魔王の馬鹿息子(五歳)が魔法学校に入るそうです

何てかこうか?

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皇帝生誕九十年祭

第二十九話 記憶の復活

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 城の対応はジブリルに任せよう。こういう時、盾になってくれる奴がいると助かる。俺はクラウディアが捕まえられればそれでいい。
 しばらく雑談をつづけながらクラウディアの家に向かう。
 クラウディアの家は山の中腹と言うより谷にある。周りは森だ。上空から見て港町に向かって川とそれに沿って街道が家から伸びている。
 ジブリルが家の周りを三回ほど回って正門の前に着陸する。それに合わせて俺も背中から飛び降りた。正門には城壁のような壁が接続されている。正門自身は分厚い木でできているのであろう。重そうだ。そして警備兵のような奴もいる。

「て、天使? か、神の使いがなぜここに?」
「あ、違います。私は堕天使です。大魔王シヲウル様の配下です」

 正門にいた兵士の顔を見るに、ジブリルのこの対応は大失敗だったと言える。目の前で槍を構えなおした。
 珍しくもジブリルの失敗を見た。目の前で兵士が笛を吹いている。
 総勢十数名の兵士が集結してきた。
 ジブリルは首をかしげている。自分の対応の何が悪かったのかをわかっていない。

「魔王の使いが何の用だ!!」
「あ、それはクラウディアさんに――」
「お嬢様を! さらう気か!!」

 もはや問答無用と言わんばかりに兵士たちが合図を送る。
 正門の上で光ったのは矢じりか?
 ひぃ、ふぅ、み、……五本か。
 ジブリルの前に躍り出て、空中で矢をつかみ取る。
 あーあ、ジブリルはダメだな。暴力的なことにはとことん弱い。自分が何をされたのかも分からず目を白黒させている。
 
「ジブリル、とりあえず任せろ。少し遊んでくる」

 母がかした首輪は魔力を外に発揮できないだけだ。それはドラフトの一件で学習した。体の内側に魔力を発揮する強化魔法を使って兵士を蹴散らす。

「か、カテイナ様!」
「いいから任せろ、大丈夫、殺しはしない」

 一息で身をかがめて槍の内側に踏み込み兵士と肉薄する。
 こうなるとリーチが手枷になる。槍を手放す傍から腕を握って正門の弓を構えている連中に向けて投げ飛ばす。
 ま、仮にもオリギナの兵士ならこのぐらい問題ないはずだ。

「な、なんだこいつ!」
「こいつとは失礼な。
 俺は、次期魔界王カテイナ様だぞ!!!」

 大声で圧倒する。気圧された兵士に飛び込んで腕を握り。弓兵に向けて投げ飛ばす。
 三回、五回、兵士たちはどんどんと山積みになっていった。

「つまらないな。もっと歯ごたえのあるのはいないのか?」

「俺に任せろ」と出てきたのは服装の違う大男、多分隊長格だろう。しかしなあ、前にやりあった師団長クラスの魔力を感じない。他の奴よりちょっと大きいぐらいだ。

「魔法剣フロート!」

 ? 剣に浮遊魔法? なんだそれ?
 さすがの俺も意味が分からなくて止まった。
 しかし、一直線に間合いを詰めてくる。
 俺の目の前で土埃を巻き上げながら振り上げた剣……! 土埃が落ちない!? なるほど、もし剣に当たったら体が浮いて地面を蹴れなくなる。俺には有効だな!
 剣先を見切ってかわす。よけるだけならたやすい。
 一気に懐に潜り込んで腹を殴り飛ばす。そのまま隊長は兵士の山にぶつかって、山ごと崩れてのびてしまった。

「アイディアは良かったな。だが俺の相手にはならんぞ」

 腕組みしてカラッと笑う。残りの兵士が委縮しているのを確認して声を上げる。

「クラウディア! 出てこいよ!! カテイナ様が直々に会いに来てやったんだぞ!!!」
 
 しばらくして、正門を開けて誰かの手が出てきた。近くの兵士を呼び止めて話をしている。だけど顔は見えない。陰に隠れっぱなしだ。
 それから正門から新しい兵士が出てきて倒れている兵士を回収している。回収をそそくさと終えると、クラウディアが出てきた。
 クラウディア自身も目の下に隈ができてなんだか青白く、やつれている。
 そしてクラウディアを認識したとたんに走る嫌悪感、クラウディアの顔を見ておぞけが走る。何か思い出してはいけないものがこみ上げようとしている。

「ちょっと待て、クラウディア! それ以上近寄るな!! なんか気持ち悪い!!!」
「私は……、君の……ぐぶっ」

 口を押えるとクラウディアが走って正門の影に隠れた。聞きたくもない吐瀉音が聞こえる。俺も限界だ。森に走って木陰で初めてゲロった。
 手足がふるえる。クラウディアをきっかけにしてとても嫌な記憶が足音を立ててはい寄ってくる。
 考えてはならないが思い出してしまう。喜悦にゆがんだ大魔王の顔、転倒して動かないジブリルの姿。視線をかわすクラウディアと俺……おえっぷ。
 無意識に記憶の奥底に封印したものが鮮明に思い出される。
 おのれ、大魔王! 後継者の俺に、次期魔界王に、自分の子に対して何たる仕打ち! 思わず股に手を当てて今ある現実を確認する。

「だ、大丈夫ですか?」
「ダメだ。ジブリル。水を持ってきてくれ……たのむ」

 頭を下げてジブリルが飛び去る。
 背中で冷や汗をかきながらうずくまる。クラウディアは恐らくずっとこの状態だったんだろう。そりゃ青白くもなるし、学校を休学するわけだ。
 克服する気力すら霧散する。
 忘れてしまった方が億倍もまし。
 すぐに戻ってきたジブリルの手には水球がある。近くの川で魔法でも使ったんだろう。
 それに思いっきり突っ込んで頭を冷やす。
 頭を掻きむしって水中で思いっきり叫ぶ。水球がはじけて散るほどだ。
 足らないので不快感が消えるまで地面を殴りまくった。もちろん全力でだ。
 ひとしきり暴れて不快感を吹き飛ばす。

「はぁっ、はぁっ、ふ~、くそっ! あの鬼ババアめ! なんてことを、……なんてことしやがる!」
「お、落ち着けましたか? カテイナ様」
「これが落ち着いていられるか! あのくそ鬼婆ぁ! 俺の、俺の男の証になんで、こんなことを!」

 悔し涙さえ流れ出る。この感情の激流はそうそう簡単に収まらない。両手に悪意の塊と言わんばかりに魔力が集中する。それと同時に首輪も締まる。

「ぐげっ、げげげっ、ぇっ」
「か、カテイナ様!」

 だが俺の激情は収まらなかった。両手を掲げて上空で魔力爆発を発生させた後、俺の意識は再び途絶えた。
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