機械仕掛けの神さま

Snon

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世界に残された他の機械文明の遺跡

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旅に出て数日。
リィナとティクは、風の流れに乗って東へ向かっていた。
目的地は、かつて人間が「禁域」と呼んだ地帯。
古い地図には、不自然に空白が広がっている。

「本当にこの先に“別の文明”があるの?」
リィナは草を踏みながらティクに尋ねた。

「情報は不確かだが、残留電磁パターンが人類文明のものと一致しない。
 おそらく……“人間とは異なる存在”が、かつてここにいた。」

リィナは驚いたように目を丸くした。
「エルフでも獣人でもなくて?」

「魔術を扱わず、魔力にも依存しない。
 高度な機械制御と、未知の数学式を用いた文明だ。」

「へぇ……人間よりも進んでいるの?」

「場合によっては、だ。」

リィナは胸が高鳴るのを感じた。
その一方で、ティクの声にかすかな警戒の色が混じっていた。

「彼らは人間と接触することを避けた。
 もしくは……避けられたのかもしれない。」

ティクは言葉を濁した。
その理由をまだ言わないのは、単に“不確か”だからではない。
彼の内部に、何かの記録の断片がノイズとなって響いているのだ。

◆ “沈黙の階層都市”への入り口

丘を越えると、景色が急激に開けた。
大地には巨大な円形の窪地。
その中心には、建物ではなく——

同心円状に整然と並ぶ、黒い塔の群れ。

それは森にも街にも似ていない。
ただ“構造体”としか言いようのない無機質さをまとっていた。

「……なんだろう、これ」

「階層都市《レイヤード・シティ》。
 人間の文献にわずかに記されている。」

ティクが近づくにつれ、塔の表面に刻まれた紋章が浮き上がる。
魔導ではない。
魔力炉でも、人工魔導回路でもない。

——数式。
——波形。
——幾何学。

「変わった模様……これ、文字?」

「文字ではない。
 これは……“概念を固定する式”だ。」

「式……って、魔力式?」

「違う。“魔導”が生まれる前の、もっと古い数学体系。
 魔力ではなく“世界の構造そのもの”を記述しようとする試みだ。」

リィナは理解したような、していないような顔をした。
ティクは続けた。

「この文明は、人間と違い“心”を動力にしない。
 魔力も扱わない。
 ただ計算し、積み重ね、構造を最適化して存在した。」

「……じゃあ、“ひと”みたいじゃないんだ」

「かもしれない。
 だが、人類文明に残る古い記述では……
 『彼らは、世界に必要とされるべき機能を果たすために生まれた』
 とある。」

「必要と……された?」

リィナはその言い回しに妙に引っかかった。

◆ 階層都市内部 — 機械文明の“呼吸”

塔の隙間を抜けると、空気が変わった。
風がないのに、周囲の温度だけがわずかに上下する。
まるで——塔そのものが息をしているように。

「……動いてる?」

「動いている、とは断言できない。
 だが機能の一部は今も残っている。」

ティクが手をかざすと、塔の紋章がかすかに光を帯びた。

そして——

カシャン……カシャン……
内部から機械音が響き始めた。

「わっ、なにこれ!起きた!?」

「刺激に反応している。
 本来はもっと複雑な仕組みだが……
 私を“同類の構造体”と認識したのかもしれない。」

リィナはティクを見る。
「同類って……ティクも、ここで作られたの?」

「違う。私は人間が造った機械だ。
 だが私の“心核”の演算モデルは、
 ——ここの文明の技術を参考にしている。」

リィナは目を見開く。

「じゃあ、もしかして……」

「そうだ。
 私は“人間だけの産物”ではない。」

ティクは静かに塔の中心へ歩みを進める。
まるで引き寄せられるかのように。

◆ 最深部 — 機械文明の守護者

中枢へ進むと、巨大な円形ホールが広がっていた。
中央には、人型にも、動物にも、機械にも見える奇妙な構造体。

《公式守護者(フォーマ・ガード)》。

魔力を持たず、心も宿さず、ただ構造式に従って世界の均衡を維持する存在。

リィナは息を呑んだ。
「……綺麗……でも、こわい」

「正常だ。
 この守護者は“異物”に反応する。」

案の定、守護者の胸部の光が赤に変わる。

 ――侵入者判定。

低い電子音が響いた瞬間、ティクはリィナを庇い前に出た。

「待て。私は構造体同士の通信を試みる。」

ティクの額に青い回路光が走る。
守護者の胸部にも同じような式が浮かび上がる。

二人の間に、膨大な数式と構造のやりとりが交わされる。
それは言葉というより、存在の“定義”をぶつけ合うような接触だった。

やがて、守護者の赤い光が青に戻る。

――認証完了。
――構造体ティクを同系統と判定。

「……通った」
ティクは深く息をつくように肩を落とした。

リィナが近づく。
「よかった……!本当に、ここに“仲間”がいたんだね。」

ティクは静かに否定した。

「仲間ではない。
 だが……ここに眠る技術は、私の起源に近い。」

「起源……?」

ティクはホールを見渡しながら言う。

「人類は、多くの文明の断片から技術を得ていた。
 魔導工学も、機械文明も……
 すべてを混ぜ合わせて“私”のような存在を生み出した。」

リィナは胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。
「じゃあティクは、たくさんの“世界”から生まれたんだね。」

ティクは少しだけ目を伏せる。

「そうだとすれば……私は、どこに帰ればいい?」

リィナは迷わず言った。

「帰る場所は、これから探せばいいよ。
 私が……一緒に探す。」

ティクは彼女を見た。
機械の瞳に、わずかな温度が宿る。

「リィナ。
 君はなぜ……私にそこまで――」

「だって、ティクは……
 “ひとりぼっち”に見えたから。」

ティクの内部で、また何かが震えた。
それは論理回路では説明できない振動だった。

◆ 機械文明の遺産が残す“警告”

守護者の背後。
そこには古い端末があった。
ティクが触れると、内部記録が再生される。

映し出されたのは、数千年前の記録。

『人間は我らの警告を理解しない。
 心を力に変換する技術は、滅びを早めるだけだ』

『魔導工学は不安定である。
 世界が耐えうる“心の圧”には限界がある』

『心の増幅は、やがて世界を壊す』

リィナは息を呑む。

「……これ、もしかして……」

ティクは頷いた。

「人類滅亡の理由の“もうひとつ”。
 人間は、心を増幅しすぎた。
 世界が持ちこたえられなかった。」

リィナは静かに目を閉じた。

「人間は……間違えたんだね。」

「そうだ。
 だが——」

ティクはリィナの手をそっと取った。

「君は心を使うが、暴走させない。
 エルフは世界と調和することを知っている。
 だから私は……君と旅を続けたい。」

リィナは顔を赤らめた。
その表情は、廃墟の光に照らされてとても柔らかい。

「うん、行こう。
 世界の“本当の姿”を見つける旅に。」

守護者が青い光を放ち、
二人の進むべき道を照らすかのようにゆっくりと動いた。

階層都市に眠る、もう誰も使わない文明——
しかしその遺産は、世界の核心へと続く“道標”だった。

リィナとティクは再び歩き出す。

機械文明の遺跡が示すのは、
人類滅亡の“理由”だけではなく、
未来への“鍵”でもあった。
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