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第19話「四国山中編② コードネームアルファ」
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(前回のあらすじ)
僕「みお」と愛する「琴子」は軍用機で高松へ向かっていた。目的はただ一つ、人間を怪異に変異させるドラッグの製造元の殲滅。しかし軍用機は着陸直前に撃墜され、僕は琴子と離れ離れになってしまう。
僕は墜落時に救助してくれた敵であるはずの銀髪の怪異と行動を共にする。
ピピピという電子音が聞こえる。
今の時代では滅多に聞けないその音に、僕は意識を取り戻した。時計を見ると時刻は1300。先ほどから2時間は意識を失っていたらしい。
僕はまだズキズキと痛む頭を、手で押さえながらフラフラと起き上がった。
あの銀髪の少女がいない。どこへ行った?
その時僕は少し離れた所で、あの銀髪の少女がフリルのついたメイド服姿で座っている後姿を見つけた。
彼女はこちらに背を向けて、何かに一心不乱に齧りついている。
何だ?何に齧りついているんだ?
僕は銀髪の少女の横に立つ。彼女が齧りついているのは……。
僕は驚いた。
それは間違いなくおにぎりだった。
彼女の顔ほどもある巨大なおにぎり。
しかもそのおにぎりの中には何か茶色と黄色の中間の様な具がぎっしりと詰まっている、
あれは・・・。
「あ、中尉、お気づきになりましたのね。もぐもぐ。」
「あの・・その・・何を食べているの?」
「見ての通りおにぎりですわ。もぐもぐ。」
「あ、いや、その中身なんだけど・・」
「これですか?辛子高菜の油炒めですわ。もぐもぐ。」
「あ・・。そう。お、美味しそうだね。」
「ええ、美味しいですわ。でも差し上げませんわ。もぐもぐ。」
しかしその瞬間僕のお腹から「グウ~ッ」と大きな音がした。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・仕方ありませんね。少しだけですわ。」
彼女はそう言うと本当に少し(約五分の一)だけおにぎりを千切って渡してくれた。
そのまま彼女は残りの五分の四にかじりつく。
しかし・・。
「・・ゴホッ、ゴホッ!」
銀髪の少女がむせる。
辛子の成分が喉に引っかかったのか?
僕は銀髪の少女の近くにあったお茶の入ったペットボトル(しかも新品!)を渡すと彼女は一気に喉にお茶を流し込んだ。
「ハア、ハア・・。助かりました。感謝いたしますわ。これは御礼です。」
彼女はそう言うともう五分の一をちぎって渡してくれた。
やった。これで五分の二だ。
僕は辛子高菜の油炒めが入った香ばしいおにぎりを一気に口の中に入れた。
二人でもぐもぐとおにぎりを食べる。
これで行動力はバッチリだ。
食べ終わったら彼女はその場で地図を広げ始めた。
「さて、みお中尉、これから琴子中尉と合流に向けて行動する訳ですが・・どういうプランをお考えですか?」
「その前に現在位置を教えていただきたい。」
「現在位置はこちらです。場所は東祖谷のあたりになります」
「こんなに南まで流されたのか・・。」
頭が痛い。墜落の際に一瞬高松の街並みが見えたから、てっきり阿波池田のすぐ南かと思ったら、殆ど高知県との県境である。前線基地のある祖谷口は遥か北だ。
「中尉の乗った輸送機はコントロールを何とか行おうとして結局ここから、南、天狗峠の手前の斜面に墜落して炎上しています。
琴子中尉は墜落直前で脱出していますので、距離的にはそうは離れていないとは思われますが・・。」
「しかしこの険しさじゃあ・・。」
僕は嘆息した。
はっきり言って四方切り立った斜面に囲われ、ここから移動するのも極めて大変だ。
僕は考えた。
琴子だったら、この大森林の中から僕をどう探す?僕がどう行動すると考える?
答えは簡単、闇雲に探し回るのではなく「僕が合図をするのを待つ」だ。
そして合図を確認する最良の方法は一つ。
「見晴らしの良い周囲を一望できる場所に移動する」ことだろう。
「琴子は恐らく天狗峠のあたりか、見晴らしの良い場所に移動して僕の合図を探すだろう、という訳で僕がやるべきなのは発煙筒か狼煙の準備だな。すまないが君、さっきの懐中電灯を貸してほしい。
え~と、あと困ったな、何て呼ぼう。本名は明かせないんだろう?」
「あ、はい、え~と、そうですねえ。コールサインのアルファで結構でございます。」
「わかった、アルファ。すまないが君につかまっていいかな?集落の跡地がありそうな場所まで移動させてほしい。」
「ふえ!?ま、まあ、いいですけど・・。」
銀髪の少女・・ここではアルファと呼ぶことにしたが、何だか顔を赤くして恥ずかしそうだ。
「あ、あの、つかまるってどういう感じで・・?」
「いや、さっき飛行機から助けてくれたときと同じでいいよ」
「えっ~」
なんだかもじもじするアルファ。
「えっ、さっきどんな感じだったの?」
「あ・・いや・・お、お姫様だっこ・・。」
大森林の中で二人の沈黙が続いた。
「・・・・」
「・・・・」
「いや、非常時だから。こんな超急斜面を歩くの大変だし。頼むよアルファ」
「あ、ハイ。分かりました~」
アルファはそう言うと、「ヨイショ」と呟いて僕をお姫様だっこしてくれた。
そして彼女が背中から漆黒の羽を伸ばして、羽ばたくと、僕とアルファの身体はたちまち宙に上がった。
30m近く上昇しただろうか。
改めて周囲の地形の絶望的な険しさに驚く。
ただその険しさの中に僕は切れ目を見つけた。
森と森の間に明らかに九十九折状の窪みがある。
恐らく昔の道路だろう。
そしてその向こうに長い斜めの構造物がちらりと見えた。
あれは水力発電所ではないだろうか?
「アルファ、あの構造物の所に連れて行ってくれ。多分昔の水力発電所だ。」
「分かりましたわ。しっかり掴まってくださいまし。」
僕はアルファにしっかりと掴まると、水力発電所に空中から接近した。
空中からだと数分だが、徒歩なら確実に丸一日はかかるだろう。
近くに来ると驚くべきことに苔むした水力発電所は無人ではあるが稼働していた。
電力はどこも全く足りないのだから不思議ではない。
ひょっとしたら事務所に何か使えそうなものがあるだろうか。
そう思った時、僕は発電所の近くに車が止まっているのを見つけた。
あれは・・パトカー?警察がこんな所にいるのか?
見るとパトカーには「徳島県警察」と書かれ、パトカーの前には規制線がはられ、数人の警官が立っていた。
なぜこんな政府の統制外地域に警察が?
恐らくこの水力発電所を警備するために、この場所と県道だけは確保したのだろう。
「アルファ、悪いがここで待機してくれ。僕が県警に発煙筒か、もしくは車用電話を借りられないか話をしてくる。」
「わかりましたが・・。一応ご用心を。中尉は銃をお持ちではありませんね?私のサブアームをお貸しします。」
アルファはそう言うと、懐からなんと拳銃を取り出した。
ベレッタM84FS。しかもサイレンサーつきだ。
これはありがたい。
僕はベレッタM84FSをホルスターにしまうと警官隊の方に向かった。
「失礼、徳島県警の方ですか?陸軍憲兵隊の君島と申します、少々よろしいですか?」
僕が尋ねると警官隊は一斉にこちらを振り向いた。
皆、目つきは普通だが、口元からの鋭い針のようなものが顔面を突き破っていた。
僕は咄嗟に銃を抜いた。
ベレッタのサイレンサーがバシュッと音を立て、(元)警官の頭を制帽ごと吹き飛ばす。
しかし次の瞬間僕は二発目を撃たずに、その場で地面を強く蹴って横に飛んだ。
僕がいた場所のアスファルトが弾け、パアンという大きな発砲音が森林の中に響き渡る。
怪異は何と拳銃を撃ってきた。
僕は混乱した。馬鹿な──!?
なぜ怪異が銃器を使用できる!?まさかコイツら知能があるのか!?
そのまさかだった。
警官の格好をした怪異は、何とパトカーに乗り込むと「サイレン」を鳴らした。
森林中に発砲音だけでなくパトカーのサイレンが鳴り響く。
ヤバイ!これでは四方八方に宣伝しているようなものではないか!
僕は脱兎のごとく水力発電所の方向に向け全速力で走り出した。
「アルファ!怪異だ!発電所の中に逃げ込め!撃たれるぞ!」
僕は絶叫しながら走り続ける。
その後ろからあっという間にサイレンとエンジン音が迫る。
次の瞬間パアンと大きな破裂音が僕の耳元で鳴った。
撃たれた・・・!?いや、違う。
そこには指先から大きな鋭い爪を生やしたアルファが僕の横に立ちはだかっていた。
「みお中尉!中へ!」
僕は彼女の指示通り発電所の中に逃げ込む。
発電所の入口から見ると。アルファの鋭い爪が、怪異と化した警官の銃撃を見事に弾き飛ばしていた。
しかし彼女の爪は警官を倒すには至らない。
なんと警官は二匹ともパトカーに乗り込んだまま、片方がもう片方をバックアップするように交互に撃ってくるのだ。
しかもアルファが接近しようとするとパトカーを素早くバックさせて距離を取る有様だ。
どう見ても知能を持っている相手だ。
「チッ。下等な化け物風情がちょこまかと……!」
アルファの表情にいら立ちが滲む。
このままでは埒が明かない。
どうすればいい?考えろ、みお。
一番確実な方法は地の利を生かすことだ。
そうだここは発電所……!
その構造は手に取るように分かる……!
僕は発電所の奥にダッシュした。
あった、配電盤だ。
僕は回路の設定を変更し、発電所入口付近の高圧ケーブルに電流を集中させた。
配電盤に「危険!過負荷!」のライトが光るが無視する。
僕はそのまま発電所の入口にダッシュで戻る。
案の定、頭上で火花が散る中、アルファはパトカーからの銃弾を爪で弾き飛ばしていた。
「中尉!」
「今だ!アルファ!下がれ!」
アルファが思いっきり後ろに飛び跳ねる。
パトカーがそんなアルファを見て、アクセルを全開にして突っ込んでこようとした瞬間……。僕は頭上の高圧ケーブルの一点に、ベレッタの9mm弾を立て続けに命中させた。
高圧ケーブルが火花を上げて落下し…。
次の瞬間パトカーは怪異の警官ごとバチバチバチッと凄まじい火花を上げ、続いてドカンッと激しく炎上した。
あたり一面に大きな轟音が火花の雨と共に響き渡る。
「ん~ん。お見事でございます。みお中尉。BBQいっちょあがりでございます。」
アルファは爪の長さを元通りに短くすると嬉しそうにパチパチパチと拍手をしてくれた。
僕はちょっと照れる。
「それではみお中尉。大きな狼煙を上げる事もできましたし、琴子中尉もお気づきになりますでしょう。私、そろそろ失礼いたします。」
「失礼ってどこへ?君の目的も僕たちと一緒だと思うんだが・・違うのか?」
「ンフフ。それはどうでございましょう。その内お分かりになりますわ。」
「そうか。一緒に来てくれると有り難いんだが…。」
「あらあら、みお中尉には愛しの琴子さんがいらっしゃるではないですか。もう間もなくいらっしゃいますよ。それではごきげんよう。」
アルファは優雅に挨拶するとそのまま、羽を羽ばたかせてどこかへ飛んで行ってしまった。
それにしても彼女は変な事を言ってた。
琴子がもう間もなくやってくる?たぶん山の上にいるのに?
しかしアルファの言う事は正しかった。
「みお~~~~っ!!」
聞き覚えのある愛しい琴子の声が頭上から聞こえたから聞こえてきた。
見ると驚くことにパラシュートで真っすぐこっちに向かってくる。
まさか山の上から崖を飛び降りてきたのか!?
琴子の姿はたちまち大きくなり・・。
そのまま僕に覆いかぶさるように勢いよく飛び込んできた。
「ぐわあ~っ」
僕はたまらず弾き飛ばされる。
琴子はそんな僕と弾き飛ばされる前に力一杯抱きしめた。
「みおっ!みおっ!心配したんだよ!私・・・!」
「大丈夫、もう大丈夫だよ。琴子。」
僕は琴子の頭を優しく撫でてあげた。
琴子は嬉しそうに僕に頭をぐりぐりとすりつけてくる。
もちろん僕たちはこんな事をしている場合ではない。
これだけ山の中で銃声と轟音を響かせれば、敵がすぐにやってくるのは当たり前だ。
でも、一分だけ。後一分だけ。
僕は琴子とこうして抱き合っていようと思った。
(続く)
僕「みお」と愛する「琴子」は軍用機で高松へ向かっていた。目的はただ一つ、人間を怪異に変異させるドラッグの製造元の殲滅。しかし軍用機は着陸直前に撃墜され、僕は琴子と離れ離れになってしまう。
僕は墜落時に救助してくれた敵であるはずの銀髪の怪異と行動を共にする。
ピピピという電子音が聞こえる。
今の時代では滅多に聞けないその音に、僕は意識を取り戻した。時計を見ると時刻は1300。先ほどから2時間は意識を失っていたらしい。
僕はまだズキズキと痛む頭を、手で押さえながらフラフラと起き上がった。
あの銀髪の少女がいない。どこへ行った?
その時僕は少し離れた所で、あの銀髪の少女がフリルのついたメイド服姿で座っている後姿を見つけた。
彼女はこちらに背を向けて、何かに一心不乱に齧りついている。
何だ?何に齧りついているんだ?
僕は銀髪の少女の横に立つ。彼女が齧りついているのは……。
僕は驚いた。
それは間違いなくおにぎりだった。
彼女の顔ほどもある巨大なおにぎり。
しかもそのおにぎりの中には何か茶色と黄色の中間の様な具がぎっしりと詰まっている、
あれは・・・。
「あ、中尉、お気づきになりましたのね。もぐもぐ。」
「あの・・その・・何を食べているの?」
「見ての通りおにぎりですわ。もぐもぐ。」
「あ、いや、その中身なんだけど・・」
「これですか?辛子高菜の油炒めですわ。もぐもぐ。」
「あ・・。そう。お、美味しそうだね。」
「ええ、美味しいですわ。でも差し上げませんわ。もぐもぐ。」
しかしその瞬間僕のお腹から「グウ~ッ」と大きな音がした。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・仕方ありませんね。少しだけですわ。」
彼女はそう言うと本当に少し(約五分の一)だけおにぎりを千切って渡してくれた。
そのまま彼女は残りの五分の四にかじりつく。
しかし・・。
「・・ゴホッ、ゴホッ!」
銀髪の少女がむせる。
辛子の成分が喉に引っかかったのか?
僕は銀髪の少女の近くにあったお茶の入ったペットボトル(しかも新品!)を渡すと彼女は一気に喉にお茶を流し込んだ。
「ハア、ハア・・。助かりました。感謝いたしますわ。これは御礼です。」
彼女はそう言うともう五分の一をちぎって渡してくれた。
やった。これで五分の二だ。
僕は辛子高菜の油炒めが入った香ばしいおにぎりを一気に口の中に入れた。
二人でもぐもぐとおにぎりを食べる。
これで行動力はバッチリだ。
食べ終わったら彼女はその場で地図を広げ始めた。
「さて、みお中尉、これから琴子中尉と合流に向けて行動する訳ですが・・どういうプランをお考えですか?」
「その前に現在位置を教えていただきたい。」
「現在位置はこちらです。場所は東祖谷のあたりになります」
「こんなに南まで流されたのか・・。」
頭が痛い。墜落の際に一瞬高松の街並みが見えたから、てっきり阿波池田のすぐ南かと思ったら、殆ど高知県との県境である。前線基地のある祖谷口は遥か北だ。
「中尉の乗った輸送機はコントロールを何とか行おうとして結局ここから、南、天狗峠の手前の斜面に墜落して炎上しています。
琴子中尉は墜落直前で脱出していますので、距離的にはそうは離れていないとは思われますが・・。」
「しかしこの険しさじゃあ・・。」
僕は嘆息した。
はっきり言って四方切り立った斜面に囲われ、ここから移動するのも極めて大変だ。
僕は考えた。
琴子だったら、この大森林の中から僕をどう探す?僕がどう行動すると考える?
答えは簡単、闇雲に探し回るのではなく「僕が合図をするのを待つ」だ。
そして合図を確認する最良の方法は一つ。
「見晴らしの良い周囲を一望できる場所に移動する」ことだろう。
「琴子は恐らく天狗峠のあたりか、見晴らしの良い場所に移動して僕の合図を探すだろう、という訳で僕がやるべきなのは発煙筒か狼煙の準備だな。すまないが君、さっきの懐中電灯を貸してほしい。
え~と、あと困ったな、何て呼ぼう。本名は明かせないんだろう?」
「あ、はい、え~と、そうですねえ。コールサインのアルファで結構でございます。」
「わかった、アルファ。すまないが君につかまっていいかな?集落の跡地がありそうな場所まで移動させてほしい。」
「ふえ!?ま、まあ、いいですけど・・。」
銀髪の少女・・ここではアルファと呼ぶことにしたが、何だか顔を赤くして恥ずかしそうだ。
「あ、あの、つかまるってどういう感じで・・?」
「いや、さっき飛行機から助けてくれたときと同じでいいよ」
「えっ~」
なんだかもじもじするアルファ。
「えっ、さっきどんな感じだったの?」
「あ・・いや・・お、お姫様だっこ・・。」
大森林の中で二人の沈黙が続いた。
「・・・・」
「・・・・」
「いや、非常時だから。こんな超急斜面を歩くの大変だし。頼むよアルファ」
「あ、ハイ。分かりました~」
アルファはそう言うと、「ヨイショ」と呟いて僕をお姫様だっこしてくれた。
そして彼女が背中から漆黒の羽を伸ばして、羽ばたくと、僕とアルファの身体はたちまち宙に上がった。
30m近く上昇しただろうか。
改めて周囲の地形の絶望的な険しさに驚く。
ただその険しさの中に僕は切れ目を見つけた。
森と森の間に明らかに九十九折状の窪みがある。
恐らく昔の道路だろう。
そしてその向こうに長い斜めの構造物がちらりと見えた。
あれは水力発電所ではないだろうか?
「アルファ、あの構造物の所に連れて行ってくれ。多分昔の水力発電所だ。」
「分かりましたわ。しっかり掴まってくださいまし。」
僕はアルファにしっかりと掴まると、水力発電所に空中から接近した。
空中からだと数分だが、徒歩なら確実に丸一日はかかるだろう。
近くに来ると驚くべきことに苔むした水力発電所は無人ではあるが稼働していた。
電力はどこも全く足りないのだから不思議ではない。
ひょっとしたら事務所に何か使えそうなものがあるだろうか。
そう思った時、僕は発電所の近くに車が止まっているのを見つけた。
あれは・・パトカー?警察がこんな所にいるのか?
見るとパトカーには「徳島県警察」と書かれ、パトカーの前には規制線がはられ、数人の警官が立っていた。
なぜこんな政府の統制外地域に警察が?
恐らくこの水力発電所を警備するために、この場所と県道だけは確保したのだろう。
「アルファ、悪いがここで待機してくれ。僕が県警に発煙筒か、もしくは車用電話を借りられないか話をしてくる。」
「わかりましたが・・。一応ご用心を。中尉は銃をお持ちではありませんね?私のサブアームをお貸しします。」
アルファはそう言うと、懐からなんと拳銃を取り出した。
ベレッタM84FS。しかもサイレンサーつきだ。
これはありがたい。
僕はベレッタM84FSをホルスターにしまうと警官隊の方に向かった。
「失礼、徳島県警の方ですか?陸軍憲兵隊の君島と申します、少々よろしいですか?」
僕が尋ねると警官隊は一斉にこちらを振り向いた。
皆、目つきは普通だが、口元からの鋭い針のようなものが顔面を突き破っていた。
僕は咄嗟に銃を抜いた。
ベレッタのサイレンサーがバシュッと音を立て、(元)警官の頭を制帽ごと吹き飛ばす。
しかし次の瞬間僕は二発目を撃たずに、その場で地面を強く蹴って横に飛んだ。
僕がいた場所のアスファルトが弾け、パアンという大きな発砲音が森林の中に響き渡る。
怪異は何と拳銃を撃ってきた。
僕は混乱した。馬鹿な──!?
なぜ怪異が銃器を使用できる!?まさかコイツら知能があるのか!?
そのまさかだった。
警官の格好をした怪異は、何とパトカーに乗り込むと「サイレン」を鳴らした。
森林中に発砲音だけでなくパトカーのサイレンが鳴り響く。
ヤバイ!これでは四方八方に宣伝しているようなものではないか!
僕は脱兎のごとく水力発電所の方向に向け全速力で走り出した。
「アルファ!怪異だ!発電所の中に逃げ込め!撃たれるぞ!」
僕は絶叫しながら走り続ける。
その後ろからあっという間にサイレンとエンジン音が迫る。
次の瞬間パアンと大きな破裂音が僕の耳元で鳴った。
撃たれた・・・!?いや、違う。
そこには指先から大きな鋭い爪を生やしたアルファが僕の横に立ちはだかっていた。
「みお中尉!中へ!」
僕は彼女の指示通り発電所の中に逃げ込む。
発電所の入口から見ると。アルファの鋭い爪が、怪異と化した警官の銃撃を見事に弾き飛ばしていた。
しかし彼女の爪は警官を倒すには至らない。
なんと警官は二匹ともパトカーに乗り込んだまま、片方がもう片方をバックアップするように交互に撃ってくるのだ。
しかもアルファが接近しようとするとパトカーを素早くバックさせて距離を取る有様だ。
どう見ても知能を持っている相手だ。
「チッ。下等な化け物風情がちょこまかと……!」
アルファの表情にいら立ちが滲む。
このままでは埒が明かない。
どうすればいい?考えろ、みお。
一番確実な方法は地の利を生かすことだ。
そうだここは発電所……!
その構造は手に取るように分かる……!
僕は発電所の奥にダッシュした。
あった、配電盤だ。
僕は回路の設定を変更し、発電所入口付近の高圧ケーブルに電流を集中させた。
配電盤に「危険!過負荷!」のライトが光るが無視する。
僕はそのまま発電所の入口にダッシュで戻る。
案の定、頭上で火花が散る中、アルファはパトカーからの銃弾を爪で弾き飛ばしていた。
「中尉!」
「今だ!アルファ!下がれ!」
アルファが思いっきり後ろに飛び跳ねる。
パトカーがそんなアルファを見て、アクセルを全開にして突っ込んでこようとした瞬間……。僕は頭上の高圧ケーブルの一点に、ベレッタの9mm弾を立て続けに命中させた。
高圧ケーブルが火花を上げて落下し…。
次の瞬間パトカーは怪異の警官ごとバチバチバチッと凄まじい火花を上げ、続いてドカンッと激しく炎上した。
あたり一面に大きな轟音が火花の雨と共に響き渡る。
「ん~ん。お見事でございます。みお中尉。BBQいっちょあがりでございます。」
アルファは爪の長さを元通りに短くすると嬉しそうにパチパチパチと拍手をしてくれた。
僕はちょっと照れる。
「それではみお中尉。大きな狼煙を上げる事もできましたし、琴子中尉もお気づきになりますでしょう。私、そろそろ失礼いたします。」
「失礼ってどこへ?君の目的も僕たちと一緒だと思うんだが・・違うのか?」
「ンフフ。それはどうでございましょう。その内お分かりになりますわ。」
「そうか。一緒に来てくれると有り難いんだが…。」
「あらあら、みお中尉には愛しの琴子さんがいらっしゃるではないですか。もう間もなくいらっしゃいますよ。それではごきげんよう。」
アルファは優雅に挨拶するとそのまま、羽を羽ばたかせてどこかへ飛んで行ってしまった。
それにしても彼女は変な事を言ってた。
琴子がもう間もなくやってくる?たぶん山の上にいるのに?
しかしアルファの言う事は正しかった。
「みお~~~~っ!!」
聞き覚えのある愛しい琴子の声が頭上から聞こえたから聞こえてきた。
見ると驚くことにパラシュートで真っすぐこっちに向かってくる。
まさか山の上から崖を飛び降りてきたのか!?
琴子の姿はたちまち大きくなり・・。
そのまま僕に覆いかぶさるように勢いよく飛び込んできた。
「ぐわあ~っ」
僕はたまらず弾き飛ばされる。
琴子はそんな僕と弾き飛ばされる前に力一杯抱きしめた。
「みおっ!みおっ!心配したんだよ!私・・・!」
「大丈夫、もう大丈夫だよ。琴子。」
僕は琴子の頭を優しく撫でてあげた。
琴子は嬉しそうに僕に頭をぐりぐりとすりつけてくる。
もちろん僕たちはこんな事をしている場合ではない。
これだけ山の中で銃声と轟音を響かせれば、敵がすぐにやってくるのは当たり前だ。
でも、一分だけ。後一分だけ。
僕は琴子とこうして抱き合っていようと思った。
(続く)
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