おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

文字の大きさ
84 / 103

第八十四話:商会の悪行

しおりを挟む
「そのへんにしとけ。これ以上、従業員を虚仮こけにされてセネタース商会が黙っているとは思えん。あいつらヘビのようにしつこくクマのように暴虐だからな」
 丸顔がルードをとめる。
「トラの威を借るキツネ野郎め。ボスの温情をありがたく思うんだな」
 ルードはおれをにらむと、ツバを吐いた。
 汚ねえ!
 おれは首をひねって、眉間を狙った汚い一撃をかわす。
 ルードの唾液はおれを飛び越し、後ろの壁に当った。
「て、てめえ!」ルードのこめかみにみみずばれのような青筋が立った。
「ルード、店を汚すな」丸顔がいった。「あとできちんと掃除しとけ」
 砂袋を握った男は砂袋を下ろすと、咳ばらいして二、三歩下がった。
にいちゃん。手荒な真似する気はねえんだ」
 丸顔が続ける。
「もうしてる」
 おれは抗議した。
「最近、砂袋で背中を叩くマッサージが流行ってるんだ。知らないのか?」
 丸顔がにやにや笑いを浮かべている。
 人好きのするビジネススマイルの裏にこんな下品な顔を隠し持っているのだから、人間分からぬものである。
「知らないね。この街の人間じゃないから。しかもおれがらったところは背中じゃないぜ。頭と肩だ」
「すまんなあ、手が滑ることもあるんだ」
 丸顔は目だけ動かしルードをチラ見する。
「この若造はまだまだトレーニング不足なんだ。堪忍かんにんしてくれよ」
 ルードはひょっとこみたいに唇を曲げ、身体を小さくする。
「で、おれを殴ったあげくぐるぐる巻きにして何をするつもりだ。はなっから殺すつもりじゃないだろう。殺意があるならもうとっくにバラしているだろうからな。まさか煙であぶってハムにでもするつもりか?」
「口の減らない小僧だねえ」
 丸顔は顔をしかめながら、四つ折りの紙を開いた。さっきまでおれの懐に納めてあった通行手形だった。おれが倒れているスキに奪い取ったのだろう。
「こいつはすげえな。セネタース商会が発行したマッタリア全土で通用する通行手形だ。こんなの持ってるヤツはウチの安宿なんかに寄り付かねえ。長く商売をやってるがこいつを見るのは初めてだよ」
「ボス、偽物では?」誰かがいった。
「いやそんなことはないな」
 ボスと呼ばれた丸顔は通行手形を男衆に見せた。
「この人相書きだよ。この男とそっくりじゃないか。これほどの腕を持つ絵描きはこの街にはいねえ。いや、マッタリア王国全土を見渡しても片手で数えるほどしかいねえはずだよ」
 男たちの視線が通行手形とおれの顔をなんどか往復し、結局黙った。全員納得したようだ。
 リサ、喜べ。キターラの安宿の主人はおまえの絵画の腕前をめてくれたぜ。
「いや、なにもセネタース商会にたて突くつもりはないんだ」
 ボスは急に声色をやわらげ、いい訳するようにいった。
 口調には隠し切れないおそれがある。
「ただ……ただな」ボスは続ける。「このあわただしい状況でな、あれこれ目立つことされちゃ困るんだ」
「目立つことって?」
「王家印章入りの証文を買いたたくことだ……」
「何か悪い事をしたか? 平常業務に目くじらたてられても困るんだが……」
 おれは平然と適当な出まかせを口にした。
 ボスはおれのセリフを聞き、頭をかく。
 縛り上げたうえで、まだ丸顔の主人はセネタース商会の番頭とその裏にある影響力を恐れているのだ。
「だからセネタース商会と関わりあいになりたくないんだ。ヤツら金のためなら殺人以外なんでもやる。デマ、詐欺、収賄しゅうわい、偽造、脅迫きょうはく、押し売り、違法薬物売買。いや殺人だって涼しい顔してやるにきまっている。そうだ、今回のいくさだって金もうけのためにヤツらが仕組んだんだ。そうに決まってる」
 その陰謀論は斬新だ。
 丸顔にとっては太陽が東から上がるのも、カラスが『カア』となくのもセネタース商会の陰謀だろう。
 しっかし、ずいぶんセネタース商会って嫌われてるんだな。
 も殺さないような(実際は結構殺しているんだろうけど)リサの美貌びぼうからは想像もできないぞ。
「ともかく王太子軍がどっかにいくまで、この街でうろつかれちゃ困る。セネタースの恨みも買いたくないが、王家の恨みも買いたくない」
 この主人はあくまでも中立を貫こうとしている。それはそれで賢いことだと思うよ。
「それじゃ商売あがったりだ。商会のノルマは死ぬほどきついんだ。ボーナスがゼロどころか冬になる前に解雇だよ」
 おれは自画自賛の迫真の演技で出まかせをいった。
「お前さんのいうこともわかるが街の都合もある。悪いが軟禁させてもらう」
「そんな……病気の姉と妹を養わなくちゃいけないんだ……高い薬を買わなきゃいけない……親父もおふくろも死んで、おれだけが頼りなんだ……なんとか商いをさせてくれよ!」
 突如とつじょ、おれに姉と妹ができた。
 脳内設定では病弱で薄幸はっこうな色白の美人姉妹である。
「それは可哀かわいそうだなあ。でもいくさが終わるまではこうせにゃいかん。堪忍してくれ」
 ボスのことばは心なしか優しかった。
 だまされたな――くくく、間抜けなお人好しめ。
「お前ら、この客人を丁重ていちょうに二階の奥の部屋に案内しろ」
 男たちが再びおれのそばに集合し、おれの身体を持ち上げた。
「奥の部屋は施錠して立ち入り禁止の看板を出しておけ。ほかの部屋は営業するぞ。開けとけりゃ少しは客がくるだろう」
 丸顔はいう。
「すまんがロープを緩めてくれないか」
 おれは懇願こんがんした。
 さっきからウソしかいっていないが、これはウソじゃない。
 おれをしばるロープは、感覚がなくなるほど強く手足に食い込んでいる。
「ああ、部屋に入ったらしばり直してやるよ」丸顔がこたえた。

 おれは男たち四人に神輿みこしのように担がれて二階に上がた。
 廊下一面にずらりと扉がならんでいる。外観と違い中はみすぼらしいが、この建物は正真正銘しょうしんしょうめいの宿屋だった。
 男たちはいいつけ通り、一番奥の部屋までおれを運んでいった。
 奥の部屋はベッドとサイドテーブルをのぞき、ろくな家具もない。
 男たちはおれを乱暴にベッドの上に投げた。
 わらを敷きのベッドの上で、おれは二回バウンドした。
 まだ痛む後頭部にかたい衝撃が響く。
 男たちは、激痛に顔をゆがめるおれを無視し、右手と右足と、そしてベッドの脚を新たなロープでしばった。
「おい、便所はどうする? こんな縛られちゃここで済ますほかねえぜ」
 おれは聞く。
 無視されるかと思ったが、男の一人がこたえた。
「商売道具を汚されちゃかなわねえな。あとでボスに相談するよ」
 男たちは新たらしくできたロープの結び目を確認したあと、最初のきついロープをほどいた。
 こそばゆい感覚とともに、カビ色になった手足に新鮮な血が通う。
 丸顔がやってきた。
 昔のお笑い番組でよく使われたような特大の金ダライを手にしている。
「お前さんには恨みはないが何日かここで休んでいてくれ。水も飯も運んでくる。あともな。逃げることなんて考えない方がいいぜ。なんたって通行手形はこっちにあるんだからな」
 だしぬけに壁の外で砲弾がぜた。
「しかしお前らはロクでもないことを考えるな」
 ボスは窓の外の鎧戸を押しあけ、外を見る。
 灰色のもやが室内に忍び込んでくる。
「王家の軍隊を襲撃しゅうげきし、信用を低下させたところで支払手形を安値で買いたたこうなんて……悪魔みたいに知恵が回るヤツらだ」
 丸顔の推理はよくできている。しかし間違いだ。
 この騒乱を引き起こしたのはセネタース家ではない。
 気味が悪いほど自信過剰じしんかじょうなフォルザっていう女のせいだ。
 支払手形云々うんぬんは、おれが好機に便乗し考え出した策略に過ぎない。
 まあ、宿の主人ごときが因果いんがを知ったからといってどうなるわけでもない。
 だから、おれはあえて訂正はしなかった。
「くれぐれも逃げようなんて真似はするな。おとなしくしているなら悪いようにはしない」
 丸顔はくどめに同じことを繰り返し、おれをしばったロープを束ねて金ダライの取っ手に通すと、壁の棚にのせた。
 棚に置かれたタライのバランスはかなり悪い。かなりぐらついている。
 少し衝撃を与えるだけでタライは滑り落ちてしまうだろう。
 おれが身体を動かせば、ロープが動作を伝え、金ダライは床に落ちて轟音ごうおんを立てるって寸法だな。
 考えたな。この装置があれば、始終見張っていなくても、おれの怪しい動きがすぐにわかるってわけだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...