うちのクラスのひねくれ姫[完結]

秋雨薫

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ひねくれ姫様

とごはん食べに行きます

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「ど、どうしよう……」

 自分の部屋で俺は非常に悩んでいた。ベッドに並べているのは、俺の中でイケていると思っている服達。普段スポーツブランドのジャージばかり着ているので、ちゃんとした服がかなり少ない。
 明日の土曜日。俺は日暮とご飯を食べに行く。(俺の奢りで)本当は放課後でもいいと思っていたのだが、日暮に予定があるそうだったので、明日になったのだ。日暮と仲良くなるには明日は失敗出来ない。第一印象が大切だと思い、服を選んでいるのだが、これがなかなか決まらない。

「これじゃあ地味すぎるか?でも、日暮派手そうなの嫌いそうだし…」

 あんまりファッションに気を使った事が無いから、どれがいいのか良く分からない。
 誰かに相談してみようか。

「そうだ!如月に相談してみよう!」

 あいつは意外にもお洒落なメンズ。地味な格好が好きかと思いきや、ファッション雑誌顔負けのコーディネート力がある。きっと力になってくれるに違いない。そう思い、携帯でメッセージを送ってみる。返信は二分くらいで返って来た。

「お、早いな如月!あいつも意外に俺の事考えてくれているのかな?」

 俺はニコニコと笑いながら、早速メッセージをチェックする。

『赤い服に赤いズボン、帽子は赤い三角帽子がいいと思う』

 なるほど。それならきっと子供たちにプレゼントをあげて、笑顔をたくさんもらえる―って

「それサンタじゃん!!」

 思わずメールに思い切り突っ込んでしまった。そりゃ笑顔を見られるのは嬉しい事だけど、日暮にはドン引き間違いなしだよね!?それに今真夏だよ!?そんな厚着して俺に死ねと言うの!?ここオーストラリアなの!?
 色々突っ込みたかったが、服装の事を最優先して、『もっと親身になって考えてくれよ!』とメールを送ってみる。すると一分弱で返信が。

『あとつけ髭も必要だね』

 くっ、全く協力する気ないなこいつ―
 如月に相談するのを諦めて、もう一度服とにらめっこする。俺が服装を決めた時は、既に丑三つ時を迎えていた。

*****


 そして次の日。約束の土曜日になり。俺は待ち合わせ場所の駅前に立っていた。休日のせいか、人通りはいつもより多い。人混みの中、俺は大きな欠伸をした。

「あ、あんまり眠れなかった…」

 服を選ぶのに時間が掛かり過ぎて、睡眠という睡眠が取れなかった。
 ま、栄養剤を飲んだから大丈夫だと思うけどな!睡眠の時間を割いたお陰で、俺は納得のいく服を選ぶ事が出来た。マリンボーダーのシャツにベージュ色の七分丈のパンツ。今の季節にぴったりだ。―無難とか言わないで。これでも数時間はかけたんだから。
 キョロキョロと辺りを見渡す。遅刻してはいけないと思い、待ち合わせ時刻より三十分早く来てしまった。多分数十分は待ったけど、日暮の姿は無い。
 うーん、暇だ暇!!俺はじっとしていられない性格なんだ。ここで準備運動でもしようかな?そう思って伸びの体勢を取った時だった。

「……何しているの」
「うへぁ!!」

 背後から突然話し掛けられ、俺は伸びの体勢を取ったまま飛び上がってしまった。慌てて振り返ると、そこには日暮の姿が。

「お、驚かすなよ日暮!!びっくりしたなぁ、もう!」
「……別に驚かせて無い。ただ、声を掛けただけ」

 そう言う日暮はいつもの仏頂面だったが、小さな花が多々描かれた薄い緑色のワンピース姿。
 日暮、こんな格好をするんだ。てっきり、俺と一緒でお洒落を気にしない奴かと思っていたけど。でも、すごく似合っているなぁ。思わずその姿に見とれてしまう。表情が硬くても、容姿が整っているのが目立っている。
 笑顔だったら、もっと綺麗なのに。日暮を眩しそうに見つめながら、俺はそう思った。

「…何」

 見つめ過ぎていたようで、日暮の眉間に皺が刻まれる。俺はハッとして慌てて笑顔を取り繕った。

「あ、ごめんごめん!日暮があまりに綺麗だからつい……っ!!」

 って!!何言っているの俺!!?
 つい本音がポロリと零れてしまい、俺は慌てて自分の口を塞いだ。全血液が自分の頬に集中しているんじゃないかというくらい熱くなる。俺は絶対真っ赤な顔をしているのだろう。
 会って早々綺麗だね、だなんて軽すぎるだろ俺!!チャラ男になった覚えはないぞ!!

「ごっ、ごめん今の無し!忘れて!!」

 あまりの恥ずかしさに、俺は両手で顔を覆って日暮の顔を見ないようにする。
 ううう…日暮は絶対今すごく冷たい視線を送っているんだ。だから、日暮がどんな表情をしていたかなんて知る由も無かった。
 よしっ!気を取り直して―!
 深呼吸をして、手のガードを外して日暮と向き合う。そして仏頂面の日暮に向かって、親指を立てた。

「何かいつも制服だから私服って新鮮だな!」

 先程の言葉を無かった事にした。もう無かった事にしたい。今数秒前の事を思い返すだけで顔から火が出る。

「……別に変わらない」

 俺の思いをくみ取ってくれたのか、興味が無いのか、日暮は先程の言葉を言及して来なかった。

「あ、そうだよな!服は違っても顔は同じだもんなー!」

 あははーと笑いながら、内心酷く安堵した。
 全く、何を言っているんだよ俺は。今日は日暮と仲良くなる為の日なのに、それをぶち壊そうとしてどうするよ?でも、日暮怒っていないみたいだ。本当に良かった―って、ん?
 日暮が無表情で俺を見つめたまま、動かない。今度は日暮が俺を凝視していた。

「どうした日暮?」

 俺の顔に何かついているのか?まさか…今日食べた食パンのジャムが口についているのか!?
 慌てて自分の口を触って確認してみるが、何もついていない。何がおかしいんだと自分の顔を触りまくる俺を見ながら、日暮はポツリと呟いた。

「クマ」
「え?」

 熊?ハテナマークを浮かべる俺に、日暮はもう一度言った。

「隈出ている」
「あ、バレた?いやー!何か服選ぶのに時間掛かっちゃってさー!昨日あんまり眠れなかったんだよなー!」
「……」

 あははは、と笑ってみるが、日暮は全く反応しない。ただ、無表情に俺の顔を見上げる。

「ははは……は」

 俺の笑い声は段々と渇いていき―最後の方では掠れて聞こえなくなっていった。そんなに見つめられるとどう反応すればいいのか―
 幾多の試練をこの持ち前のテンションの高さで凌いできた俺だったが、女の子と二人きりなんて初めてなので、どう対応すればいいか分からない。しかも相手は全く笑わない日暮だ。ジョークを言って全部スルーされたら、さすがの俺もテンションが急降下してしまう。
 誰かの助言が欲しい所だ。漫画だと主人公が女の子と二人きりで出掛けるのが気になって親友が尾行するっていうパターンが多いけど―辺りを見回して見るが、見知った眼鏡は何処にも無い。
 うん、俺の親友は女の子と二人きりで出掛けるのがとても気にならないようだな。畜生!!こういう時くらい興味を持ってくれたっていいじゃんかよ!!
 如月は全く悪くないのに、ついつい八つ当たりしてしまう。
こうなったらいつものテンションを保って日暮に接するしかない!!もてよ、俺のガラスのハート!!

「じゃ、ご飯食べに行くか!」

 とりあえずゆっくりくつろげる場所がいいかと思い、近くのファミレスを目指す。色々検索して店を探そうかと思ったけど、やっぱり高校生といったらリーズナブルなファミレスだろ!

「……ファミレス」

 ファミレスに行くと告げると、日暮が無表情のままオウム返しした。

「あ、嫌か?何なら別の所探すぜ!?」
「…違う。行った事が無いだけ」
「え!?ファミレス行った事無いのか!?」

 衝撃的な発言に、俺は目をひん剥いた。ファミレスに行った事が無い高校生がいるのか!?俺は頻繁に行く。たまに如月と行ったりもする。だから、ファミレスに一度も行った事ない奴がこの日本にいるなんて思えなかった。

「ある」
「あるのかよっ!!」

 俺は相手が日暮なのも忘れて思い切り突っ込んでしまった。俺の驚きを返してくれよ!日暮って意外に人をからかうのが好きなの!?すると日暮は首を左右に振った。

「違う。家族以外でファミレスに行った事無かった」

 ああ、そういう事ね。もう、日暮ったら言葉が少ないんだから。要するに、友達とファミレスに行った事無いって事だな。―ってあれ?
 そこまで考えて、俺はある事に気付いた。

「それって……俺がファミレスに行った初めての人になるって事?」

 正しくは家族以外で、だが。日暮は仏頂面のまま、こくりと頷いた。
 そっか。俺が日暮の初ファミレス同伴という事だな。―いいのか?初って大切じゃないか?こんな形で迎えてしまってもいいのか?……しかも相手はまだ友達と言い難い俺。こういうのは、もっと仲の良い女友達と一緒に行った方が―

「着いた。入ろう」

 頭を抱えて思い悩んでいると、日暮はファミレスのドアを開けて入っていった。躊躇も何もねぇ!!

「ま、待てよ日暮!」

 俺は慌てて日暮の背中を追った。

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