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短編
出来損ないの雪空
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ここはグルト王国城下町。夜になっても人々が行き交い賑わっている。とある酒場で、一際賑わっている席があった。カウンター席に座る長身の緑髪の男と、がたいの良い茶髪の男だ。緑髪をツーブロックにし、一つに結っているのはグルト王国弓兵隊長のイム=アランテッドだ。そしてもう一人の筋肉隆々の茶髪の男は銃器兵隊長のガイア=クリスタル。
賑わっているといっても、ガイア一人で盛り上がっており、イムは顔をしかめながら酒を飲んでいる。
「はー、ガイア隊長そんなに飲まないでくださいよー。もし潰れたら誰が担いでいくと思っているんですかー?」
「うわっははは! 何のこれしき! それよりイムは全く酒が進んでいないんじゃいか! もっと飲め!」
ガイアは顔を真っ赤にしながら酒を一気飲みする勢いで進めている。今年47になる彼は酒が大好きなので夜が空いている時は誰かを誘い、こうして酒場に入り浸るのだ。そしてその相手はイムの確率が高い。イムは酒に強いので、顔色が少しも変わっていない。テンション高く笑うガイアを呆れた表情で見つめていた。
「本当はグランデル騎士隊長も呼びたかったんだけどなあ」
「流石に王都の隊長が城から全員いなくなったら駄目でしょうー。それに、グランデル騎士隊長は下戸ですから、全く飲まないと思いますしねー」
同じ隊長であるが立場は二人の上である騎士隊長グランデル。彼は本日城を警護する任務にあたっている。兵士の憧れでもある彼は完璧なように見えるが、実は下戸だという弱点がある。
ガイアは何度かグランデルを誘った事があるのだが、上手くはぐらかされてしまい、一回も飲んだ事が無い。
「そういえばイム、お前さんグランデル騎士隊長とは昔からの知り合いだそうだな」
「あー、まあそうですね。俺が12の頃から世話になっていました」
「世話? グランデル騎士隊長とは親戚か何かだったのか? それとも家が近かったとかか?」
「うーん、そういうわけではないんですけれどー。色々ありましてー」
曖昧な答えに、ガイアは酒を飲むのを止めてイムに顔を寄せる。
「色々とは何だ?」
「あー、色々は色々ですー」
「ぬうううう!! 俺はそういう曖昧な答えが嫌いなんだ!! 一体何なんだ!?」
はっきりとしない答えに業を煮やしたガイアがイムの両肩を掴んで揺さぶる。
「ぐえええ。分かりましたから揺さぶらないでくださいー」
酒に強いとはいえ、揺さぶられるのは流石に気持ちが悪くなりそうだったのですぐに音を上げると、ガイアは直ぐに離した。そして瞳をこれでもかと輝かせている。話さなければならない雰囲気に、イムは顔をしかめてため息を吐いてから、ゆっくりと語り始めた。
「グランデル騎士隊長は、俺の事を救ってくれた恩人なんですよー」
「恩人?」
「俺はアランテッド家っていう小さな町の領主をしている貴族の子供だったんですよー。五人兄弟の末っ子。兄さんや姉さんは賢くて器用な人達で随分可愛がられていたんですが、俺は出来損ないでしてね。よく、父親に殴られたり蹴られたりしましたよ」
幼い頃は背丈も低く、勉学も武力も無い少年だったイムは父親によく叱責されていた。時には手を上げられた。召使のように使われる事もあった。家族とは別の粗末な料理を出される事がほとんどだった。母親も、兄弟達も誰も助けてくれなかった。あの環境でよく12年も生きていられたと自分でも思う。
「雪の中、裸足のまま外へ放り投げられた事があったんです。雪が傷口に染みてとても痛かった。その時、俺はこのままここにいたら死んでしまうと思ったんです。それでもいいかなって思ったんですけれど……でも、俺は気が付いたら走っていた。どうやら、死にたくなかったみたいですねー」
他人事のように笑うが、イムの脳裏には13年前の雪の日が過っている。殴られて右瞼が腫れて視界が悪い中、裸足で走り続けた。傷の痛みも、裸足から感じる地面の冷たさも、未だに覚えている。
「走って、走って、走って。足の感覚が無くなって、もう走れなくなって座り込んでいた時――偶然、その街を巡回していたグランデルさんが俺を発見しましてね。俺の異変を察知して手を差し伸べてくれたんです。それが、俺とグランデルさんの出会いです」
――どうした、君。傷だらけじゃないか。
そう言って地面に片膝をついてこちらに手を差し伸べてくれたグランデルは、少しだけ泣きそうな顔をしていたのを覚えている。見ず知らずの子供にそんな表情が出来る大人がいるなんて、と思った途端、ボロボロと涙を零してしまった。生まれてこの方、優しくされた事など無かったから。
「俺に帰る家が無い事を知ったグランデルさんは、自分の家に俺を入れてくれたんです、その時貰ったスープが温かくて、美味しくて、あんなに優しい飲み物を味わったのは初めてでしたね」
グランデルが作ったスープは、野菜がまだ硬くて味付けも薄かったが、人生で一番美味しかった。
当時を思い出して酒を飲みながら目を細めていると――
「うううううううううう」
突然呻き声が聞こえて、イムは思わず顔を向けると、ガイアがダバダバと涙を流していた。
「ちょ、ガイア隊長…!?」
「イム、お前にそんな辛い過去があるっていうのに俺は、俺は無理やり聞いてしまって……!! すまん、イム!!」
「ぐええええ。男に抱き締められても嬉しくないので止めてもらえますかー」
感極まってイムに抱き着いておいおいと泣いてしまう。イムは嫌そうに顔をしかめていたが、振り払う事はせずにガイアが落ち着いて離れるのを待った。
少ししてから、ガイアは腕で自分の涙を拭ってから鼻を啜ってイムから離れる。顔も目も真っ赤になってしまっていた。その様子を見てイムは軽く笑ってから話を続ける。
「まあ、当時は辛かったですけれど、いいんです。あれが無ければ今の俺は無いんで。今の生活は忙しいですけれど、性に合っていますからねー」
「そうか、そうか……良かったなあ、イム……」
うんうんと頷いてから、ガイアはふとある事を思い出した。
「……そういえば、アランテッド家といえば、数年前に突然爵位を捨てて忽然と姿を消したのではなかったか……?」
アランテッドという姓に聞き覚えがあると思っていたが、不意に思い出したのだ。当時、貴族が地位を捨てていなくなるなんてとても珍しい事だと思った記憶があった。今思えば、イムはアランテッド家がいなくなってから姓を名乗り始めたような気がする。今の今まで思い出せなかったのは、ガイアが鈍いせいか、イムがあまり大々的に名乗らなかったせいか――
「……」
イムは何も答えない。カウンターに頬杖をつき、ガイアを無表情で見つめている。その表情にうすら寒さを感じ、今まで真っ赤だったガイアの顔が、瞬時に青くなる。
「い、イム。お前さん、まさか……」
「……どうだと思います?」
イムは口元で弧を描いた。含みのある笑顔。その瞬間――自分の嫌な予感が当たっているのだと確信したガイアは思い切り立ち上がり、イムの首根っこを掴んだ。
「イムうううううう!! お、お前隊長という身でありながら家族を抹殺してしまったというのか!!!? 確かに虐待は許されない事だが、だからといってやっていい事と悪い事があるんだぞイムうううううう!!!!」
「ぐえええええ。抹殺なんてしていませんから離してくださいいいいー」
号泣しながら首を絞めるガイアに、今まで少しも変わらなかったイムの顔色が青くなる。何とかガイアの絞首から脱け出したイムは、何度か咳き込んでから思い切りため息を吐いた。
「はあ……。俺はあいつらを殺したりなんかしていませんよ。俺は別に何もするつもりじゃなかった。だけど、俺が王都専属の弓兵隊長になった途端、手の平を返してこちらに擦り寄って来たんですよ。当時はアランテッドを名乗っていませんでしたが、イムの名前で察しがついたみたいでね」
――流石は私の息子だ。
両手を合わせながらそう言った父親の作り笑いは今思い出しても気分が悪くなる。父に息子だと認められてもちっとも嬉しくなかった。母も、兄も、姉も、散々馬鹿にしてきたイムの地位に眼が眩んで、今までの行為をまるで無かったかのように接してきた。
そんな元家族の姿を見て嫌悪感を覚え――イムは制裁を決意し、すぐに実行した。
「――まあ、社会的に抹殺をした感じですね。アランテッド家の金の流れや不正を調べてそれを突き付けてやったんです。これを王にバラされたくなかったらさっさと爵位捨てて俺の目が届かない所へ行けって言っただけです。バレれば即牢屋へ収監。そんな事、プライドが無駄に高いあいつらには耐えられない事だと思いましたからね。今俺がアランテッドを名乗っているのは、まあ、人質みたいなものです。俺はお前達を忘れていない。少しでも妙な真似をすればすぐに行動しますよーってね」
元家族とはそれきり。彼等が現在どう過ごしているかは知らない。もう、関係の無い事だ。酒を飲みながら、グラスを持つ手に力が入る。
「……俺は、出来損ないだとずっと思って来ていましたが、グランデルさんに救われ、グルト王国兵として入隊して……ここまで来ました。俺はもう出来損ないじゃない。グルト王国弓兵隊長として名の恥じぬよう――って寝てるじゃないですか」
語っている途中にガイアの方を見てみれば、彼はテーブルに突っ伏し寝息を立てていた。話せと言った癖に最後まで聞かずに寝入ってしまったガイアに呆れながらも、少々語り過ぎてしまった自分を恥ずかしく思いながら、イムは今夜何度目かのため息を吐いた。
「はー、やっぱり俺が担いで帰らないといけないじゃないですかー。勘弁してくださいよー」
試しに揺さぶって名前を呼んでみるが、起きる気配は全くない。どうやら今回もイムが家に送らなくてはならないようだ。イムはブツクサと文句を言いながら、酒場の女店主にもう帰る事を告げ、金を払った。
そしてガイアの肩を持ち、「少しは自分で歩いてくださいー」と言って無理矢理歩かせる。ガイアは夢うつつで千鳥足だったが、イムを頼りにしながらも歩を進める。しっかりしてくださいよ、と声を掛けながらも、イムは少しだけ微笑む。
「……まあ、心配してくれてありがとうございます、ガイア隊長」
弓兵隊長の小さな感謝は、夢の世界に足を半分突っ込んでいる銃器兵隊長には聞こえなかった。
賑わっているといっても、ガイア一人で盛り上がっており、イムは顔をしかめながら酒を飲んでいる。
「はー、ガイア隊長そんなに飲まないでくださいよー。もし潰れたら誰が担いでいくと思っているんですかー?」
「うわっははは! 何のこれしき! それよりイムは全く酒が進んでいないんじゃいか! もっと飲め!」
ガイアは顔を真っ赤にしながら酒を一気飲みする勢いで進めている。今年47になる彼は酒が大好きなので夜が空いている時は誰かを誘い、こうして酒場に入り浸るのだ。そしてその相手はイムの確率が高い。イムは酒に強いので、顔色が少しも変わっていない。テンション高く笑うガイアを呆れた表情で見つめていた。
「本当はグランデル騎士隊長も呼びたかったんだけどなあ」
「流石に王都の隊長が城から全員いなくなったら駄目でしょうー。それに、グランデル騎士隊長は下戸ですから、全く飲まないと思いますしねー」
同じ隊長であるが立場は二人の上である騎士隊長グランデル。彼は本日城を警護する任務にあたっている。兵士の憧れでもある彼は完璧なように見えるが、実は下戸だという弱点がある。
ガイアは何度かグランデルを誘った事があるのだが、上手くはぐらかされてしまい、一回も飲んだ事が無い。
「そういえばイム、お前さんグランデル騎士隊長とは昔からの知り合いだそうだな」
「あー、まあそうですね。俺が12の頃から世話になっていました」
「世話? グランデル騎士隊長とは親戚か何かだったのか? それとも家が近かったとかか?」
「うーん、そういうわけではないんですけれどー。色々ありましてー」
曖昧な答えに、ガイアは酒を飲むのを止めてイムに顔を寄せる。
「色々とは何だ?」
「あー、色々は色々ですー」
「ぬうううう!! 俺はそういう曖昧な答えが嫌いなんだ!! 一体何なんだ!?」
はっきりとしない答えに業を煮やしたガイアがイムの両肩を掴んで揺さぶる。
「ぐえええ。分かりましたから揺さぶらないでくださいー」
酒に強いとはいえ、揺さぶられるのは流石に気持ちが悪くなりそうだったのですぐに音を上げると、ガイアは直ぐに離した。そして瞳をこれでもかと輝かせている。話さなければならない雰囲気に、イムは顔をしかめてため息を吐いてから、ゆっくりと語り始めた。
「グランデル騎士隊長は、俺の事を救ってくれた恩人なんですよー」
「恩人?」
「俺はアランテッド家っていう小さな町の領主をしている貴族の子供だったんですよー。五人兄弟の末っ子。兄さんや姉さんは賢くて器用な人達で随分可愛がられていたんですが、俺は出来損ないでしてね。よく、父親に殴られたり蹴られたりしましたよ」
幼い頃は背丈も低く、勉学も武力も無い少年だったイムは父親によく叱責されていた。時には手を上げられた。召使のように使われる事もあった。家族とは別の粗末な料理を出される事がほとんどだった。母親も、兄弟達も誰も助けてくれなかった。あの環境でよく12年も生きていられたと自分でも思う。
「雪の中、裸足のまま外へ放り投げられた事があったんです。雪が傷口に染みてとても痛かった。その時、俺はこのままここにいたら死んでしまうと思ったんです。それでもいいかなって思ったんですけれど……でも、俺は気が付いたら走っていた。どうやら、死にたくなかったみたいですねー」
他人事のように笑うが、イムの脳裏には13年前の雪の日が過っている。殴られて右瞼が腫れて視界が悪い中、裸足で走り続けた。傷の痛みも、裸足から感じる地面の冷たさも、未だに覚えている。
「走って、走って、走って。足の感覚が無くなって、もう走れなくなって座り込んでいた時――偶然、その街を巡回していたグランデルさんが俺を発見しましてね。俺の異変を察知して手を差し伸べてくれたんです。それが、俺とグランデルさんの出会いです」
――どうした、君。傷だらけじゃないか。
そう言って地面に片膝をついてこちらに手を差し伸べてくれたグランデルは、少しだけ泣きそうな顔をしていたのを覚えている。見ず知らずの子供にそんな表情が出来る大人がいるなんて、と思った途端、ボロボロと涙を零してしまった。生まれてこの方、優しくされた事など無かったから。
「俺に帰る家が無い事を知ったグランデルさんは、自分の家に俺を入れてくれたんです、その時貰ったスープが温かくて、美味しくて、あんなに優しい飲み物を味わったのは初めてでしたね」
グランデルが作ったスープは、野菜がまだ硬くて味付けも薄かったが、人生で一番美味しかった。
当時を思い出して酒を飲みながら目を細めていると――
「うううううううううう」
突然呻き声が聞こえて、イムは思わず顔を向けると、ガイアがダバダバと涙を流していた。
「ちょ、ガイア隊長…!?」
「イム、お前にそんな辛い過去があるっていうのに俺は、俺は無理やり聞いてしまって……!! すまん、イム!!」
「ぐええええ。男に抱き締められても嬉しくないので止めてもらえますかー」
感極まってイムに抱き着いておいおいと泣いてしまう。イムは嫌そうに顔をしかめていたが、振り払う事はせずにガイアが落ち着いて離れるのを待った。
少ししてから、ガイアは腕で自分の涙を拭ってから鼻を啜ってイムから離れる。顔も目も真っ赤になってしまっていた。その様子を見てイムは軽く笑ってから話を続ける。
「まあ、当時は辛かったですけれど、いいんです。あれが無ければ今の俺は無いんで。今の生活は忙しいですけれど、性に合っていますからねー」
「そうか、そうか……良かったなあ、イム……」
うんうんと頷いてから、ガイアはふとある事を思い出した。
「……そういえば、アランテッド家といえば、数年前に突然爵位を捨てて忽然と姿を消したのではなかったか……?」
アランテッドという姓に聞き覚えがあると思っていたが、不意に思い出したのだ。当時、貴族が地位を捨てていなくなるなんてとても珍しい事だと思った記憶があった。今思えば、イムはアランテッド家がいなくなってから姓を名乗り始めたような気がする。今の今まで思い出せなかったのは、ガイアが鈍いせいか、イムがあまり大々的に名乗らなかったせいか――
「……」
イムは何も答えない。カウンターに頬杖をつき、ガイアを無表情で見つめている。その表情にうすら寒さを感じ、今まで真っ赤だったガイアの顔が、瞬時に青くなる。
「い、イム。お前さん、まさか……」
「……どうだと思います?」
イムは口元で弧を描いた。含みのある笑顔。その瞬間――自分の嫌な予感が当たっているのだと確信したガイアは思い切り立ち上がり、イムの首根っこを掴んだ。
「イムうううううう!! お、お前隊長という身でありながら家族を抹殺してしまったというのか!!!? 確かに虐待は許されない事だが、だからといってやっていい事と悪い事があるんだぞイムうううううう!!!!」
「ぐえええええ。抹殺なんてしていませんから離してくださいいいいー」
号泣しながら首を絞めるガイアに、今まで少しも変わらなかったイムの顔色が青くなる。何とかガイアの絞首から脱け出したイムは、何度か咳き込んでから思い切りため息を吐いた。
「はあ……。俺はあいつらを殺したりなんかしていませんよ。俺は別に何もするつもりじゃなかった。だけど、俺が王都専属の弓兵隊長になった途端、手の平を返してこちらに擦り寄って来たんですよ。当時はアランテッドを名乗っていませんでしたが、イムの名前で察しがついたみたいでね」
――流石は私の息子だ。
両手を合わせながらそう言った父親の作り笑いは今思い出しても気分が悪くなる。父に息子だと認められてもちっとも嬉しくなかった。母も、兄も、姉も、散々馬鹿にしてきたイムの地位に眼が眩んで、今までの行為をまるで無かったかのように接してきた。
そんな元家族の姿を見て嫌悪感を覚え――イムは制裁を決意し、すぐに実行した。
「――まあ、社会的に抹殺をした感じですね。アランテッド家の金の流れや不正を調べてそれを突き付けてやったんです。これを王にバラされたくなかったらさっさと爵位捨てて俺の目が届かない所へ行けって言っただけです。バレれば即牢屋へ収監。そんな事、プライドが無駄に高いあいつらには耐えられない事だと思いましたからね。今俺がアランテッドを名乗っているのは、まあ、人質みたいなものです。俺はお前達を忘れていない。少しでも妙な真似をすればすぐに行動しますよーってね」
元家族とはそれきり。彼等が現在どう過ごしているかは知らない。もう、関係の無い事だ。酒を飲みながら、グラスを持つ手に力が入る。
「……俺は、出来損ないだとずっと思って来ていましたが、グランデルさんに救われ、グルト王国兵として入隊して……ここまで来ました。俺はもう出来損ないじゃない。グルト王国弓兵隊長として名の恥じぬよう――って寝てるじゃないですか」
語っている途中にガイアの方を見てみれば、彼はテーブルに突っ伏し寝息を立てていた。話せと言った癖に最後まで聞かずに寝入ってしまったガイアに呆れながらも、少々語り過ぎてしまった自分を恥ずかしく思いながら、イムは今夜何度目かのため息を吐いた。
「はー、やっぱり俺が担いで帰らないといけないじゃないですかー。勘弁してくださいよー」
試しに揺さぶって名前を呼んでみるが、起きる気配は全くない。どうやら今回もイムが家に送らなくてはならないようだ。イムはブツクサと文句を言いながら、酒場の女店主にもう帰る事を告げ、金を払った。
そしてガイアの肩を持ち、「少しは自分で歩いてくださいー」と言って無理矢理歩かせる。ガイアは夢うつつで千鳥足だったが、イムを頼りにしながらも歩を進める。しっかりしてくださいよ、と声を掛けながらも、イムは少しだけ微笑む。
「……まあ、心配してくれてありがとうございます、ガイア隊長」
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