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ひねくれ姫様
からの難題
しおりを挟む「……なあ、如月」
時間はあっという間に過ぎて放課後。生徒達がちらほらと教室から出て行く中、俺はバッグの中を整理する如月の背中に声を掛けた。しかし、如月は無反応のまま黙々と帰り仕度をしている。
「おい、如月!聞こえているのか!?」
「聞こえてない」
「嘘つけっ!!思いっきり聞こえているだろ、この澄まし眼鏡!!」
「……何。俺は今日早く帰りたいんだけど」
面倒くさそうに首だけで振り返る如月。早くに帰っているのはいつもの事じゃないか!…と言うと話を聞いてくれなくなるので、俺は我慢をした。
俺には助けが必要だった。……何故なら。
「あのー…如月君はやっぱり辞書とか読んだ事はないよね?」
「……どうせその事だと思ったよ」
如月はやれやれ、と言いたそうに首を竦めた。
「如月ぃぃぃ!!お願いだ!少しの助言でいいから俺に力を貸してくれぇぇぇ!!」
絶対感想を言ってやる!と日暮の前では格好つけてしまったが……実際、そんな簡単に辞書の感想をすらすら言えるわけがない。
どういう風に言えばいいんだよ…ひとつひとつの単語に感想を言うとかだったら、感想を言う前に卒業するぞ…!?いや、卒業どころか、じいさんになって老後を楽しんでいるんじゃないか…!?
「そんなの無理だ!!」
せめて一カ月以内には日暮に伝えたい。…時間が掛りすぎると、日暮に忘れられそうだし。どうやら俺の心の声がダダ漏れだったらしい。如月が、深いため息を吐いて身体をこちらに向けた。
「……いくら何でも老後まではいかないだろ。…まあ、そこまで事細かに感想を言わなくてもいいんじゃないか?…感想を考えるのにも時間がかかるし、何より感想を読むのにも時間がかかる」
「あ、そっか!」
如月の的を得た言葉に、思わずポンと手を叩く。
さすが如月……伊達に眼鏡を掛けていないな。
「ううん……じゃあどうすればいいと思う?」
考えれば考えるほど、辞書の感想の難しさを痛感していく俺。その場しのぎ…という事ではなかったのだが、簡単に宣言した俺に軽く腹が立った。…まあ…約束、という言葉に過剰に反応した俺が悪いんだけど。
そんな駄目男の俺に、如月は優しく手をのべて………くれるはずもなく。
「……少しは自分で考えろ」
そう言ってバッグを持って颯爽と教室を出ようとした。
「ぎゃあ!そんなに冷たい事言わないで!!」
俺は逃がさまいと如月の腕を両手でガッチリ掴んだ。
「……何だよ、面倒くさいな。お前…かなりの自分勝手だぞ」
本当に面倒くさそうに顔を顰める如月。
自分でも思うよ!?あれだけ俺の為に言ってくれたのにも関わらず、「感想を言う」と俺が宣言して結局は全て無駄にして更にはその感想の協力を要請しているんだから完全に面倒くさくて自分勝手な男だって!!
でも、でも……
「俺は約束を破りたくない!適当な感想を言って日暮にこれ以上心を閉ざされるのは嫌だし、このまま約束が守れないままの俺でいたくない!!…相談できるのはお前しかいないんだよ、如月……」
お願いだ、と頭を下げる。俺は本当に傲慢で自己中心的だ。どれだけ如月に迷惑をかけているのだろう。
嫌な顔をしても必ず俺の事を助けてくれた…唯一心を許せるかけがえのない親友だ。
「……」
そんな親友の如月は俺の頭を少し見た後、真一文字になっていた口を開いた。
「お断りします」
そう言って如月は俺の手を振りほどくと教室を出て行った。
「え――――――!!?ちょっと待てよ如月ぃぃぃ!!」
しばらく何が起こったか分からないで固まっていたが、如月の拒否のお言葉をやっと理解した俺は悲痛な叫び声を上げながら如月を追い掛けた。
今のは「仕方ないな…」って言ってくれる所だろ!?これじゃあ俺の「如月はいつも助けてくれる」っていう説明が無駄じゃん!!俺が嘘ついたみたいになったじゃん!!
かけがえのない親友とか言っていたのに俺が空回りしてただけじゃん!!
「如月ぃぃぃぃぁぁぁっ!!!」
如月の背中を見つけると、俺は雄たけびを上げながら突進した。周りの生徒達が驚いた表情でこちらを見るが、そんなの関係無い!!
この野郎、このまま目の前の下駄箱にぶつかって眼鏡を割ってしまえ―――!!
「……」
しかし、突撃する寸前で如月がスルリと身体を翻した為、俺が下駄箱に顔面強打をした。
「いってえええええええええ!!!」
顔全面に激痛が走り、俺はその場でのたうち回った。顔が…顔が燃えるようだ!!
「き、如月ぃぃぃ!貴様何で避けるんだぁぁぁ!!」
「……何で突進されるのを待っていないちゃいけないんだよ」
廊下で転がる俺を見下しながら、本当に面倒くさそうな顔でズレた眼鏡を上げる如月。
くそう…!!たまには恥をかけよ如月…!!俺ばっかり恥をかいている気がするぞ……!
「……気が済んだ?じゃあ俺はこれで。……辞書感想文、頑張ってね」
「き、如月ぃぃぃぃぃ!!!!!!」
廊下にへばりつきながら手を伸ばす俺を差し置いて、如月は悠々と昇降口を出て行った。
くそう…あいつなんて……絶交だ!明日口も聞いてやらないもんね!!
ブツブツと文句を言いながら立ち上がり、制服についた汚れを叩く。うわ…埃落ちねえよ。頑固汚れになっている…クリーニングに出したばっかりなのに!!
……ま、いっか。どうせすぐ汚れるし。少し水洗いすれば落ちるだろ……
「………あの」
「……ん?」
突然背後から誰かに話し掛けられて振り返る。そこには同じクラスの三岳(みたけ)あやめがいた。少しおどおどしていて、俺と視線が合うと恥ずかしそうに目を逸らした。
「おー三岳!どうした?お前も帰るのか?」
「ううん…今から部活だから、まだ帰らないよ」
三岳は目線を外しながらふんわりと微笑んだ。
わー…かわええ…さすがクラスのマドンナ。
容姿でいったら日暮の方が上なのだが、性格の善し悪しで三岳がクラスで一番人気があった。肩にかからないくらいの黒髪に茶色のカチューシャを付けていて、おっとりとした性格。そして中学生に間違われてしまいそうな目のくりっとした童顔……男子にモテないはずがなかった。……ま、俺は日暮の方がいいと思うけどね!
……ってあれ?この言い方じゃあ、俺…日暮の事が好きみたいじゃね?……いや!そういうのじゃないから!俺は日暮か三岳だったら、日暮の方と仲良くなりたいって事で!そんな不純な理由で仲良くなりたいと思ったんじゃないから!!ほら、やっぱり笑顔の方が可愛いから日暮には笑っていてほし……
……いや!別にそれに理由は無くて!笑顔で可愛くなれるのは日暮だけじゃないし!特別日暮だけの笑顔が見たいってわけじゃないんだから!!
「……皆塚君?」
三岳に呼ばれてハッと我に返る。やべ、今完全に自分の世界に入っていた……!!
「あ、すまん。三岳…」
動揺で真っ赤になった顔を手で扇ぎながら聞くと、三岳は口元に手を当ててクスクスと笑った。
「ふふ…皆塚君……本当に面白いね。見ていて飽きないな…」
「そ、そうか?」
面白いと言われて浮かれた俺は後頭部に手を当てて照れる。俺にとっては一番の褒め言葉だ。……でも、今一番にその言葉を言って欲しいのは……
癖のない長い黒髪の、整った表情をピクリとも動かさない……人形みたいな女。手に持つ小説の文字の羅列よりも、俺を気に掛けて欲しい。……なんて。この願いがいつ叶うんだか。
「それより、三岳。俺に何か用でもあるのか?」
俺の思いを押しこめて、ニカリと笑って目の前に立つ黒髪だけど髪の短い三岳に尋ねた。
三岳はクラスのマドンナ。更に大人しい性格なので、騒がしい俺と接点があるはずもなく。同じクラスになってから二、三度挨拶程度の会話を交わしたくらいだ。その三岳が……俺に何の用だっていうんだ?
俺の問いに三岳は少し顔を赤くして俯き、ぼそぼそと聞きとれるくらいの声量で言う。
「……な、何か突然日暮さんに話し掛けていたからさ…どうしたのかなって思って」
「へ?」
突如現れた日暮の名前に、俺はきょとんとする。何でここで日暮が出てくるんだ?確かに今日から積極的に話し掛けてはいるけれど……
「何でそんな事聞くんだ?」
言い方は悪いけど、三岳には関係の無い話だ。俺と仲がいいわけでも、日暮と仲良くしているわけでもない。…そんなに珍しかったかな。俺と日暮が一緒にいるの。
「だ、だって……気になるから…」
「はえ?」
真っ赤な顔で呟く三岳に、俺は首を傾げる。
気になるって……何がだ?俺と日暮が仲良くしているのが?日暮が一緒にいるのが気になるって事か?
「あっ!そっか!!」
「!?」
突然俺が大声を出したので、三岳がビクリと肩を震わせ、そしておどおどと俺の様子を上目づかいで伺う。俺の次の言葉を待っているのだろう。……間違いない、三岳は……俺に……
俺は小柄な三岳と視線を同じにしようと少し身体を屈める。くりくりした目と視線がぶつかる。そんな茶色い瞳を見つめながら、俺は満面の笑顔で言った。
「三岳、お前日暮と仲良くなりたいのか!?」
「………え?」
三岳は、俺に……日暮と仲良くしようとしている俺に嫉妬しているんだ!
「………え、と?」
大きな瞳が困ったように視線を彷徨う。
うんうん、動揺しているな。やっぱり俺の思った事は間違いじゃなかったか!三岳の様子で、予想が的中したと思った俺は首を二回縦に振った。
「日暮に友達が出来るのは大歓迎だ!俺が仲を取り持ってやるからさ!……あ、でも俺もまだそんなに仲良くないんだけどな」
「……そう」
それを聞いて少し残念そうに眉を八の字にする三岳。
うー…やっぱり俺が仲を取り持ってくれると思っていたんだな…ちょっと罪悪感……
「大丈夫!少ししたら俺も日暮と仲良くなるからさ!そしたら俺の友達として紹介するよ!それまで待って貰っていいか!?」
励まし代わりにと三岳の頭を撫でるように軽く叩く。
「……うん」
三岳の表情が少し和らいだのに、俺は気付かなかった。三岳の頭から手を離した時、開け放たれた窓から生徒達の掛け声が聞こえてくる。俺はハッとして昇降口に掛けられている時計を見た。
「……あれ、三岳そろそろ部活の時間じゃないか?」
「あ、もうこんな時間!」
やばい!と三岳は下駄箱まで小走りをして上履きと靴を履き替える。昇降口を出ようとした所で、三岳はクルリと回ってふんわりと微笑んだ。
「じゃあね、皆塚君!またお話してね!」
そう言って俺に向かって軽く手を振ると、三岳は階段を駆け下りていった。
「うーん、やっぱり三岳可愛いな」
三岳が去った昇降口を見つめながら俺はそう呟く。さすがマドンナ…男がコロッといっちゃうのが分かるな。……でもやっぱり俺は…
「……さーて、辞書の感想でも考えようかな」
軽く伸びをしてから、俺は日暮が貸した本の待つ教室へと戻った。
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