おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第六十六話:あばずれママと市長

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 青いマントをひるがえす修道騎士たちの消火活動は、目を見張るものであった。
 目にもとまらぬバケツリレーで井戸から水がみだされる。
 手の空いたものはシャベルであたりを掘り返しては黒砂を小屋にぶっかけている。 さらに手の空いたものは風下の小屋を解体している。
 またたく間に火は消し止められた。
「煙がくすぶっているところには水をかけて。風が起こるとまた燃え上がるかもしれないから」
 騎士はバケツで水を運んでは白い灰に浴びせた。

 そこに一台の豪華な馬車が通りかかる。
 二重あごの太っちょが窓から顔を出した。
 贅肉ぜいにくで首とあごが一体化した身なりのいいデブだった。
「あんたたち、なにもんだ?」
 デブはぞんざいな口ぶりでフォルザに声をかけた。
「あら、ペンネの街の市長さん。お久しぶりでございます。たいそう景気がいいようで」
 フォルザが挨拶あいさつを返す。
「なれなれしい小娘だ。お前の顔なんて知らん」
 市長と呼ばれたデブはハンカチで額の汗をふく。
「あら? あたしの顔をお忘れかしら。四年前、あたしの結婚披露宴でお会いした記憶がございますが……。今の格好が野暮った過ぎて別人に思えちゃったかしら」
 フォルザはスカートを広げて、わざとらしい会釈えしゃくをした。
「四年ほど前? 結婚式?」
 市長はなめるように視線を上下に動かした。
 トマトみたいな市長の赤ら顔がナスのように青くなる。信号機みたいだな。
 市長は数回咳ばらいをした。
「ひょ、ひょ、ひょっとしてフォルザ? カルボニの街のフォルザ?」
「あら、憶えてくれたの? 光栄です」
 市長はおつきの者に扉を開けさせ、うやうやしく馬車から下りた。
「女伯閣下、このたびはご機嫌うるわしゅう」
「市長も元気そうでなにより。支持率も上々かしら」フォルザは右手を差し出した。
「ええ、おかげさまでそれなりに」
 市長もフォルザの手を握り返す。
「カルボニ女伯閣下がこの街になんのようで?」
 不意を突かれたじろぎ気味の市長もフォルザとの握手をきっかけに尊大さを取り戻した。
「勝手に入ってきては困りますぞ」
「消火活動のボランティアよ。人の善意を無下むげにするの?」
「野次馬の間違いでは?」
 市長がいい返す。
 いつの間にかボロを着た貧民たちがフォルザと市長を取り囲んでいる。
「そもそも火事なんて起こってはおりません。たかがゴミ捨て場のボヤじゃないですか。こういうことは日常茶飯事なのですよ」
 市長は声高にいう。
「この人たちは? ここに住んでいたみたいだけど」
「ゴミ捨て場に住み着いた無宿人です。正式な住民じゃありません」
 市長はボロをまとった群衆をぎろりとにらんだ。
「スラムごと焼け死ねばよかった。そうなればこの街も多少浄化されたでしょうね」
 市長は軽蔑をあらわすかのように眉をあげた。
「それはいいすぎじゃない、市長。貧乏人だってそれなりに生きているのよ。かれらがいなくなったらゴミ拾いとかドブさらいとか道路の補修とか、誰がするの?」
 いつもは鷹揚おうようとしているフォルザが珍しく気色ばむ。
「――たしかにいいすぎだったかもしれません」
 ふんふんと二回ほど鼻を鳴らし、市長も自身の発言を過激さを認めた。
 それでもごにょごにょと続ける。
「しかし、閣下は井戸の水を使われましたな。しかも大量に。井戸代を払ってもらいますぞ」
「はあ? 火事とケンカはお互い様じゃない。ペンネの街では消火活動にも金を払わないといけないの?」
「もちろんですとも。どんな理由があろうが水代は払っていただきます。それが街を維持するための原資になるのですから」
「その原資の何割かが自分のポケットに入るのね? そしてそれが次の選挙の買収資金になる――」
 フォルザの皮肉に市長は顔をゆがめた。
世襲せしゅうでなんの努力もなしに権力が手に入る閣下には選挙の苦労がわからなんのですよ」
 デブ市長は小声でそう返すのが精いっぱいだった。

「市長! 市長!」
 血相を変えた数人の衛兵たちが駆けつけてきた。
「占拠! 占拠です。正門を占拠されました」
「は? 門は固く閉じておけと命じていたはずだが……」
「いえ、街の内部から攻撃されました。不意打ちでした」
「バカな内部からの攻撃だと?」
「ええ、消火活動と称して壁の隙間から武装集団がこの街に入り込んだようです」
「壁の隙間だと? わが街の壁が崩落したとでもいうのか?」
「はい……突如とつじょ轟音ごうおんとともに壁が崩れて……」
「なぜそれを真っ先に知らせない!」
 市長はヒステリックに衛兵を怒鳴りつけた。
「公邸に使者を出したのですが、いらっしゃらないもので」
「バカ者! 緊急事態だぞ」
 フォルザが口をはさむ。
「あー、ご愁傷しゅうしょう様。そういえば壁壊れちゃったのよね。きっと雷かなんかよ。青天の霹靂へきれきってやつ? よく知らないけど……」
「なんと……」
 市長は言葉を失った。
 ようやく街を守る鎧の傷に気が付いたようだ。
 市長の小さな瞳はV字に切り取られた壁のけ目に注がれている。
「こ、これも女伯のしわざなのか」
 ぎこちない動きで市長はフォルザを見た。
「そんなわけないじゃない。金城湯池きんじょうとうちとうたわれたペンネの街の石壁。いくらあたしの剛腕をもってしても破壊できないわ」
「では……天災、神の御業みわざとでもいわれるのか?」
「だから青天の霹靂っていったじゃない」
 市長はわれに返った。
 修道騎士が意気揚々と青いマントをひるがえし、わがもの顔で通りを走り抜けていく。
 立ち並ぶ家々の戸口は細く開けられ、暗がりからいくつもの目がのぞいている。
 住民の瞳には恐怖と驚愕きょうがくの色があった。
「あのマントの一団はなんだ? 入城の許可を出したおぼえはないぞ」
 フォルザは市長のことばを無視して市長に問いかけた。
「ねえ、知ってる? あたしの長男がシグリア伯に即位するって」
 市長はこたえた。
「噂には聞いている」
「シグリア伯グリュニウス十四世がパスティリア公爵を兼任することを宣言したのも知ってる?」
「――パ、パスティリア公? あんなものはタダのいい伝え……」
 市長はたるんだまぶたを開いたり閉じたりした。
 フォルザは市長に構わずことばを続ける。
「あたし、長男グリュニウス十四世の後見人になる予定なの」
「公国の後見人……」
 市長はまるで呪いでも耳にしたかのような嫌悪感を見せた。
「いまさらパスティリア公爵ですか? そんなびついた称号、現代で通用するとお思いですか?」
「いい質問ね。だからこそ諸国を回って称号の錆びを落とそうとしているの」
「仮に公国が生きていたとしていったい何ができましょう。そもそもこの街は公国に対しての納税の義務は免除されておりますぞ」
「なんだ知っているんじゃない。あたしたち、ペンネの街から上納金をとりたいとか思ってるわけじゃないの」
「金が目的じゃないなら何の用です?」
「ねえねえ、なんでこの街は門を閉じているの? 公国令では太陽が昇っている間の街への出入りは自由なはず。戦争でもない限り、ね」
 フォルザはとつぜん話題を変えた。
「何がいいたいんです? あんたはこの街の一挙一動に文句をつけるおつもりか?」
 市長は語気を荒くし、フォルザをにらんだ。
 フォルザは軽く眉を上げる。
「公爵代理として法令違反について聞いているんだけど。自由都市は万人に開かれるべし」
「は?」
徴税ちょうぜい権は失ったけど統治の権限は未だ残っているのよ。市長、あたしがその気になればあなたを公国法違反で告発して、お手盛りの裁判で有罪判決を下し、うるわししの港町のネズミ臭い監獄にぶちこんで、ダイエットの機会を提供することだってできるのよ」
 ただでさえ小さい市長の黒目が鉛筆の芯みたいに小さくなった。
「バカおっしゃい……そんなことができるわけ……」
「できるわよ」
 フォルザはアストレアに目くばせした。
 刀の柄に手を置いたアストレアが一歩進み出る。
 さっきまで青白かった市長の顔は今やピンク色に染まっている。
 怒りと恐怖、それ以上にフォルザから受けた侮辱のせいで市長はゼリーみたいにぷるぷると震えている。
 拳は固く結ばれ、今にも卒倒しそうである。
 見てるこっちが不安になる。
 なんたって、興奮のあまり心臓発作で死んだヤツを間近で見たからな。
「あなたたちは……! あなたたちは気に食わないがあるとすぐに武力に訴えるんですか!」
「暴力と秩序を一緒にしないでくれる?」
 フォルザが市長に一歩詰め寄る。
「ねえ、お天道様がのぼっているのにこの街はなぜ門をとじたの? 疫病しっぺいでも流行っているの? それとも今までも門の開閉を恣意しい的におこなって旅人に嫌がらせをしたあげく、あわよくば小銭を召し取ろうとしていたわけ?」
「……今はまさに街に危険が迫っておりまして」
 もちろん、現状のこの街にとって一番危険なのはフォルザだった。
「もしかしてその危険ってあたしのこと?」
「……いえ、滅相めっそうも」市長は脂肪がたっぷりついた喉の奥からことばを絞り出した。
「都市閉鎖令は市長の一存じゃ行えないわよね。議会で話し合う必要があるわよねえ。大丈夫? ちゃんと会議は開いた? 議事録はあるの?」
 フォルザは小悪魔のようにウィンクした。
「ねえ、うまく口裏は合わせた? せっかくだから議員一人一人を呼び出して確認しちゃおうかしら」
 フォルザは理詰めで市長をチクチクとなぶる。
 半分は趣味で、半分は時間稼ぎだ。
 市長が拘束され身動きとれないことをいいことに、今この瞬間もアストレア麾下きかの青の騎士たちは網の目のような路地を小走りで浸透している。
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