神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

文字の大きさ
68 / 163
第7章 弟子と神器回収

神器端緒

しおりを挟む
咲良、秀樹、穂花の3人はコーチンに向けて出発し、今は野営をしている。

「咲良くんすごいね。ずっと歩いてるけど全然疲れてないね」

旅を初めて数日が経過し、この頃には穂花は亮太を咲良と違和感なく呼べるようになった。

「だな。旅慣れしてるのか?」
「いや。慣れてはいない。王都以外の街には殆ど行った事ないしな」

世界樹の森から王都アムルへの道と、王都から邪神魔像と遭遇したマラ荒野への道もかなり距離があるがその時は黒竜化によって旅をする必要はなかった。
従って、本格的な旅は今回が初めてとなる。

「マジか。今まで何してたんだ?咲良を探すために色んな所へ行ったが情報すらなかったからな」
「そうだね。陸くん以外はみんな諦めてたもんね」

秀樹と穂花もどうやら咲良が死んだもの、若しくはアスガルドに来ていないと思っていたようだ。

「そりゃそうだろ。俺が飛ばされた場所はアスガルドでもかなり特殊な場所みたいだからな」
「そりゃどこだ?」
「さぁな…名前は知らん」

世界樹の森は「強者の墓場」と呼ばれ、アスガルドでも有名な危険地帯だ。さすがに黒竜の住処であるという事を知っている人は殆どいないだろうが、世界樹の森にいたと話せば面倒な事になりかねない。隠し通すつもりはないが、今は話すべきでは無いと思い、2人には明かさなかった。

「危険な場所だったのか?」
「それなりにな。何度も死にかけたからな。あの頃は生き抜くことしか頭に無かった。よく生きて帰れたと思ってるよ」
「そうか。なんとなく咲良があの考えを持ってる理由がわかった気がする」
「そうだね…生きるのに必死だったんだね」
「そういうことだな」

2人は咲良の人だろうが魔物だろうが生きるために殺すという考えの根本に少し触れた様な気がした。

「でも本当に再会出来て良かったよ!みんなびっくりするね!」
「だな!……そういえば…」

秀樹が何かを思い出して咲良に尋ねる。

「咲良って鍛治師なんだよな?」
「あぁ。それがどうした?」
「なら武器にも詳しいのか?」
「まぁそれなりにな」
「神器って知ってるか?」
「………なぜ知ってる?」

咲良は秀樹に向かって鋭い視線を浴びせる。
その視線に殺気はこもっていないが、秀樹は蛇に睨まれた蛙のような気分になった。

現存している神器の殆ど(全てと言っても過言ではないだろうが)はクロノスが作ったもので、そのクロノス本人から、集めて相応しい者に託せと頼まれた。

現在、神器というものは忘れ去られ、高性能の魔武器マジックウェポンとされており、神器開放の能力も知っている者はいないだろう。王都アムルの図書館にも神器について記されている書物はなかった。
神器は中途半端にその力を引き出せば暴走しかねない。暴走すればどうなるかはクロノスですらわからない。だからこそ咲良に頼んだのだ。
秀樹が神器を持っている、もしくはありかを知っている可能性があり、なにより神器という言葉を知っている事から少し感情的になってしまった。

「お、おい咲良、どうしたんだよ…」
「なにか気に障ったの?」
「なぜ神器を知っている?」
「あ、いや、香織さんがもってるんだよ」
「そうか…」

咲良が視線を逸らすことで秀樹が感じていた妙な気分はスッと無くなった。

「今のは気迫か?流石B級だな。にしてもなんでそんなに反応するんだ?」
「まずはその神器について詳しく話してくれ」
「確か…咲良くんと同じ刀だったよね、香織さんの神器」

どうやら香織は咲良と同じ刀使いらしい。侍の職業だったりするのだろうか。

「なんかすげー能力だったよな」
「どんな能力だ?」
「えぇーっと、光を操る様な感じだったかな。私たちと合流した時にはもう持ってたよね」
「だな。ありゃ反則だ、勝てる気がしねぇ」

穂花の光を操るという言葉から、咲良の頭には1つの神器が浮かび上がる。

「名前はなんと呼んでる?」
「名前?そんなのあったか?」
「私は聞いたことあるよ。白峯だったかな」

その瞬間、咲良は確信した。
白峯という事は白い刀という事になる。クロノスが作った神器の特徴や能力は全て教えてもらっているので、その中で白い刀はたった1つ。その名は日輪。白峯という名は武器の真名を知らないものが後から名付けたのだろう。
さらに言えば、日輪は光を操る能力では無い。真名も知らずに無理やり能力を引き出しているせいで光を操るという本来とは少し違う能力となっている可能性があり、暴走の危険性が出てくる。

「そうか……」

咲良は思考を巡らせながら素っ気なく返事を返す。

「で、それがどうしたんだ?」
「訳あって神器に詳しいんだよ」
「詳しいって、香織さんは神器について色々調べ回ってたみたいだけど得れた情報はなかったはずなんだけど…」
「私もそう聞いてるよ。ある人に神器を譲って貰ったって言ってたけど、神器が何なのかは全く分からなかったって」

香織は神器については何も分からなかったのに神器という単語は知っている。恐らく香織に日輪を譲ったある人から聞いたのだろうが、そいつは何故神器という単語を知っているのだろうか。今考えても答えは出ない。

「悪いが神器について今は話す気はない」
「咲良くんは私達のこと信頼してないの?」

穂花が少し複雑な顔をしている。

「そういうわけでは無いが…悪いな」

隠し事が多いのは咲良も不本意ではあるが、無闇に情報を広めるわけにはいかない。

「良いじゃねぇか穂花…これから信頼を得ればさ」
「うん!そうだね!」
「ふっ、気楽な奴らだな。…もう寝ろ。見張りは俺がしておくから」


次の日から咲良にやたらと話しかけて来た穂花だったが、気付かれない程度に適当に受け流していた。


しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...