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第12話 運動能力とオタク関係ないだろ!
しおりを挟む「デートはどうだった?」
休みが明け月曜日。登校し、教科書を机に入れていると一ノ瀬が俺の席へと来た。
「まあ、普通」
「普通って。ちゃんとエスコートしてあげた?」
一ノ瀬は首を傾ける。
「色んな場所に一緒に行ったよ。楽しかったって言ってくれた」
「そう」
一ノ瀬は目を伏せ、微笑む。
「猪尾くんは、楽しかった?」
「ああ、楽しかったぞ。フィギアとか等身大パネルとか、あとまあ、メイドとか。今度お前も一緒に来るか?」
「いかないよー。それに、今度ってまた環ちゃんと行くの?」
「何かまた機会があったらって感じでな」
「じゃあ次の機会を与えて差し上げましょう」
「は?」
一ノ瀬は笑顔で言う。
「次は4人で遊びに行こう!」
「4人って?」
「環ちゃんと猪尾くん、それと織田くんとわたしの4人」
「……うーん、環のやつ大丈夫かね」
「そこをフォローするのが猪尾くんの力だよ」
「えー」
「えーじゃないの。それが猪尾くんと環ちゃんのためなんだから」
「べつに俺のことはどうでもいいけど」
「ダメだよー、せっかく更生してきたんだから。この調子でどんどん進もう! それとも、ふたりのお邪魔はされたくないかな?」
「べつにそんなんじゃねえよ。ただ環が心配なだけだ」
「……猪尾くん、ほんとうに――」
「え?」
一ノ瀬は俺に聞こえないほどの声で呟く。「ほんとうに、変わったね」と言ったか?
「ううん、なんでもない。環ちゃんにその旨、相談しておいてね」
「ああいいけど、断られても文句言うなよ?」
「そこを説得するのが猪尾くんの仕事なのですよ?」
「えー」
「えー、じゃない。頑張りなさい!」
「……わかったよ」
「よぉし! じゃあ頑張ってね」
一ノ瀬はそう言って、手を振り自分の席に戻って行った。
はあ、本当におせっかい委員長だな。
どうしてそこまでして俺たちの面倒を見ようと思うんだ。
まだ、俺は同情されているのだろうか。少しは同情されなくなったと思ったんだけどな。
あいつの考えていることはさっぱりわからん。
俺は授業の準備をしたのち、本を開いた。
「あなたのせい」
「は? なんだよ急に」
昼休みになり、俺と環は机を合わせ一緒に昼食を食べていたら突然、環が俺を睨んできた。
「足が痛い。筋肉痛」
環はそう言いつつ、ブレザーの右ポケットに触れている。
「それは運動不足のお前が悪いんだろ。良い運動になってよかったじゃねえか」
「キモオタのあなたは筋肉痛にならなかったの?」
「キモオタ関係なくない? 俺は自転車通学だから、普段から多少運動してる」
「そう」
さして興味のなさそうに環は言い、弁当を食べる。
しかし、少し様子がおかしい。
さきほどからブレザーの右ポケットを何度も触れている。
「なんかポケットに入ってんのか?」
「えっ」
「いや、さっきからごそごそしてるから」
「あっ、いや、それは、その――」
環は頬を染め、右ポケットに手を入れる。
「?」
「これ」
そう言って環は右ポケットからそっと缶バッジを取り出す。
「『あい♡ぷり』のやつじゃねえか。持ってきてたのか」
「ええ。付けなくてもこうやって持ってくればいいかと思って」
「いいじゃん」
笑みがこぼれる。
「えへへ」
環は恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに微笑む。
環は缶バッジをポケットに戻す。
「そうだ。一ノ瀬がさ、今度4人で遊びに行きたいってさ」
「え、よ、4人で……?」
「ああ、俺たちと一ノ瀬と空馬の4人で。……やっぱりまだきついか?」
「…………」
環は目を泳がせる。
「無理にじゃなくていいから」
「……頑張る、頑張り、たい」
環は俯きながら言う。
「そっか。じゃあ一ノ瀬に伝えておく。きついと思ったらすぐに言えよ。みんな理解してくれるから」
「え、ええ。大丈夫かしら。迷惑をかけそう……。どこに行くの?」
「お前が行きたいところでいいんじゃないか?」
「家」
環は即答する。
「じゃあお前ん家に行くぞ。アニメ鑑賞会でもするか?」
「嫌」
再び即答。
「はあ、どこか適当なショッピングモールだろ」
「ショッピングモールね……」
「アキバよりは人混みないし、そこまでずっと歩くわけじゃないから大丈夫だ。休憩も挟んでな。無理に話そうとしなくてもいい。だから心配すんな。な?」
「え、ええ。でも心配なものは心配だわ」
「大丈夫だ。俺もいるから」
「…………」
環は目を細めて俺を見つめる。
「なんだよ」
「あなたのそのときどきやる主人公アピールなんなの? 私をギャルゲヒロインだと思っているの? 分をわきまえなさい。あなたじゃ主人公は無理よ」
「お前を攻略する気はまったく! ねえ! 人とのコミュニケーションはギャルゲとかラノベを参考にしてんだから仕方がねえだろ」
「ああ、通りであなたは口が悪いのね」
「え、俺口悪い?」
「自覚ないの?」
「自覚ないです」
「はい鈍感ポイント1。鈍感ポイントが3溜まると見事に鈍感系ウザ主人公の称号を得られます。頑張ってください」
「そんな称号は頑張って得たくねえ。……マジか。俺、口悪いのか」
地味にショックだ。俺のどこが口悪いんだ……?
「まあ、今さら気をつけなくてもいいのだけれどね。私はあなたのような頭のおかしい人間の方が接しやすいし」
「やっぱお前、ただ俺を貶したいだけだろ」
「そうとも言うわね」
「そうとしか捉えられねえんだが」
そんなことを話しながら昼食を終えた。
環が缶バッジを持ってきたことには素直に驚いた。
それを嬉しそうに見せる環の姿は――
なんというか、ちょっと良かったかもな。
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