おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第三十七話:イモ食えば屁

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 そんなこんなであっという間に青い夏は終わった。
 屋敷の木々は燃えるように色づいている。
 メガネのリュネットからフォルザが伯爵の子を身ごもったと伝えられた。
「嫉妬してる?」
 フォルザの女官頭のリュネットがいたずら小僧のように笑う。
「いや全然」
「ホントにホント? 強がってるだけ?」
「心の奥底からどうでもいいと思っている。汗臭くて大柄な女は嫌いだ」
「好き嫌いできる立場なのね。うらやましいわね。もしかしてこの世の女はり取り見取みどりって思ってる?」
「そこまでいうわけじゃないけど、おれにだって選ぶ権利はあるんじゃない」
「モテ男の余裕ね。世の大方の男たちはたったひとりの女の愛を勝ち取るのにすら苦労しているのに」
 リュネットはおおげさに肩をくすめてみせた。
「別にモテるとは思っていない……それには同意してくれるだろ?」
「あえてこたえないわ。でも、案外にも案外ってことがあるかもしれないわよ」
 リュネットの口元には訳知りめいた笑みが浮かんでいた。

 ある日、エレニア先生が街で抱えきれないほどのほくほくのお芋を買ってきた。
「今年は豊作みたい。出来が良くてしかも安いの」
 秋風が身に染みる季節だ。
「裏庭で焚火たきびでもしながら食べましょう」
 エレニア先生が提案する。
 おれたちは提案にしたがって裏庭に回ると、落ち葉を集めて焚火を始めた。
 風にあおられ炎がゆれる。
 先生はどこからともなく板っ切れをもってきて風よけにした。
「これでよし!」
 近頃はジュリにも剣の稽古をつけている修道騎士のセリーズが『い』の一番に火に近づいた。
 ネコのようにからだを丸めて、焚火に手をかざしている。
 アリスは寒風なんかへっちゃら。聖母のような笑みを浮かべほうきで落ち葉を集めている。
 お芋はどっさりとあった。五人でもそうやすやすとは食べきれない。
 おれたちはしばし騒ぎながら、しばし無言でほくほく芋を食べた。
 リサが通りかかった。
「いい香りですね、みなさん。お味はいかがですか?」
「うまいですよ」口が空いていたおれがこたえた。
「議長閣下も召し上がって」先生がリサにお芋をすすめる。
「それではご相伴しょうばんにあずかりますわ。たまには食事を振舞われるのもいい気分ですね」
 先生は芋を選び、串に刺した。
「はい、どうぞ。お熱うございますのでお気をつけてお召し上がりください」
 リサは小さな白い手を出し、芋の串を受け取った。
「ありがとう」
 リサはお芋が渡されると、小さな口を大きく開けてかぶりついた。
「あまくておいしいですわね」
 ありきたりな食レポとともに、リサはあっという間に芋を平らげた。
「あら、やだ。わたくしったら意地汚い」
「秋の恵みの前に意地もへったくれもありませんわ。もう一本いかがですか、議長閣下」
「いえ、いいですわ。これ以上食べたらお夕食が――」
 リサは言葉を切ると急にほおを赤らめた。
 きっと生理現象だろう。
 食べるもの食べたら出るものは出るのである。
 いい頃合いだ。おれの腸内もチャージ完了だ。
 ここらで紳士らしくいこう。
 鶏口となれど牛後となることなかれ。
 ここはみんなの先鞭となろう。
 おれは括約筋をゆるめ、下腹に力をこめる。

 ぶーぼぼぼぼぼぼ!

 品のない音とともにおれはケツからガスを発射した。
「ちょっとルー! なにやってんのよ――ってくっさ」
 セリーズが鼻をつまむ。
 あたりには卵が腐ったようなにおいが漂った。
 しかし悪臭ぐらいで驚いてもらっては困る。
 突如、焚火が爆ぜた。
 瞬間、青い火柱が屋敷の二階まで立ち上る。
 ほとばしる熱気で頬が火照ほてった。
「――おお」
 おれをのぞく全員が口を半開きにし、まるで火吹き芸でも観賞するかのように爆炎に魅入みいった。
「な、なにがおこったの?」
 セリーズは鼻を押さえるのも忘れ、キョロキョロとあたりを見回せている。
 炎はあっという間に静まった。
 継続的なエネルギー源として利用できないのは所詮しょせん、屁だ。
「ルー、もしかしてキミ? キミがなにかやったの?」
 セリーズが手をぱたぱたさせながらいう。
「おれ、なにかやっちゃいましたか?」とお決まりのキザなセリフをいいたくなるのをぐっとこらえて、おれはすました顔でこたえた。
「おれの屁が燃えただけのことよ」 
「キミのおならって爆発するの? すごい! すごいじゃん!」
 セリーズは飛び跳ねながら手をぱたぱたさせた。
「へっぽこ剣術よりよっぽど実用的じゃん。その力、鍛えようよ!」
 余談だが、セリーズはトレーニングついでにおれに剣術を教え込もうとした。
 が、おれの腰の入っていない素振りを一目見ただけであきらめてしまった。
「ちょっとちょっとみなさん」伯爵の代理、リサが申し訳なさそうにいった。
きょうをそぐようで恐縮なのですが――」リサはジュリに目を向けた。「あたまが燃えてらっしゃる方がおりますよ」
 振り向くと美少年の頭に巻かれた紫色のターバンが炎を放っている。
「たいへんたいへん!」
「水だ水! ちがう。まずはその布を外せ」
 おれは乱暴にジュリのターバンを引きはがした。
 あちちちちち。火の手が布を伝い、おれの腕へと伸びてくる。
 おれは半分パニックになって真っ赤に燃えるターバンを振り回した。
 火の粉が散った。
「振り回さないで! 枯れ木に火がついたらおおごとよ!!」
 エレニア先生が怒鳴る。
 あたりはかわいた枯れ葉や枯草で一杯だ。
 おれがこの火のついた布を手を放したらすぐさま引火するだろう。
 迫りくる熱と激痛。
 この窮地きゅうちに最初に動いたのはセリーズだった。井戸端に走る。
 セリーズは井戸に垂れるロープを手にすると思い切り引っ張った。
 滑車が目にもとまらぬ速さで回る。
 つるべ井戸はうなりを上げて、底の水をみ出す。
「はい、水!」
 セリーズはつるべおけを手に取ると、おれに水をぶっかける。
 その一撃でターバンの火は消えた。
「もう一発」
 今度は頭から黒い煙をあげるジュリにぶっかける。
「つめたっ!」ジュリが悲鳴をあげる。
「不平言わない。焦げないだけマシ!」
「アリス、二階の暖炉に火をおこしてきて。ジュリもルーちゃんも大丈夫? けがはない?」
 先生が駆け寄ってくる。
「ぼくは大丈夫だよ」
「確認するわ」
 エレニア先生はジュリを座らせると頭部をさわって確認した。
「痛いところない?」
「大丈夫だよ」
「おれも大丈夫だ。ちょっと手のひらが水ぶくれになっただけ」
「あとでお薬を塗るわ」
 大事に至らず先生はとりあえず安心したようだった。
 ジュリが盛大なくしゃみをした。
 秋風がずぶぬれになったおれたちの体温を奪い取る。
 おれたちは身をすくませ、がちがちと奥歯を鳴らした。
 先生がどこからともなくボロ毛布を持ってきてかけてくれた。
 ふう。
 なんとか人心地がついた。
 ――と、おれは口に手を当て驚愕きょうがくの表情を浮かべるリサ・セネタースに気がついた。
 視線の先にはジュリがいた。
 青ざめたリサは呼吸をすることも忘れ、少年の銀髪を食い入るように見つめている。
 彼女の瞳がぎろりと動き、おれを見る。
 リサは動揺を隠すように手をおなかの上で組みなおし、平静を取り繕った。
 リサはうつむき、上目遣いでおれを見た。
『わたくしの動揺、決して口外しないで――』
 口には出さずとも彼女の無機質な瞳は雄弁にそう語っている。
 リサは念を押すように瞬きすると、挨拶もせず裏庭を後にした。
 幽霊のように立ち去ったリサとは対照的に、現場は火事の事後処理に追われていた。
 おれのほかにリサの奇妙な行動に気づいたものはまずあるまい。

 おれとジュリは下着姿で二階の暖炉の火にあたっていた。
 銀髪の少年はなまめかしい首元をあらわにしている。
 白いうなじに目が釘付けになる。尋常じんじょうならざる色気だ。
 くらりと眩暈めまいがした。
 おれは首を振って誘惑をはねのけた。
 ――っとそこで少年が首からペンダントを下げているのに気がついた。
 ペンダントの先には親指の先ほどの小さな箱がぶら下がっている。
「ジュリ、それはなに」
「これのこと? ルーにい
 ジュリはペンダントを一度手のひらにのせたあと、隠すように握った。
 横顔は石像のように動かない。
 瞳はんだように暖炉の揺れる火を見つめている。
「いいたくないならこたえなくていい」
「――うん」
 ジュリは『はい』とも『いいえ』ともいわない。ただぼんやりとこたえた。
 やんわりとした拒絶だった。
「ごめんな。変なことを聞いて」
「いや、いいんだよ。気にしないで」
 少年は薄ら笑いを浮かべていた。その笑みはどこかさびしげで、達観めいたはかなさが感じられた。
 いつの間にやらおれの戦法を盗み取り、いまやショーギでおれの玉を追っかけまわす立場となった少年のいつもの恐れ知らずの笑みはなかった。
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