82 / 106
6.厄災の魔女と一人の人間
女王を苦しみから救う為に
しおりを挟む
境界が曖昧な世界。ここはリュラとヒュウが心を通わせるただ一つの場所だ。リュラの心の中と言っていい。ヒュウは彼女が眠りに就く事でこの中に入る事が出来ていた。今回心の中に入る事が出来たのは、彼女が正気を失っているからだろう。
この世界はリュラの心の具合で様々な色に変わる。哀しければ青。嬉しければ赤。そして、絶望に打ちひしがれていれば黒。今は漆黒の闇だった。ヒュウはその暗闇を一人歩く。いつもなら、ここに来ればリュラがすぐに出迎えてくれた。しかし、今回はそれが無い。あまりの絶望に、誰かがここに入った事さえ分からないのだろう。
ヒュウはゆっくりと歩き続ける。この世界では、自分の本来の姿に戻っていた。白に金の刺繍があしらわれた寝間着姿。
「リュラ」
黒の世界に、ヒュウの声が反響する。しかし、返事は無い。辺りは静まり返っていて、人の気配は全く無い。当たり前だ。ここはリュラの世界だから彼女以外にいるわけがないのだから。
しかし、リュラのものでない声が微かに聞こえたので、ヒュウはそちらに向かって跳躍する。この空間だと人間のヒュウでも空を飛ぶように移動する事が出来る。城で幽霊のように過ごしていた時は、指定の場所にしか現れる事しか出来ずあまり動く事が出来なかったから新鮮だ。
徐々に声が大きくなってくる。それは大勢の人間のもので、全て罵倒だった。「消えろ」「いなくなれ」と誰かに向かって声を荒げている。近付いてみれば、そこには見知った顔がたくさんあった。城の従者、レイアスに住む国民達。誰もが見た事がない怒りの表情を浮かべている。声を掛けてみるが、誰もヒュウに目もくれず誰かを罵倒している。
誰か話の通じる者はいないのか、と言ってみるが誰もこちらを見ない。まるでこちらが見えていないみたいだ。まさかこの世界でも自分の姿は目に映らないのか、と思ったが群衆の一番前に立つ男に目を丸くさせた。
「シェル? 何でここに…」
先ほどまで命を賭けて共にリュラを止めようとしていた男だ。シェルバーはヒュウの問い掛けに答えず、目の前の何かを睨みつけていた。
「お前が王を殺した! 許さないぞ!」
「何を言っているんだシェル…。僕はここにいる。誰にも殺されてなんかない」
「女王は人殺しだ! ここにお前の居場所なんてない!!」
「……シェル?」
彼の言葉に、ヒュウは眉を潜める。シェルバーはリュラの事を心から尊敬しており、慕っている。そんな彼がリュラに対して暴言を吐くとは思えなかった。そしてシェルバーの視線の向こうに、龍の姿があった。現実ではあんなに暴れているというのに、この世界の彼女は巨体を丸めて、震えている。国民の罵倒を震えながら聞いている。彼らの心無い言葉がリュラをどんどんと傷つけていく。
これを目の当たりにして、ようやく気が付いた。これはリュラの悪夢だ。彼女が最も恐れている事、それは国民に嫌われて居場所がなくなる事。
現実の彼女が暴れているのは、この悪夢にうなされているからだ。
「なるほど、そういう事か」
こちらを見ない国民達。言うはずの無いシェルバーの暴言。それは彼女の悪夢なのだ。ヒュウは小さく震える龍にそっと歩み寄った。
「やあ、奥さん。こんな所に縮こまってどうしたの?」
リュラの顔の付近まで行き、ヒュウはいつもの調子で声を掛けた。彼女は瞑目したまま大きな瞳から涙を流している。もしかしたらリュラも自分を認識していないのでは、と一瞬思ったが、彼女のか細い声が僅かに届いた。
「私が、私がいけないんだ…私が、ヒュウを殺したんだ…」
「殺していないよ。全く、皆は僕に死んで欲しいのかな」
先程悪夢のシェルバーもそんな事を言っていたので、冗談交じりに返すとリュラの瞼が開き、ギロリとヒュウを睨んだ。
「そんなわけないだろう! …でも、ヒュウは私なんかと結婚したから、こんな事になったんだ…私が強ければ、ヒュウを護れたのに。私の力は使い方を間違えれば誰かを殺してしまう。だから、私はずっと西の森にいたんだ。誰も傷つけない為に。誰とも絆を作らないように」
西の森で一人過ごしていたリュラは孤独だった。しかし、孤独よりも怖いのは誰かを傷つける事だった。度々現れる人は自分の鱗を求める者ばかり。辛かった、悲しかった。それを救ってくれたのは王のヒュウ。
ヒュウが手を差し伸べてくれたから、今まで幸せだった。しかし、彼にとっては幸せでは無かったのでは、とふと不安に思ったりした。彼には相応しい人間の相手がいたのでは、と悩んだりした。もし、自分がいなければ。
するとヒュウは目を伏せて悲しそうに笑う。
「それじゃあ、僕と出会った事は無かった事にしたい?」
「それは絶対に無い! …けれど、私と出会わなければ魔女に眠らされる事になんてならなかっただろう…? 私がいなければ、ヒュウは不幸にならなかった」
リュラの言葉に、ヒュウは眉を跳ね上げた。優しい笑顔も消して無表情になる。その顔に龍の姿のリュラはたじろぐ。彼の無表情は、怒りなのだ。
「僕がいつ君に不幸だと言った? 僕は君の隣にいたから幸せだったんだ。僕はこの未来を知っていたとしても君に会いに行ったよ。君を愛しているからね」
「ヒュウ…」
「君は僕を愛していないの? だから会わなければ良かったなんて言えるの?」
「違う、違う。それは断じてない。私はヒュウを愛している」
大きな頭を振って否定すれば、ヒュウにようやく笑顔が戻る。お互いの気持ちなんてわかりきっているのに、面と向かって言われると照れ臭いが安心する。二人は顔を見合わせて笑った。
「女王は敵だ! 消えろ! 消えろ!」
二人の背後ではまだ悪夢達が声を上げている。その言葉に、リュラは少しだけ身体を震わせる。ヒュウは彼女に触れようと手を伸ばそうとしたが、この世界では触れる事が出来ない事を思い出し、そのまま空を握って下ろした。今は触れて安心させる事は出来ないが、言葉は届く。
「リュラ。あれは君の弱さから来る悪夢だ。君は一人でミレジカを見ている中、あんな言葉を投げかけられた事があるかい?」
そう言うと、リュラは首を振った。誰よりも大きいというのに、悪夢の罵倒に委縮しており何だか小さく見える。
「そうだろう。国民は皆君に感謝している。僕は城にずっといたけれど、城内に来る国民の人々は皆君に羨望の眼差しを送っていた」
誰にも認識されない身体で、ヒュウは城内をずっと見守っていた。自分の前を通り過ぎるミレジカの住人は誰もがリュラを尊敬していて、慕っていた。彼女を敵視する人なんて、一人もいない。西の森で人に関わる事に怯えていた龍は、誰もが憧れる女王になった。それが、王にとっては一番の誇りだった。
「だから、こんな悪夢は君の杞憂だ。存在しないものだ。気を強く持て、女王。君は一国を納める女王であり、僕の妻なんだ」
王は龍の目前で両手を広げる。背後には国民の形をした悪夢の罵詈雑言。悪夢が、少しずつ形を失っていく。シェルバーだったものが、ライジル達だったものが、従者達が徐々に色を失っていき、黒い人影に変わる。色が消失した悪夢はどんどんと崩れていき、そして消えた。
漆黒だった世界は、徐々に白くなっていき、青空のように爽快な色へと変わった。空色の世界で、ヒュウは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「僕は頼りないだろうから、君の支えが必要なんだ。だから、一緒に行こう」
いつの間にか人の姿に戻ったリュラが、妖艶に微笑む。
「ヒュウは頼りになるよ。だってこうして私を悪夢から救い出そうとしてくれている」
「妻のピンチに助けに来られない夫なんて恥ずかしいだろう。リュラ。現実は辛く逃げ出したくなる時があるだろう。でも、君には僕もいるし、みんながいる。君は一人じゃない。みんなで乗り越えるんだ。さあ、リュラ。一緒に行こう―」
ヒュウが指差す方向には蒼い光が輝いていた。リュラは頷くと、ヒュウの指差す方向へと歩き出した。
この世界はリュラの心の具合で様々な色に変わる。哀しければ青。嬉しければ赤。そして、絶望に打ちひしがれていれば黒。今は漆黒の闇だった。ヒュウはその暗闇を一人歩く。いつもなら、ここに来ればリュラがすぐに出迎えてくれた。しかし、今回はそれが無い。あまりの絶望に、誰かがここに入った事さえ分からないのだろう。
ヒュウはゆっくりと歩き続ける。この世界では、自分の本来の姿に戻っていた。白に金の刺繍があしらわれた寝間着姿。
「リュラ」
黒の世界に、ヒュウの声が反響する。しかし、返事は無い。辺りは静まり返っていて、人の気配は全く無い。当たり前だ。ここはリュラの世界だから彼女以外にいるわけがないのだから。
しかし、リュラのものでない声が微かに聞こえたので、ヒュウはそちらに向かって跳躍する。この空間だと人間のヒュウでも空を飛ぶように移動する事が出来る。城で幽霊のように過ごしていた時は、指定の場所にしか現れる事しか出来ずあまり動く事が出来なかったから新鮮だ。
徐々に声が大きくなってくる。それは大勢の人間のもので、全て罵倒だった。「消えろ」「いなくなれ」と誰かに向かって声を荒げている。近付いてみれば、そこには見知った顔がたくさんあった。城の従者、レイアスに住む国民達。誰もが見た事がない怒りの表情を浮かべている。声を掛けてみるが、誰もヒュウに目もくれず誰かを罵倒している。
誰か話の通じる者はいないのか、と言ってみるが誰もこちらを見ない。まるでこちらが見えていないみたいだ。まさかこの世界でも自分の姿は目に映らないのか、と思ったが群衆の一番前に立つ男に目を丸くさせた。
「シェル? 何でここに…」
先ほどまで命を賭けて共にリュラを止めようとしていた男だ。シェルバーはヒュウの問い掛けに答えず、目の前の何かを睨みつけていた。
「お前が王を殺した! 許さないぞ!」
「何を言っているんだシェル…。僕はここにいる。誰にも殺されてなんかない」
「女王は人殺しだ! ここにお前の居場所なんてない!!」
「……シェル?」
彼の言葉に、ヒュウは眉を潜める。シェルバーはリュラの事を心から尊敬しており、慕っている。そんな彼がリュラに対して暴言を吐くとは思えなかった。そしてシェルバーの視線の向こうに、龍の姿があった。現実ではあんなに暴れているというのに、この世界の彼女は巨体を丸めて、震えている。国民の罵倒を震えながら聞いている。彼らの心無い言葉がリュラをどんどんと傷つけていく。
これを目の当たりにして、ようやく気が付いた。これはリュラの悪夢だ。彼女が最も恐れている事、それは国民に嫌われて居場所がなくなる事。
現実の彼女が暴れているのは、この悪夢にうなされているからだ。
「なるほど、そういう事か」
こちらを見ない国民達。言うはずの無いシェルバーの暴言。それは彼女の悪夢なのだ。ヒュウは小さく震える龍にそっと歩み寄った。
「やあ、奥さん。こんな所に縮こまってどうしたの?」
リュラの顔の付近まで行き、ヒュウはいつもの調子で声を掛けた。彼女は瞑目したまま大きな瞳から涙を流している。もしかしたらリュラも自分を認識していないのでは、と一瞬思ったが、彼女のか細い声が僅かに届いた。
「私が、私がいけないんだ…私が、ヒュウを殺したんだ…」
「殺していないよ。全く、皆は僕に死んで欲しいのかな」
先程悪夢のシェルバーもそんな事を言っていたので、冗談交じりに返すとリュラの瞼が開き、ギロリとヒュウを睨んだ。
「そんなわけないだろう! …でも、ヒュウは私なんかと結婚したから、こんな事になったんだ…私が強ければ、ヒュウを護れたのに。私の力は使い方を間違えれば誰かを殺してしまう。だから、私はずっと西の森にいたんだ。誰も傷つけない為に。誰とも絆を作らないように」
西の森で一人過ごしていたリュラは孤独だった。しかし、孤独よりも怖いのは誰かを傷つける事だった。度々現れる人は自分の鱗を求める者ばかり。辛かった、悲しかった。それを救ってくれたのは王のヒュウ。
ヒュウが手を差し伸べてくれたから、今まで幸せだった。しかし、彼にとっては幸せでは無かったのでは、とふと不安に思ったりした。彼には相応しい人間の相手がいたのでは、と悩んだりした。もし、自分がいなければ。
するとヒュウは目を伏せて悲しそうに笑う。
「それじゃあ、僕と出会った事は無かった事にしたい?」
「それは絶対に無い! …けれど、私と出会わなければ魔女に眠らされる事になんてならなかっただろう…? 私がいなければ、ヒュウは不幸にならなかった」
リュラの言葉に、ヒュウは眉を跳ね上げた。優しい笑顔も消して無表情になる。その顔に龍の姿のリュラはたじろぐ。彼の無表情は、怒りなのだ。
「僕がいつ君に不幸だと言った? 僕は君の隣にいたから幸せだったんだ。僕はこの未来を知っていたとしても君に会いに行ったよ。君を愛しているからね」
「ヒュウ…」
「君は僕を愛していないの? だから会わなければ良かったなんて言えるの?」
「違う、違う。それは断じてない。私はヒュウを愛している」
大きな頭を振って否定すれば、ヒュウにようやく笑顔が戻る。お互いの気持ちなんてわかりきっているのに、面と向かって言われると照れ臭いが安心する。二人は顔を見合わせて笑った。
「女王は敵だ! 消えろ! 消えろ!」
二人の背後ではまだ悪夢達が声を上げている。その言葉に、リュラは少しだけ身体を震わせる。ヒュウは彼女に触れようと手を伸ばそうとしたが、この世界では触れる事が出来ない事を思い出し、そのまま空を握って下ろした。今は触れて安心させる事は出来ないが、言葉は届く。
「リュラ。あれは君の弱さから来る悪夢だ。君は一人でミレジカを見ている中、あんな言葉を投げかけられた事があるかい?」
そう言うと、リュラは首を振った。誰よりも大きいというのに、悪夢の罵倒に委縮しており何だか小さく見える。
「そうだろう。国民は皆君に感謝している。僕は城にずっといたけれど、城内に来る国民の人々は皆君に羨望の眼差しを送っていた」
誰にも認識されない身体で、ヒュウは城内をずっと見守っていた。自分の前を通り過ぎるミレジカの住人は誰もがリュラを尊敬していて、慕っていた。彼女を敵視する人なんて、一人もいない。西の森で人に関わる事に怯えていた龍は、誰もが憧れる女王になった。それが、王にとっては一番の誇りだった。
「だから、こんな悪夢は君の杞憂だ。存在しないものだ。気を強く持て、女王。君は一国を納める女王であり、僕の妻なんだ」
王は龍の目前で両手を広げる。背後には国民の形をした悪夢の罵詈雑言。悪夢が、少しずつ形を失っていく。シェルバーだったものが、ライジル達だったものが、従者達が徐々に色を失っていき、黒い人影に変わる。色が消失した悪夢はどんどんと崩れていき、そして消えた。
漆黒だった世界は、徐々に白くなっていき、青空のように爽快な色へと変わった。空色の世界で、ヒュウは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「僕は頼りないだろうから、君の支えが必要なんだ。だから、一緒に行こう」
いつの間にか人の姿に戻ったリュラが、妖艶に微笑む。
「ヒュウは頼りになるよ。だってこうして私を悪夢から救い出そうとしてくれている」
「妻のピンチに助けに来られない夫なんて恥ずかしいだろう。リュラ。現実は辛く逃げ出したくなる時があるだろう。でも、君には僕もいるし、みんながいる。君は一人じゃない。みんなで乗り越えるんだ。さあ、リュラ。一緒に行こう―」
ヒュウが指差す方向には蒼い光が輝いていた。リュラは頷くと、ヒュウの指差す方向へと歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃
ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。
王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。
だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。
――それでも彼女は、声を荒らげない。
問いただすのはただ一つ。
「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」
制度、資格、責任。
恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。
やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。
衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。
そして彼の隣には、常に彼女が立つ。
派手な革命も、劇的な勝利もない。
あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。
遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、
声なき拍手を聞き取る。
これは――
嵐を起こさなかった王と、
その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる