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第6章 新天地と冒険者
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やり残したことをする為にまず咲良は前々から気になっていた王都中央図書館でこの世界の様々な知識を覚えることにした。
王都中央図書館に入ると受付の男性に声をかける。
「ご利用有難うございます。入館料金貨1枚です」
「たかっ!」
「お静かに。本は大変貴重な物ですから…本を破損させない限りおかえりの際に銀板9枚お返しいたしますので」
(それでも銀板1枚か)
中に入ると何万何千万もの本が並んである。
(すげぇ量だな…これ全部読むとしたら人生一回分でも足りなさそうだな)
その中から魔物図鑑やアスガルドの歴史や種族に関する書物、魔法の種類や覚醒方法が記された書物、様々な職業や称号が記された書物などを手に取り、超記憶で次々と覚えていった。
結局咲良は閉館時間まで居座り、計30冊以上の本を読んだ。これで基本的な知識は覚えれたので、知らなくて困るという事は少なくなるだろう。
そして次の日、素材屋で必要な物資を購入し終えた時、ばったり秀樹と穂花に出くわした。
話を聞くと咲良に会いにカゼル商会に出向く所だったらしく、どうせならとカゼルに会いに行く事になった。
「ねぇ秀樹くん。佐伯くんなんか変わったね。冷たくなったっていうか」
「そりゃ仕方ねえだろ。俺らは皆とすぐに合流出来たけど、あいつはずっと1人だったんだから」
「そうだけど…」
2人が咲良に聞こえないように話しているとトマスが声を掛けてきた。
「咲良!今日一緒に飲まないか?」
「そうだな。後で酒場に顔出すわ」
「待ってるぜー」
トマスは休憩中だったのか門の方へと歩いて行った。
「さくら?」
「なんで?」
亮太ではなく咲良と呼ばれていることに2人の頭にハテナが浮かんでいる。
「あぁ…今の俺の名前は咲良なんだよ」
「なんで偽名なんて使ってるの?」
「偽名じゃない。正真正銘俺の名前だ。色々あって名前をある奴から受け継いだんだよ。だから俺はこの世界では亮太じゃなくて咲良だ」
「じゃあ咲良って呼んだ方がいいのか?」
「そうだな。ステータスプレートでも咲良になってる」
「わかった…咲良」
「え?え?…そんなすぐに言われても…」
秀樹は順応力が高いようだが、穂花はすぐには無理そうだ。
「着いたぞ」
店の奥に入るとカゼルがいた。リーシャは接客のため店頭にいる。
「そいつらはもしかして…」
「あぁ、異世界人だ」
「ちょっ!」
秀樹と穂花が慌てている。
「心配するな。カゼルは知ってるし周りに話したりはしない」
「ま…そういうことだ。俺はカゼル。よろしく異世界の方々」
「あ…えと…穂花です…さえ…咲良…くんがお世話になりました」
一瞬佐伯と言いかけて咲良と言い直した。
「俺は秀樹です」
「おう…色々積もる話もあるんだろうが…」
「こいつらと話す時間ならこれからいくらでもある。明日にはコーチンに行こうと思ってな」
「やっぱ行っちまうのか」
カゼルは寂しそうな表情を浮かべる。
「おっさんがそんな顔するな…キモイわ」
「うるせぇ…お前は息子のようなもんだからな」
「ふっ…カゼルが親父か…そうかもな」
咲良はふっと笑みを浮かべると工房に足を運ぶ。秀樹と穂花は咲良にコーチンに向かう時間を告げると帰っていった。
2人が帰って行く気配を感じながら咲良は作業に入り、3つの魔道具を作った。
その後先ほどトマスに誘われたのでカゼルも連れて酒場に出向く。
カゼルは咲良を通してトマスとも知り合いになっており、今では良き飲み仲間だ。
「よぅトマス。来たぞ」
「待ってたぜー。ってカゼルも一緒かよ」
「なんだよ。ほんとは嬉しいくせに」
「けっ!男ばっかでむさ苦しいったらねぇわ」
「いいじゃねぇか。今日は咲良と飲める最後の日かもしれねぇからな」
「!!!そうなのか!?」
トマスにはまだ言っていなかったので驚かれた。
「明日コーチンの向けて出発するつもりだ。コーチンでの用が済んだから恐らく南の国に行く。だから王都にはしばらく戻らないだろうな」
「そうか…付き合いは短いがさみしくなるな」
「そうだな。またいつか戻ってくるさ」
「楽しみに待ってるよ。よっしゃ!今日は朝まで飲むぞ!」
「おいおい…ま、今日くらい良いか」
その日は酒場の酒がなくなるんじゃないかと思えるほど飲んだ。
「あぁ…こりゃ絶対二日酔いだな」
朝まで飲み、トマスと別れて帰路に着くがカゼルは気分が悪そうだ。
「これ飲んどけ」
液体が入った瓶を拡張袋から取り出して手渡す。
「…なんだこれ?」
「酔い止めの薬みたいなもんだ」
「そんなのあるのか!ありがたくもらうぜ」
カゼルも液体を飲み干す。
「…!にっが!」
「我慢しろ」
結局その日は2人して夕方まで爆睡してしまい、リーシャにこっ酷く叱られた。
そして次の日、カゼルと別れの時がやってきた。
「じゃあなカゼル、リーシャさん。世話になった」
「絶対また来いよ!待ってるからな!」
「咲良さん元気でね…」
「必ず。後これ、昨日作ったんだが2人に」
2つの指輪を手渡す。
「…指輪?」
「俺がいた世界では夫婦は同じ指輪をする風習があるんだ。夫婦の証って感じだな」
「へぇそうなのか…いいのか?」
「もちろんだ。2人のために作ったんだからな」
「ありがとう咲良さん…凄い綺麗ね」
その指輪は銀とセレナイト鉱石を混ぜて作られている。
「それは一応魔道具だ」
「こんな小さいのがか?」
「そうだ。効果は活性化を促す。簡単に言えば傷の治りが早くなったり、病気になりにくくなる」
「すごいじゃないか!」
「付ける期間が長ければ長いほど効果が上がる。それと錆びることは無いし、滅多なことでは壊れない」
「こんな素敵なプレゼントは初めてだわ!」
リーシャはカゼルを見ながら言う。
「うっ…悪かったよ…プレゼント渡したことなくて…」
「あら?なんのことかしら?」
「ほんと2人は相変わらずだな」
咲良は少し笑みを浮かべる。
「あぁそうだ。まだ渡す物があった」
「なんだ?」
咲良は拡張袋から水晶と魔法陣が描かれた風呂敷を2つずつ取り出す。
「これは念話水晶と転移風呂敷。これも魔道具だな」
「念話水晶は知ってるぞ。だがその風呂敷はなんだ?」
念話水晶は離れていても水晶を通して会話ができるが、話せる相手は対になる水晶のみ。つまりカゼルに渡した水晶で話せる相手は咲良だけだ。ちなみにギルドマスターや国の偉い方にはポピュラーな魔道具だが、一般人が手にするにはかなりの大金が必要となる。
「この転移風呂敷は俺の持つもう片方の風呂敷に物を送る事が出来る」
「まじか!そりゃ便利だな!」
「これでいつでも俺に直して欲しいものがあれば送ってこればいい。ただし、気を付けろよ。人前では見せない方がいい」
「そうなの?」
「当然だぞリーシャ。この2つは高額な魔道具だ。無闇に見せびらかすと狙う輩が出てくるぞ」
商人のカゼルは流石にわかっているようだ。
「もし脅される様な事があれば渡していい。どうせこの2つの片割れはどちらも俺が持っているわけだしな」
「そうか。盗られても咲良にしか声も物も送れないわけだ」
「そういうことだ。じゃあそろそろ行く」
「おう!行って来い!」
「気をつけてね!」
「はい。行ってきます!」
2人と別れ、カゼル商会を後にした咲良はギルド〈明けの明星〉へ向かう。
「マリア、いるか?入るぞ」
ガチャ
咲良は返事を聞く前にギルドマスター室に入る。
「全く、相変わらずですね」
マリアは苦笑を浮かべている。
「所で何のご用ですか?」
「王都を出ることにした」
「そうですか。ギルド本部へ?」
「まずはコーチンだな。ギルド本部はその後だ」
「わかりました。ではこれを」
マリアは封筒を咲良に手渡す。
「紹介状か」
「えぇ。本部につけば受付に渡してください」
「あぁ…そうだ」
咲良は何か思い付いたのか拡張袋に手を突っ込み、先ほどカゼルに渡した念話水晶を取り出してマリアに手渡す。
「念話水晶ですか。これをどこで?」
「俺が作った」
「それは凄い。そうやすやすと作れる代物ではないのですが」
「詮索は無しだ。ま、俺に用があれば連絡してこい」
「なぜ私に?」
マリアと咲良は仲が良いわけではない為、疑問に思った。
「気まぐれだ。それにあんたと連絡が取れれば何かと都合が良さそうだしな」
「いやな予感しかしませんね。しかしありがたく頂いておきます」
「なら俺はもう行く」
「お気をつけて」
ギルドを後にし、一応鍛治師のサラにも挨拶をしておく。
連れて行けだの、弟子にしろだのとしつこかったので挨拶だけして振り払って来た。
そして咲良はようやくギルド〈イマジナリー〉に到着した。
「あ!佐伯く…あ…咲良くんだったね」
「おす咲良!」
「コーチンに向かうのはお前らだけか?」
「あぁ。俺と穂花だけだ」
「楽しみだね!咲良くんと初めての旅だもん」
「旅に危険はつきものだぞ穂花。それにさっき嫌な噂を聞いた」
秀樹が深刻な表情を浮かべる。
「噂?」
「あぁ王都とコーチンの間で危険度B級の盗賊が出るらしい」
「B級!?遭遇したら私たちやられちゃうよ!」
「だな。俺はCに成り立てだし、穂花はDだ…もし遭遇すれば確実に死ぬ……けど…この時期に帰らないとコーチンに戻るのは難しい」
「そっか。もう少しで冬だもんね。あそこの道は特に雪が降るから」
王都からコーチンへ向かうには山脈を越えなければならいが、冬になるとその山脈は大雪となり旅には向かないため、雪が積もる前に抜けなければならない。
「お前ら王都に来る途中よく盗賊に会わなかったな」
咲良は最もな疑問を秀樹に投げかける。
「野暮用があって違うルートで来たんだ」
「そのルートからコーチンには?」
「残念ながら方向が違う。ところで咲良の階級は?」
「…B級だ」
秀樹と穂花の目が点になる。
数秒、間が空いてからギルドに絶叫する声が響いた。
「えぇーー…B級って…え?…本当に?」
「…ほらよ」
偽装してからステータスプレートを見せる。
名前 咲良
職業 上級鍛治師、魔法医師、冒険者(B)
「マジか…」
「すごい…私たちの中で一番強い香織さんと同じ…」
「もし盗賊に会えば俺が処理するから大丈夫だ」
「処理…だと?…咲良お前…盗賊だからって人を殺すのか?」
「は?…何をいってるんだ?」
秀樹の一言に咲良は困惑する。
「それはこっちのセリフだ!人殺しだぞ…いい訳ない」
「なら…黙って殺されればいいのか?」
「そうじゃない!逃げるか捕らえればいいだろう!」
「そうだよ咲良くん…私たちイマジナリーは決して人を殺さない」
人を殺さないとはなんとも甘ちゃんだ。
「なら魔物はどうするんだ?」
「魔物は倒すさ。人を襲う化け物だからだ」
「盗賊も人を襲う化け物だぞ」
「それでも人間だ!」
「傲慢だな。魔物だって同じ命だというのに」
「なんだと!」
ギルド内に2人の喧騒が響き渡る。
「魔物だろうが人間だろうが、俺は生きるために殺す」
「ちょ…ちょっと2人とも落ち着こうよ!咲良くんの考えは好きになれないけど…それは…この世界で私達と違ってみんなと会えなかったから…」
皆と会えなかったから捻くれてしまったと同情でもされたのだろうか。少し不愉快だ。
「あ…そう…だな…少し熱くなった…けど…咲良にはいずれ考え直してもらうからな」
「…勝手にしろ」
「はいもうそこまで!さ!いくよ!」
気まずい空気が漂いながら3人はギルドを後にする。
「おう咲良…出発するんだな」
門に着くとトマスが声をかけて来た。
「あぁ…また酒でも飲もう」
「ふっ…楽しみにしてるよ」
「また会おう」
門を出て王都アムルを後にする。
しばらく道なりに歩き、後ろを振り返る。
(色々あったな…また戻ってきたいもんだ)
少なからず思い入れのある王都アムルにいつかまた戻る事を咲良は誓った。
王都中央図書館に入ると受付の男性に声をかける。
「ご利用有難うございます。入館料金貨1枚です」
「たかっ!」
「お静かに。本は大変貴重な物ですから…本を破損させない限りおかえりの際に銀板9枚お返しいたしますので」
(それでも銀板1枚か)
中に入ると何万何千万もの本が並んである。
(すげぇ量だな…これ全部読むとしたら人生一回分でも足りなさそうだな)
その中から魔物図鑑やアスガルドの歴史や種族に関する書物、魔法の種類や覚醒方法が記された書物、様々な職業や称号が記された書物などを手に取り、超記憶で次々と覚えていった。
結局咲良は閉館時間まで居座り、計30冊以上の本を読んだ。これで基本的な知識は覚えれたので、知らなくて困るという事は少なくなるだろう。
そして次の日、素材屋で必要な物資を購入し終えた時、ばったり秀樹と穂花に出くわした。
話を聞くと咲良に会いにカゼル商会に出向く所だったらしく、どうせならとカゼルに会いに行く事になった。
「ねぇ秀樹くん。佐伯くんなんか変わったね。冷たくなったっていうか」
「そりゃ仕方ねえだろ。俺らは皆とすぐに合流出来たけど、あいつはずっと1人だったんだから」
「そうだけど…」
2人が咲良に聞こえないように話しているとトマスが声を掛けてきた。
「咲良!今日一緒に飲まないか?」
「そうだな。後で酒場に顔出すわ」
「待ってるぜー」
トマスは休憩中だったのか門の方へと歩いて行った。
「さくら?」
「なんで?」
亮太ではなく咲良と呼ばれていることに2人の頭にハテナが浮かんでいる。
「あぁ…今の俺の名前は咲良なんだよ」
「なんで偽名なんて使ってるの?」
「偽名じゃない。正真正銘俺の名前だ。色々あって名前をある奴から受け継いだんだよ。だから俺はこの世界では亮太じゃなくて咲良だ」
「じゃあ咲良って呼んだ方がいいのか?」
「そうだな。ステータスプレートでも咲良になってる」
「わかった…咲良」
「え?え?…そんなすぐに言われても…」
秀樹は順応力が高いようだが、穂花はすぐには無理そうだ。
「着いたぞ」
店の奥に入るとカゼルがいた。リーシャは接客のため店頭にいる。
「そいつらはもしかして…」
「あぁ、異世界人だ」
「ちょっ!」
秀樹と穂花が慌てている。
「心配するな。カゼルは知ってるし周りに話したりはしない」
「ま…そういうことだ。俺はカゼル。よろしく異世界の方々」
「あ…えと…穂花です…さえ…咲良…くんがお世話になりました」
一瞬佐伯と言いかけて咲良と言い直した。
「俺は秀樹です」
「おう…色々積もる話もあるんだろうが…」
「こいつらと話す時間ならこれからいくらでもある。明日にはコーチンに行こうと思ってな」
「やっぱ行っちまうのか」
カゼルは寂しそうな表情を浮かべる。
「おっさんがそんな顔するな…キモイわ」
「うるせぇ…お前は息子のようなもんだからな」
「ふっ…カゼルが親父か…そうかもな」
咲良はふっと笑みを浮かべると工房に足を運ぶ。秀樹と穂花は咲良にコーチンに向かう時間を告げると帰っていった。
2人が帰って行く気配を感じながら咲良は作業に入り、3つの魔道具を作った。
その後先ほどトマスに誘われたのでカゼルも連れて酒場に出向く。
カゼルは咲良を通してトマスとも知り合いになっており、今では良き飲み仲間だ。
「よぅトマス。来たぞ」
「待ってたぜー。ってカゼルも一緒かよ」
「なんだよ。ほんとは嬉しいくせに」
「けっ!男ばっかでむさ苦しいったらねぇわ」
「いいじゃねぇか。今日は咲良と飲める最後の日かもしれねぇからな」
「!!!そうなのか!?」
トマスにはまだ言っていなかったので驚かれた。
「明日コーチンの向けて出発するつもりだ。コーチンでの用が済んだから恐らく南の国に行く。だから王都にはしばらく戻らないだろうな」
「そうか…付き合いは短いがさみしくなるな」
「そうだな。またいつか戻ってくるさ」
「楽しみに待ってるよ。よっしゃ!今日は朝まで飲むぞ!」
「おいおい…ま、今日くらい良いか」
その日は酒場の酒がなくなるんじゃないかと思えるほど飲んだ。
「あぁ…こりゃ絶対二日酔いだな」
朝まで飲み、トマスと別れて帰路に着くがカゼルは気分が悪そうだ。
「これ飲んどけ」
液体が入った瓶を拡張袋から取り出して手渡す。
「…なんだこれ?」
「酔い止めの薬みたいなもんだ」
「そんなのあるのか!ありがたくもらうぜ」
カゼルも液体を飲み干す。
「…!にっが!」
「我慢しろ」
結局その日は2人して夕方まで爆睡してしまい、リーシャにこっ酷く叱られた。
そして次の日、カゼルと別れの時がやってきた。
「じゃあなカゼル、リーシャさん。世話になった」
「絶対また来いよ!待ってるからな!」
「咲良さん元気でね…」
「必ず。後これ、昨日作ったんだが2人に」
2つの指輪を手渡す。
「…指輪?」
「俺がいた世界では夫婦は同じ指輪をする風習があるんだ。夫婦の証って感じだな」
「へぇそうなのか…いいのか?」
「もちろんだ。2人のために作ったんだからな」
「ありがとう咲良さん…凄い綺麗ね」
その指輪は銀とセレナイト鉱石を混ぜて作られている。
「それは一応魔道具だ」
「こんな小さいのがか?」
「そうだ。効果は活性化を促す。簡単に言えば傷の治りが早くなったり、病気になりにくくなる」
「すごいじゃないか!」
「付ける期間が長ければ長いほど効果が上がる。それと錆びることは無いし、滅多なことでは壊れない」
「こんな素敵なプレゼントは初めてだわ!」
リーシャはカゼルを見ながら言う。
「うっ…悪かったよ…プレゼント渡したことなくて…」
「あら?なんのことかしら?」
「ほんと2人は相変わらずだな」
咲良は少し笑みを浮かべる。
「あぁそうだ。まだ渡す物があった」
「なんだ?」
咲良は拡張袋から水晶と魔法陣が描かれた風呂敷を2つずつ取り出す。
「これは念話水晶と転移風呂敷。これも魔道具だな」
「念話水晶は知ってるぞ。だがその風呂敷はなんだ?」
念話水晶は離れていても水晶を通して会話ができるが、話せる相手は対になる水晶のみ。つまりカゼルに渡した水晶で話せる相手は咲良だけだ。ちなみにギルドマスターや国の偉い方にはポピュラーな魔道具だが、一般人が手にするにはかなりの大金が必要となる。
「この転移風呂敷は俺の持つもう片方の風呂敷に物を送る事が出来る」
「まじか!そりゃ便利だな!」
「これでいつでも俺に直して欲しいものがあれば送ってこればいい。ただし、気を付けろよ。人前では見せない方がいい」
「そうなの?」
「当然だぞリーシャ。この2つは高額な魔道具だ。無闇に見せびらかすと狙う輩が出てくるぞ」
商人のカゼルは流石にわかっているようだ。
「もし脅される様な事があれば渡していい。どうせこの2つの片割れはどちらも俺が持っているわけだしな」
「そうか。盗られても咲良にしか声も物も送れないわけだ」
「そういうことだ。じゃあそろそろ行く」
「おう!行って来い!」
「気をつけてね!」
「はい。行ってきます!」
2人と別れ、カゼル商会を後にした咲良はギルド〈明けの明星〉へ向かう。
「マリア、いるか?入るぞ」
ガチャ
咲良は返事を聞く前にギルドマスター室に入る。
「全く、相変わらずですね」
マリアは苦笑を浮かべている。
「所で何のご用ですか?」
「王都を出ることにした」
「そうですか。ギルド本部へ?」
「まずはコーチンだな。ギルド本部はその後だ」
「わかりました。ではこれを」
マリアは封筒を咲良に手渡す。
「紹介状か」
「えぇ。本部につけば受付に渡してください」
「あぁ…そうだ」
咲良は何か思い付いたのか拡張袋に手を突っ込み、先ほどカゼルに渡した念話水晶を取り出してマリアに手渡す。
「念話水晶ですか。これをどこで?」
「俺が作った」
「それは凄い。そうやすやすと作れる代物ではないのですが」
「詮索は無しだ。ま、俺に用があれば連絡してこい」
「なぜ私に?」
マリアと咲良は仲が良いわけではない為、疑問に思った。
「気まぐれだ。それにあんたと連絡が取れれば何かと都合が良さそうだしな」
「いやな予感しかしませんね。しかしありがたく頂いておきます」
「なら俺はもう行く」
「お気をつけて」
ギルドを後にし、一応鍛治師のサラにも挨拶をしておく。
連れて行けだの、弟子にしろだのとしつこかったので挨拶だけして振り払って来た。
そして咲良はようやくギルド〈イマジナリー〉に到着した。
「あ!佐伯く…あ…咲良くんだったね」
「おす咲良!」
「コーチンに向かうのはお前らだけか?」
「あぁ。俺と穂花だけだ」
「楽しみだね!咲良くんと初めての旅だもん」
「旅に危険はつきものだぞ穂花。それにさっき嫌な噂を聞いた」
秀樹が深刻な表情を浮かべる。
「噂?」
「あぁ王都とコーチンの間で危険度B級の盗賊が出るらしい」
「B級!?遭遇したら私たちやられちゃうよ!」
「だな。俺はCに成り立てだし、穂花はDだ…もし遭遇すれば確実に死ぬ……けど…この時期に帰らないとコーチンに戻るのは難しい」
「そっか。もう少しで冬だもんね。あそこの道は特に雪が降るから」
王都からコーチンへ向かうには山脈を越えなければならいが、冬になるとその山脈は大雪となり旅には向かないため、雪が積もる前に抜けなければならない。
「お前ら王都に来る途中よく盗賊に会わなかったな」
咲良は最もな疑問を秀樹に投げかける。
「野暮用があって違うルートで来たんだ」
「そのルートからコーチンには?」
「残念ながら方向が違う。ところで咲良の階級は?」
「…B級だ」
秀樹と穂花の目が点になる。
数秒、間が空いてからギルドに絶叫する声が響いた。
「えぇーー…B級って…え?…本当に?」
「…ほらよ」
偽装してからステータスプレートを見せる。
名前 咲良
職業 上級鍛治師、魔法医師、冒険者(B)
「マジか…」
「すごい…私たちの中で一番強い香織さんと同じ…」
「もし盗賊に会えば俺が処理するから大丈夫だ」
「処理…だと?…咲良お前…盗賊だからって人を殺すのか?」
「は?…何をいってるんだ?」
秀樹の一言に咲良は困惑する。
「それはこっちのセリフだ!人殺しだぞ…いい訳ない」
「なら…黙って殺されればいいのか?」
「そうじゃない!逃げるか捕らえればいいだろう!」
「そうだよ咲良くん…私たちイマジナリーは決して人を殺さない」
人を殺さないとはなんとも甘ちゃんだ。
「なら魔物はどうするんだ?」
「魔物は倒すさ。人を襲う化け物だからだ」
「盗賊も人を襲う化け物だぞ」
「それでも人間だ!」
「傲慢だな。魔物だって同じ命だというのに」
「なんだと!」
ギルド内に2人の喧騒が響き渡る。
「魔物だろうが人間だろうが、俺は生きるために殺す」
「ちょ…ちょっと2人とも落ち着こうよ!咲良くんの考えは好きになれないけど…それは…この世界で私達と違ってみんなと会えなかったから…」
皆と会えなかったから捻くれてしまったと同情でもされたのだろうか。少し不愉快だ。
「あ…そう…だな…少し熱くなった…けど…咲良にはいずれ考え直してもらうからな」
「…勝手にしろ」
「はいもうそこまで!さ!いくよ!」
気まずい空気が漂いながら3人はギルドを後にする。
「おう咲良…出発するんだな」
門に着くとトマスが声をかけて来た。
「あぁ…また酒でも飲もう」
「ふっ…楽しみにしてるよ」
「また会おう」
門を出て王都アムルを後にする。
しばらく道なりに歩き、後ろを振り返る。
(色々あったな…また戻ってきたいもんだ)
少なからず思い入れのある王都アムルにいつかまた戻る事を咲良は誓った。
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かわさきはっく
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就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
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