冷徹な公爵は奴隷の少女を溺愛する

リリリ

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捨てられた少女

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冷たい石畳の上で私は目を覚ました。

 身体が重い。お腹が痛い。いや、これは……空腹?
 ぼんやりとした意識の中で、私は自分がどこにいるのかも分からなかった。

 ――ここは……どこ?

 ぼろぼろの布切れのような服を着た自分の姿を見て違和感がこみ上げる。
 私、どうしてこんなところにいるんだろう?
 何も思い出せない。ただ、身体の奥から恐怖が湧き上がってくる。

「おい、起きろ」

 突然、乱暴に腕を掴まれ、私は小さな悲鳴をあげた。
 目の前にいたのは小太りの中年男。脂ぎった手で私の首元を引っ張り、ジャラリと音がする。

 ――首輪?

「チッ……使えなさそうなガキだが、文句言ってる暇はねぇ。さっさと歩け」

 男は私の首輪についた鎖を引っ張り、私はつんのめるように前に進んだ。
 その瞬間、頭の中に過去の断片がよぎる。

(そうだ……私は……)

 思い出した。
 私は奴隷として売られたんだ。

 生まれたときから貧しい暮らしをしていた。
 家族はいたのか、どこで生まれたのかさえ、もう分からない。
 ただ、気づいたときには鎖がつけられていてこうして引きずられるように歩かされている。

 ――このまま、私はずっと不幸なままなの?

 そんな絶望が胸を支配する中、街の喧騒が耳に入ってくる。
 人々が行き交い、活気のある市場。しかし、誰も私に目を向けることはなかった。
 当然だ。奴隷なんて、この世界では当たり前の存在なのだから。

 そのときだった。

「おい、そんな小さな子供になんてことをしている」

 鋭い低音が響いた。

 男の動きが止まる。私も驚いて顔を上げると、目の前には黒い軍服をまとった長身の男が立っていた。
 鋭く冷たい金色の瞳。強靭な体格。
 まるで獣を見下ろすような、冷たい視線が私を引っ張る男へと向けられていた。

「なんだ、あんた……」

「その子を離せ」

 男は一歩も引かず、冷酷な声で言い放った。

「こいつは奴隷だ。関係ないだろ」

「奴隷だと?」

 軍服の男は低く笑うと、懐から金貨を取り出して投げた。

「ならば、私が買う」

「……は?」

「値段を聞いている。答えろ」

 男はしばらく口をパクパクさせたあと、金額を口にした。
 軍服の男は何のためらいもなく金貨を差し出す。

「そんなに要らないと言うばかりに、か?」

 彼は嘲るように笑った。

 次の瞬間、首輪が外される。鎖が地面に落ちる音が響く。

「……これで、お前は自由だ」

 男はそう言った。

 でも、自由? そんなわけがない。
 だって、私は……。

 身体が震える。自由なんて知らない。どこへ行けばいいのかも分からない。

 すると、大きな手が私の頭にそっと触れた。

「……怯えるな。私は、お前を捨てたりしない」

 その言葉が、何よりも信じられなかった。
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