おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第三十八話:尻から火を噴く変態の四年間

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 セリーズはその後もたびたび顔を見せた。
 そのたびにメスガキ騎士はおれを肉体労働に駆り出した。
 必死で断るも、笑って、ぷんすか怒って、脅して、ときにはめ殺し、ときには泣いて、そんなこんなを繰り返すうちにいつかはやりこめられ、おれは口車に乗せられていた。
 
 おれがふもとから薪を運び終えたとき、セリーズが腕組みしながらいった。
「なにかをコントロールしたいなら練習しなければいかん」
 セリーズは眉間にしわをよせ、表情だけは気難しそうにしている。
「お前が考えたセリフじゃないな」
 セリーズはこわばらせた顔面の筋肉を緩める。
「もっちゃん。こないだ見た芝居のセリフ」
「なにがいいたい?」
「キミの能力あるじゃん。口から火を吐くヤツ」
 すまないね。そんな能力、持ち合わせていない。
「じゃあ、ケツから屁をひる能力」
 残念、そいつは誰でもできる。
 羞恥心さえ放り投げれば、いますぐだって発揮できるぜ。
「しかもびっくりすることによく燃える」
 そう、そいつがおれの能力だ。
「芝居見たとき思ったんだ。あ、これルーのことだって」
 お前は見ること聞くことすべてが自分のことだと錯覚できる思春期真っただ中の女子中高生か。
 でもよくよく見るとセリーズの年齢はそのぐらいかもしれない。
「やっぱりさ。あたし、思ったんだよ。そういうすごい能力があるなら制御できなくちゃいけないって」
 すごい能力……かな?
「うん、すごいよ。だってアタシ、一瞬ルーのこと竜の化身とか伝説の竜人とかと思ったもん。でも目をこすって、よくよく見たら違うとわかったんだ。竜は口から炎を吐くけど、ケツから炎を噴くとはだれもいってない」
「じゃ、お前はおれはなんだと思う?」
 正解は異世界転生者。
「お尻から火を噴く変態」
 それも正解かな。100点満点中75点ぐらいはあげよう。
「75点? 75ってどのくらいの大きさ?」セリーズは首をひねった。
 50よりは大きく100より小さい。
「12より大きい?」
 だいぶ大きい。
「算数得意だね、ルーは。あたしよりずっと賢いじゃん」
 いやいやそれほどでも。
 本当に賢かったらキミみたいなナマイキ小悪魔に振り回されてないよ。
「でもルーは、どこまでいってもルーだよ。そのすごい能力を飼いならそう。自分のモノにしよう。練習だよ! きっと大物になれるぜ」

 そんな小悪魔の甘言にだまされてときどき、裏庭でこっそり大放屁を披露ひろうする羽目はめになった。
 セリーズは燃え上がる屁を見るたびに飽きもせずに腹を抱えて大笑いした。
「フォルザさまから見放されても大道芸で食ってげるよ、ルーは」
 小悪魔は目じりに涙をためている。
 たまに裏庭の枯れ草やら落ち葉やらに火が燃え移り、ふたりで消火する羽目になった。

 このときは、まじめにもばかばかしい放屁の訓練が運命を変えるための鍵になるなんて気づきもしなかった。
 一体誰の運命――?
 フォルザの――。そしてこの街の――。
 そしてこの街が属するまだ存在も知らぬこの王国の――。
 ひいてはこの世界の――。

 とある日のことだった――。
 通りを散歩していると鉄琴のような、かんかんと鍛冶屋がハンマーを振るう音が聞こえてきた。
 このところ頻繁ひんぱんに耳にする音色だ。
 瞬間――おれの頭脳に電流が走る。
 発明家になるチャンスが転がっていた。
 缶詰と缶切りを発明し、世紀の天才として歴史に名を刻まれるチャンスだった。
 ついでに特許料で、うはうはになるチャンス。
 おれは汗だくの鍛冶屋の親方に鉄板と円形のフタを頼んだ。
 リサにも計画を相談する。
 カルボニ議長及び伯爵代理は瞳をぱっちりと開け、真剣におれの夢物語に耳を傾け、うなずいてくれた。
「新鮮な食料を新鮮なまま保存する。夢のようなアイデアです。缶とフタを密着させるのには亜鉛を使うといいでしょう。わたくしが用意しますよ」
 
 数日後、鉄板とフタとはんだ用の亜鉛が到着した。
 問題が発生した。
 鉄板がきれいな円柱にならない。
 暖炉で温めてみたり、型に当ててみたり試行錯誤を繰り返したが、素人の加工技術ではいかんともしがたい。
 結局、おれは鍛冶屋に頼んだ。
 しかし鍛冶屋もうまく作れない。
 薄い鉄板で円柱を作るとぼこぼこにゆがみ、分厚い鉄板でつくると大砲のように重い。
 それでも試行錯誤を繰り返しナントカ缶らしきものができた。
 ゆでた肉を肉汁ごと缶にそそぎ、ふたをし、缶の縁にそって亜鉛を盛り、暖炉で熱した火かき棒を押し付ける。
 亜鉛が融解し、缶とふたの隙間を埋める。
 おれはため息をついた。
 フタも缶も見たからにゆがんでいる。フライス盤やプレス機なしでは工作精度が出ないのか。
 それでも……奇跡を信じてようすを見よう……。
 果報かほうは寝て待て。阿呆あほうも寝て待て。

 一週間後、おれは地下の貯蔵庫からこそこそと試作缶詰を取り出した。
 実験は失敗だった。
 缶とフタの隙間を埋める亜鉛にひびが入っている。これでは密閉しているとはいえない。
 それでも一応、おれはナイフを使ってフタを開けた。
 腐った肉のにおいがした。一応、肉汁に指を突っ込んで、なめてみる。
 舌がしびれた。
 中身は完全に腐っていた。
 おれはこっそり試作缶詰と中身をゴミ捨て場に捨てた。

「実験はどうでしたか?」数日後、リサが聞いてきた。
 おれは無言で首を横に振る。
「そうですか。いいアイデアだと思ったんですけど……でも気を落とさないでください。挑戦を続ければ、いつかは何物かになりますわ」
 リサは気休めをいった。
 おれはその後もくじけず、缶詰の開発に取り組んだ。
 しかし成功することはなかった。
 原因はこの世界、この時代の、金属加工技術の低さに尽きる。
 発明も科学も工学のいしずえなしにはなされない。
 おれは身をもって痛感した。
 食べ物を保存したかったら、日干しにするか、燻製くんせいにするか、塩漬けにすればいい。
 時代、時代にあった技術が存在する。
 
 そんなこんな日々を繰り返し、四年の月日がたった。
 おれは春の夢のような安穏あんのんとした日々を過ごしていた。
 おれはいったい何のためにこの異世界に降り立ったのか。
 崇高すうこうな使命があった気がするし、なかった気もする。もはや思い出せない。
 しかしそんなことはどうでもいい。
 先生、ジュリ、アリス、セリーズ、そしてリサに囲まれた日々は、そんな記憶を埋没させるほどにあたたかかった。
 いまが楽しければそれでいいじゃない。
 未来の苦難は、未来のおれが考えるさ。
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