組織が絡んでいるだろう」
「邪神教?それはまた物騒な宗教だのぅ」
「奴らの目的は邪神の復活だ」
「何だと!」
「由々しき事態じゃのぅ」
「坊主!それは本当なのか!」

3人は咲良の発言に目を見開いて心底驚愕する。やはりグランドマスターであるレオも邪神については知っているようだ。

「過去に実在した邪神は完全に滅んだ。だが邪神がどうやって生まれたのかは俺も知らないからな。復活させれるのか、はたまた新たな邪神を作るのかは分からないがあり得ないとは言い切れない」
「む…確かにそうじゃのぅ。邪神が一体だけと言い切れる確証はないの」
「奴らは転移結晶や魔臓薬を開発して着実に力を付けつつある」
「魔臓薬?それは何だ?」

フィリスが聞き慣れない単語に引っかかる。邪神教が何時から活動していたのか分からないので知らないのも無理はない。

「俺も詳しくは知らないが魔臓薬を飲めば魔力が何倍にも膨れ上がる。そして服用した者の体には青い刺青が刻まれる。俺は既に邪神教の奴らと何度も戦闘をしているから確かだ」
「青い刺青…なるほどのぅ」
「師匠、知っているのですか?」
「うむ。魔臓薬という名である事は知らなんだが、危険度の低いはずの盗賊が突然力を増した事によって依頼を達成出来なかったという報告が何度か挙がっておる。そこに共通するのが青い刺青じゃ」

レオの言葉通りなら邪神教は水面下で戦力を増している事になる。

「師匠、これは直ぐにでも対策を立てなければなりませんね」
「そうだぜオヤジ。青い刺青の奴は片っ端から捕らえるべきだ」
「それは分かっておるがのぅ…これまで儂らにもその存在を悟られなかったとなると…」
「あぁ…そこらへんにいる青い刺青の奴を捕まえても情報は得られないだろう。恐らく何も知らない下っ端だろうからな」
「そうじゃ。じゃがその魔臓薬は確保しておいたいの」
「そうですね。どんな効果があるのかを知る事が出来れば対策を練れますから」

フィリスの言う通り、邪神教の情報を得られないとしても魔臓薬の効果、成分を知ればそこから繋がる何かがある可能性は大いにある。

「今俺が分かっている邪神教の構成員はオリバーというスキンヘッドの盗賊、特級冒険者琴音の元弟子であるジャン・ラシーヌ、そして異世界人の東野裕也と上田美久、この4名だ。恐らくこいつらは邪神教の中でもかなり高い地位にいるだろう」
「そこまで分かっているとは…だが咲良…最後の2人は…」
「ここにいる全員既に知っているだろうが俺は異世界人だ。そしてフィリスに想像通り、東野裕也と上田美久は俺の友人だ」

フィリスとガイモン、レオは咲良が異世界人であると知っていた。直接明かした訳では無いがマリアから伝えられているはずだ。それにそこまで秘密にしなければならない事でもない。

「大丈夫か?」

友人が敵であるという事実にフィリスが咲良を心配するような素振りを見せる。

「もちろん初めは戸惑ったが…邪神を復活させるなどあってはならない。それが俺の使命でもあるからな。たとえ…殺す事になろうともな」
「使命とは何じゃ?」
「フィリスとガイモンには少し話したが、レオは気付いているだろう?俺の傍に竜がいる事を」
「まぁの。巧妙に隠されているから分かり辛かったがのぅ」

レオがクロと会ったのはアルカナを防衛する際に簡易テントを訪れた時のみだ。その時既にクロの存在に気付いていたのだろう。だが知らないふりをしていたらしくレオの配慮が伺える。

「あの竜、クロこそ嘗て邪神を滅ぼした古の竜そのものだ」
「なんと!いや…じゃがのぅ」
「そうだろオヤジ!信じられる訳ないだろ!」

レオとガイモンは咲良の言葉を直ぐに信じる事は出来ない。長年現場に立っていたからこそ簡単に情報を鵜呑みにする事が出来ないのだろう。しかし一番付き合いの長いフィリスだけは咲良の情報が真実であると思う他なかった。

「信じられないのも無理はないがこれは事実。クロは世界の調停者と呼ばれる唯一の存在だ。そして俺はクロを導き守る者だ」
「本当だとしても、何故小さいんだ?」

既に信じつつあるフィリスだがまだ疑問点は多い。

「世界の調停者である黒竜は時代の移り変わりと共に生まれ変わる。クロがまだ幼いのは生まれたばかりだからだ」
「時代の移り変わり…か…ん?待てよ。生まれたばかりという事は」

フィリスが何かに気付いた様で咲良に視線を送る。

「何が言いたいのかは分かっている。前に言っただろ、俺は黒竜に会った事があると…その黒竜がクロの前任者だ」
「そして生まれ変わったのがあのクロという竜という訳か」
「壮大な話じゃが…信じるほか無さそうじゃの」
「坊主、それを証明する事は出来るか?」

レオとフィリスは信じたようだがガイモンは未だ信じ切れていないらしい。

「自分で言うのもなんだが俺の実力が何よりの証明になると思うが、何故なら俺を鍛えた師匠はその黒竜なんだからな」
「なるほど。確かに邪神を倒した古の竜が師匠ならば咲良の力も頷ける」
「だがなぁ…確かに坊主は強いのは分かるが…」

恐らくガイモンは邪神が生み出したとされる邪神魔蛇に勝てなかったのだから証明にはならないと言いたいのだろう。厳しい意見ではあるが最もの意見でもある。

「今見せる事は出来ないが、俺は黒竜に変化する能力を持っている。前の黒竜から与えられた能力だ。いずれ見せる機会もあるだろう」
「黒竜に?まるでフィリスの魔法見たいだな」

転移魔法陣を上から見下ろした時、フィリスは背中から蝙蝠の様な羽を生やしていたので似ていると言われればそうかもしれない。
だがこれでここにいる全員がある程度納得してくれた様だ。

そもそも何故ここまで詳しい話を打ち明けたかと言うと、これから邪神教の活動が活発になっていくと考えると協力者は多い方が良い。それも権威のある実力者なら尚更だ。ならば咲良の使命、クロの正体を知っていた方がより協力的に、そして理解者にもなってくれると考えたからだ。
確かに咲良は強い。特級冒険者の中でも突出した力を持っているだろう。だが上には上がいるだろうし、何事にも1人では限度がある。これまで咲良は地球でも周りから煙たがられてきたので他人に頼る事をあまりしてこなかった。しかし今は頼れる仲間がいてくれるので多くの事を共有できる。
邪神魔蛇との戦闘で敗北を味わった咲良だったが、それと同時に少し人間として成長する事も出来た。
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