うちのクラスのひねくれ姫[完結]

秋雨薫

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ひねくれ姫様

とごはん食べに行きます その2

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「いらっしゃいませ。お客様は……」
「二名」
「あ、は、はい。こちらへどうぞー」

 無愛想すぎる日暮に顔をひきつらせながらも、店員は俺達を窓際の席に案内した。

「お決まりになったらお呼びくださいね」

 ふくよかな40代くらいのパートの店員は、メニューを置くと足早に去っていった。昼時なので、結構混んでいる。ファミリーレストランというだけあって家族連れが多い。

「うーん、どうしようかなぁ?」

 いつもはハンバーグセットに即決するのだが、何故か悩むフリをしてしまう。日暮と一緒だからかな?何だか、変に緊張している俺がいる。

「日暮、決まった?」
「決まった」
「お?早いな日暮!日暮も即決型か?」
「……そうでもない」

 日暮は素っ気なく言って、俺に目を向ける。「お前は決まったのかよ?」と視線が語っていたようだったので、

「おっし、じゃあボタン押すぞ!」

 俺は呼び出しボタンを押した。少しして、同じ店員がやってきた。

「ご注文はお決まりですか?」
「俺はハンバーグセットで!日暮は…?」
「クリームパスタセット」
「かしこまりました」

 注文を聞き終わると、店員はペコリと頭を下げて去っていった。
 そして二人きりになり。気まずい沈黙が、俺を襲った。
 や、やべぇ。俺、服装を考えるあまり、話題を全く考えて来なかった。日暮は無表情で水を飲んでいる。日暮が話し掛けてくる確率はゼロに等しい。
 話題―やっぱり学校の事かな?

「あ、あのさぁ日暮!」
「何?」
「知っているか?山田ってネクタイ結ぶの苦手なんだぜ!」

 俺の最近聞いたので一番面白い話だ。ちなみに如月情報だ。如月は本当人の知られたくない秘密を知っているんだよな!山田のドジな話を聞けば、さすがの日暮もクスリと来ちゃう―

「そう」

 わけないよね。日暮は涼しい顔で興味なさそうに相槌を打っただけだった。

「…フ、ファミレスでバイトしているのにだぜ!?全く、山田は抜けているよなー!!」

 それでもめげずに話題を続けるが、日暮は黙り込んでしまう。どうやら山田の話はとても興味が無いらしい。ドンマイ、山田。俺は心の中で同情した。

「じ、じゃあ他の話―」

 そう言いかけて、俺は日暮の様子に気付いた。いつもの無表情なのだが、やや遠くを見つめて何かを考え込んでいる。

「ひ、日暮?」

 どうしたんだ?と聞くと、日暮は俺に視線を戻し、信じられない事を言ったんだ。

「…山田って、誰?」
「……えええっ!!?日暮本気で言っているのか!?」

 ファミレスにいるのも忘れて大声を出してしまう。周りの視線が一斉にこちらに集まり、日暮はしかめっ面になる。日暮は注目されるのがかなり嫌いみたいだ。俺は身体を小さくして「ご、ごめん」と小さく言った。

「山田は日暮の右隣に座っている奴だよ!さすがに顔くらい分かるだろ?」
「……あぁ。あの子、山田っていうんだ」

 涼しげに言って、日暮は水を飲む。やっぱり、全く興味が無いようだ。
 ドンマイ、山田―俺は心の底から、山田に同情した。
 この話題は終わりにしよう。何だか山田が不憫に思えてしまうし、聞いている俺も哀しくなってくる。他の話題―

「あ、じゃあこれ知っているか?うちの学校に、暴走族の女総長の妹がいるらしいんだ!その子もメンバーらしいんだけど、皆誰なのか知らなくて…」

 数ヶ月前から話題になっている事だ。
 女子だけで集った暴走族。力は男に劣るが、数とフットワークの軽さを生かし、徐々に恐れられる存在になったという。その女総長の妹が俺達の学校にいる、と今噂になっている。

「でも、うちの学校に柄の悪い人なんていないよなぁ?」

 ちなみに、俺は信じていない。噂なんて、あてにならないと思っている。そんな怖い子が、うちの高校にいるわけがないだろう。
 日暮は何も言わず、氷水を飲んでいる。どうやらこの話題も興味が無いようだ。
 これも駄目か。こうなったら俺とっておきのギャグをかますしかないようだな。
 見てろよ日暮!あまりの面白さに抱腹絶倒するがいい!!そう思って、早速とっておきのギャグを放とうとした時だった。日暮が、微かに何かを呟いた。

「え、何か言った?」

 ギャグを言うのを忘れ、聞き返す俺。日暮は目を伏せながら、ポツリと呟いた。

「人は見かけによらないわよ」
「…?」

 どういう意味だ?まるで、何かを知っているかのような口振りだ。何だ?日暮、何か知っているのか…?

「なぁ、日暮……」

 尋ねようと口を開いた時―

「お待たせしました」

 店員が料理を持ってやってきた。店員が来たので、話が中断されてしまう。店員は自分が話の邪魔をしたとは少しも思っていないようで、俺達の前に料理を置くと、「それでは、ごゆっくりどうそ」と笑顔で一礼して去っていった。
 俺の前にはとても美味しそうなハンバーグが早く食べてくださいと言わんばかりに湯気を立てていた。だけど、話の先が気になったので、俺はナイフとフォークに手を伸ばさなかった。俺が食べ出さないからなのか、日暮もフォークを持とうとしなかった。聞けば?と言いたげに俺に視線を送っているような気がする。俺は、意を決して尋ねる事にした。

「なぁ、日暮。もしかして、その妹の正体知っているのか?」

 多分だけど。日暮は総長の妹を知っているような気がした。日暮はいつもの無表情で俺を睨んで―じゃなくて、見つめていたが、やがて目を逸らして一言。

「……さぁ」

 肯定でも否定でもなかった。日暮はそれを合図に、クリームパスタを黙々と食べ始めた。
 明らかに何か隠している。そう思ったけど―

「ふぅん。そっか!」

 俺は気にしない事にした。言いたくないのに無理に聞く程の事ではない。暴走族の総長の妹が誰かと分かっても、俺はどうもしないし。
 俺もハンバーグを食べ始める。ファミレスのハンバーグって美味しいよな!家庭で出てくるハンバーグとはちょっと違って美味しい。

「うまい!」

 思わず笑顔になってしまう。食べると幸せな気分になる。以前それを如月に言ったら、「それじゃあ笑の幸せは一日に三回は来るんだね。毎日ハッピーな頭で本当に羨ましいよ」と言われたけど、誉め言葉として受け取っておくぜ、親友!!

「……」

 うまそうに食べる俺を、日暮は黙って見つめていた。
 しばらく、何も言わず黙々と食べていると、来客のベルが鳴った。お昼時なので珍しい事ではないのだが、何となく気になった俺は入り口の方に目をやった。
 そこには三人の女がいた。多分、俺達と同じくらいだ。ちょっと遠くでよく見えなかったが、店員に先導されてこちらに向かって来たので、徐々に顔が鮮明に見えるようになる。その中の一人が、見覚えのある顔で、俺は思わず声を上げてしまった。

「えっ、あれっ三岳!?」

 ショートカットに茶色のカチューシャ。制服姿しか見た事が無かったが、今日は薄い青色のシフォンワンピースを着ている。うちのクラスのマドンナ、三岳あやめだった。

「あれ、皆塚君…?」

 三岳もこちらに気付き、驚いた表情を見せた。

「偶然だな!」
「あ、うん。偶然…」

 俺がニカリと笑うと、三岳もふんわりと微笑む。相変わらずおしとやかで可愛い。その大きな目が、俺から日暮に移った時―その笑顔が消え、また驚いたように目を見開いた。

「…日暮さん?」
「あぁ、今日は二人でご飯食べているんだ!なー日暮!」
「……」

 日暮はチラリと三岳を見ただけで何も言わなかった。

「……そ、そうなんだ…」

 三岳の顔は、微笑んでいたが、何故かひきつっていた。
 ん?何だか変な空気―

「ねぇ、三岳先輩…」

 そんな中、三岳の後ろにいた子達がこそりと三岳に声を掛けてきた。やけに目付きの悪い子達だ。一人は金髪のポニーテールで、もう一人は三岳のように黒髪のショートカットだ。三岳とは絶対つるまなそうなタイプに見えた。

「お?その子達は?」
「あ、えと…。部活の後輩…」

 三岳は言いにくそうに紹介した。

「そうなのかぁ!俺は同じクラスの皆塚笑っていうんだ、よろしくなぁ!」

 ニッコリと笑って挨拶するが、後輩二人は何も言わず、素知らぬ顔で食べ続ける日暮に視線を向けていた。見ている、というより睨んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。

「ほら、行くよ…?」

 二人の腕を引っ張り、三岳は「じゃあまたね、皆塚君、日暮さん」と言うと、店員に案内された席に座った。

「何か意外だな。三岳ってあんな子とつるんでいるのかぁー」

 ハンバーグをむぐむぐと頬張りながら、三岳の席の方を見る。部活の後輩って言っていたから、面倒見ているんだろうな。人を見ないでちゃんと世話をするなんて流石三岳。俺は感動を覚えながらクルリと振り返って日暮に向き直った。

「日暮はさ、三岳と話したりするのか?」
「……話さない。クラスの人と話さないの、あなたも見ているでしょ?」

 確かに、日暮は端の席で誰とも目を合わさず、静かに本を読んでいる場面しか見た事がない。でも、それは少し前までの話。

「でも、俺と話してくれているよな!」

 無視すればいいのに、日暮はこうやって話してくれるし、一緒にご飯を食べてくれている。日暮も、少しずつ変わってきている。

「それは、あなたがしつこいから…」
「粘り強さは俺の長所だからな!」
「……短所とも言うんじゃないかしら」
「そっ、そんな事ないしっ!!」

 日暮も結構言うぜ。この毒舌は、如月に匹敵するだろう。

「あまりしつこいと嫌われ………」

 言いかけた日暮が俺に目を向けた瞬間―日暮の眉間に皺が寄った。

「えっ何?」

 日暮のジトリとした視線に、俺は戸惑ってしまう。
 俺、変な事言ってないよね?変な事もしてないよね!?
 あわあわと自分のやっていた事を思い返していると、日暮が不機嫌そうに教えてくれた。

「……さっきからニヤニヤしているけど、何?」
「えっ嘘!!?」

 俺はガシリと自分の顔を両手で掴んだ。口元を触ってみると、口角が上がっているのが分かった。
 うおぉ!マジだ!完全ににやけてやがる!!指で口角を無理矢理下げさせる。しばらく強制してから、もう大丈夫だろうと思った所で日暮に見せる。

「どう!?」
「…まだニヤニヤしている」
「ぎゃあ!マジか!」

 何とか顔を戻そうとするが、俺のにやけは止まる事を知らない。しばらく奮闘したが、もう治らない事を悟った俺は諦めざるを得なくなった。

「ダメだ日暮、治らない」
「何で」
「何で…何でだ……うーん……あー、あれだな。日暮とちゃんと話せて嬉しいんだな俺は!」

 それしかないな。俺はうんうんと納得した。あんなに拒絶されていたのに、日暮は普通に話してくれる。それがたまらなく嬉しくて、顔に出てしまったのだろう。

「……」

 日暮は一瞬、戸惑ったような表情を見せた。だが、すぐに無表情の仮面を被ってしまう。一見冷たい表情のようだが、何故だろう。俺には怯えているように見えた。
 仮面で、本心を隠すひねくれ姫。でも、その仮面はひびが割れつつあると思う。日暮は多分、その仮面が壊れる事を恐れている―
 だけど。俺の役目はその仮面を剥ぐ事だと思うから。俺はお前に話し掛けるのを止めないよ。

「俺達、友達だよな日暮!」
「……まぁ、一応」

 俺が満面の笑顔で聞くと、愛想の無い返事が返ってきた。でも否定していない返事に、俺は顔を綻ばせたのだった。


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