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10.第一王子。
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仕立て屋を出て表通りを歩いていると、露店に王族の絵が並んでいた。
金色の髪の青年――第一王子の絵に、俺は足を止める。
「うわ、これ……第一王子の絵だけすごいたくさんあるな。王子って、人気あるんだな」
あれ、でも第一王子って確か小さいころ暗殺未遂があったみたいで、今は魔法で顔とか髪の色を変えてるって話だったよな。
ってことはさ、これ、仮初の顔ってことか。
そんな絵を持ってたってしょうがないじゃん。
でも、かっこいい絵姿だから、偽物でも構わないってことかな?
実物見たときにがっかりしないといいけどな。
第一王子って、どんな人なんだろ。
強くて、優しくて、国民のことを大事にしてくれる人ならいいな。
もう王子は成人して色んな仕事も担っているから、そろそろ国民にも本当の姿をお披露目するだろうって聞いたけど。
それにしてもこの世界、魔法で顔が変えられるなんてすごいよな。
とはいっても、この国、プラーツ王国では、魔法は王族くらいしか魔法は使えない特別な力だ。
昔は魔道士の数が多かったけれど、今は王族にしか魔力がほとんど残ってないらしい。
一般の庶民にとって、魔法はおとぎ話や神話の中の世界だ。
歴代の王族の中でも、今の第一王子は強い魔力を持つといわれてる。
「顔を変える魔法」なんて特殊な魔法を使えるってだけで、どれほど特別な存在かわかる。
そりゃあ、こんな絵が人気になるのも当然か。
でも、どんなに魔法が使えても、結局は人間だ。
その強さの裏で、きっと大変なことも多いんだろうな。
そんなことを考えていたら、隣でフィンが小さく笑った。
「ふふ、王子様って言葉にみんな弱いんだろうね。君は、王族ってどう思う?」
「んー……遠い世界の人って感じだな」
「そっか」
なぜかフィンは、つないでいた手をぎゅっと握りしめてきた。
いつもより少しだけ、強く。
「けど、王族って責任も重くて、不自由なこともたくさんあるんじゃないかってことくらいは想像できるよ。
それなのに、俺たち国民のために働いてくれてるんだろ?
この国、他の国と比べても豊かなほうだし、これだけ町に活気があるってことは、きっと王様とか偉い人が、相当頑張ってくれてるんだと思う。
だからさ。
もし、王族の人たちに会うことがあったら“ありがとう”って言ってやりたいかな。
あと、“お疲れ様”も。
ま、そんなこと不敬すぎて言えないけどね」
そう言うと、フィンが少し目を見開いて、柔らかく笑った。
なんだか、すごく優しい笑顔だった。
「……ううん。きっと、その言葉が一番うれしいと思うよ」
「ん? なんか知ってるみたいな言い方だな」
「ふふ、そんなことないよ」
そのフィンの笑顔が、この絵の王子と少しだけ似ていることに気付いた。
けど、フィンにはかなわない。
この絵よりも隣にいるフィンは何倍もかっこいいんだから。
俺は王子の絵を見ていたはずなのに、いつの間にかフィンの横顔を見ていた。
光を受けた髪が柔らかく輝いて、目元が穏やかで——見てるだけで胸が温かくなる。
その瞬間、自分の中に、見たこともない感情がふつふつと湧き上がった。
ずっと見ないようにしてきたパンドラの箱が、今まさに開こうとしているような気がした。
だめだ。開けちゃいけない。
なぜかそう思った俺は、慌てて俺はフィンから視線を逸らし、無理やり話題を変えた。
「な、なあ、次どこ行く? 腹ごなしに歩こうぜ!」
俺の言葉に、フィンは懐から懐中時計を取り出して、時間を確かめていた。
その時計、いつも持ってるよな。
訓練の合間でも、フィンが大切にそれを扱っているのを見たことがある。
きっと、思い入れのある品なんだろう。
「うん、そろそろいい時間だ。のんびり露店を眺めながら行こう。ねえ、エリゼオ」
「ん?」
「私は、君といる時間が好きだよ」
その声が、真っ直ぐ胸に落ちてきた。
冗談でも、軽い言葉でもなくて。
本気の響きがあった。
鼓動がひどくうるさい。
街の喧騒が遠くに霞んで、ただフィンの声と笑顔だけが、やけに鮮明に残った。
ほんとに俺、どうしちゃったんだろう。
金色の髪の青年――第一王子の絵に、俺は足を止める。
「うわ、これ……第一王子の絵だけすごいたくさんあるな。王子って、人気あるんだな」
あれ、でも第一王子って確か小さいころ暗殺未遂があったみたいで、今は魔法で顔とか髪の色を変えてるって話だったよな。
ってことはさ、これ、仮初の顔ってことか。
そんな絵を持ってたってしょうがないじゃん。
でも、かっこいい絵姿だから、偽物でも構わないってことかな?
実物見たときにがっかりしないといいけどな。
第一王子って、どんな人なんだろ。
強くて、優しくて、国民のことを大事にしてくれる人ならいいな。
もう王子は成人して色んな仕事も担っているから、そろそろ国民にも本当の姿をお披露目するだろうって聞いたけど。
それにしてもこの世界、魔法で顔が変えられるなんてすごいよな。
とはいっても、この国、プラーツ王国では、魔法は王族くらいしか魔法は使えない特別な力だ。
昔は魔道士の数が多かったけれど、今は王族にしか魔力がほとんど残ってないらしい。
一般の庶民にとって、魔法はおとぎ話や神話の中の世界だ。
歴代の王族の中でも、今の第一王子は強い魔力を持つといわれてる。
「顔を変える魔法」なんて特殊な魔法を使えるってだけで、どれほど特別な存在かわかる。
そりゃあ、こんな絵が人気になるのも当然か。
でも、どんなに魔法が使えても、結局は人間だ。
その強さの裏で、きっと大変なことも多いんだろうな。
そんなことを考えていたら、隣でフィンが小さく笑った。
「ふふ、王子様って言葉にみんな弱いんだろうね。君は、王族ってどう思う?」
「んー……遠い世界の人って感じだな」
「そっか」
なぜかフィンは、つないでいた手をぎゅっと握りしめてきた。
いつもより少しだけ、強く。
「けど、王族って責任も重くて、不自由なこともたくさんあるんじゃないかってことくらいは想像できるよ。
それなのに、俺たち国民のために働いてくれてるんだろ?
この国、他の国と比べても豊かなほうだし、これだけ町に活気があるってことは、きっと王様とか偉い人が、相当頑張ってくれてるんだと思う。
だからさ。
もし、王族の人たちに会うことがあったら“ありがとう”って言ってやりたいかな。
あと、“お疲れ様”も。
ま、そんなこと不敬すぎて言えないけどね」
そう言うと、フィンが少し目を見開いて、柔らかく笑った。
なんだか、すごく優しい笑顔だった。
「……ううん。きっと、その言葉が一番うれしいと思うよ」
「ん? なんか知ってるみたいな言い方だな」
「ふふ、そんなことないよ」
そのフィンの笑顔が、この絵の王子と少しだけ似ていることに気付いた。
けど、フィンにはかなわない。
この絵よりも隣にいるフィンは何倍もかっこいいんだから。
俺は王子の絵を見ていたはずなのに、いつの間にかフィンの横顔を見ていた。
光を受けた髪が柔らかく輝いて、目元が穏やかで——見てるだけで胸が温かくなる。
その瞬間、自分の中に、見たこともない感情がふつふつと湧き上がった。
ずっと見ないようにしてきたパンドラの箱が、今まさに開こうとしているような気がした。
だめだ。開けちゃいけない。
なぜかそう思った俺は、慌てて俺はフィンから視線を逸らし、無理やり話題を変えた。
「な、なあ、次どこ行く? 腹ごなしに歩こうぜ!」
俺の言葉に、フィンは懐から懐中時計を取り出して、時間を確かめていた。
その時計、いつも持ってるよな。
訓練の合間でも、フィンが大切にそれを扱っているのを見たことがある。
きっと、思い入れのある品なんだろう。
「うん、そろそろいい時間だ。のんびり露店を眺めながら行こう。ねえ、エリゼオ」
「ん?」
「私は、君といる時間が好きだよ」
その声が、真っ直ぐ胸に落ちてきた。
冗談でも、軽い言葉でもなくて。
本気の響きがあった。
鼓動がひどくうるさい。
街の喧騒が遠くに霞んで、ただフィンの声と笑顔だけが、やけに鮮明に残った。
ほんとに俺、どうしちゃったんだろう。
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