オタク病

雨月黛狼

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第8話 相手は人間じゃないよ!?

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 ガンッ!

「あ?」
「何⁉」

 一ノ瀬が驚く。
 驚くのも仕方がない。

 環が机に頭を思い切り打ち、ヘッドフォンを押さえたままま寝たふりをかまし始めた。

 いやというか、寝たふりにもなってねえ。

「おいこら環! ヘッドフォン外せって!」
「やめなさい! 今私は下界にいてはならない存在なの! というか、お願いだからやめて! 緊張して何も話せないから!」

 俺は環のヘッドフォンを掴み剥がそうとするものの、すごい力で抵抗される。
 そしてそのまま結局、環は机に伏してしまう。

「……マジでなんなんだよこいつ」
「え、ていうか、本当に猪尾くん、久遠さんと知り合いなの? なんか仲良さげ?」

「…………ああ、まあ、俺とこいつは、その、付き合って――」

「そんなんじゃない!」
「おお、びっくりした」

 環が勢いよく顔を上げ、叫ぶ。

「え、今、付き合ってるって言った?」

 一ノ瀬が首を傾げる。

「あ、ああ――んぐっ」
(ちょっと、待ちなさい!)

 俺は環に口を押さえられ、耳打ちされる。俺はその手を剥がす。

(なにすんだよ)
(その、いきなり付き合ってるとかって言ったら誤解されない?)

(誤解って?)
(だから、その……私たちが付き合ってるんじゃないかって)

(いやそれそれ。誤解じゃねえんだよそれ。それでいいんだよ)
(そう、なのかしら……)

「さっきからふたりでどうしたの?」

 一ノ瀬が近づいてくる。
 俺は環から離れ、一ノ瀬に向かいあう。

「一ノ瀬、お前に言いたいことがある」
「な、何?」

「俺と環は付き合っているんだ」
「へ?」

 一ノ瀬は目をまんまるにする。

「俺とこいつは、恋人なんだよ」

 これで少しは俺の見方を変えてくれるだろ――

「え、えええええええええ⁉」

 一ノ瀬は教室中に響き渡る声で叫ぶ。何事かとこちらを見るクラスメイトがいる。

「そこまで驚く?」

「そ、そ、そ、そんなことがあって、いいの……? ねえ、久遠さん。目を覚まして。相手は人間じゃないよ?」
「いや人間だよ? お前今まで何と話してたの? 俺のことなんだと思ってんの?」

「ねえ久遠さん、この虫――猪尾くんと付き合ってるの?」
「ねえ今虫って言いかけたっていうか、はっきり言ったよな? 傷つくんだよ? やめて?」

 一ノ瀬に肩を掴まれた環は顔を真っ赤にし、体を震わせ、目を泳がせている。

「……(こくり)」

 しかし、なんとか頷いた。

「そ、そんな……」

 一ノ瀬は顔を青くし、2、3歩ほど下がる。

「まあ、そういうことだ。そんで一ノ瀬委員長、この困ったぼっち女子の友だちになってやってくれよ」

「……こんな、はずじゃ……」

 どうしてか一ノ瀬は頭を抱えている。
 この状況何? マジでリアルの女ってなんなの? 意味がわからなすぎるんだけど?

「おっす、宅也。なんか盛り上がってるけどどうしたんだ?」
「おお、空馬。いやな、こいつ、環と一ノ瀬が友だちになろうとしてんだけど上手くいかなくてな」

「よくわからんけど大変だな。つか、お前もしかして久遠と付き合ってんの?」
「……ああ、一応な」

「おお! あの宅也についに彼女ができたか! いやあ、俺は信じてたぞ。お前はやればできるやつだと思ってんだよ!」

 空馬は俺の肩を叩く。

「織田くんはそれでいいの⁉」

 一ノ瀬が空馬に飛びつく。

「そりゃダチに彼女ができたんだからいいに決まってるだろ」
「そ、そうかもしれないけど……」

「お前だって宅也に社会性を持ってほしいと思って今まで育ててきたんだろ。ああ、そうか。子離れってやつか。たしかに少し寂しい気はするな」

 空馬は手を頭にやり微笑む。
 一ノ瀬は俺に振り向く。

「……本当に、本当に、久遠さんと付き合ってるの?」

 俺は一ノ瀬から目を逸らす。

「……そうだよ」

 俺がそう言うと、一ノ瀬は俯き体をぷるぷると震わせる。

「……知らないっ!」

 一ノ瀬はそう言って自分の席に戻ってしまった。

 なんだったんだよあいつ……。
 まあでもこれで、多少、俺に対する見方は変えられたかな。

 ていうかあいつ、誰にでも手を差し伸べる委員長キャラじゃねえのかよ。結局、環の友だちになってくれてねえじゃん。これじゃ環の世界全然変わらねえよ。

 事の一部始終を体を震わせながら見ていた環は再び机に伏す。何か呟いている。

「嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた」

「いやもうだから怖い! 嫌われてねえから! 大丈夫だから! そんでほら、こいつは織田空馬。俺の友だちだ」

 俺は環を起こす。

「おっす、よろしくー」

 空馬は環に向けて手を上げ笑顔を向ける。

「…………リアルの男の人、怖い」
「あれま、怖がられちまったか」
「一応、俺もリアルの男なんだがな……」
「……(ぶるぶる、ぶるぶる)」

 環は相変わらずヘッドフォンを押さえ、体を震わせている。
 うーん、これ以上はちょっと厳しいか。

「まあそういう訳だからゆっくり仲良くなってくれよ空馬」
「りょーかい。でも意外だな。久遠ってもっとクールなイメージだったけどな」
「いや俺もあんな環を見たのは初めてだよ」

 あいつまじで社会性ゼロだな。よく今まで学校生活送れてきたよ。
 俺と空馬は席に座る。

「で、実際はどうなんだよ?」

 空馬が俺に小声で話しかける。

「なにが?」
「付き合ってるっての、嘘なんだろ?」

「なっ」
「それぐらいわかるっつの。ま、なんとなく理由もわかるし」

 空馬は笑いながら言う。

「お前はさすが俺の友だちだな」
「伊達にお前のダチじゃねえんだよ」

 俺と空馬が笑いあう。

 ちなみに環は未だにヘッドフォンを押さえ、体を震わせていた。
 あんなんで社会変えるなんて本当にできんのかよ……。
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