オタク病

雨月黛狼

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第10話 そのリュック、登山してきた?

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『人がいっぱいいるわ』

 土曜日。俺と環は秋葉原に来ていた。しかし――

「ああ、いっぱいいるな。あのな、そうじゃなくてお前今どこにいるのって聞いてんの。電気街北口集合って言っただろ。周りに何がある?」

 集合場所の電気街北口。出口の先には大きなビルの秋葉原UGXビルがそびえたっており、そのビルには大きな画面があり、CMが映し出されている。その手前には『ガンデムカフェ』がある。

 そこに集合とのことだったのだが、集合時間になっても環が来ないので連絡し、どこにいるか聞いたらこの有様だ。

『ヨツバシカメラがあるわ』
「ビッカカメラじゃなくて?」
『ええ、ヨツバシカメラだわ』

「ああ、昭和通りの方か。わかった。そっち行くからそこで待っててくれ」
『秋葉原公園というものがあるわ。こんなに小さい公園を公園と言っていいのかしら』

「おい! 動くなって」
『戻ったわ。あ、唐揚げ屋さんがあるわ。美味しそうね』

「……ああ、じゃあそこら辺にいてくれ」
『このヨツバシカメラ大きいわね。1階はスマートフォン関係の売り場なのね』

「だから動くなって! なにこのデート!? 遠距離デートかよ! いや遠距離デートってなんだよ!?」
『無駄にテンションが高いわね。まあ、私もその気持ちはわかるわ。今、エスカレーターに乗ってるわ』

「ねえ、何回言えばわかるの? 動くなって言ってるんですよ?」
『4階にヘッドフォン売り場があるみたいわ。興味深いわね』

「うん、もうわかった。自力で見つける。4階でヘッドフォン見てろ」
『言われなくてもそうするわ』
「言った通りに動いてくれないと一生会えないよ?」

 そこで通話を切った。
 はあ、やれやれ。

 休日。色々な人で賑わっている。オタクそうな人。コスプレイヤーのようなゴスロ
リの女。外国人観光客、スーツを着たサラリーマンもいる。

 俺は人混みの中、架道橋の下道を歩いてヨツバシカメラに向かう。

 ああ、暑いなあ。
 俺は緑のチェックの半袖シャツに半ズボンを履いている。少し歩いただけで大きなリュックと背中の間で汗がにじんでいるのがわかる。

 ヨツバシカメラに着き、エスカレーターで4階まで上がる。
 そして辺りを見渡すとすぐにやつの姿を見つけることができた。

 相変わらず艶のある長髪に白いヘッドフォンを掛けている。しかし当然、いつもの制服と違って私服だ。
 肘よりも短い白いTシャツに茶色のロングスカートを履き、肩には白いショルダーバックを掛けている。

「おい」
 俺は環の頭に軽くチョップする。

「通報するわよ」
「やめて? そこまでしてないでしょ? というか、お前はもう少し悪びれろ」
「あなた何その大きなリュック。登山してきた後なの?」

 環は俺のリュックを見て目を細める。

「う、うるせえな。気に入ってんだよこれ」

 俺は大きなリュックに手を触れ、眉間に皺を寄せる。

「ねえ、これ見て。ザンハイゼーの新作ヘッドフォンよ」

 環はそう言い、白いヘッドフォンに触れる。ザンハイゼーとはヘッドフォンのメーカーのことだろうか。

「かっこいいな。でもお前の相棒は今掛けてる『ほわいと』だろ?」
「ヘッドフォンにも寿命があるのよ。そして寿命を迎えた『ほわいと』は新たな形となって転生するのよ。つまり、どんな形をしていても『ほわいと』は永遠に不滅なのよ」

「お、おお」

 オタクすげえな。急にめっちゃ喋るじゃん。というか転生ってなに? こいつのヘッドフォン異世界転生主人公なの? 私よえー系なのに?

「まあそれでも今の形の『ほわいと』は未だ健在だわ。今は転生の必要がないわね」

 専門外のことはさっぱりわからん。でも、こんなに目を輝かせている環を見るのは初めてだ。これだけでも連れてきてよかったと思う。

「そんじゃ、そろそろ行くぞ。今日はいっぱい色んなところに行くからな」
「まだもう少し見ていたいのだけれど、そうね。この後予定が詰まっているならいいわ。まずはどこから行くの?」

「そうだなー、まずは『レディオ会館』だな」
「……『レディオ会館』。一度行って見たかったのよ」

「そういやお前、アキバ来たことないの?」
「ええ、ひとりでこんなところ来られるわけがないじゃない」
「……その割にマイペースに動いてくれたけどな」

 そうして俺と環はヨツバシカメラを出て、電気街方面へと歩く。

「あなたはアキバに行き慣れてるの?」
「無理やり空馬を何回か連れてきただけだ。そこまで詳しくない」

「……あなたに付き合わされるお友だちも大変ね」
「ほら、あれがレディオ会館だ」

「……あれが噂のレディオ会館ね! 行ってみましょう」
「おい、ちょっと待てって!」

 環は目を輝かせ、足早に中に入ってゆく。
 俺たちは4階に行き、フィギアを見やる。

「すごいわよ! 『ごちうし』のメンバーが全員そろっているわ。ひとりで2万弱もするのね。くっ、全員そろえるのに何年経つのかしら」
「お前は『ごちうし』の誰推しなんだ?」

「ハコ推しよ。誰ひとり欠けてはいけないわ。あなたは誰推しなのよ?」
「俺は断然『チナちゃん』派だ」
「はっ、ありきたりね」
「ありきたりで何が悪りいんだよ! というかな、お前またハコ推しって言ってるけど、だから結局、愛が分散されて大した愛じゃねえんだよなあ!」

「は? 私の方がチナちゃんのことをあなたより知ってるわ。問題よ! チナちゃんの身長は何センチで――」
「144センチ! ふんっ! はい勝ちぃ! お前負けぇ!」

「残念不正解よ」
「は!? 合ってんだろ!」

 こっちは公式ガイドブックで登場人物のプロフィールを完全に記憶してんだよ!
「最後まで問題を聞いてないからよ。チナちゃんの身長は144センチ、ですが! ココナちゃんの身長は何センチでしょう、でした!」
「はあ!? そんなの後付けだろ! ちなみにココナちゃんの身長は154センチ!」

「あなたと同じぐらいの身長ね」
「6センチも違え! 全然同じじゃねえから! 身長マウントとか小せえことすんなあ。これだからリアル女は」

「あなたの身長なんてどうでもいいわ。というか一番、身長を気にしているのは本人、あなたでしょう」
「ぐっ、お前は身長何センチなんだよ……」

「私は160,2センチ。あら、宅也どこにいるの? 小さくて見えないわね」
「見えねえわけねえだろ! 俺は160,3センチ。はい! お前の負けえ!」

「はいすぐマウント。あなた女の私と同じ身長でかわいそ――あ、ごめんなさい」
「悪びれる振りしてディスってんじゃねえか。つーか、0,1センチ俺の方が高いから!」

「はあ、身長だけじゃなく器も小さいのね。あ! あれは!」

 環はフィギアから目を放し、何かを見つけたようだ。俺は環が見た方へと見やる。

「ああ、『サイカノ』の特設ポップストアか。行ってみ――、すでにいねえ……」

 環はすでにポップアップストアに内におり、ヒロイン3人の等身大パネルに並んでいる。

「ねえ、写真撮って!」

 環が俺にスマホを渡す。

「はいよ」

 俺は環のスマホで写真を撮る。

「はぁ~感激だわ!」
 環は嬉しそうに写真を見つめている。

「おう、おう、おう、おう」
「何よまたオットセイ?」
「ちょ、俺も撮って!」

「はあ、仕方がないわね。あ、でもいいのかしら? あなたよりも身長の高いヒロインがいるわよ?」
「う、うるせえ! もう身長の話はいいわ!」

 俺も環に写真を撮ってもらい、ほくほくした気持ちでレディオ会館を後にした。

「次はどこにいくの?」
 環が俺に尋ねる。
「次はそうだなー、無難に『りゅうのあな』に行くか」

 そう言って俺たちは『りゅうのあな』に行き、環が『あい♡ぷり』の同人誌を買っていた。

 その後俺たちは『アニメイク』に赴き、4階5階のキャラクターグッズを見ていた。

「『あい♡ぷり』のクリアファイルに、缶バッジ……。欲しい、欲しいけど、使いどころが……。学校じゃ使えないし」
「缶バッジならそのショルダーバックに付けられるだろ」
「え、ええ。でも……」

 やはり二次元が好きでも、堂々と二次元好きを周りに知られることに抵抗があるみたいだな。
 まあ、それもしょうがないことだろう。

 それぐらい、今の時代は二次元コンテンツへの風当たりが強い。
 ましてやガラスのメンタルの環だ。堂々とグッズを身につけたりするのは難しいだろう。

「あなたはどうして平気でいられるの? 学校でも、普通に二次元のファイルとか使ってるじゃない」

 環が俺に上目遣いを向ける。

「べつに平気っつーか、特に何も考えてない。俺はリアルのことはどうでもいいと思ってっから。ただ俺の好きな世界がべつにあるからっつーか」

 ていうかこいつ、結構俺のこと見てんだな。

「ちょっと難しいわ」
「そうだな。すまん、俺もなんて説明すればいいかわからん。まあ、あれだ。無理に何かに付ける必要ないだろ。家で見て楽しめばいいんじゃね」
「そ、そうね」

 そう言って、環はグッズを数個レジに持ってゆき購入した。
 俺は手を差し伸べる。

「あっ、……ありが、とう」
「素直に礼を言うんだな」
「べつに」

 環は頬を染め、そっぽを向く。
 そんな二次元ヒロインみたいな反応するな。なまじ美人なだけ威力がある。
 いや! 全然リアルの女にときめいたりは断じてしてないからな!
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