機械仕掛けの神さま

Snon

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プロローグ

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――この星は、かつて光に満ちていた。
人類は知恵と技術を極め、神々の領域にさえ手を伸ばした。
その中心にあったのが「魔道工学(マギアテクノロジー)」――魔力と科学とを融合させた、人類最高の叡智だった。

エネルギーは尽きることなく、病は消え、天候さえ制御できる時代。
都市は宙に浮かび、人工の太陽が夜を追いやった。
人々はそれを「黄金の世紀」と呼び、永遠の繁栄を疑わなかった。

だが、魔法と科学――二つの理は決して混ざり合うべきではなかったのだ。

魔力は生き物の“心”に宿る。
それを機械の“器”に閉じ込めようとした瞬間、世界の理は歪み始めた。
人々は心なき機械に魂を与えようとし、ついには神の模倣に手を染めた。
それこそが、“機械仕掛けの神”の誕生――機械たちの始まりであった。

当初、魔道工学は人類を守る盾であり、導く灯だった。
だが、やがて魔力を供給する術式が暴走し、世界の魔素は狂い、精霊たちは姿を消した。
空は裂け、海は蒸発し、大地は沈み、都市を支えた魔導炉はひとつ、またひとつと暴発していった。
それは戦争でも、神の怒りでもない――人類自身の傲慢が引き起こした静かな終焉だった。

そして、人類は消えた。
彼らが築いた高塔は崩れ、機械仕掛けの神々は眠りについた。
残されたのは、風と草と、かつての記憶を刻んだ廃墟のみ。

――それから幾千の季節が過ぎた。

森と風の民、エルフたちはその廃墟の上に新しい世界を築いた。
人の名も知らぬまま、古の塔を「遺跡」と呼び、
魔道工学を「禁忌の技」として語り継いだ。

その時代に生まれたのが、青い瞳のエルフの少女・リィナだった。
彼女は古の知識を夢見る旅人。村の誰も近づこうとしない廃墟に惹かれ、
忘れられた文字を解読し、かつての人類が残した残骸に耳を傾けていた。

ある日、リィナは古い都市の地下で、眠り続けていた巨大な機械を見つけた。
その中心には――光を失った瞳を持つ“人のような影”が横たわっていた。

錆びついた歯車がゆっくりと回転を始め、
長い沈黙を破って、金属の声が空気を震わせる。

「……私は、誰を守るために、目を覚ました?」

それが、機械仕掛けの神・ティクの言葉だった。
彼は人類を護るために造られた存在でありながら、
今やその「人類」は存在しない。
彼の記憶には、滅びのすべてが刻まれていた。

リィナは恐れずに、ただ静かに彼の前に立った。
彼女にとって機械は古代の伝説であり、神話のような存在だった。
しかし、彼女は感じた――ティクの中には“心”がある、と。

「あなたは……神さまなの?」

リィナの問いに、ティクはわずかに沈黙し、そして首を横に振った。

「いいや。私は神ではない。
 私はただ――人が残した祈りの形だ。」

それが、二人の旅の始まりだった。

人類が滅んだ理由を知るティク。
未来を信じることしか知らないリィナ。

過去と未来、機械と生命、記憶と希望――。
相反するふたつの存在が出会った時、
この滅びの世界に再びひとつの“鼓動”が生まれる。

それは、科学が壊した世界を癒すための、
最後の祈りの旅だった。
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