【連載版】聖女なんて真っ平御免です!

照山 もみじ

文字の大きさ
4 / 51
第一章

01.どうやら転生したらしい ★

しおりを挟む
※2021/08/08に書き直しと言ってもいいほどの加筆修正しました(内容ガラリと変わりました)



 とんでもない奴のとんでもない発言で前世を思い出してから、二週間が経った。

「う、うぇぇぇ~っ」

 ベッドから身体を起こしてみたのは良いものの、急激に込み上げてきた吐き気に思わず嘔吐いてしまう。この吐きたくても吐けない感じが余計苦しい。

「洗面器必要ですか、王子」
「い、いや……大丈夫、だよ」

 異変に気付いた執事見習いのフィンに大丈夫だと断る。すればフィンは「そうですか……」と何となく面白くなさそうな顔をして、持っていた洗面器を元に戻した。何でそんな残念がるのか。
 しかもその残念そうな顔をするのはフィンだけではなく、アルフレッド付きの従者の殆どがするのだ。解せぬ。

「……あのさ」
「はい、なんでしょう?」
「何で、そんな残念そうな顔すんの?」
「……あぁ、皆王子の世話をしたいんですよ」
「えぇ……なんで?」
「『あの王子が優しく「ありがとう」って言ってくれる』って」
「……僕、今までお礼言ってなかったっけ?」
「聞いた事はありませんね」

 ハッキリと言われてしまった。なんという事だ。
 俺は吐き気とは別の意味で頭を抱えたくなった。
 体調が悪く、自由に動けないながらも自然と周囲から普段の俺の素行を知る事が出来る反面、こうして毎度の如くダメージを受けている。というのも、アルフレッドの普段の行動があまりにも我が儘王子なのだ。聞けば聞くほどアルフレッドの周囲からの評価が低くて泣けてくるレベルだった。

「その……ありがとう、フィン」
「感謝はありがたく受け取りますが、今はまずゆっくり休んで下さい」
「はぃ……」

 さっきの表情とは打って変わり、今度は構ってもらえて喜ぶ犬のようにルンルンとしている。尻尾が付いていたらブンブン振っていそうだ。
 そんなフィンが下がるのを見届けてから、俺も言われた通り休むために、再び頭からベッドに潜り込んだ。

(うぅ……あの悪夢から半月も経ったのに、未だに身体が回復しない)

 ジュード家で倒れてから今まで、俺は体調不良で部屋どころかベッドからろくに出られずにいた。
 見舞いに訪れた両親――この国の国王と王妃からの説明によると、倒れた日から三日はこんこんと眠り続け、その後四日間高熱で寝込み続けたらしい。その後から今に至るまでは俺自身意識があるので覚えてはいるが、目眩からくる吐き気と戦っている状態が続いている。最悪だ。前世でだってこんなに絶不調になったことはなかった。

(しかし……これが前世でいう転生か)

 俺は今、きっと遠い目をしているだろう。そうなっても可笑しくは無いと思う。
 まさか前世流行ったライトノベルの“転生”を自ら体験するとは微塵も思っていなかったのだから。

(こんなの、夢物語だと思ってたのに……せめて生まれながらに前世を覚えている系が良かった)

 二十三年分の記憶を思い出すのは、いくらゲームのヒーローキャラでも負担が掛かりすぎたらしい。しかも今は十才という少年になったばかりの年齢だ。幼い身体には流石に重すぎた。キャパオーバーだ。だったら生まれた時から覚えている方が身体的にも精神的にも優しいと思う……想像でしかないけれど。

(いまだに処理しきれなくて頭がグワングワンする……毎日少しずつ良くなってるけど、考えすぎると気持ち悪い)

 胃の問題ではないが吐き気はあるので食欲もない。そのせいで体力が物凄く落ちてしまった。吐き気が治まっても、きっと暫くは部屋から出られないだろう。時間がないのに、本当に最悪だとしか言い様がない。

(とりあえず、今の俺――アルフレッド・ノーブルの状況から整理していこう。自分の状況を知らないと、動くに動けない)

 ベッドに潜ったままの体勢で、俺はアルフレッドの記憶を遡ってみる事にした。

(えっと……今の俺、アルフレッドは王国・グランディオーソの王子で、いつも一緒にいるウィルとは遊び仲間であり主従関係)

 倒れる時一緒にいた、今世での友人の姿を思い出す。
 ウィルことウィリアム・ジュードとは、物心ついた時から一緒にいる。幼なじみと言っても過言ではないだろう。主従関係ではあるが、言いたいことを言い合える貴重な関係だ。

(俺……っていうかアルフレッドがアホやると躊躇わず注意してくるところを見ると、ゲームのウィルと同じように、芯の通った真面目で誠実な人間なんだろうな。そんな友人がいてくれて良かったな、アルフレッド)

 他にもよく一緒に遊ぶ仲の者はいるが、ウィリアムのように接してくる者はいない。決して仲が悪い訳では無いし、彼らも幼なじみと言っても可笑しくは無い関係を築いてはいるが、ウィルほどアルフレッドを思って注意してくるまでではない。だからこそ、ウィルの存在はとても貴重で有り難いものだった。

(ウィルとは別に一緒にいるのは執事見習いのフィンか。ウィルとはまた違う主従関係であり兄みたいな感じだなぁ……あくまでアルフレッドの認識だけど)

 執事見習いのフィンは、古くから王家に仕える家系の嫡男で、彼の父は国王の執事として、母は侍女長として王家の人間を支えてくれている。フィンも俺が無事立太子して王位を継げば次期国王専属の執事になる。そのために日々学んでいる。人柄も気さくで面倒見の良い兄貴タイプだ。そんなところがアルフレッドには余計兄に思えたのだろう。フィンの方が年上と言えど、十四と言えば前世でいうところの中学生だ。それなのに目標を持って既に働いているのが凄すぎる。ショウとして振り返ると本当に凄い人だと思う。

(ウィル含め、周囲にこんなに努力家で真面目な人間がいるのに、どうしてアルフレッドはそれを見習わなかったのか……)

二人の事を振り返るのと一緒にアルフレッドの日常も否応なく突き付けられ、元々少ない俺のライフはあと少しでゼロだ。恥ずかしいやら情けないやらで頭を抱えてしまう。

(アルフレッド……典型的な流されタイプじゃないかっ。俺の知ってる王子とは大分違う……むしろちょっと金持ちの子どもと同じ生活で逆にビックリしたわ!)

 俺の中で王子は、次期国王として厳しい教育を受け、見識を広めるために色々なものに触れているイメージでいた。いや実際はもっと厳しいのだろう。それこそ一日勉学に励んでいても可笑しくは無いくらい。
 だがアルフレッドは違った。勉強も運動もそこそこ。公務という程の仕事はまだなく、貴族街にちょろっと顔を出しては挨拶をするだけの仕事を熟し、後はお茶や遊びと大分腑抜けていた。
 一体何をしているんだアルフレッドよ。お前は誰よりも勉学に励み仕事をせねばならない人間だろう?

(そんな生活を良しとする人間がわんさかいたんだろうなぁ……まんまと駒になりつつあったのか)

 記憶を遡れば出てくる出てく……ニコニコと笑みを浮かべるオヤジたちの顔が。

(思い出すと、王弟と一緒にいるシーンばっかりだな。というと、そっちの派閥の面々か……アルフレッドが王弟を慕ってたから、権力争いの道具に丁度良かったのか)

 どの国にも大きな組織には派閥が存在する。この国の王家も例外ではなく、現国王と王弟の派閥が今も火花を散らしている。勿論、表向きには良好な関係をみせてはいるが……。

(アルフレッドはそこら辺わからなかったか、純粋に叔父が好きだったんだろうな。まさか大好きな叔父に利用されているとも思わなかっただろう。だって、何だかんだ言ってまだ十才だし)

 愚かなんだと言えど、今のアルフレッドはまだまだ子どもだ。前世の世界では勉強よりも泥だらけになって外で遊ぶ時間の方が多い年齢だ。いくら王子とはいえ、そんな子どもに大人の事情や悪意を把握しろという方が難しい。

(何で俺が転生したのかはわからないけど……俺がこれ以上、悪い方に向かわせないからな)

 夢物語と思っていた転生をした意味はサッパリわからない。だがこうして生まれて来てアルフレッドの意識を占領してしまった以上、それが今俺に出来る唯一の事だと思う。

(まずはこの体調不良をどうにかしなきゃな……うぷ、気持ち悪い~)

 他にも確認したい事や今後の事も考えておきたいが、これ以上頭を使うと本当に吐きそうなので、俺は目を瞑って再び眠る事にした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい
恋愛
悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜 「もっとゲームがしたかった……!」 そんな切実な未練を残し、山積みの積ゲーと重量級の設定資料集に埋もれて物理的に「尊死」した限界オタクの私。 目が覚めると、そこは大好きな乙女ゲーム『幻想のルミナス』の世界。しかも、推しカプ(王子×聖女)を邪魔して最後には無残に断罪される悪役令嬢・リリアーナに転生していた! 普通なら破滅フラグ回避に走るところだけど、オタクの私は一味違う。 「断罪イベントを特等席(悪役席)で見られるなんて……これって最高のご褒美じゃない!?」 完璧な婚約破棄を勝ち取り、二人の愛の軌跡を「生」で拝むため、私は悪役として嫌われる努力を開始する。さらに、転生特典(?)で手に入れた**『好感度モニター』**を駆使して、二人の愛の数値をニヤニヤ見守るはずだった。 ――なのに、視界に映る現実はバグだらけ。 「嫌われようと冷たくしたのに、王子の好感度が**【100(カンスト)】を超えてエラーを吐き出してるんですけど!? というか、肝心のヒロインまで私を姉様と慕って【200(唯一無二)】**ってどういうこと!?」 推しカプの二人は私を見るばかりで、お互いへの好感度は一向に上がらない。 果たしてリリアーナは、重すぎる全方位からの溺愛をはねのけ、理想の「婚約破棄」に辿り着けるのか? 勘違いとバグが加速する、異色の溺愛(?)ファンタジー開幕!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

いや、無理。 (本編完結)

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...